畢竟予兆4
元【マスカルポーネ】――安名茉莉也は、パルメザンの元を去った後、自身の拠点である葦原研究所に戻った。
「ときには王子のように、またあるときには王のように」。これが彼の掲げる座右の銘だ。物心ついた頃――それがЯに拾われる前か後かすらわからない――、彼は自身を偽ることを覚えた。いわゆる“猫かぶり”というもの。それゆえに、ホームの暗殺者らの中でもスパイ行動に秀でている。……もちろん、ギアーズへのスパイなど、瓢箪から駒が出る出来事だったが。
「茉莉也っ……!」
パタパタと、廊下を歩いている彼の元へやって来る足音。――彼と同時期にホームへ入った少年、原翔だ。右手に折りたたんだ白衣を抱え、そして自身も白衣を身に纏っていた。
「戻ったんだね、誰か連れてこられた? カンラクさんは?」まくし立てるように話し、白衣を手渡す。
「いや、」渡された白衣を、黒いタンクトップの上に着るかと思いきや、「その代わり、いろいろと持ってきた」腕の部分を結び、腰に巻いた。
「いろいろ?」
「奴らが使う道具だ。上手くいけば、黄泉……ああ、バケモンが出てくる場所のことなんだけど、」
「?」
「……まあつまり……敵陣に踏み込める要素が増えた、的な……?」
原翔は少し首を傾げた後、合点がいったのか両掌をパチンと合わせた。
「なるほど! その道具があればセキュリティを突破できるってことだね!」
「…………おう」
翔は彼よりも、学力では常に上回っている。