出会い
四人の女王によって季節を巡らせる国。春、夏、秋、冬の女王はそれぞれ、一年の四分の一を担い、塔へと籠ります。
その間、女王たちは一人、そう、一人。女王たちは廻る年月の四分の一を、一生のうちの四分の一を、誰もいない塔の中で過ごすのです。
「……ふぅ」
物語の舞台は冬。ふと溜息を漏らすのは、白銀の冬の女王。
雪のように真っ白な肌。雪原の様に広がる白銀の長い髪。冬の空のように澄み切った瑠璃色の瞳。
見た目の齢は二十を過ぎた辺りで、その体躯を美しいシルクのドレスで包み込み、愁いを帯びた表情は色気よりもどこか作り物のような美しさ。
「……いけませんね」
一人、誰も咎めはしないというのに、彼女は自らを戒めます。
束縛よりも自由を謳う多感な少女のような感傷は女王としての責務を前にすればちっぽけでありませんが、それでも、少しだけ寂しいと。ふとそう思い浮かんでしまう時はあるのです。
それはどの季節でも変わらない、女王たちが共有できる感情。
自らの愛する季節、その光景を。共に有れるものがいないというその事実を。
塔の頂上にある女王の部屋から、塔の外を見ます。外ではしんしんとつもる夜の闇。月明かりに照らされる白い雪は静かに降り積もり、幻想的な光景を作り出しています。一般の人間から見れば、変わり映えのしないように見えるかもしれませんが、冬の営み、その呼吸を司る冬の女王からすればそれは確かに、あるのです。とはいえ、それでもその心の隙を埋めるには、少しだけ足りなくて、切なさだけが募っていくのです。
「……ぁ」
声が漏れます。今、眼の端に映った何かが音も無く雪の上に倒れ込んだのを確かに見たのです。
この塔の付近というのは、とりわけ季節の移り変わりが激しい。春一番は最初に吹きぬけて、葉は一足先に色づき、初雪はここから降ります。そのため、人が住んだり草木を育てるのにはあまり向かず、生き物は気紛れに渡り鳥が通り抜ける程度です。それもまた、女王の孤独に一役買っています。
であるというのにこれはどうしたことか。一体、何者が、何故この塔の付近を訪れたのかは分かりませんが、とはいえ、それでも放っておくわけにはいきません。
冬の女王は、窓を開けます。冷たい冷気が入ってきますが、そんなものは冬の支配者たる女王には寧ろ心地が良いというもの。
「……雪の精よ。どうか私に力を貸してください」
冬の女王はふぅ……と息を吐きます。白い吐息は、冬の女王の魔法。その勅命を聞いた雪の精は我先にと雪で身体を作り、屈強で愛嬌溢れる雪だるまへと形作られた。
「お願いできますか?」
『がってんしょーち!』
雪だるまはそれ以上は聞くまでも無く、侵入者を迎えに行き、そして塔まで連れてきました。
「ご苦労様です」
冬の女王はすぐさま塔を下りて、入り口まで向かいます。そして、扉を開け、力を貸してくれた雪の精を労います。
『なーにこんなのおやすいごよう! むしろもっとぼくたちをつかってほしいな! じょおーさまがのぞむなら! ぼくたちはおっきなおっきなせつぞうになってれんじつれんやのパれードをしたっていいのに』
「くすっ、ええ。それは楽しそうですね。けれどそれはいけません。季節の調和を乱してしまいます」
『そっかそっか』
「……パレードを楽しみたいというのであればこちらも汲み取りたいと思いますが」
『んー……いいや! よくかんがえたらめんどーだし! それよりそれより! はやくしないとしんじゃうよ! じゃーね!』
持っていた何かをドサッと豪快に、無造作に投げ捨てて、雪だるまはさらさらと雪原の中に消えていきます。いえ、死んだわけではありません。むしろ雪の精の本分を取り戻しただけ。現に雪は先程よりも嬉しそうに、キラキラと、キャッキャ! キャッキャ!と輝いています。
「一体何が……」
雪の精が持ってきたのは、一人の人間の男の若者でした。
(……腰に剣)
その若者は、それなりに重装備ではありましたが、それはこの冬に備えてというよりも、何かの戦いに赴く武装、冬の女王はそう睨みました。
「……うぅ」
冬の女王は苦しそうに唸る若者を見て、思考をいったん止めました。
まずは何をすべきか、あぁ、暖炉の火をくべなくてはなりません。冬の女王は、冬を司る存在ですから普通の人と違って寒さを感じません。だから、暖炉に火をくべたりはしないのです。
そんなことも忘れていた、と。ついつい苦笑します。しかし、若者を助ける為、火を起こし、毛布を用意して、温かいスープも作り始めたのでした。




