022 『撃破(クラッシング)』
022です。
※ 10/8 本文修正
おそらく、としか言いようがないのだけれど、番人が台座から出てきてツインテないし贄を集める安眠を狙わなかったのは布を纏っている状態では襲えないと考えた。故に番人は自ら攻撃を受けることであの布切れを破壊させているのだと。
「言っていることはわかるけど、こいつ勝手に武器に向かってくるですけど!」
番人は自分の思惑が知られたとしても、自らレリック武器にあたりに行けばいいのだ。自ら傷つけられにいくという敵も珍しいし、倒さないように対処するのは難しい。
ポニテさんは大剣を素早く捌きながら番人に当たらないように工夫こそしているが、傷つけられにいくほうが有利だ。番人自身が傷つく度に纏っていた布が徐々に消えていき、手足が見え始めた。
なんだあれは?
僕の隣で浮いたスマートフォンを台座にしているリリィに問いかけた。
「リリィ……番人は本当にホムンクルスなのか?」
「はい。白の創造主さまから頂いたこの『偽れない眼』にかかれば種族を見間違えることはありえません」
「とはいっても、あの手足はホムンクルスのそれじゃないだろ」
『Relic』で出現したホムンクルスは肌が真っ白で茹で卵みたくつるりとして筋肉が薄く、体毛や性器はなかった。それがどうだ。いまポニテさんが相手をしている番人の手足は一貫性がなくバラバラだ。
右手は霧状で自然種、左手は力強さを持った鬼人種、両足は素足で人のままだが、陸上選手のような筋肉が備わっている。
番人の胴体がポニテさんの大剣に突き刺さり、胴体の布が消え去ると人の作りこそしているが、鰐のような刺々しさと硬さを表現している。残るは顔を覆っている布だけだが、どんな作りをしているのか、見たくもないし想像もしたくない。
「真悟さま、あのホムンクルスの正式な種別がわかりました。あれは他種の肉体を一つに合成させた試作型ホムンクルスです」
「人型のキメラと思えばいいのか」
ゲーム内でも合成レリックモンスターは存在したけれど、人型なんて存在しなかった。
「試作ということは不完全な合成ということか?」
「その通りです。よく番人の胸を見て下さい」
目を凝らして番人を見ると胸の辺りには赤黒い光源が見えた。
「あの光がつぎはぎになった体を支えている要光石です。あの石を砕けば番人を倒せます」
「でも、倒すのは今じゃない」
「はい、あの要光石には試作型の体を繋ぎあわせている効果とは別に他にも使い道があるようです」
「使い道」
番人の目的は『約束された安眠』の破壊かそれに準ずる行為だ。もしかしたら、あれを破壊したら番人は自爆して僕ら適正者や妖精に大ダメージを与える物かもしれない。
「弱点と見せかけて実は罠という可能性もあるのか」
ポニテさんは防戦一方でツインテとの会話をする余裕はない。
「胴体の光っている部分は絶対にレリック武器を触れさせないで下さい」
「これ、どう見ても弱点っぽいのに罠なの? あっぶねー。てか、ツインテ、棺からの移送はまだ終わんないの!」
「もうちょっと。あとほんの少しで終わるから!」
ツインテの言うとおり、棺にあった贄の液体はほとんどなくなり、安眠の器に満たされつつある。
番人のターゲットは完全にポニテさんへと固定されている。ハンプティさんの短剣は手数こそ多いけれど、大剣に比べれば火力は低いのでターゲットはポニテさんのままになる。
自ら武器に当たりにかかる番人の捨て身を上手く逃げ回っているけれど、攻撃ができないということがポニテさんにとってはかなりのフラストレーションになっているようだ。
と、番人の動きが急に止まった。
「小賢しい白の使いどもめ。だが、ここまで露出すれば問題もなかろう」
番人は左手を手刀に変えて要光石に突き刺した。
「嘘でしょ!」
ポニテさんが驚くのも当然だ。僕だってこの光景は信じられなかった。自身に攻撃をするような敵キャラクターは『Relic』にはいなかった。
まずいまずいまずい。あいつは自分で要光石を壊す気だ。
「左腕を!」
僕の声よりも早く、ポニテさんが動く。狙うは番人の鬼人種左腕。ポニテさんが番人と距離を詰めて大剣を振り上げた。左腕は確実に落とされたと思えた矢先、ポニテさんに轟雷が落ちる。番人は霧状の右手を天に向けている。左手に集中するあまり、霧状の右手を疎かにしていた。
番人までもう一歩という所で、ポニテさんは大剣を地面に突き刺して体を支える。
「感電の衝撃……」
肉体のダメージはレリック武器が代わってくれるが、肉体への衝撃はそのまま受けてしまう。さっきの稲妻よりも威力があるようでポニテさんは身動きが取れない。
番人は左腕を胸から引き抜きながら要光石を見せ付ける。口からは黒い血が流れ出ている。
「私の勝ちだ……。妖精が集めた棺の贄、そのまま代替させてもらうぞ」
鬼人種の腕に力が込められて太くなる。割れる、割れてしまう。三人に任せたい気持ちはまだあるけれど、失敗したら元も子もない。
僕は闘気を両脚に込めて番人に向かったが、溜めた闘気が足りず速度が足りない。番人へ攻撃を与える前にあの要光石は割れてしまう。
「骨断」
二本の刃が番人の左指五本を切断され要光石は重力の力によって落下した。
「俺をフリーにさせたお前の落ち度だ!」
満面の笑みを浮かべてハンプティさんが叫ぶ。
ハンプティさんのスキルが見事に決まり、石の破壊は避けることができた。が、この攻撃により、番人の頭に被さっていた布が消失する。
「この薄汚れたにんげぇんふでぇばぁぁ!」
自ら取り出した要光石を失ったせいだろう。怒声を上げる番人の顔がどろどろと溶解し原型すら認められない。
「ひ!」
ハンプティさんは番人とまともに顔を合わせてしまい、小さな悲鳴を上げた。蛇に睨まれたカエルのように身動きができず、両足はがたがたと震えている。
「た、たす……」
番人で肉体は崩壊しながらもハンプティさんに近寄っていく。
「ご……ば──ギ……」
溶けていく番人の顔は目がこぼれ落ち、下顎もだらりと下がっている。もはや声帯すらも失われている。それでもハンプティさんに対する憎しみは消えていない。
伸ばされる霧状の右手も飛散しつつある。簡単に逃げられる速さなのにハンプティさんは動けない。
番人はこのまま放っておいても自滅するが、あんなゾンビのような生き物を見続けるハンプティさんには精神的にショックが強すぎる。僕は番人からハンプティさんに方向転換する。
僕の真後ろから小さな火の玉が通り過ぎ、番人に着弾舌かと思うと瞬く間に業火が舞い上がった。
「あたしの炎で散れ。バケモノ」
杖を地面に叩きつけた虎猫さんが低い声で言った。
炎に包まれた番人は虎猫さんの言うとおり、炎となって飛散し消滅した。
「さ、サンキュ。虎……マジでやばかった」
腰くだけたハンプティさんは地面に座り込んだ。
「俺、スプラッタ系ってダメなんだよ」
「あたしはゾンビとかそういうの好きだから割と平気―。特殊メイクって思えばいいんだってばー」
作り物と思うのは簡単かもしれないけど、モニターやスクリーンといったフィルターもなく、生で見せられたらトラウマになってもおかしくない。
「ちぇ。いいところぜーんぶ二人に持っていかれたよ」
「いいところって、かなり危なかったですよ?」
「まぁ、いいじゃん。勝ったんだしさ。てか、なんで真悟くんがこんな近くまで来ているの?」
「そうだよ。俺達が信じられなかったのか? あの石頃を落としたのは俺だぜ?」
「でも、ビビっちゃだめでしょー。ドヤ顔までしておいてさー。カッコわるーい」
虎猫さんがハンプティ山を指差して笑う。
「うるせ。溶けるとかなしだろ!」
「うんうん。人間、得意不得意ってあるもんねー」
「この!」
また虎猫さんとハンプティさんの痴話喧嘩が始まる。だが、ハンプティさんは立つことが出来ず身振り手振りを交えて応戦している。
「あの……」
か細い女の子の声が聞こえてくる。
「あの、すみません!」
ツインテが語尾を強めて言葉を投げかけた。
「約束された安眠にすべての人が移送されました! ここでのクエスト完了です」
「おー、よくやったツインテ! お疲れさま!」
動けるようになったポニテさんが歓喜をあげてツインテを両手で優しく包んだ。
「ポニちゃんこそお疲れさま。すごくがんばったね。真悟さまもきっとポニちゃんのことを信じてくれるよ!」
「ちょっ! 心の声を代弁しないで!」
「え、言ったらダメなの?」
「いいから。早くその安眠を代々木公園に転送して!」
「あ、うん。わかった」
ツインテが両手を上げると『約束された安眠』は光の粒子となって代々木公園の方へと放物線を描きながら飛んでいった。
「これで本当に終わったんだね……疲れたー」
ポニテさんは地面に突き刺した大剣を背もたれにして座り込んだ。
「本当に三人でやってのけたんです。すごいですよ」
疲れきったポニテさんを見ながら言うと、彼女は乾いた声で笑った。
「やればできるんだってば。でも、もう三人は無理!」
「左に同じく。あんなスプラッタはゴメンだ」
「あたしも胃がキリキリしてしんどかった。だから、シンちゃん」
虎猫さんの一声に、三人とも声を合わせて言った。
「今度は四人で倒そう」と。
「もちろんですよ。僕も見ているだけっていうのは居心地が悪いです。実況動画しているみたいで変な気分でしたよ」
「私たちを実況だって。恥ずかしいような、嬉しいような」
同感と、戦った残り二人が笑った。
一息を入れた後、僕らは校庭をゆっくりと歩いて校舎の中に入り、そのまま昇降口を出ると、校門の前に一人の男性が立っていた。
左手には弓を携えている。
まさか……適応者?
僕が身構えると、ポニテさんたちも同じように武器を構えた。
「真悟くん、今度は私が戦う!」
「いいや、俺も戦う。決めたんだ。もうシンくん一人に戦わせないって」
「ハンプティは無茶しなくていいの。あたしの魔法が強いんだから」
もう僕がどうこう言っても無駄だ。
「無理はしないでくださいよ」
僕は闘気を手甲と脚甲に闘気を込めた。今度は一対四だ。負ける気はしない。
「待て待て! 俺は適応者じゃねーって。これ見ろよ、これ!」
男は必死になって右手を僕らに掲げてみせた。それは妖精が適正者と認めた印、紋章だった。
「それがなんだっての」
大剣の剣先を校門に立つ男に向ける。
「なんだよ、知らないのか。適応者にはこの紋章は無くなってんだよ。つまり俺はお前らと同じ適正者だって」
僕は構えたまま男に問う。
「妖精を見せて下さい。適応者は妖精を殺して黒の創造主側へと付きます」
「あ、そっか。いいぜ。おい、出てこい。イシュタル」
「呼びましたか? 俺がエクスカリバーさま」
「ちょ、だから、エクスって言えよ!」
「でも、これが正式名称ですから」
「頼むから、やめろ!」
黒歴史を見ず知らずの人にさらされるのは拷問だ。
俺がエクスカリバー……我慢しようとしたが限界だった。
僕らは四人揃って吹き出してしまった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
次回投稿は10/10になります。
よろしくお願いします。




