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異世界化した現実世界を救済します  作者: アサクラ サトシ
第一章 『終末の咆哮』
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57/143

053 『伝言(メッセージ)』

053です。

 エクスさんの冗談とも取れる発言は、笑うにしても笑えず、しばしの間、エクスさんの様子を伺うだけだった。

 緊張した場を砕いたのは、僕ではなくて日輪さんだった。

「ちょっと、エクスなにを言っとるで。カーニヴァルって適応者になったつー奴だが? そげな奴から伝言なんて受け取ることなんかできりゃせんがね。冗談ゆーのも大概にせんといけんで」

 日輪さんの方言は相変わらず聞き取りづらいけれど、言いたいことはニュアンスでわかったつもりだ。それは隣にいる虎猫さんも同じでウンウンと頷いている。

「ウチからしてあらなして真悟さんがエクスのスマホを持っちょったのたかのほうが気になーで。エクスからスマホを取ることができたんなら、助けてくれても良かったんと違うか? 余裕なかったんはウチも同じだけんど、ノヴァさんはなんも話してくれんしさ」

 この口ぶりからすると、日輪さんと虎猫さんは意識を失っている間に、カーニヴァルが現れて、エクスさんのスマホを奪ったことを知らないままのようだ。

 僕がノヴァさんとポニテさんを流し見ると、ノヴァさんが一言「ごめん」とつぶやく。

「私も気が動転していて、カーニヴァルがエクスのスマホを奪ったことを話しそびれていたの。ごめんなさい」

 そう謝るノヴァさんに日輪さんと虎猫さんは責めず、しかたないという仕草だけをして落ち着いてくれた。

「だとしても、どげしてカーニヴァルから伝言なんて受け取ることができたん? いや、そげんことよりもどうやって元に戻ったのかのほうがウチは教えてほしいわ」

 エクスさんは喋る機会をようやく得たとして話しだした。

「俺のスマホをカーニヴァル本人から受け取った真悟くんから、その理由を話して暗たほうがいいかな」

 エクスさんは自分から話すのが面倒になったのか僕に振ってきた。

 どうせならそのままエクスさんが話してくれれば楽だったのだけれど、指名され女性陣から注目を集めた後となっては、喋らないわけにはいかなくなった。

「ポニテさんからエクスさんが異常状態であることを聞かされて真っ先に思いついたのは、スマートフォン、つまりは妖精がいないからだと考えました」

「それであんな自信満々だったわけ?」

 懐疑的に尋ねてきたのはポニテさんだ。

「半信半疑ではありましたけどね。ただ、カーニヴァルがあの場面で、止めを刺される手前でエクスさんのスマートフォンを渡したのは意味があると思えたんです」

「でもさでもさ。エクスが目を覚ますことと、カーニヴァルの伝言を知っているっていうのはどういう繋がりがあるわけ? そりゃ、スマホにあるメモ機能とか音声録音を使ったっていうのならわかるけど、スマホから出てきたのは妖精のイシュタルだけじゃん」

 今度は虎猫さんがまくし立てるように話しだして、僕を見つめた。

 女性たちの視線をこんなにも浴びることなんて、今後一生が起き得ない出来事だと思いながら僕は頭を掻いた。

「エクスさん、その話までも僕がしなければいけませんか? 僕からすると、いつまでも説明ばかりしてないで、カーニヴァルの伝言が聞きたいのですけど」

 芝居掛かったような感じで、僕は呆れながらエクスさんに意見を物申した。

「いくら俺が説明ベタだからって、これくらいは話さないといけないか。いや、元からここからは俺が話すつもりではあったんだけどな」

 どうだかとエクスさんの言うことを真に受けるつもりはなかった。僕の疑心に気付いたエクスさんは咳払いをしてから口を開く。

「なぜ俺がカーニヴァルからの伝言を知っているのか、その理由は後回しにする。そもそも奴の伝言は俺たちだけでなく、真悟くん自身にとってとても重要なことだからだ」

「教えてください」

「俺の頭の中に入っているカーニヴァルの言葉をそのまま言う──」

 エクスさんの僕を見る目が虚ろになり、焦点が合わなくなった。そして、声はエクスさんなのに、口調や仕草はカーニヴァルそのものとなった。

『闘術士シンゴ。この男から伝言を聞いているということは、俺の目的は無事に達成されたということになる。この男がまず無事にお前のところに辿り着けるようにしたのも俺なんだから、そこも感謝しておけ。なにをどうやったのか、そんなくだらんことに気が向いているのなら俺の伝言を聴き終えた後に、この男に尋ねろ。あらかたの情報は入れておいたからな。

 前置きはここまでだ。そうだな、まず抱いている疑問の幾つかを解いてやろう。そうでもしないと気持ち悪くて夜も眠れないだろうからな。

 くー、俺ってば優しい!

 俺がお前から姿を消したのは理由あってのことだ。まず、あのまま殺されて復活する頃にはすべてが終わっているかもしれないからだ。そうなってしまうと俺の苦労が水の泡となってしまう。

 俺は何人もの適正者を相手にしてきた。国内外含めて、だいたい五人くらいは殺し合いになる奴がいる。つまりお前は俺の五本の指にはいる実力者ってわけよ。どうだ、光栄すぎて涙ではなく歓喜して発狂もんだろ。

 喜んでいる顔が見られなくて残念だがな。って、話がそれたそれた。

 簡単に言うとだ、俺はお前を覚醒させるまでが前提だったんだ。もちろん、あのまま戦っても良かったんだが、お前、瞬間復元が切れてるだろ? それじゃ意味が無いんだよ。

 俺たち適応者は殺されても二十四時間後には復活できるがお前たちは一発でアウトだ。せっかく強くしたのにあっさり死んでもらったら困るんだ。

 だからこそ、午前五時に配布される瞬間復元を三つ手に入れた状態で、俺と再戦しろ。

 嫌とは言わせないぜ?

 もし、万が一にでも再戦を拒んだら今度は本物が死ぬぜ。この意味、わかるだろ?

 そうさ、お前は俺が姿を消したことよりもどうして人形を使ってまで敵である自分を覚醒させ強くさせたのかが不可解だったはずだ。

 こういうことだよ。さっきまでの戦いは模擬戦だ。

 お前が不甲斐ない戦い方をすれば、今度は本物が死ぬ。大切な仲間たちが殺されちゃうんですよ?

 誰が殺すのか……言わなくてもわかるよな? この俺、カーニヴァルさんがお前ら適正者をなぶり殺すのさ。

 こうやって伝言を残していても、シンゴくんが青筋立てて怒っているのがわかるよ。多分、俺のことだからかなり煽りながら戦ってたんだろうなぁ。

 あ、いま、遠い目しながら言ったのわかった? わかっちゃうよねー。俺、こういう雰囲気を醸し出すの上手いんだよ。

 そうさ、お前は戦うしか無い。模擬戦とは言え、俺と戦ったお前ならわかっていると思うが、ちゃんと言葉にして言うぞ? 俺とまともに戦って勝てるのは覚醒したお前だけだ。他の奴らがしゃしゃり出てもろくな戦力にならずに殺される。この伝言、シンゴ以外に誰が聞いているのかわからんが、聞いた奴は自分は大丈夫とか言い出すかもな。

 いいか、ちゃんと言い聞かせろよ? 殺されたくなかったら怯え震えてろってな。

 なぁ……シンゴくんよ──邪魔者は省いて、俺と楽しく殺し合おうぜ。

 その時はちゃーんと戦ってやるよ。そうそう誤解をしてるかもしれないから、ちゃんと教えてやるぜ。

 覚醒して圧倒的な力を持って俺を瀕死にまで追い込んだとか思っているなら大間違いだからな。

 お前は覚醒したからといって、俺よりも強くなったんじゃない。俺が手加減してやっただけだ。初めて超サイヤ人化した悟空対フリーザ戦じゃねーんだ。実力差はぶっちゃけ互角だと思っている。海外で覚醒させてやった奴らもほぼ互角だったしな。ちゃらんぽらんしているように思われがちだが、こう見えてちゃんと計算してやってんだぜ。

 ああ、待ち遠しいな。楽しみだよ。きっと俺たちは均衡した戦いになる。そのギリギリの戦いを長く味わいたいから瞬間復元を手に入れてほしいわけよ。

 どうだ、いい感じに壊れた発想だろ。

 ははは、シンゴ、お前が何を思っているのか、俺には手に取るようにわかるぜ。

 狂っているという言葉は、俺たち適応者からすると褒め言葉だ』

 長くて、苛つかされた伝言が止まる。

 だが、エクスさんの中にはまだカーニヴァルがいると感じ取れている。伝言はまだ続きがある。やり場の無い怒りを内に潜めながらひたすら待った。

『あー、まだ聞いてるか? てか、俺がこの伝言を終了させないかぎりは聞こえてるのか。んだよ、この閉まらない感じ。あれだ、昔流行ったCD音源の隠しトラックとか思いながら聞け。

 もし、俺がミスってスクランブル交差点で殺されたら復活は二十四時間後。もしそうなったら手遅れみたいなことを言ったよな。あ、違うわ。すべてが終わっているって言ったんだ。そうだそうだ。どうも適応者になっても忘れっぽさは変わらないんだよな。

 愚痴ってもしゃーねーな。

 なぜ終わるかっていうとだな。

 明日の午後十四時十六分。代々木公園の真上に鎮座している封印されたガルズディアが……消える』

「き、消える?」

 こればかりはみんなが驚いた。僕らは棺を全部壊さなかったから、残った二つの棺に保管された渋谷の人たちは、ガルズディア復活の為に贄となってしまう。適応者のまほろと戦ったおかげで、番人を倒すこと、棺を破壊することが僕らに取ってマイナス面になることは知っていた。だからこそ、僕らが破壊しようとした四つ目の棺は番人は倒さないまま、棺も破壊していない。

『もう再攻略不可能だから教えてやるとだ。正しい棺の攻略は適応者を殺さずに、番人を倒し、棺を破壊することだったんだよねー。厭らしいギミックだよな。やり直しが聞かないのも痛いわ。くくく、あー、おもしろ。お前たちは白の創造主から命をうけた妖精たちの言葉を鵜呑みにしたんだろ。

 バカだねー。それはこの世界を侵略する前までの話だ。白の創造主ちゃんってマジで無能だわ。それでも、そこまで情報をかき集めたのは賞賛すべきだけどさ』

「ねぇ、真悟くん。こいつ……いや、エクスじゃなくてカーニヴァルはなにを言っているの?」

「まだ、伝言は終わっていませんよ」

 僕はポニテさんに顔を向けずに、エクスさんに憑依したカーニヴァルを睨みつけた。

『消えた後、どうなるのか……そこは乞うご期待で、お楽しみに! ってやつよ。最近、こういう予告文句なくなったよな。子供の頃はこういう煽りでも楽しみにできたはずなのに、まんねりって怖いわ。

 いいことをひとつ教えてやるよ。この男、えっと俺がエクスカリバーとその他二人のメスが破壊しようとした棺は手付かずだ。せめてここだけでも、正しい順で破壊しとくといい。多少は楽になるだろうよ。

 じゃあ、伝言は以上……じゃねーわ。

 やっべ。マジで物忘れ激しいな。肝心なことをシンゴに言ってないわ。

 再戦の時間と場所だ。

 日付が代わって九月十六日、明朝八時、場所はスクランブル交差点で待ってろ。

 面白いステージへ案内してやる。

 じゃあ、今度こそ、さよならだ』

 カーニヴァルの気配が消えると、エクスさんは白目を向いて前のめりに倒れそうだったので、彼の両肩を支えた。

「エクスさん、しっかり! エクスさん!」

 エクスさんの両肩を掴んで上半身を振ってみると「んー」とか弱いうめき声を上げた。ようやく、僕に目の焦点が合う。

「酷く長い伝言だったろ。自分では普通に話しているつもりなんだが、あいつの思考や感情がそのまま乗り移ったみたいで変な気分だったよ」

 そういうエクスさんは心労が激しいようだ顔色が悪かった。

「もう喋らなくて大丈夫です。休んでください」

「そうさせて、貰うよ……カーニヴァルが言っていた通り、伝言で語られたこと以外の情報もあるんだがな」

「無茶せんでいーけん、エクスは休んどきんさい」

 日輪さんの方言はどこか棘があるように聞こえるが、エクスさんは満足したように笑顔を作って壁に背凭れた。

 事切れたエクスさんには日輪さんが付き添い、残った四人はスクランブル交差点のほうへまわり出て、お互いの顔を合わせた。

 いや、女性三人は沈痛な表情を浮かべながら僕だけを見つめていた。言いたいことはたくさんあるのだろうけれど、口にすることを憚れたようだった。

「そんな心配しないでください。ひとまずエクスさんが動けるようになったら安全区域まで戻りましょう」

 僕がそういうと、女性三人は軽く頷いて従ってくれた。

 ノヴァさんと虎猫さんはエクスさんたちのところへ戻り、ポニテさんだけは残ってくれた。

 普段はよく喋る人なのに、一言も話してくれない。この沈黙が怖くて、居た堪れなくて、僕の方から話しかけることにした。

最後まで読んでいただきありがとうございます。


次回投稿は12/13です。

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