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赤き髑髏の旗の下に~忍び寄る邪悪の影~前編

 吾は武と名誉を重んじるドラゴンボーンの戦士、へカチン。

 高貴にして神秘なるエラドリンのレンジャーと神の御業を顕す敬虔なるエルフの僧侶ヨシオ改めグエドベと共に旅をしている。

 あてどない旅である。


  ◆


 その旅に1人の仲間が加わった。いや、復帰したというべきか。

 秘術を用いて敵を打ち滅ぼす怜悧なるヒューマンのウィザード。

 彼は前回の冒険では姿を見せなかった。

 ポンポンが痛くて養生していた、というのが彼の弁である。

 今回は十分体を労わったようで頼もしい限りだ。

 ついでに、どういうわけか吾は彼の名前をうっかり失念してしまい覚えていない。

 吾らは熱き絆につながれた心強き仲間である。


  ◆


 さて、前回の冒険で首尾よく酒樽を奪還した吾ら。

 こうなれば名声もいや増すというもの。

 高名なる吾らを誰もが放ってはおかない。

「おう、お前ら。どうせ暇だろう? ちょっくら仕事でも頼まれてくれねえか」

 酒場の主人が恭しく頭を下げて助けを請うのだ。

「うちの客の中に、この街の近くに住む農夫のジェレミーってのがいるんだがよ。そいつが何でもちょいと困ってるらしいんだ。話を聞いてやっちゃくれないか。まあ、奴が来るまで、ここで待っててくんな」

 そう泣いて頼まれては如何ともしがたい。吾らとて鬼ではないのだ。嗜みつつ待つこととする。さて、今回はいかなる難事が持ち込まれるのであろうか。

 と、酒場に居合わせた者どもが吾らの勲を聞きつけたのであろう。こぞって目通りを願ってきた。

「なあ、あんたら。ゴットクロスって宝物のこと知らないか?」

 その戦士は畏まって身を縮めるのだ。

「何でも、この町の近くにあるらしいってんだが……聞いたことないか? そうか、邪魔したな……」

「最近、街の周囲の山賊やらオークやゴブリンの一族をまとめ上げつつある一団がいるらしい。これからはあんたらみたいなのにも護衛なんかで世話になるかもしれないな」

 そう述べる商人は吾らと口が利けた喜びで震えださんばかりだった。

 だが、それらの中でも最も目敏い者は敬虔なるエルフの僧侶ヨシオに目を留めた者である。

「あんた、セイハニーンの信徒さんかい? じゃあ、やっぱりこの街の寺院に奉納に来たのかね?」

「いや全然」

 エルフの僧侶ヨシオ改めグエドベの答えは明瞭にして簡潔であった。


  ◆


 余談ではあるが、なぜヨシオ改めグエドベとなったのか?

 それはヨシオなる名前がプレイヤーの名前であってキャラの名前ではなかったことに由来す。

なんだかよくわからないがそういうことなのだそうだ。


  ◆


 とにかく、グエドベである。

 詳しく話を聞くに、この街では現在、月と秋の女神セイハニーンを崇める寺院にて歌や踊りを納める儀が執り行われているという。セイハニーンの信徒はその寺院に赴き、詩を吟じたりして神を称えるのだ。

 セイハニーンの僧侶である敬虔なグエドベがこれを見逃すはずもない。

「そうか祭りか!? 祭りだ祭りだイェーイ!」

 全力で駆けだす。青春とはいつも駆け足だ。

 副次クエストとして『セイハニーンの寺院に赴く:達成100EXP』というのが提示されたからというわけではない。これもすべてグエドベの信仰心のなせる業である。

 農夫のジェレミーはどうするのかと思わないでもないが、吾らは1人も欠けることのできぬ仲間である。ついていく。


  ◆


 と、寺院へと向かう道すがらのこと。吾らは街の与太者5人に狭量な眼差しを向けられるのであった。

「見かけない顔だな? お前らよそ者だろう?」

「見かけない顔ですね。土着の者どもですか?」

 高貴なるエラドリンが丁重に応じると彼らは感じ入ったようである。

「ああ? おめえ、何もんだよ?」

「私は世界の子供です」

 高貴なるエラドリンは莞爾として笑うのだ。

「何言ってんだおめえ……おめえ、態度がよくねえな。おい、今着てるその鎧、魔法の鎧だろ? いいの持ってるじゃねえか。置いていけ」

「これは葉っぱ3枚で要所要所を押さえた鎧ですよ。ご自分でお作りなさい」

 ダークリーフアーマー+1とはそんなアバンギャルドすぎる鎧であったのか。吾は新たな知識の地平を見た。

 だが、彼ら与太者は違う所見の持ち主であったようだ。

「ふざけやがって! よそ者は出ていけ!」

「土着の者だからいなくなれ! 新しい風を入れないと!」

 高貴なるエラドリンは常に神秘な論理で世界のあり方を変えようとするのだ。その姿勢はまさに哲学者のそれであろう。そして、続ける。

「それより、舌を出しなさい」

 何をするつもりなのかよくわからないが、良くないことが起きると予見された。それは与太者達も全く同感であったのだろう、

「因縁つけようとしたら逆につけられた!」

 そうざわめくのだ。ざわめきの中、吃とした声が上がる。

「おめーら、このお方が誰だかわかってのか? この街の町議会議長様の一人息子イーゴリ様だぞ? ただじゃすまねえぞ?」

 与太者の1人がずいと前に出た。彼がイーゴリなる者らしい。

「顔覚えた? 覚えた? こいつらの顔も全部?」

 敬虔なるグエドベ、高貴なるエラドリン、怜悧なるウィザード、そして吾はそれぞれ目配せを交わす。かのイーゴリ達に今後どのような未来が訪れるのか、吾らはまったく同じ認識を持つのであった。一心同体、実に善なる一党であろう。

 そこへ、騒動を聞きつけた衛兵達が駆け付ける。だが、その者どもの長は、

「これはこれは坊ちゃん」

 などと与太者どもに追従し、あろうことか吾らを追い払うのだ。無論、そのような不法な行為に大人しく引き下がる吾らではない。ないのだが、

「あいつらには逆らえぬのだ。これ以上ここにいると更に厄介な目にあわされかねんぞ。すまんが、ここは引いてくれ」

 そう、ドワーフの軍曹に頭を下げられ、矛を収める。全ての衛兵が彼ら与太者どもに媚び諂っているというわけではないらしい。吾らは十分に大人であるから、軍曹の立場を理解して身を引くにやぶさかではなかった。


  ◆


「祭りだー! ヤア! ヤア! ヤア! フーゥッ! ィヤァーアッハー!」

 十分に大人であるグエドベは大人の楽しみ方を知っている。彼は祭礼でにぎわうセイハニーンの寺院に殴り込みをかけると、Yo! メーン! みたいなノリでその場にいた信徒達の肩をたたき、握手を求め、ハグし、手を打ち鳴らすのだった。

「はは……は……」

 その甲斐あって、セイハニーンの信徒達が温かい笑顔で吾らを迎えてくれることこの上ない。

「セイハニーンの信徒の方ですな? ようこそ。どうかセイハニーンを称えていってください」

 寺院の司祭であるハーフエルフがグエドベを迎えて微笑む。促されてグエドベはセイハニーンを称える詩を捧げるのであった。

「これやこの、なんやかんやのなんたらかたらでそれにつけても金のほしさよ」

 司祭のハーフエルフは一層微笑みを増し、

「どうやら踊りの方がお得意のようですな?」

 グエドベはもちろん、高貴なるエラドリンもそのような言を受けては、おとなしくしてはいられない。

「私の踊りは宇宙に捧げる踊りです」

 グエドベと高貴なるエラドリンの物凄い踊りに、居並ぶ信徒達はおろか司祭すらも涙を流す。

「素晴らしい! これはぜひ領主様にもご覧いただきたいものだ! どうか領主様が臨席する際にその技をもう一度ご披露願いたい! 輩よ!」

 怜悧なウィザードもそれに続かんとばかりに歌を献じる。

「あなたは来なくていいです」

「ひでぇ!」

 司祭は素っ気なく言うのであった。

「最近、流れ者のウィザードが領主様の館で盗みを働きましてな。そのせいで見知らぬウィザードに対しては風当たりが強いのです」

 そう聞き及ぶに至って高貴なるエラドリン曰く、

「出しなさい」

 怜悧なるウィザードに静なる声で促すのであった。吾らは血の絆で結ばれた熱き仲間である。


  ◆


 全然話が進んでいないのだが、とりあえず次回に続く。

 曖昧な記憶とあやふやな印象をもとにしているので、「そうじゃなかっただろ、そんなことあったっけ?」的なツッコミは多々あると思うが長い目で見ていただければ幸いだ。


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