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枯枝城奇譚~死人操り~後編

前回までのあらすじ


 副次クエスト「イカサマ賭博を暴くべし」を見事達成し、商人スリルから感謝される吾等。

 さらにスリルは枯枝城についても語るのだった。


  ◆


「枯枝城……というと、100年以上昔にオークの襲撃を受けたとかいう呪われた城ですな」

 この地方を巡り歩いているという行商人スリルには聞き覚えがあったようだ。

「その城主は神に力を乞い、見事オーク達を打ち払ったとか。けれど、城主もまた全てを失ったそうですな。そして以後、枯枝城は死者の巣食う呪われた城になったそうで。その城の死者達を討ち果たしたのがこの街のご領主様のご先祖と聞いております。今では人も住まぬ廃墟と化しているでしょう」

「死霊の城だった、と?」

 高貴なるエラドリンがグエドベを振り返りて言う。

「死霊ならターン・アンデッドできる」

「えー? お化けやだ。超怖い」

 セイハニーンの僧侶は心強いことを言うのだった。


  ◆


 さて、枯枝城の由来は知れたが、道筋まではわからぬ。いかがしたものか。

 この街付近の地理に詳しいものはおらぬかと頭を巡らすに、ふと見知った顔を見出すは高貴なるエラドリンであった。

「枯枝城? あの廃城か。ああ、道なら知っておるぞ。うむ……」

 この街の衛兵であるドワーフ軍曹は頷いて見せた。が、その顔色がどうも優れぬ。浮かぬ顔、という奴だった。枯枝城までの道行きを指南されつつ、何事かあらんや? と問う吾等。

「実はのう……」

 ドワーフ軍曹は困惑していた。衛兵隊長に疎まれた彼は、雑事を押し付けられていたのだ。

「20年衛兵をやってきて、子猫を探して来いと言われたのは初めてじゃよ……」

「よし! ならば、吾等と共に行こう!」

 高貴なるエラドリンの言葉は力強い。細かいことは抜きにして誘うのだ。

「は? なにがじゃ?」

「だから、一緒に枯枝城へ行こう」

「何を言うとるんじゃ? 行けるわけなかろう」

「なんで?」

「なんでって、わしはこの街の衛兵であって仕事もやらなきゃいかん」

「なんで? やめたら?」

「やめられるわけないじゃろ」

「なんで? 善神アヴァンドラも言っています。冒険です」

「話が唐突過ぎてわけわからんよ」

「なんで?」

 永遠に続く。

 ともかく。軍曹は子猫を探しに行かねばならぬと意固地なのだ。

 子猫はこの街の地下水路に迷い込んでしまったらしい。地下水路には巨大なネズミが出るなどして、大人でも危険な場所であるという。心やさしき吾等は軍曹に付き添うこととした。

 見れば、地下水路の入り口にその猫の飼い主らしき少女が立ちつくしているではないか。そして、軍曹を見ると懸命に、

「どうかあの子を助けてあげてください!」

 縋りつかんばかりなのだった。それに対して軍曹は歯切れが悪い。

「……とはいえ、わしはあんまり知覚がおぼつかんでのう」

 エルフは感覚に鋭い物を持つという。自らの力が必要とされていることを感じた敬虔なるグエドベ、快く申し出た。

「いくら出す?」

「じゃあ、あたしのお金全部あげます! だから、あの子を連れてきてあげてください!」

 少女の差し出すは薄汚れた銀貨1枚。大切な思いのこもった1枚であろう。グエドベはそれを愛おしげに取り上げると、

「もっとねえのか?」

 現ナマよこせ現ナマ、と囁くのだった。

「大体、猫はお前が厭で逃げたんじゃないの? ん? ん? 思い当たる節、あるんじゃねえの? んん? どうだボウズ? んん?」

 畳みかけるのだ。

「そういうの良くないよ!」

 そう言って少女の前で盾となるは、高貴なるエラドリンである。善為すことを見逃せぬ彼にとって、これは自らが引き受けるべき務めということであろう。銀貨を返してやりつつ、

「安心しなさい。私がきっと探し出してきてあげます」

 エラドリンの言葉を聞き、少女の表情に花が咲く。

「ありがとうございます!」

「こうやって小さい頃から手懐けて、我が盾となるようにしつけるのです」

 そのような深慮遠望があったのか、と吾は高貴なるエラドリンの言葉に深く感じ入るのだった。

「子供は宝です。今の内から我が盾として育成し……」

「いやいや、そんな悪いことを長い目で見ちゃだめ! もっと即物的に考えて!」

 グエドベ、高貴なるエラドリンに薫陶を授けんとす。

 と、少女が再び頭を下げた。

「お願いです。どうか、あたしのカルロス・トバチーニ・ヘイスケを探してきてください」

「そんな名前の猫だと聞いちゃあ助けに行かないわけにはいかねーなー」

 子猫の名を聞いた途端、グエドベは俄然やる気を見せるのだった。そして、

「今までのは全部、お前の覚悟を試していたんだよ。あえてああ言ってた」

 そのような深慮遠望があったのか、と吾は敬虔なるグエドベの言葉に深く感じ入るのだった。


  ◆


 子猫はすぐに見つかった。吾等の力である。少女の喜んだこといったらない。

「どうかお礼にこの銀貨を……」

「いや、そのようなものを受け取るわけには参りません」

 高貴なるエラドリンは固辞するのだった。少女からなけなしの銀貨を受け取るなど、善の人としては心苦しいに相違ない。

「だって、ただの銀貨でしょ? なんか価値ある特別な奴じゃなくて? ならいらない」

「お前ら、なかなかいいところあるのう。一杯おごろう」

 ドワーフ軍曹に誘われては吾等に断る理由もない。そうして吾等が訪れたは、むくつけき男達の集う酒場「イケメンドワーフ亭」であった。

「私は35年間の瞑想に入ります」

 店内を一望するや否や、高貴なるエラドリンは神秘なことを呟くのだった。


  ◆


 ドワーフ軍曹に付きあって飲む吾等。軍曹は町長に媚び諂う衛兵隊長への不満をさらけ出す。

 それに対する、高貴なるエラドリンの問いかけは深い。

「もし仮に衛兵隊長がなぜかいなくなったらどうします?」

「たとえば、地下水路にはジャイアントラットがいるんでしょ? いやあ、やっぱりジャイアントラットとか絶滅させちゃだめだわ」

 ジャイアントラットにも生態系で果たすべき役割がある。そういうことであろう。それを人間の都合で滅ぼすなど善なる者の為すべきことではあるまい。

 そのうちに、話題が枯枝城に差し掛かる。と、

「おい、今あそこには近づかねえほうがいいぞ」

 黒光りするドワーフが口を挟んでくるではないか。

「今、あそこじゃ死人どもがうようよしてるって話だ」

 裏事情に通じているらしいそのドワーフの語ったところでは、例の盗人ウィザードが城に逃げ込んで以来、城にアンデッドが出るようになったとのこと。

「……しかも、そのウィザードには羽の生えた小人みてえのがついて回っていたそうだぜ。ありゃあ悪魔……いや、剣呑剣呑」

 黒光りは口を濁すのであった。


  ◆


 そんなイケメンドワーフ亭に場違いな者が迷い込んでくる。僧服を身にまとい、入ったはいいが席に着くでもなく立ちすくむ。その身につけた聖印は、

「セイハニーンの坊さんじゃん。おーい、こっちこっち!」

 敬虔なるグエドベが手を振って呼び寄せる。その僧侶は明らかにほっとした様子で、

「おお! これはセイハニーンのご加護か! ありがたい、あなた様もセイハニーンの信徒ですね」

 と駆け寄ってくるではないか。

「何でも頼んじゃってよ。軍曹のおごりだから」

「どうせわしの金じゃ。好きなもん頼め」

 軍曹は酔っぱらっていた。

「実は私、この街に着いたばかりで……。この街についてはあまり詳しくないのです。あなたはセイハニーンの月の光寺院をご存知ですか?」

 その僧侶はこの街のセイハニーンの司祭デスメトーへの信書を預かっているのだという。

「ああ、いいよいいよ。一緒に行こうじゃん」

 敬虔なるグエドベは同門の信徒に礼を尽くす。軍曹と別れ、その僧侶に同道することを申し出た。そして、道すがらその信書とやらの中身を読み下すのだ。勝手に。

『近頃この地方で増大しているという邪悪の脅威について連絡願う』

 そのような内容に吾等は顔を見合わせる。これすなわち血風党のことであろう。

 あにはからんや、信書を目にしたデスメトーも表情を曇らし、

「司教様も心を悩ませている様子。どうでしょう? あなた方は血風党について何か聞き及んではおられませんか?」

 そう吾等に問うてくるではないか。

 高貴なるエラドリンは居住まいを正す。

「わかりました。私たちが知るかぎりのことをお教えしましょう。血風党の……」

 そこでひとたび言葉を切るや、

「ここから先は、マニー!」

 続きは有料です。繰り返すが、吾等は善なる一党である。


  ◆


 などとエロサイトのようなことはしないのであった。

 吾等はこれまで行き会った血風党のことを語る。蜘蛛の女王に傾倒するドラウの女神官のこと。橋上に立ちはだかる牛頭の戦士のこと。かの邪悪の一党は戦力を集めているようだ。頭領はマガンテなる者らしい、と。

「マガンテ……どこか聞き覚えがあるような……」

「では衝撃を与えてみましょう」

 記憶を取り戻すには衝撃を加えると良い。

 それはともかく、デスメトーは特に橋を塞いでいるミノタウロスについて興味をひかれた様子である。

「まるで、この街に街道を守る力がないことを知らしめるような行動……。街の威信を低めることで、何を企んでおるのやら」

 デスメトーはいよいよ血風党による脅威を間近に感じたようであった。直ちに邪悪に備えるよう、領主や町長に進言するという。

 それはいかがなものか? というのが吾等の一致したところである。どうも町長は信用ならぬ。そう懸念を伝えざるを得ない。けれど、デスメトーは説得を試みる、と曲げぬのだ。

「ともかく、良いお話をしてくださいました。これは些少ですが……」

 デスメトーは吾等に金貨を40枚ほど渡してくる、さらに加えてグエドベに授けられしはポーションオブヒーリング2本。

 これは吾等がデスメトーの目となり耳となった対価と考えるべきか。

 吾等は今後も血風党について知りえたことがあればデスメトーに報告することを約するのだった。


  ◆


 さて、枯枝城へと向かう準備は整った。あとは行動に移すのみ。

「らりほーらりほー」

 高貴なるエラドリンは歌いながら枯枝城へと向かうのだ。

「歌っていればクマが出ないから」

 さすが野山に詳しいレンジャー。面目躍如といったところか。

「大地の子ですから!」

「じゃあもういいよ」

 グエドベが高貴なるエラドリンを称える。


  ◆


 半日ほどかかり、望むは古城枯枝城。

 朽ちた道の先にその姿が明らかになってきた。

 城を取り囲む外壁はなお威容を保っていたが、正門は朽ち果てている。正門から奥に見える本城は小さい。上階が崩れ落ちてしまったのだろうか。城の前には瓦礫が転がっていた。

 と、その中に幾つも散らばるものがある。白骨、それに腐り果てた死体。

「スケルトンにゾンビのなれの果てか……」

 敬虔なるグエドベにとって、それらが打ち倒されたアンデッドであることは明らかだ。そして、その中に看過しえぬものがあった。まだ新しい死体、それもホブゴブリンの兵士達の死体である。それが3体、アンデッド達の残骸に混じっていたのだ。

「……相討ちになったのか?」

 戦いの痕跡を目にして、吾等はさていかがせんと思案投げ首。

「城に火つけて燃やしちゃおっか?」

「石造りだけどな」

「きっと火打ち石でできてるからよく燃えるよ」

 燃えなかった。


  ◆


 城の中に入り込む吾等。

 そこは広いホールとなっていた。正面と左右に扉があり、左右の扉は開け放たれている。と、その右の開いた扉から罵り声と剣戟の音が鳴り響いてくるではないか。

「行こう!」

 吾等は右の扉の奥へと急ぐ。

 はたして、そこには死闘が待ち構えていた。

 扉の先へと真っ先に飛び込んだ吾の目に、蠢く死体どもがまず入り込んでくる。もはや動かぬホブゴブリンに群がり歯形を刻むその姿はまさに悪鬼羅刹のごとく。

 その先に1人立つは腐り果てた肉体だ。腐れ汁と共に肉塊を体からこぼしている。その虚ろに黄ばんだ瞳が吾等を捉えたようだ。

 さらに、部屋の奥には剣を振りかざした白骨がおり、今まさに1人のホブゴブリンと切り結んでいるではないか。と、そのホブゴブリンが吾等を見て呻く。

「エルフにエラドリンだと!? カマ野郎め! こんな時になんてこった!」

「殺す」

 高貴なるエラドリンはすらりと二刀を抜いて構えるのだった。


  ◆


 状況はこうだ。吾等はホブゴブリンとアンデッドどもが戦っている最中に飛び込んでしまった。敬虔なるグエドベの見たところ、吾らの目の前にいるのはゾンビ。それが5体もまとまっている。

 更に吾等から離れて立つ腐れた肉体はコラプションコープスなるアンデッド。

 そして、部屋の奥にはスケルトン1体とそれと激しく打ち合うホブゴブリンが1人いるという按配である。

 高貴なるエラドリンが目の前のゾンビに切りつける。そこへコラプションコープスが己が腐り落ちた肉塊を拾い上げ投げつけてくるではないか。おぞましい攻撃に怯んだか、その隙をつかれて高貴なるエラドリンはゾンビどもに掴みかかられてしまった。それは吾も同様だ。吾と高貴なるエラドリンはゾンビどもに腕を掴まれ動くこと叶わぬ。

 危うし。

 が、それを救うはグエドベだった。吾等の背後から清浄なる光が降りかかる。見れば、グエドベの手がセイハニーンの聖印を掲げていた。ターンアンデッドというものだ。その光に触れたゾンビどもは焼かれ、堪らず後退り、吾等から手を離す。

「これでゾンビはしばらく動けない」

 怜悧なるペンテルがさらに追い打ちをかけるようにマジックミサイルを放つ。早速手に入れたワンドの力を使い、ゾンビを更に一歩追いやった。

 だが、セイハニーンの清浄の光もコラプションコープスにまでは届かない。距離を保って腐れた肉塊を投げつけてくる。厄介な相手だ。

 と、がちゃり、と乾いた音がした。

 ホブゴブリンが目の前のスケルトンを叩き割ったのだ。そして、たった今倒した敵なぞもはや顧みず、コラプションコープスへ唸りを上げて突進する。

「戦士の戦い方を見せてやるぞ、カマ野郎どもが!」

「うるせえウジ虫野郎!」

 接敵されたコラプションコープスはホブゴブリンへと向きを変え爪を立てようとする。

「丁度いい。あいつらがやりあって弱まったところをやる」

 高貴なるエラドリンは指針を示すと、まずはゾンビどもを片付けにかかった。コラプションコープスから肉塊を投げられなくなったことで、吾等はゾンビ退治に専念する。


  ◆


「今、どっちの方が弱ってる? ホブゴブリンの方がやられちゃってる?」

 グエドベが聖印を掲げながら問いかける。怜悧なるペンテルが範囲魔法をかければ両者ともにダメージを与えられる位置にある。

「殺しちゃえ。だって、ホブゴブリンって邪悪なんだし」

 高貴なるエラドリンは種族としてホブゴブリンに気を許さぬ。それはエルフであるグエドベとて同じではあるのだが、

「セイクリッド・フレイムって、使うと味方1人に一時的ヒットポイント与えるんだよね。……じゃあ、これかけて一時的ヒットポイントが付与されるんなら味方ってことで」

 清浄なる炎がコラプションコープスを焼く。同時にホブゴブリンの体が光に纏われた。ホブゴブリンは戸惑ったようにグエドベを見ると、

「……ありがとうよ、カマ野郎」

「味方ってことでいいのか。今のところは」


  ◆


 コラプションコープスが湿った音を立てて崩れ落ちる。それが最期だった。アンデッドどもを掃討し、吾等とホブゴブリンは対峙する。

 ホブゴブリンは武器を収めた。

「どうする、カマ野郎? まだ続けるか? 俺と」

「……剣を収めた者を斬ったりはしません」

 高貴なるエラドリンも刃を鞘に収めた。警戒を解いたわけではない。いつでも後ろから切り捨てることは可能であろう。だが、今はホブゴブリンからこの城のことを聞きだすのも有益と思われた。

「お前らは何をしにこの城に来たんだ?」

「この城を制圧しろという命令を受けたのだ。もっとも、俺1人になってしまった今では任務を果たせそうもないがな」

 そういう奴の手甲に描かれしは赤き髑髏。またもや血風党である。

「この城には何か強大な力が潜んでいる。そういう話だった。詳しいことは隊長しか知らん。その隊長はくたばっちまったがな」

 ホブゴブリンは顔を歪ませるのだ。そして、

「……お前らはカマ野郎だが、なかなか大したカマ野郎だな。タマがついてるカマ野郎だ」

 いったん口を閉じ、

「……もしもお前らがどうしても俺についてきたいというなら、そうしてもいいぜ?」

 いやいや何を言っているのか。

「オーケー。ついてくついてく」

 高貴なるエラドリンが同意する。いやいや何を言っているのか。

「ついていくから、お前先に行け」

「いいだろう。良い兵士は先陣を切るものだからな。カマ野郎は後ろからついてこい」

「こいつ先に行かせて、トラップ探知機にしようぜ」

 高貴なるエラドリンの言葉に吾等は深く頷きあうのだった。


  ◆


 ホブゴブリンが先に立ち、扉を探る。ホールの左側にある扉だ。その奥はがらんとした部屋であった。価値あるものは何もない。漂う腐臭に床に落ちた肉塊。それは先程見たものとよく似ていて、

「……さっきのコラプションコープス達はこの部屋から出てきたのか?」

 ホブゴブリンの話によると、そのようである。ホブゴブリン達はまず右の部屋に侵入してスケルトン達と戦闘になり、戦っている最中に後ろからゾンビどもに襲われたのだという。

「それで仲間がやられちまった」

「大した戦士だな、ウジ虫野郎」

「……そう言われても仕方がないな、カマ野郎」

 ホブゴブリンは認めるのだった。


  ◆


 ホールにある正面の扉の先へと進む。

 扉の先にあるのは広間だった。人影はない。危険な要素も見当たらぬ。

 吾等は慎重に中へと入り込み、広間の詳細を窺った。

 広間にも奥の方に左右の扉がある。それと正面には扉の付いていない出入り口。

 聞き耳を立てるなどして探ってみるに、正面の出入り口は小さな厨房に続いておりなにもなさそうである。右の扉の奥からは何も音がしない。そして、左の扉の奥からはペタペタと湿った音に唸り声のようなものが聞こえてきた。確実に何かいる。

「……まず右の扉から確かめてみるか?」

「さっきの俺達と同じだな」

 ホブゴブリンが唸った。

「左の、音がして何かいる扉を避けて、先に右を開けたんだ。そうしたらそこにいたスケルトンどもと戦闘になっちまって、しかも後ろからゾンビ達に襲われて挟みうちだ」

 吾等は顔を見合わせる。吾等も下手をすればホブゴブリン達の二の舞か。

「どちらかの扉を塞いで、出てこれないようにしたらいいんじゃね? それなら一部屋ずつ各個撃破できる」

 話はまとまり、右の部屋の前に瓦礫などを置いて扉が開かぬようにする。そうやって整えたところで明らかに何かいる左の扉の先へと進んだ。

 思ったとおりである。そこは元は宿舎だったのか寝具が並んでいた。その合間をうろつきまわっていたのはゾンビに……、

「グレイヴハウンド! 犬のゾンビで足が速いぞ!」

 グエドベの叫びに呼応するかのように、腐った犬が2頭走り寄ってくる。吾とホブゴブリンが正面に立ち、その突進を受け止めた。その後ろからゆっくり近づきたるは4体のゾンビ。

「引き寄せろ。範囲に入ったところで……」

 清浄なる光が部屋の中に溢れた。グエドベのターンアンデッドが死者どもを焼く。

「なかなかやるな、カマ野郎」

 ホブゴブリンは動けぬゾンビにフレイルを振るった。


  ◆


 最後のゾンビが倒れた。動いていないのに魔法も攻撃も当たらない、強敵であった。

 吾等は刀を収め、その部屋を捜索する。

 見つかったのは古ぼけた革袋だ。だが、それがただの革袋でないことはすぐにわかった。

「これはパックオブホールディングスというやつだな」

 いくら物を詰めても重くならず、嵩張りもしないという魔法の道具。

「なんか中に入ってるぞ?」

 確かめてみると、中から出てくるは出てくるは金貨が200枚。それに古ぼけた木箱も転がり出てきた。しかも、その木箱は喋るではないか。

「おーい、旦那がた。ここから出してくださいませんかね? あけてくれー」

 こういう場合、中にいるのはあまり良くないものであろう。

「箱からは出してやってもいいけど、袋からは出さない」

 吾等は箱ごと、もう一度それをパックオブホールディングスの中に放り込むのだった。

「ぎゃー。ちょっとちょっと……」

 無視。


  ◆


 さて、その部屋から出るともう一方の扉、すなわち瓦礫で塞いでおいた扉からバンバンと音がする。中から打ち破ろうとしているものがいるらしい。

「やっぱり、なんか潜んでいたか」

 吾等は顔を見合わせると、次なる戦いに備える。瓦礫を取り除き、扉を開いた。そこから飛び出してきたのは骨の兵士が3体。そして、灰色の干からびた肌に鋭い牙を持つ死人。

「グールじゃないか!」

 グールのおぞましき爪に引き裂かれ、吾は早くも動けなくなる。このままグールに噛みつかれたら死ぬしかない。

「勇者として逃げる」

 高貴なるエラドリンがそう宣言した。というのも、吾等の攻撃がことごとく外れるからだ。グールの素早い動きに剣が、魔法が、翻弄される。

 しかしそこで起死回生の攻撃。怜悧なるペンテルのマジックミサイルがクリティカルヒットしたのだ。

「アクションポイント使ってもう一回攻撃!」

 続いてそれもクリティカル。ペンテルのマジックミサイル2発で一気にグールは重傷化し、吾等は危うい勝利を手に入れることができたのだった。

 グールはマジでやばい。


  ◆


 グール達の潜んでいた部屋を調べると、こちらにも金貨が200枚隠されていた。が、それ以上のものはない。これでこの城に巣食うアンデッドどもを駆逐したのだろうか?

「おーい、旦那がた。魔法の宝のありかをお教えしやすよ。ですから、ここから出しておくんなさい」

 パックオブホールディングスの中から呼びかける者がいる。

 仕方がない。吾等は先程の木箱を開けることとした。そうして中から出てきたのは羽の生えた小さな人型のクリーチャーだ。

「やれやれ、助かりやした」

 これはインプというものであろう。人を惑わし貶めると聞いている。吾等はこの者から知っていることを吐かせようと試みた。

「おい、質問に答えてもらおう。ウソはつくなよ」

「へいへい。あたしは誠実なインプですから」

「看破」

 嘘である。看破のチェックに成功し、このインプが誠実とはほど遠い存在であることが明らかになった。

 故に、高貴なるエラドリンははたと気づいたようにいう。

「ここに針が一本ございます。おや? こんなところに爪がある」

「ぎゃー」

「嘘をつくと罰があるのです。さて、ウソはつきませんね?」

「わかりましたわかりました。心を入れ替えて正直に話します」

「看破」

 失敗してそれが真意かどうかわからない。

「おや? こんなところに爪が」

「ぎゃー」

 インプはわめくのだった。

「正直に話すって言っても刺されるし、どうすりゃいいんですかい!?」

「いいから答えろ。お前はこの城に逃げ込んだとかいうウィザードの手下じゃないのか?」

「ああ、元のご主人さまですかい? あの方にも困ったもんでさ。願いどおり魔法の品のことを教えてやったというのに、なぜか怒りだしましてね。あたしを封じて放りだしたんでさ。もうあたしはあの方とは縁切りです」

「てことは、まだそのウィザードが残ってるってことか? そいつは強いのか?」

「いえいえ。ほんと大したウィザードじゃありませんでしたよ。旦那方に比べたら屁みたいなものでしょう」

「……ウソつくなよ?」

「いえ、ほんとですって! ほんと大したウィザードじゃありませんでした」

「……過去形だな。で、今は? 今は大したことになってるんじゃないか?」

「ウィザードじゃなくなってるとかな」

「アンデッドになってるとかな」

「うえっへっへ」

 インプは笑うのだ。

「おや、こんなところに爪が」

「ぎゃー。いや、ウソは言ってやせんよ!? ほんと、昔は大したウィザードじゃなかったんですよ!」

「で、その話に乗せられて実際会ったらえらい目にあうって寸法か?」

「わかりましたわかりました。前のご主人は今こんなことになってまして……」

 インプの話を聞いた敬虔なるグエドベは、そのウィザードとやらが今やワイトとなっていることに気付いた。

「ワイトの屍術士という奴で、死霊の矢を撃ってくる。それに倒れたアンデッドを復活させる力があるはずだ」

 ここで吾等は決を採ることとした。いったん、ここは退いて陣容を整えるべきか。それとも、このままワイトの元へと斬りこむか。

「ここで引いてはアンデッドどもが復活してしまうかもしれない。このまま行こう」

「でも、魔法とかだいぶ使っちゃってるし……」

 短い議論の末、吾等はここでワイトと相対することとした。決して、終電が迫っていたから早く終わらせようとかそういう気持ちが働いたのではない。

 吾等はインプを道案内として先へ進む。

「ここに地下への隠し扉がありやしてね」

 インプに示された通り、吾等は厨房の床にあった揚げ戸を開いた。そして、その先を見て息を飲むこととなる。

 その部屋は狭いものだった。部屋の端には廃物処理のためらしい大きな穴があいている。そして、部屋の奥中央に鎮座するは煮えたぎる大鍋。その前に立つのが件のワイトであろう。何やらワンドのようなもので鍋をかきまぜている。それにつき従うように立つのはスケルトン2体にもう1体の骨の戦士だ。それはボーンシャードスケルトン。右手の先の骨を尖らせてそれで敵を突き刺すようになっている。先程のグールに匹敵する強さの怪物のはずだ。そのようなものがいるとは聞いていない。

「他に何がいる? なんて聞かれやせんでしたぜ?」

 インプはそらとぼけるのだ。

「貴様等! なぜそいつをつれてきた!」

 吾等に目を留めたワイトが叫ぶ。その指はインプを指していた。

「ご主人様、あたしはちゃんと約束を果たしたはずですぜ? ご主人様の望んだとおりの魔法の品だったでしょう?」

「黙れ! だましおって……貴様のせいでわしはこんな姿に……永遠に封じられておればよいものを!」

「ああ、なんだ。それってあんたの腕が悪かったんじゃね?」

 グエドベの言葉にワイトは歯をむき出した。

「死にぇ!」

 甲高い声で喚くのだ。

「こうなったらわしがアンデッドの王となる! 生きる者全てが憎い! すべてわしと同じようにしてくれるぞ!」

 ぞろり。と、骨どもが前に出てくる。最後の戦いの始まりだった。

「これが最後の戦いか……」

「いやいや、まだ最後が残ってるんじゃないですか?」

 吾等はホブゴブリンをちらりと見るのだ。

「最後の最後の戦いには敵が2体いると思うんだ」

 吾等はインプもまたちらりと見るのだった。


  ◆


「落ちろ!」

 ペンテルのマジックミサイルがスケルトンを捉えた。押しやられて穴の縁から転落する。吾もボーンシャードスケルトンを盾で押しやり、穴の底へと突き落とした。危うく死霊ダメージ継続5を食らうところだったが、何とか突き落とすことに成功したのだ。

 その間も、ワイトの死霊の矢が遠距離から吾等を襲う。

 今回振るわなかったのは高貴なるエラドリンだった。得意の二刀がことごとく空を切る。あらゆる攻撃をしのぎ切る最強のスケルトンがそこにいた。

 穴から這い上がってくるスケルトンをホブゴブリンが機会逃さず叩き潰す。それで前線に穴が開いた。それを見逃すホブゴブリンではない。すかさず、ワイトの元へと駆け寄り、それに張り付くのだ。マークされたワイトは最早死霊の矢を放つ余裕を失う。

 はっきり言って吾よりすごい役に立っている。

 死ぬべきである。

 ようやくボーンシャードスケルトンも倒れるが、すぐさまワイトの力で立ち上がる。その魔法の隙をついて隣接するホブゴブリンがフレイルを振るう。痛撃を与える。

 死ぬべきである。

「……今、ワイトとホブゴブリンが重なってるよね。範囲魔法に入ってるな……」

 ペンテルの言葉を高貴なるエラドリンが制止する。

「いや、今は待て。どっちかが弱ってきたら攻撃しよう」

 そこで敬虔なるグエドベは悟るのだ。

「そうか、これは邪悪なんかじゃない。これが本当の正義なんだ」

 その後、正義の袋叩きにより、遂にワイトは滅びたのだった。


  ◆


「ここに財宝はないのか?」

「ありやすよ! 旦那は魔法の品がほしいんでしょう? ありますあります! そいつは実に大した力です。あたしが教えて差し上げますよ!」

 インプの声は嬉しそうである。高貴なるエラドリンに指し示す。

「あそこの瓦礫の下にいいものが埋まってやすぜ。ぜひ、お手にとってごらんなさい」

 果たして、そこに投げ捨てられていたのは剣の柄の部分であった。

「それこそはゴットクロスのパーツの1つ。それを腰に差しておけば、今まで以上の力が振るえるようなりまさあ」

 高貴なるエラドリンがそれを手に取る。

 それを見てインプは尖った笑みを浮かべると、くるくると宙を舞うのだ。

「きっと旦那は気に入るでしょう! そして、他のパーツもほしくなりやすって! 絶対にね!」

 何やら気に食わぬ態度であった。

「おい、何か企んで」

 するとインプは姿を消してしまったではないか。声だけが残る。

「もし、ゴットクロスの残りのパーツが欲しくなったなら、あたしを呼んでください。きっと力になってみせますぜ」

 へっへっへ、と笑い声を最後に二度とインプの声は聞かれない。

 ともかく、吾等は枯枝城に巣食うアンデッド達を駆逐して、探索を成功させた。

 すると、ホブゴブリンがおもむろに首からぶら下げていたアミュレットを外すではないか。そして、グエドベへと渡すのだ。

「カマ野郎、貴様にこれをやる」

「これは?」

「これは呪われたアミュレットだ。前にこれをしていた隊長はくたばっちまったし、俺は貴様らみたいなカマ野郎と一緒に戦う羽目になっちまった。だから、貴様にやる。貴様もこれをつけて呪われるといい」

「……それが呪われた品物だっていうなら、まだ生きてる相手からもらうってのはおかしくね? 呪われた品物だったら、普通持ち主死ぬよね?」

 敬虔なるグエドベはメイスの握りを確かめる。

「受け取るわけにはいかないな」

「いいから受け取れ。カマ野郎に借りを作ったままじゃいられんのだ」

 グエドベは押し付けられるようにして、アミュレット・オブ・ヘルス+1を手にするのだった。


  ◆


枯枝城への道(技能チャレンジ)成功による経験値100。

副次クエスト(イカサマ賭博を暴くべし)達成による経験値100。

副次クエスト(ドワーフ軍曹の憂鬱)達成による経験値100。


コラプションコープス(経験値175)×1=175

ゾンビ(経験値125)×5=625

スケルトン(経験値150)×1=150


グレイヴハウンド(経験値150)×2=300

ゾンビ(経験値125)×4=500


グール(経験値200)×1=200

スケルトン(経験値150)×3=450


ワイトの屍術士(経験値175)×1=175

ボーンシャードスケルトン(経験値200)×1=200

スケルトン(経験値150)×2=300


クエスト(枯枝城の探索)達成による経験値800。



1人当たりの経験値は890(クエスト等の経験値は4人割。モンスターによる経験値は5人割で計算)

経験値累計で1000以上となりレベルアップ。



手に入れた財宝等

商人スリルより、マスターズ・ワンド・オブ・マジックミサイル+1

司祭デスメトーより、金貨40枚とポーションオブヒーリング2瓶

枯枝城にて、金貨400枚とパックオブホールディングス、ゴッドクロスのパーツ

ホブゴブリンより、アミュレット・オブ・ヘルス+1


  ◆


 モンスターのACと反応防御値を間違えて判定してたり、使うべき特殊能力を使わないままだったり、戦闘の管理うまくいかず。

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