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異世界化した現実世界を救済します  作者: アサクラ サトシ
第一章 『終末の咆哮』
46/143

042 『気付き(パルシィーヴ)』

042です。

「ノヴァちゃん!」

 砕けた大剣を手にしたまま、両目に涙を流したポニテさんがノヴァさんに飛びついた。

「もうダメかと思った。みんな──みんな死んじゃうかと思ったよ!」

 ポニテさんは言葉を詰まらせながら泣きじゃくった。

「ごめんなさい……不甲斐ないところを見せてしまって。二人には迷惑をかけたわ」

「ううん、ノヴァちゃんのおかげで助かったんだもん。本当に……本当にありがとう。あのままだったら、真悟くんが死んじゃってた」

「ポニ子ったら……ひどい顔よ。それに、抱きつくなら私じゃなくて真悟さんが先でしょう?」

「でも、私は……真悟くんを助けることが出来なくて……だから──」

 僕を見つめるポニテさんの目は後悔の念に満ちていて、その感情が大粒の涙となって両頬を濡らしている。

 よほど後悔をしているようだった。そんなこと気にしなくていいのに。そう言葉にしたかったけれど、喋る気力が出てこなかった。

 辛うじて動く口唇を読み取ったのか、ポニテさんは首を何度も横に振った。

「何を遠慮しているのよ……ほら、いきなさい」

 ノヴァさんはしがみついたポニテさんの体を引き剥がして、背中をポンと押した。

 ポニテさんは前かがみに成るような形で上体を崩したが、すぐに足元を正した。

「真悟くん。大丈夫……じゃないよね? いや、もう瞬間復元を使っているから、じきに動けるようにはなるのか……すぐに治るとわかっていると、なんて声をかけていいのかわからないね」

「き……」

 絞りだすように出した声は、かすれていて、自分の耳ですら聞き取れないほどの小さい音だった。

「き?」

 そんな声をポニテさんは拾ってくれる。嬉しくなって口元が緩んだ。

「なに? どうして笑うの?」

 ポニテさんの表情がようやく和らいだ。涙も止まっている。そう、ポニテさんは泣き顔よりも笑った顔のほうがいい。断然に可愛らしいんだ。

 咳払いを一つして、声が出るのか試してみる。大きな声は出せないようだけれど、声はでるようだった。

「気にしなくて、いい、ですよ」

「気にするなって言われても気にするよ。焦って攻撃して、私の大剣も……ほら」

 まほろによって砕かれてしまった大剣を掲げる。僕のことよりもまず自分の武器のことを心配して欲しかった。

「ポニテさん。今のうちにツインテを出して瞬間復元を使って下さい。まだ武器として利用は出来るかもしれませんが、次に攻撃をくらったら完全にポニテさんが適応者でなくなってしまう」

 適応者でなくなる。それは普通の人間に戻ってしまう。その後に待ち受けているのは、ただの死だ。

「うん。わかっているけれど……」

「自分への戒めのつもり、かしら?」

 割って入ってきたのはノヴァさんだった。

「大切な人を助けられなかった意味を込めて、武器を直さない──とでもいいたのね」

「そんなつもりは、ないと思う」

 ポニテさんは掲げていた大剣を降ろした。

「真悟さま、もう体を起こされても大丈夫です」

 リリィが囁く。切断された右腕に力が入る。大鎌によって作られた縦の傷は完全に癒えていた。ただ、ルイガの時と違って、大鎌に突き刺された時に出来た破れた服は元には戻っていなかった。

「破けたままの服っていうのは、やっぱり居心地が悪いな」

 漫画やアニメの演出だと破れた衣類はカッコよく見えるのに、実際にそうなっていると残念な姿にしか見えなかった。

 僕の周囲にできていた青い魔方陣が消えると、リリィはいつものように仰々しく頭を下げた。

「真悟さま。何度も言うようですが、無理だけはされないようにして下さい。お仕えしているリリィも心を傷めてしまいます」

「次は、うまく戦うよ。それでも助かったよ。ありがとう」

「リリィはやるべきことをやっただけです。それでも感謝のお言葉、快く受け取らせていただきます」

 そういって、リリィは力なく笑い、スマートフォンの中へと戻った。

「さて……」

 一言ついてから、僕は元に戻った右腕を使って片膝に手をついて立ち上がった。

「完全復活できたの?」

 見ての通り元通りですと口にする代わりに、僕は両手を広げてみた。僕なりの大丈夫ですというアピールだ。しかし、これが上手く伝わらなかった様子で、ポニテさんには別の意味に捉えてしまったらしい。

 ポニテさんは手にしていた大剣を放り投げて、僕のがら空きになった胸の中に飛び込んできた。それはもう頭突きでもかまされるのかと思えるくらいの突進力だった。

「ごめんね。助けることが出来なくて」

 また泣いてしまうのではないかと思えるくらい、ポニテさんの声は弱々しかった。

「ポニテさん、もう謝らなくても……」

 と、ポニテさんの頭を撫でようとしたら、逆にポニテさんが破けた服の隙間を人差し指と中指で擦った。

「ちょ、ポニテさん?」

 はじめはくすぐったいなと感じていたのに、なんども擦られるに連れて気分が高揚してしまった。

 つまり、端的に、素直に言うと、変な気分になる一歩手前だった。

「ここなんだよね。あの女が突き刺したところって」

 急にポニテさんの口調がきつくなった。

「痛かったよね。苦しかったよね。たくさん、血が出たもんね。もう傷はふさがっているかもしれないけれど、痛みは忘れないよね?」

 ポニテさんは俯いたまま聞いてくる。僕に何を訪ねたいのか、その真意を掴めないまま、僕は「はい」と答えてしまった。

 腕を切られた時は、なんとか我慢ができた。それは腕一本を落とされる覚悟があったからだ。まさか体を大鎌で貫かれるなんて予想外だったので、ポニテさんには見苦しい姿を見せてしまった。

 まほろに大鎌で体を貫かれた時、僕はどんな顔をしていたのだろう。思い出せるのは地面に落ちる大量の血と、その温度。体に伝わる大鎌の異物感。生々しい記憶と痛みが脳内で再現され、癒えたはずの傷口が疼いた。

「よし。決めた」

 ポニテさんがようやく顔を上げる。ある決意を秘めたその両目とぶつかり合う。

「なにを決めたんですか?」

 あまり聞きたくないのだが、尋ねなかった所でポニテさんは勝手に告げただろう。

「私、あの女を殺す」

「ちょっと、ポニ子。それは私の……」

 ポニテさんはノヴァさんの非難めいた声を無視し、そして遮った。

「ノヴァちゃんがあいつと殺し合う前に、私があの女を殺す。悪いけど、二人の約束なんて知ったことじゃないの。我儘かもしれないけれど、これは私の意地と意志なの。私の真悟くんを殺しかけたあの女を、許したりしない」

「ポニ子。でも、すべては私のせいなの。あの子が私を憎んでいたから、ここに来た。私が正気を保っていれば、真悟さんも、そしてあなたも傷つくことなんてなかった」

「違うよ」

 ポニテさんはノヴァさんと向き合った。彼女は彼女らしい強さを取り戻している。

「結果がでてしまったの。もしとかあの時にとか、そういうifを口にしてもダメなの。それにあいつはまた復活する。何度殺しても復活する。そのたびに、ノヴァちゃんを狙う。それなら、ノヴァちゃんが襲われる度に私があの女を殺す」

「ダメよ。私がまほろと決着を付けないかぎり、あの子は納得しない。決して下がることはしないわ」

「それって、ノヴァちゃんが死ぬまで続くってことでしょ? 私たちは一度でも死んでしまったら次はない。でも、あの女は……ううん。黒の創造主と契約してしまったあいつら適応者は次がある。理不尽じゃん。だったら、あいつにも理不尽に約束を交わせないようにしてやるの」

 ポニテさんは放り投げた大剣を拾い上げると、ツインテを呼び出して瞬間復元を使わせた。

 砕けた大剣がほのかに光を帯びると、四方から大剣だった欠片たちが集まり、元の刀身に戻された。

「そう、何度でも、私はこの剣を使ってあの女の首を切断する」

 ポニテさんの決意に折れたノヴァさんが大きな溜息をついた。

「何を言っても無駄なようね」

「無駄だよ。言ったでしょ? 決めたって。この気持ちだけは曲げられない」

 敵でもないノヴァさんを睨みつける。

「私にそんな殺意を込めた目で見ないでちょうだい。私はまほろではないのだから」

 ようやくノヴァさんも軽口が叩けるようになった。ポニテさんも調子よく「知ってるよ、そんなこと」と笑って答える。

一見してなにもかも元通りになった、ように見えるけれど実際は違う。武器も体も適応者のまほろと戦う前の上体ではあっても心だけは違う。抱いてしまった感情は心の底に居座り続けるのだ。

「じゃあ、ポニ子。そのやる気はこの後に控えている番人にぶつけてなさい。どうせ、あなたのことだから、戦いたくてウズウズしているのでしょう?」

 ポニテさんは頭を掻きながら「バレたか」と照れ笑いをする。

「あの、せっかくやる気になっている所でこんなことを言うのもあれなんですけど」

 僕はやる気に満ちた二人の女性に手を伸ばして引き止めた。

「今度は番人を一人で戦うとかいわないでしょうね?」

「そういえば、真悟さんは前の棺で出てきた番人とは戦わなかったのよね。三人しかいないのだから、ここは協力して倒しましょう」

 当然、僕の言葉に耳を貸してくれるほど、二人の気持ちは昂ぶっている様子だ。

 まさか、あのノヴァさんまで冷静さを欠いているとは思わなかった。いや、あの時のノヴァさんは正気を保っていなかった。ポニテさんはしっかりと聞いていたはずなんだけど、棺を壊すことに気が急いでいてまほろとの会話をすっぽりと抜け落ちている。

 だからこそ、ここで言わなければいけない。

「棺の破壊も、番人の討伐も、今はやめませんか」

「どうして?」

 二人は目を丸くした。

「私たちじゃ頼りないとでも言うの?」

 泣いたり、笑ったり、喜んだり、怒ったりところころ変わるポニテさんだが、僕が彼女の手を握ると今度はきりりと上がっていた眉を八の字に下げて、うろたえはじめた。こんなポニテさんも可愛いといえば可愛いな。

「ななな、なに? どうしたのいきなり!」

「こうでもしないと、僕の話を聞いてくれないような気がして」

「聞く! なんでも聞く!」

 えらく素直になったもんだ。

「ノヴァさんも、話を聞いてくれますか?」

「あら? 私の手は握ってくれないの? 待っていたのに」

「ダメ!」

 ポニテさんがムキになって僕の手を強く握る。……闘気を込められていたら、僕の指はすべて複雑骨折しまう。

「ノヴァさん、笑えないジョークは無しの方向で」

「ジョークじゃなくて本気だったら?」

 ノヴァさんは悪戯に笑う口元に人差し指を乗せた。

「だからダメ!」

「ポニテさん、流石に痛い!」

「ああ、ごめん」

 ポニテさんは握りを緩めた。手は繋いだままだが大丈夫だろうか。

「どうして、棺を破壊しないの? ガルズディアの復活を防ぐためには棺も番人も倒さなければいけないのよ?」

 急に真面目なトーンで切り返される。

「そうだよ。なにか意図があるの?」

 ポニテさんは繋いで手を振り回している。犬で言うと尻尾を振っていると思えばいいのかな。

「やっぱり、二人ともまほろが言っていたこと、覚えてないんですね」

「まほろが?」

 ノヴァさんもポニテさんも首を傾げるだけだ。

「適応者は棺を守りに着ているわけではなく、殺されに来ている。こんな感じのことをあの女は口走ったんです」

「そういえば、そんなこと言ってた」

 ようやく思い出したポニテさんはうんうんと頷く。

「真悟さんは、適応者がここで殺されることでなにかが起きると考えたのね」

 流石にノヴァさんは飲み込みが早かった。でも、僕は更にその先があるのではと危惧している。

「殺されることは前提です。そして、適応者を殺したあとに僕ら適正者がすることはなんです?」

「棺の破壊」

「番人の討伐」

 ポニテさん、ノヴァさんが一つずつ答える。

「そう。でも、それ自体が仕組まれたことだとしたら? よく考えたらバランスが悪いんですよ。ゲームで例えることしか出来ませんが、普通なら敵のボスは弱い順から出てきますよね。中ボスからの本命ボスみたいな流れです。でも、棺はどうです? 一番強い適応者からでて、最後はランクの低い番人のホムンクルスです。もちろん、新種ではありますが、適応者なみの苦戦は強いられません」

「適応者を殺し、番人を倒し、そして棺が壊されることで、黒の創造主側でなにかが完結している、そういうことね?」

「ええ。まだ想像の域、机上での空論に過ぎませんが、あえてここだけを破壊せずに、エクスさんたちと合流するのはどうですか?」

 僕の提案にポニテさんは渋ったが、ノヴァさんは「一理ある」と頷く。

「それに、カズヒデがなにかしらの情報を手にしているかもしれないわ」

「カズっちの行動も無駄じゃなさそうだね」

 僕も同意する。だが、ここでカズさんに連絡する暇はなかった。

 僕らは唐堂神社を離れ、屋根越しに渡ってエクスさんたちがいる棺の元へ急いだ。

最後まで読んでいただきありがとうございます。


次回投稿は11/19です。

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