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異世界化した現実世界を救済します  作者: アサクラ サトシ
第一章 『終末の咆哮』
56/143

052 『起きて(オープン・ユア・アイズ)』

052です。

 スクランブル交差点の周囲を見渡すと、カーニヴァルの姿はおろか黒い歪から召喚されたポニテさんたちだと思われる人の姿すらなかった。

「これは……」

 唖然としている僕にポニテさんが抱きついてきた。

「良かった、無事だったんだね。じゃあ、カーニヴァルは倒したの? すごい!」

 ポニテさんは屈託のない笑顔を僕に向けた。

 僕はこのポニテさんをまじまじと見つけた。名前はポニテなのに、実際の髪型は降ろしたままの黒髪。カーニヴァルが捕まえたと言っていたポニテさんは生気が感じられなかったが、この人は血色がよく、そして表情がコロコロと変わっていく。

 難しい顔をしていたのが悪かったのか、ポニテさんは表情を険しくした。

「なにか、嫌なことでもあったの」

 嫌なこと。確かに先程までのことは嫌なことだったと言える。エクスさんの首は跳ねられ、殺されてしまった。そして、カーニヴァルは昏睡したポニテさんまでも手に掛けようとしていた。

 それなのに……

「どういうことなんだ」

「真悟くん?」

「ポニテさん、どうしてここに来たんですか」

 詰問するような口調にしてしまったせいで、ポニテさんは抱きついた僕の体から離れて両手を胸に置き、体を縮ませた。

「どうしてって……真悟くんの事が心配だったから。それにこうしてここに来たのはエクスたちが無事だったからなんだよ!」

 僕に怒られたと勘違いして萎縮していたのも束の間。今度は開き直って怒り出した。間違いない、この人はポニテさんだ。

 そう安堵したかったが、ポニテさんはなんと言った?

「エクスさんが無事ってどういうことですか?」

「どういうって……だから、真悟くんがカーニヴァルを倒したからエクスやあの方言女に虎ちゃんが目を覚ましたんでしょう?」

 エクスさんが目を覚ました? いや、だってエクスさんは首を跳ねられて消滅したじゃないか。そう、僕がいま立っている此処はエクスさんの首をカーニヴァルが押し潰したところじゃないか。

 僕は片手で頭を抱えた。

「なにが、どうなっているんだ」

 こんな漫画みたいな台詞を呟く日が来るとは思いもしなかった。

 じゃあ、カーニヴァルが僕に見せたエクスさんや、昏睡状態で両手に杭を打ち込まれていたポニテさんやノヴァさんはなんだったんだ。

「僕は、何を見せられていたんだ」

「本当になにがあったの? 待ってて。もう少しでノヴァちゃんたちがここに来るから、それまでここで休んでいよ? ね?」

 混乱する僕の肩に腕を回したポニテさんはその場に座り込ませた。

 隣にポニテさんがいるだけで落ち着きを取り戻してく。混乱していた頭もクリアになり、カーニヴァルとの戦いが始まる前と今の変化、事実と虚実、整理をしていく。

 まずは、そう、僕がカーニヴァルにされたこと、カーニヴァルがやったことを思い返す。

 所々記憶が曖昧ではあったけれど、カーニヴァルが何を目的としてこの戦いを望んだのかその理由は身を持って知っている。

 僕はあの男によって適正者の隠されていた『設定』を覚醒させられた。この事実を受け止めた上で、まだ整理しきれていない時系列と知らない出来事を把握するため、僕は不安そうな目をしているポニテさんに話しかけた。

「ポニテさん。幾つか質問をします」

「でも……」

 僕はポニテさんの手を握った。

「とても大切なことなんです」

「わかった。なんでも聞いて」

 僕は咳払いをひとつしてから口を開いた。

「エクスさんたちが目覚めたといいましたよね。それは僕があの場所から離れてどれくらい経ったあとですか?」

「それはよく覚えている。私、あの時、携帯の時計を見つめていたから。ほら、真悟くんとカーニヴァルが戦う時間って二十二時四分ごろでしょ? せめて戦っている時間に届くかわからないけど祈ろうと思っていたの。それで、十分頃だったかな。屋上の扉が開いてエクスの声が聞こえたんだ。それで」

 ポニテさんの言葉を遮るようにして僕は質問をした。

「二十二時十分にエクスさんたちは昏睡状態から目を覚ましたんですね?」

「え? うん。そうだけど」

 僕はスマートフォンを取り出して時刻を確認する。デジタル時計は二十二時三十七分を示していた。いまからだいたい三十分前にエクスさんたちが目を覚ましたことになる。

「だから二重で驚いたんだ。たった五分程度でカーニヴァルを倒したんだってね。でも、真悟くんの様子からすると、なんか違うみたいなんだけど」

「僕はカーニヴァルを殺していません。むしろ、エクスさんたちが目覚めたであろうその時間は逆に殺されかけていました」

「殺されかけてた? そんな、でも傷というか致命傷みたいなのはなさそうだけど……大丈夫なの」

 心配してくれるのはありがたいけれど、その話は後でと釘を差してエクスさんたちの方へと軌道を戻す。

「いまはポニテさんの見たことを教えてほしいんです。これまで色んな問題を棚上げにしてきましたが、今回ばかりは追求しないといけません」

 切羽詰まった僕の雰囲気にのまれたのか、ポニテさんも表情を固くして頷いた。

「屋上から出てきたのはエクスさんたちだけでしたか?」

「うん、エクスに日輪と虎ちゃんの三人だけ。三人ともレリック武器は持っていたから、適正者のままだよ。ただ……」

 一端、言葉を切るとポニテさんは顔をしかめた。

「ただ、なんですか?」

「日輪と虎ちゃんは体力が奪われたみたいに、足元がふらつく程度だったんだけどね。ただ、エクスだけは違ったんだ」

「違う、というのは?」

「意識はあるの。ちゃんと歩けるし、体にも傷はないだ。ただ普通じゃないってことだけは確か。なんて表現したらいいのか……夢遊病? みたいな感じって言えばいいのかな。心ここにあらずみたいな感じで話しかけても、なにも返ってこないし、喋ろうともしない。こっちの言うことには従う人形みたいな感じなの」

「人形か。なるほど」

「え、なに? なにかわかった?」

「整理を付けるために、ポニテさんには先に話しておきましょう」

 僕はカーニヴァルとの戦っていた終盤、黒い歪みから現れた人質だったエクスさんたちと、ポニテさん、ノヴァさんが現れたことを話すと、ポニテさんは目を丸くして驚いた。

「それは偽物だよ。どうして引っかかっちゃったの。って責めてらダメか。敵のすることだから、ある意味信じちゃうよね」

 向こうはこちらを倒すことを前提としている。さらに言えば、適応者は戦うこと、殺しあうことを求めた狂人たちだ。僕ら適正者を絶望させることだって余興にするかもしれないのだ。

「で、その偽者が人形ってことになるの?」

 さすがにここまでの話の流れがあればポニテさんも気付いてくれたようだ。

「そうです。僕らと戦ったあのまほろは当人と寸分違わない人形を使用して僕らを欺きました。カーニヴァルはその人形を使ったんだと思います。古い漫画にコピー人形というアイテムがありましたが、まさにそれかもしれません」

「あの赤い鼻がスイッチになっているやつだよね」

 さすがにうろ覚えなので曖昧に相槌を打った。

「でも、あの人形は本物のそれと見間違えないほどでした。カーニヴァルがエクスさんに手をかけた時は、本当に殺されたんだと思ったくらいです。しかも、あの人形はまほろの時と違ってちゃんと灰になって消えたんです。あんなことをされたら本物だと思えてもしかたないですよ」

「疑う余地もないってことね」

「一応、僕が知らない所でなにがあったのか知れて良かったです。問題はなぜカーニヴァルが逃げたかということです」

「え、ちょっとそれは酷くない?」

「なにがですか?」

「いくら真悟くんでも怒るよ? エクスのことを助けたいとか考えないわけ? もう少ししたら、そのエクスを連れたノヴァちゃんたちがここに到着するんだから」

「こっちへ向かっているですか?」

「ああ、そっか。その話はまだしてなかったね。エクスたちが屋上から階段で降りてきたのね。それで話を聞けばエクスは生きた屍状態。それを見て取り乱すのは方言女の日輪で、虎ちゃんは自信喪失しちゃって塞ぎこんでた。そんな三人を私とノヴァちゃんで励まして、慰めてっていう感じ。女四人もいるからすっごいめんどくさくてね」

 ポニテさんはその時の状況を思い出したのか笑った。あの個性豊かな女性陣四人が集まっているところを想像してみたが、冗談でもその輪に入ってお茶でもしようという気持ちにはなれない。

「それで一通り落ち着いたのを見計らって、真悟くんがカーニヴァルを倒したのなら、会いにいけると思って急いで駆けつけたんだ。階段を駆け下りる前にノヴァちゃんから、あとで私たちも行くからって言われたの。で、真悟くんはエクスがどうなってもいいわけなのね?」

 ああ、いま聞いた話の派生元はエクスさんを心配しない僕が許せないところだったか。待てよ、この話題になる前に、僕は逃げたカーニヴァルのことを話すはずだった。

「ちょっと聞いてるの!」

 そう言いつつ、ポニテさんが僕の手甲を鷲掴みにする。どうやら、エクスさんのことを先に解決しないと、前の話に戻れなさそうだ。

「それは多分、大丈夫です。エクスさんは元に戻りますよ」

「でも、多分でしょ? 本当に大丈夫なの?」

「もし、ご都合主義の女神がいてくれたのなら、大丈夫……なはずです」

「エクスが元に戻らなかったら、罰として一時間くらい口聞いてあげないから」

「一時間ですか?」

 こういう会話もノヴァさんからしたらお惚気に見えるのだろうと思った。しかし、たった一時間でいいんだと考えてしまうと、ポニテさんの考え方も可愛いところがある。つまり一時間以上口を聞けないのは自分にとっても辛くなる、と前向きな捉え方もできる。

「なにその顔。ニヤニヤしちゃってさ。でもさ、真悟くんが何をするのかわからないけど、それでダメだったら、エクスはどうしたらいいんだろう」

「最悪の場合は、カズさんたちがいる円山町の安全区域にいてもらうことになります。必然的に日輪さんも居残ることになりますがね」

 エクスさんと日輪さんは二人で一組だ。どちらかが動けなくなれば、必然的にもう一人も動けなくなる。

「そうなるよね。あの方言女のことは、好きとか嫌いとかは別にしても戦力が減るっていうのは痛いね」

「きっと大丈夫ですよ」

「でた、根拠の無い大丈夫発言。そんな無責任な事を言っても知らないからね。一時間だよ? 一時間!」

 変な釘を刺されている所で、ポニテさんのスマートフォンから着信音が鳴った。

 ポニテさんがスマートフォンを手にするとどうやらノヴァさんからの着信らしい。

「ごめん、ちょっと話してくるね」

 ポニテさんが立ち上がり、ちょっと距離を置いてノヴァさんと話しだした。

 会話の様子からして、何か問題が起きたわけではなく、僕とポニテさんを心配しての通話だったらしい。

 ポニテさんが通話を終えると、こちらに向き直った。

「エクスの容体は変わらないみたいだけど、すぐ近くまで来ているみたい。もしかしたら、ここから見えるかも」

 僕を置いて、ポニテさんがスクランブル交差点を横切り、原宿へと繋がる車道を見渡した。

「お、見えたよ。おーい」

 ポニテさんが大きく手を振る。そんな彼女を見ていたら、僕もじっとしていられずポニテさんの隣に立ってノヴァさんたちを探した。

 事故を起こした車の隙間から、人影が四つ見える。

 夜目が聞く方ではなかったのだけれど、適正者になっているおかげで、視力のほうも良くなっていた。見るということを集中すれば遠くにいる姿もクリアになった。

 数分後、ノヴァさんたちと合流した僕らは、両肩を担がれたエクスさんをQフロントの出入り口に座らせて壁に背を預けさせた。

 話には聴いていたけれど、思ったよりもエクスさんの容体は悪そうだった。目は虚ろ、覇気もなければ生力も感じられなかった。まさに生きる屍だ。

「ねぇ、シンゴさん」

 エクスさんの顔を撫でながら日輪さんが口を開く。

「ポニテから聞いたけど、エクスを助けられるって本当なん?」

「絶対とは言い切れませんが、助けられる可能性はあると」

「なんだでそれ。そんな期待持たせておいて、やっぱダメでした、すんませんで謝られてもウチは許さんけんな。そぎゃん風に期待させるだけなんて詐欺と一緒だけんな」

 保証がないのは確かだ。ポニテさんも日輪さんの意見には賛成のようで僕が責められても口を挟まなかった。

「もしダメだったら。僕を好きなようにして下さい」

「……考えとくわ」

 僕は立ち上がる日輪さんと入れ替わるように、エクスさんの前に腰を降ろす。ポケットからスマートフォンを取り出した。

「それって、エクスのスマホじゃ。どうしてシンゴさんが?」

 背後から日輪さんが驚いている。残りの女性三人も驚いていたけれど、彼女たちにリアクションを返さず、しかし手にしたスマートフォンは持ち主の手に戻して上げた。

 エクスさんの手の平に乗せられたスマートフォンが勝手に起動して、暗くなっていた辺りを明るくてらした。

「エクスさま 起きてください! エクスさま!」

 スマートフォンのディスプレイ画面からエクスさんの妖精、イシュタルが現れた。

「目を覚ましてください! 俺がエクスカリバーさま!」

 必死なイシュタルはついエクスさんをフルネームで呼んだ。

 すると、エクスさんの目に力が宿り、たったいま目を覚ましたかのように体を起き上がらせた。

「イシュタル……」

「俺がエクスカリバーさま」

 その感動の再会と思えたのも一秒足らずだった。

「俺をその名前で呼ぶなって言ってんだろ!」

「ですから、これが本当の名前ですからしかたないのです!」

 それからしばらくの間、二人の痴話喧嘩は収まらなかった。

 落ち着きを取り戻したエクスさんはくるりと僕に顔を向けた。

「冗談はさておき……真悟くん」

 本気で罵り合っていたのに冗談と済ますところがエクスさんらしかった。が、エクスさんは真剣な眼差しを向けている。

「カーニヴァルからの伝言がある」

 エクスさんが思いもよらない名を告げたことで、和んでいた雰囲気が一変して周囲に氷の壁が作られたかと思えるくらいに空気が冷たくなった。

最後まで読んでいただきありがとうございます。


次回投稿は12/11です。

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