赤き髑髏の旗の下に~忍び寄る邪悪の影~後編
前回までのあらすじ
「今この街では見知らぬウィザードに対する風当たりが強いのですよ。最近、流れ者のウィザードが領主様の屋敷で盗みを働いたものですから」
そう言うは、セイハニーンの司祭デスメトー(今思い出したがこんな名前だったのだ)。
それを聞いて高貴なるエラドリンの脳裏に一条の光走りたり。
「わざわざそのような噂を広めているあなたが実は犯人ですね。名前が悪だし」
名推理にセイハニーンの司祭は色を失うのだった。
◆
歌と踊りを奉納したことにより、セイハニーンの司祭デスメトーはいたく吾らを気に入ってくれたようだ。
「またいつでもいらっしゃってください。歓迎します、友よ」
微笑み司祭である。それに対してセイハニーンの敬虔なる僧侶であるグエドベは、
「食いもん無くなったら、またここに来ようぜ!」
神への感謝の言を返すのだった。
と、デスメトーの表情が曇る。
「ところで、あなた方は街の外からいらっしゃったのでしょう? ならば、耳にしたことはありませんか? 最近この辺りを荒らしているという者達について」
聞けば、デスメトーは邪悪の徒党の動向を憂慮しているのだという。であるならば正義を愛し善を隣人とする吾らの取るべき道はただ一つである。そういった手合いについて何かわかったら必ずや知らせよう。そうデスメトーに約するのだった。
◆
「では、愚鈍な人間どもが集う宿屋へ戻りましょう」
高貴なるエラドリンの言に従い、吾らは『英雄クロムの店』(今思い出したが、こんな名前だったのだ)へと戻る。
そこで吾らは今巷間を騒がせている邪悪の徒党について幾ばくかの話を耳に入れた。
曰く、それら邪悪な一味の首魁はマガンテなる者である。そして、彼は赤の髑髏を旗印に悪党どもを糾合しているのだとか。
由々しき事態であろう。
吾ら正義の一党はマガンテ率いる邪悪の徒を一掃するべく立ち上がるのだった。だったら良かったのだが、高貴なるエラドリンがいたく興味を示したのは、邪悪の徒党の話よりも失われし財宝ゴットクロスの話であった。
その旅人は語った。
そは、災厄を打ち払うための希望。今では3つに分かれ失われてしまったが、それら3つの破片をつなぎ合わせれば、必ずや邪悪を打ち払う力となるであろう。具体的には攻撃ロールとダメージにすんごいプラスが与えられる武器になるであろう。
高貴なるエラドリンの眼に浮かぶは星の輝き。
「よし、ゴットクロスを探しに行くよ!」
「おい、農夫のジェレミーがやってきたぞ。話を聞いてやれ」
酒場の主人に促されて思い出す。
そうであった。農夫が一人困っているとかいうどうでもよさげな話があったのだった。このような事情から、吾等は意欲溢るる態度でジェレミーと相見えることとなる。
ジェレミーなる農夫はよく日に焼けた太鼓腹の男であった。
「おらのところのベコ(牛)が何かにやられちまっただ。このままじゃ他のベコもあぶねえ。どうにかしてけろ」
何かとは何か? ジェレミーの話ではただのオオカミや野獣の仕業ではないらしい。殺された牛には牙によるものとは思えぬ奇妙な傷跡が刻まれていたという。
「じゃあ牛の肉食いに行こうぜ!」
吾等は早速ジェレミーの農場へと急ぐ。そこは数頭の牛が放牧された小規模な農場であった。 ここで牛を殺したのはいかなる怪物であろうか?
牛の骸を改めた怜悧なるウィザードは深く頷いて曰く、
「鼠だな。鼠の仕業に相違ない」
グエドベの見立てにより、これは大蜘蛛の噛み跡であることがわかった。その最中である。
「そこぉっ!」
稲妻のような鋭さとはまさにこのこと。高貴なるエラドリンが矢をつがえ、放ったのだ。彼は近くの林に潜む何者かの存在を察したのである。
「牛だったりしてな」
「ジェレミーの奥さんだったりしてな」
「おら独身だ」
果たして、林の奥から姿を現したるは土色に毛むくじゃらの大蜘蛛。馬ほどもあるその大きさに、吾は良き戦いを予見した。
「あれはデスジャンプスパイダー!」
大地の子を自称する高貴なるエラドリンにはその正体も明らかである。
矢を射かけられた大蜘蛛はキチキチと鳴く。その脚を揺らしながらこちらに迫る様はおぞましいものがあった。
怜悧なるウィザードの魔法の矢が飛ぶ。グエドベの祈りが大蜘蛛を打ち払わんとする。
そのような中、吾のみは何も遠距離攻撃できないのでのこのこ近づくしかないのであった。そして、かの大蜘蛛の前にて仁王立ち。
「ここから先は通さんぞ! クモめ!」
ひょーい。とばかりに大蜘蛛は吾をスルーして、なんと一気に後方にいるグエドベへ飛びかかったではないか。さすがデスジャンプである。どのくらいデスジャンプかというと、飛びかかられたグエドベがクリティカルで噛みつかれて残りHP5になるくらいのデスジャンプ。しかも毒。セービングスローに失敗すると5ダメージで死亡確定であった。
いきなり何だこれは。6マスもシフト移動してから攻撃とかひどすぎる。
しかももう1匹林から出てきた。
吾らの冒険は終わった。
◆
終わってなかった。
怜悧なるウィザードのマジックミサイルがチクチクと大蜘蛛達の力を奪い、吾や高貴なるエラドリンの刃が怪物どもの体を断ち切る。グエドベは何とか蜘蛛の毒に打ち勝ち、死を免れた。
跳躍を繰り返す大蜘蛛達に大いに手こずったものの、吾らの連携の前には敵ではなかったのである。
「まあ、防ぎきれずに牛1頭やられちゃったけどな」
些細な損害であろう。善のための尊い犠牲であった。
「よし! 肉食おうぜ!」
だいぶ肉を失ったグエドベが倒れた牛を前にしてそう提議する。肉食エルフであった。
首尾よく依頼を果たした吾等。農夫ジェレミーはどうしても吾等を歓待したいと言ってきかない。請われるままに、吾等はジェレミーの家で食事を供されることとなった。振る舞われたのは男の手料理、冷ややっこと湯豆腐。大豆たんぱくである。
「あのう、それで報酬のことなんだども……」
「この家な」
「それと牛な」
「今後のお前の稼ぎ全部な」
「あと、来年の種もみな」
突然だが、高貴なるエラドリンが知覚のチェックに成功。たったいま口にした食事の中に毒が盛られていたことに気付いた。
吾らの冒険は終わった。
などというようなことは一切なかった。吾等は善なる一党。報酬など必要としない。ただ人々の笑顔が見られればそれでいいのである。それが何よりの報酬だ。
◆
「他にも大蜘蛛がいないか見てきてやるよ。俺ら善だし」
吾等は快く、ジェレミーの農場の巡回を申し出た。
そうして吾等が農場の周囲に気を配っていると、ふと目につくものがある。それは先程倒した大蜘蛛どもの傍に屈みこむ何者かの姿。
訝しみつつ近づく吾らに、その者も気づいたようだ。すっくと立ち上がるその姿は、浅黒い肌に白い髪の、
「ドラウの女神官か……?」
怜悧なるウィザードがその正体を口にする。エルフの近縁種にしてアンダーダークの住民。蜘蛛の女王ロルスなる神を崇める種族だという。
そのドラウの女神官は涙に濡れた眼差しを吾らに向けてくるではないか。
「この子たちを殺したのはあなた方ですか!?」
憤りを抑えられぬといった風である。
「神聖なるロルスの子を手に掛けるとはなんということを!」
「けれど私は世界の子です」
高貴なるエラドリンは自らをそう称した。
「あなたもアヴァンドラの教えに従いませんか?」
突然だが、高貴なるエラドリンは変化と冒険の善神アヴァンドラを信奉していたのだそうである。
「……突然なんなの?」
もっともな反応であった。気味悪そうに後ずさる。
「……えっと……なんだかあまりかかわりになってはいけない人のようね。あの、ごめんなさい、さようなら」
「まあ、お待ちなさい」
逃がさないのであった。かわいそうに。
「あなたはここへ何をしに来られたのですか?」
「わ、わたしはこの地域にロルスの子らがいると聞いて、その子らを導こうと……」
フェイターンと名乗るそのドラウの女神官は、この大蜘蛛達を手なずけて自らの配下にしようとしていたらしい。
「しかし、この蜘蛛達は牛を襲っていたのですよ」
「それが何かいけないことなの?」
「それを退治するのは当然のこととは思いませんか?」
「まあ! なんてことを!」
話が微妙にかみ合わない。だが、ドラウの女神官はなんだか言いくるめられたようで、
「この子らを失ったのは悲しいことだけれども……代わりにあなた方がわたし達に加わってくれたらありがたいわ。どうかしら? 血風党に参加しない?」
そうまで言わしめたのだった。
しかし、ロルスは悪の神である。それに殉じる彼女は悪に違いないのであって、
「ロルスに仕えるのではなく、アヴァンドラに仕えませんか?」
「それはできない。……残念ね。でも、もしあなた方が考えを変えたのなら……また会いましょう」
ドラウの女神官フェイターンは肩をすくめ、人無き野へと歩み去る。その背を見て、高貴なるエラドリンは呟くのだった。
「……チャーンス」
ドラウの女神官の背後で高貴なるエラドリンの両刀がすらりと抜かれる。
邪悪を打ち倒すのに何の躊躇いもない。吾等はまさに善の体現者といえよう。
でも、さすがに悪い気がしたのでそんなことはしない。
というより、吾等はたった今目にしたものに心奪われてしまっていたのだ。
別れを告げた彼女、ドラウの女神官フェイターンの手甲に描かれた印。その印こそは赤く染められた髑髏ではないか。
「……周囲の諸勢力を糾合して力を増しているという邪悪の一党……」
吾等はその一端を遂に目にしたのである。
◆
農夫ジェレミーの歓待を受け、吾等は一晩の休息を得た。
翌日、吾等は街へと戻る。そして吾等が逗留所、酒場兼宿屋『英雄クロムの店』へと顔を出した。
「よう、ジェレミーの方はどうだったい?」
主人の問いかけに吾等は快く応じてやる。偉業を聞きたがるのは人の業というものだからだ。吾らの活躍をつぶさに話して聞かされた主人は、ほう、と溜め息をつき、
「俺が若い頃だったらそんなの5分で終わらせてたな」
「なんだ、俺らの倍かかるのか」
グエドベは訳知り顔に頷くのだった。
◆
そんなことより血風党のことである。彼奴等は一体いかなる策謀を巡らせているのだろうか。吾等は血風党に関わりのありそうな事柄を子細に検討することとした。
「この街の領主の屋敷から盗みを働いたウィザードというのか怪しいのではないか?」
かの盗人ウィザードはこの街の北にある打ち捨てられた古城へと逃げ込んだという噂であった。大して価値もなさそうなガラクタを盗んでいったというのだが、さて、どうであろう。
「大体、街の外が騒がしいのに血風党への対策が取られていないのはどういうわけか?」
そうなのだ。この街の衛兵達が街の外を巡回しているような様子はない。何でも、街の実権を握っている町議会議長すなわち町長がそのような対策を全く講じていないのだという。
「町長様は領主様の姉君を自分の息子に嫁がせることに躍起で、それ以外のことはどうでもいいのさ」
そのような声も聞かれる。執務を疎かにしているということらしい。
このようなことでは、街道を行く商人達も安心して商売ができないであろう。
「すなわち、俺らの稼ぎ時じゃね?」
折よく、街道を行った先にある橋に賊が出るという話を聞く。その賊は橋を渡ろうとする者に「この橋を渡りたければわしと勝負せよ。それが厭なら別の道を行くことだ」と挑み、往来の妨げになることこの上ないのだという。
これなら、閉口した商人達に話を持ちかけて報酬を得ることができるかもしれぬ。もちろん、吾等の報酬は人々の笑顔だけで十分だが、高度に政治的な理由からそれ以外も必要なのだ。
吾等は早速、橋へと向かう途中のハーフリングの商人に自らの腕を売り込んだ。
「じゃあ、橋の上に出る賊を倒してくれたら金貨50枚払うよ」
話はまとまり、吾等はハーフリングの商人とともに街道を行く。
おいおい血風党はどうしたんだ、と思うがまあいつものことである。気にしてはいけない。
◆
なだらかな道の行く先に、見えてきたのはこじんまりとした橋。流れる川のせせらぎは心地よいくらいであった。もっとも、その橋上に賊がいなければの話である。
「あれが賊だよー」
ハーフリングの商人の指し示す者。それは牛頭の大男。
ミノタウロスである。彼奴は大音声を吾らに浴びせかけてきた。
「そこな者ども! この橋を通りたくばわしと一対一の勝負をせよ! それが厭なら別の道を探すがよい」
「ここを通らないと、森の中を通る迂回路を行かなくちゃいけなくて時間がかかっちゃうんだよねえ」
ミノタウロスは強敵である。だが、高貴なるエラドリンに動じた気配はかほどもない。説き伏せるように問う。
「あなたはなぜこのような橋の上に立って、往来を妨げるのですか?」
「良き敵を見つけるためだ! そして、我が主の命だからだ!」
「主人の命に従って、ずっとこの橋を動かない、と? 食事はどうされているのです?」
「仲間が運んでくれておる」
「なるほど、わかりました。では、川に入りなさい」
「は? 何を言っているのだ貴様は? さあ、それよりもわしと一対一の戦いをせよ! 貴様が良き敵であることを示せ!」
高貴なるエラドリンには秘策があった。
「橋の上に突っ立ってるなら遠くから弓射かけ続ければいいんじゃね?」
高貴なるエラドリンが弓を、怜悧なウィザードがマジックミサイルを矢継ぎ早に射かけ始める。
「貴様ら! それが男の戦い方か!」
ミノタウロスは怒り狂うのだった。
だが、である。ミノタウロスは想像以上に固いのだった。矢は通じず、魔法の矢すらものともしない。
「もうやめておけ。貴様らの矢玉でわしを傷つけることはできぬ」
ミノタウロスは橋の上で腕を組み、飛んでくる矢を避けるでもない。
「でも、こっちに近づいてこないなら、そのうちクリティカルでちょっとずつ削れんじゃね?」
「貴様ら、いい加減にせいよ?」
ミノタウロスが言葉を違えて橋を降り、こちらへ向かってくるではないか。しかも前衛の吾に向かってだ。
「がんばれへカチンさん!」
無理無理無理無理。ミノタウロスからの攻撃は計算上、ほとんど当たる修正値。しかもダメージが。
ゴッ、という重い音ともに吾はいきなり膝をつきそうになる。とても2撃目は耐えられそうにない。
「よし、橋から降りたぞ! 今のうちに横をすり抜けて橋を渡れば……」
グエドベが言うものの、なかなか踏ん切れるものではない。吾等のうちの誰かが橋を渡ればミノタウロスは主人の命を守れなかったとして自害してくれるかもしれない。だが、「それがどうした?」とか言って追いかけてこないとも限らない。
高貴なるエラドリンもいざとなれば得意のフェイステップでミノタウロスの背後へ抜けて橋を渡ることは可能である。可能であるが、渡った後、孤立した彼の元へミノタウロスがのしのしやってきたら目も当てられぬ。
ここまでだった。
「わしを橋から降ろした、その勇気は褒めてやろう。だが、わしもこうなった以上本気で相手せざるを得ん……」
ミノタウロスの言葉を遮るように、
「は? 何の話ですか? 私達が何かしました?」
なかったことにしようとする高貴なるエラドリン。ミノタウロスは愕然とする。
「おい、貴様……」
「はい?」
きょとんとした眼で見つめられ、ミノタウロスは言葉もない。毒気を抜かれたようだ。
「……ならばよい。わしが言いつかったのは、誰もこの橋を渡らせぬことだけだ。無益な殺生はせん」
そううそぶいてミノタウロスは肩をすくめる。まさに強敵であった。
「お前の主人とやらは何者なんだ?」
「それは言えぬ」
「……もしかして、えーと、マガンテとかいう?」
「なぜそれを!?」
ミノタウロスの額に巻かれた鉢巻き。そこに描かれていた赤い髑髏をグエドベは見逃さなかったのである。
橋の上に戻ったミノタウロスは吾等に言葉を手向けてきた。
「貴様らの勇気に一応敬意を表そう。もし力を求めるなら、枯れ枝城とやらを訪ねるがよい。そこに大いなる力が眠っていると聞いたことがある」
ミノタウロスからの忠告を受けつつ、吾等は街へと戻るのであった。
ちなみにハーフリングの商人には迂回路を行ってもらった。吾等がその護衛につくことはなかった。なぜなら、他にやるべきことがあったからである。
それはやけ酒だ。
クエスト失敗のやけ酒はやけに喉にひりついた。
◆
クエスト(ジェレミー農場の怪物)達成による経験値400。
デスジャンプスパイダー(経験値175)×2=350。
副次クエスト(セイハニーンの寺院へ赴く)達成による経験値100。
クエスト(橋上の挑戦者)未達成だけど経験値50。
1人当たりの経験値は225。
レベルアップにはまだ足りない。
◆
大体こんな感じであった。
ミノタウロスはあまりにも無理目のバランスであった。反省。




