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異世界化した現実世界を救済します  作者: アサクラ サトシ
第一章 『終末の咆哮』
21/143

017 『方法(メソッド)』

017です。

 僕がハンプティさんにお願いしたのは運動後に摂取する食べ物、もしくは飲み物を作って貰うことだった。トラップに引っかかった時、それに等しい激しい戦闘後に闘気の補給補填、できることなら相乗効果のあるバフが欲しい。

 手軽で簡易的に食せる料理があれば役立つと考えた。

 あくまでも予想ではあるけれど、現実世界における料理の効果は『Relic』の料理と似ている部分があると思えたからだ。現実で体を動かすためのカロリー(エネルギー)を料理として摂取するのであれば、闘気を利用する源もまた料理ではないか。

 いろいろと考えてはみたけれど、万全は尽くしておきたい。

「いい考えだとは思うけど、手荷物にならない?」

 ようやくパスタを食べ終えたポニテさんが言う。

「妖精が作ったのであれば、料理自体もアイテムリストに入るかと思ったんですけど」

 ちょっと安易に考えすぎたかもしれない。すると、ポニテさんがツインテを呼び出して、虎猫さんのフルーツヨーグルトを見るように指示した。

「うん、これなら私たちのリストに追加できるよ。この世界で出来上がったものはリストには入れられないけど、私たちや適正者さまが作り上げたものであれば、アイテムとして保管はできるみたい」

「もしかして、リンクしたこの状態ってかなり便利だったりするのかな?」

「ほぼ戦闘に関わるものだけですけどね」

「一人に一体の妖精ってありだと思うんだけどなー」

「適正者になることが必須ですけど。よっぽどの物好きな人でない限りならないでしょう」

「なる人なんていないか。リンク内限定だしさ」

「まぁ、あるもので作ってくるよ。消化がしやすい物とか、エネルギーになるようなものなら何でもいいんだよな?」

「ええ、何にするかはお任せします」

「はいよ。じゃあ、厨房に行ってくる。空いた皿、持っていくわ」

「あ、ありがとうございます」

「いちいちお礼いわなくていいって。んじゃ」

 虎猫さんの皿だけ残して、ハンプティさんは空いた皿を慣れ手つきで積み重ねると、その皿を両手に持って厨房へと消えた。

「ちゃんと皿まで持って行ったよ。ハンプティのベースを聞いてみないとわからないけれど、実は料理の道だったらもっと輝けるんじゃないかな」

 ヨーグルトによく絡まったベリーを食べながら虎猫さんが言う。

「人って人間性とか見た目だとわからないところって多いわ。ハンプティが戻ってきたら、この料理全部食べちゃうねー」

 虎猫さんはフルーツヨーグルトが入った透明な皿の縁をスプーンで叩いた。

僕の注文した料理がどれくらいで完成するかはまだわからないけれど、三十分後にはここを発ちたい。

「さっきまでの戦闘が嘘みたいにのんびりしているけれど、私たち本当にモンスターたちと戦ってたんだよね。こうして話をしていると現実味がなくなっちゃうから不思議だよ。ちょっと窓の外をみたら、『Relic』の一部がそこらかしこに見えているににさ」

 ポニテさんは窓の外を眺めながら頬杖をつく。

 ゲーム『Relic』の世界は、モニターに映しだされたプログラムの情景だったが、それが具現化しこちらの建築物や植物たちと同化している。

 そういえば、と思う。この同化した『Relic』の一部分的世界は、ゲームのフィールドで言うとどの辺りなのだろう。『Relic』はシームレスのオープンワールドだったので、行き来ができるところは一通り見たと思うのだけれど、場所が特定できないのはどうしてだろうか。原宿駅は岩の砦のような物、ビルとビルの間には女神のような一枚岩のレリーフがあった。見覚えはあったけれど、どの場所だったかまでははっきりと思い出せない。

 僕は思っていることをそのままポニテさんと虎猫さんに訪ねてみた。

「リンクしたとはいっても、ルーシェンヴァルラの世界がほとんどこちらの世界とリンクしたわけじゃないんでしょう? なんていうか、浸食の途中みたいな感じだと思う。こっちの世界が七割、八割残っているとしたら、向こうの世界は二割程度しか来てないみたいな感じ」

 虎猫さんの感覚的な発言ではあったけれど、七割がこちらの世界、残りが『Relic』の世界と言われると納得できた。

「妖精たちも言ってたじゃん。黒の創造主だって万能じゃない的なこと。世界まるごと一気に一緒にするなんて無茶なんだってば」

「私はさ、まだ二割か三割で落ち着いているって考えられるかな。きっと徐々に進行しているんだよ。向こうの世界が私たちの方へと」

「やめてよ。そういう怖いことを言うの。あたしらはそれを防ぐために戦うんでしょう?」

「そうだけどさ。黒の創造主側はまだ手の内を見せてない感じがするんだ」

 ポニテさんは頬杖をやめて、そのままべたりと食卓に顔をうつ伏せた。

「私たちは後手に回されている。相手の目的はわかっていても、どのような手を使ってくるのか、未知の部分が多いもん」

「ポニちゃん、いきなり弱気発言はどうしてなの?」

 虎猫さんがいたずらっぽく言う。

「負けられない、生き残らなきゃいけない強い理由でも出来ちゃったのかな?」

「……」

 ポニテさんは無表情になった。静かに怒っているのがよく分かる。忘れてはいけないのだ。この人は沸点が低いということを。

「虎ちゃん、あのね。いまのは許してあげる。ただ、次はないよ。私ってよく自由奔放で何を言われても平気みたいに思われがちだけど、我慢できないことはあるんだ。虎ちゃんのそれはね、冗談で言っていいことじゃないの」

「ご……ごめん」

「ううん。ただ、私も真剣に考えることはある。それを茶化されるのはちょっと頭に来るんだ。──それだけは知っててほしい」

「うん」

 ポニテさんは軽く息を吐いて気を落ち着かせた。

「ごめん、ちょい言い過ぎた。また私のせいで空気悪くしちゃったね。こんな時は、真悟くんが話題を切り替えちゃってよ」

 ポニテさんが僕の腕を突っつく。

「それ無茶振りですよ」

「そこを何とかお願いします。パーティーリーダー!」

 虎猫さんは両手を合わせた。静かな店内に響き渡る。拝むようなその構えは意外と効果を持たせた。

「完全に話題を変えるわけじゃないけど、ゲームをしている時にどこかで行き詰まったら情報収集しませんでした? まとめサイトとか攻略サイトみたいなところで」

「見てた見てた」と、ポニテさんと虎猫さんが同意した。

「日本人プレイヤーのサイトをみると本当にみんな効率的なことばかり書き込むよね。基本がソロプレイだから、十人十色の書き込みが多くて面白かった。しかも職業固定だし、同じレリック武器の攻略を探すのも苦労したよ」

 虎猫さんが思い出しながら天井を眺めた。

「日本人のってことは、海外の攻略サイトなんて見てたんですか?」

 僕は母国語以外まったくダメなので、海外のサイトまで閲覧しようと思ったことはなかった。

「たまーにね。英語がちょっとだけ得意なだけ。会話は無理だよ。そう、英会話! オリンピック開催中は英語が得意ってだけでいろいろと駆りだされた。しかも会ってみたら英語圏の人じゃなくて、スペインの人だった時はどうしようもなかったね。しかも聞いてみたら、オリンピック目的じゃなくて普通に観光って言うからさらにウケたよ。こんな時期に来ても意味ないのにさ」

 と、虎猫さんは笑っていった。

 いい感じに会話が枝分かれたと思ったのだが、サイトと言う言葉が引っかかった。

「あ、思い出した」

「なに? 外国人とのエピソード、真悟くんも持ってるの?」

 ポニテさんが前のめりになって僕の方へ顔を向けた。

「いや、そっちじゃなくて。カズさんが動画サイトを見ろって」

「カズっちが? しかもなんで動画サイトなの? 英語、海外……は! まさかエロい動画サイト」

「だから、そういうのでもなくて。動画サイトで〈Relic〉と検索かけろと言ってたんです」

「動画サイトねぇ。昔と比べて投稿サイトだけじゃなくて、生放送できるサイトも多くなったよねー」

「ええ。ただ、なにがあるのかまでは聞いてないんですけどね」

「じゃあ、ささっと検索して見よう。もしかしたら他の場所でリンクしているところから放送している人がいたかもしれないって」

「それに、今の私たちに有力な情報が流れているかもしれないよ」

「有力な情報ですか……他のゲームならまだしも『Relic』はちょっとなぁ」

 オンラインゲームではよく初見者やモンスター攻略のため上手く立ち回れるように、自身のプレイ動画をあげる有志がいた。

 動画投稿サイトが普及し始めた頃から、この手の攻略動画はよく上がっていた。はっきり言うと、モンスターの攻撃パターンを知ることは出来ても、プレイヤー側の攻撃や回避の仕方はその動画をあげたプレイヤースキルが物を言っている事が多い。おいそれと同じ動作ができることは難しかった。

 『Relic』ではなおさらプレイ動画の攻略は役に立たなかった。同職であってもプレイヤーが体得しているスキルが違うからだ。僕が否定的な言葉を口にした理由はこれだった。

「とにかく、カズっちが見ろと言ったなら見ようよ。それにこれから棺に向かうのなら見る機会は今しかないよ?」

 ポニテさんの言うとおり、時間は残されていない。

 僕はリリィを呼び出して適当な動画サイトを表示させて検索バーから〈Relic〉と打ち込ませて検索をかけた。

 かなりの投稿動画が表示されたが、投稿時間か生放送時間の新しい順にソートさせる。

 すると、動画のアップロード主は違うが、同じような動画のタイトルとサムネイルが並んだ。最も再生数が多く、大元の動画だと思われたのはタイトルに『Relicの適正者たちへ。ついでにリアルの人間どもへ』とあった。収録時間は八分十八秒。サムネイルは男が一人で椅子に座っていた。再生数をよく見ればなんと動画がアップされてから一時間だというのに、十万を超えていた。

「リリィ、これは僕が触れても動画は再生されるのかい?」

「はい。たっちぱねる機能というのはそのままです。見たい動画に触れてくだされば、再生されます」

 僕がサムネイルに触れると、動画が再生された。

 若い日本人の男性が椅子に座り、不敵な笑みを浮かべている。どうやらカメラを固定して撮影しているようだ。

『よう。最初で最後の動画投稿だ。楽しんでくれよ? これから何も知らない奴らと、適正者になった奴らに向けて親切にもこの俺が教えてやるよ。いま世界中で同時にMMORPGのRelicと同化しはじめた。この俺もその同化した場所にいる。俺は日本人だけど、わけあってアメリカにいる。どの州かは言わないし、言っても意味がなくなる。ああ、外が五月蝿いのは我慢してくれ。外でハイクラスのレリックモンスターが暴れているんでね。信じられ無い奴もいるだろうから、優しい俺が見せてやるよ』

 男がフレームアウトすると固定されていた画面が大きく振れた。

 カメラは窓に向けられる。部屋の高さからして二階か三階の部屋のようだ。本当にアメリカなのか判断出来ないけど、窓の外は暗かった。時差を考えたら、だいたい二十三時ごろだろうか。窓越しから見える景色は高いビルの山々。灯りが付いている部屋もあるけれど、それはごく僅かだった。

『さて、あいつはどこにいるかな? あっちかなー? こっちかなー? っと、見せかけてそっちだ!』

 男はカメラを左右に回した後、広い車道をのそのそと歩いている巨大な人型の背中が映しだされた。胴体も、腕も、足も、すべてが大きな肉の塊が地響きを立てながら歩いている。

 はっきりと見えないけれど、あれは巨人種の『ヴァルゴールゼ』じゃないだろうか。

『でかいだろ? 知らない奴に教えると巨人族のレリックモンスターだ。じゃあ、戻るぜ』

 こいつ、絶対におかしい。あの巨人種が直ぐ側まで来ているのに動じず平然としているこの神経が信じられなかった。巨人種の上級はランクにして10だ。レリック練度がカンストしていても一対一で戦い勝てる見込みは五分五分だ。

 カメラは再び固定され、男も椅子に座った。

『CGとか思っている奴は勝手に思え。だが、これは現実で真実だ。じゃあ、なんでお前はあんなバケモノがいるのに平気なんだって思うよな?』

「こいつ死ぬ気なの? 戦う気がないのならせめて逃げてよ」

 ポニテさんが一方的に男へ向かって話しかける。

『なぁ、適正者になった奴ら。お前ら俺がどうして平気でいるのか不思議だろ? 俺はさ、適正者を辞める。黒の創造主側に着くぜ。だって、チートで無双できるみたいだしさ。しかもPKできるんだ。楽しみでならねーよ』

 男は高らかに笑った。実に不快で、厭らしい声で。あのルイガと同類だと僕は察した。

「こいつ、適応者になるつもりか」

 僕も叫んだ。

『世界中にいる人間ども。俺はお前らを裏切るぜ。俺も世界も生まれ変わる。そして正義の味方面している適正者ども。お前らと戦えるのを楽しみにしてる』

 男はポケットからスマートフォンを取り出すと、床に放り投げた。

 この動作の意味が、僕らにはまだわからなかった。

 気が付くと男の腕と脚にはレリック武器の手甲と脚甲が装備されている。こいつ、僕と同じ闘術士だ。

『おっと、このままこいつを殺したら、動画投稿できねーな。人間であるうちに投稿すっか』

 男がカメラへと近寄ってくる。

『ついでに名乗っておこうか。実は有名人なんだぜ。暇人どもと偽善者が集まるどっかのスレ板だけどな。俺はブラックリストのカーニヴァルだ』

 カーニヴァルがカメラに腕を伸ばす。

『最後にいいこと。適正者の諸君? お前らが装備しているレリック武器で妖精を殺したら、適応者になれるぜ』

 画面は真っ暗になり、動画は終了した。

最後まで読んでいただきありがとうございます。


一話につき3000から4000字ぐらいとしていたのですが、

ついつい書きすぎてしまいました。


明日も投稿します。


よろしくお願いします。

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