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異世界化した現実世界を救済します  作者: アサクラ サトシ
第一章 『終末の咆哮』
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20/143

016 『手段(ミーンズ)』

016です。


※サブタイトル変更

「あのさー」

 ハンプティさんの声に僕とポニテさんは飛び上がるように驚いた。

「妖精でも十五分くらいかかるって……って、あれ? 二人してなに固まってんの。腹が減りすぎて身動き取れないとか?」

 タイミングがいいのか悪いのか、きっと悪いけれどハンプティさんは的はずれなことを言う。

「バカ! お前のせいで台無しだよ!」

 虎猫さんが死角から現れてハンプティさんに体当たりをした。

「虎猫さん! いつから!」

 この人、盗み聞きしていたなと怒りたくもなったが、僕よりも先にハンプティさんが動いた。

「なんだよ! 俺が何をしたんだ!」

「うるさい。黙れ」

 虎猫さんがドスの効いた声でハンプティさんを威嚇する。

「あ、はい」

 虎猫さんの豹変ぶりにハンプティさんは牙を失った。だんだん、ハンプティさんの人間像が見えてきた。この人、気が強いは強いけど、女性にはめっぽう弱いのだ。

「んで、十五分だっけ? 楽しみにしてるから早く作ってきて」

「お、おう。すっげーうまいの用意するからな」

 そして、人に期待されるとすぐに浮かれてしまう。人としてここまでわかりやすい人も珍しい。

「それで、虎猫さん。私たちの飲み物は?」

「……いっけなーい。置きっぱなしだったー」

 ドジっ子を装って、ドリンクバーのある方へと虎猫さんが逃げていく。が、その後をポニテさんが追いかけていく。

「ちょっと、待ちなさい。どこから聞いてたの! ねえ!」

一人残されてしまった。

 ポニテさんに追いかけられる虎猫さんを流しみる。つい数十分前まで険悪なムードだったのが嘘みたいだった。むしろ、こうして騒ぐことで現実逃避をしているとも言える。

 僕らは簡単に死んでしまう。スグルさんの言うとおり、理不尽に容易く殺されるのだ。

 非現実の中に放り込まれた僕らは、こうして普段通りの日常的な風景に心と身体を預けることで安心感を得ている。

 ポニテさんは言った。このリンクした世界を元に戻したとしても、僕ら適正者は利用され戦い続けると。

 話の流れで、僕は一緒に逃げようと言ったけれど、逃げた所でこの現実は変わらない。

 物思いにふけっているところに、ドリンクが二つテーブルに置かれた。氷がたっぷりと入ったアイスコーヒーと烏龍茶だ。顔を上げると、ムスッとしたポニテさんが立っていた。

「まったく何を考えてんだか」

 言葉だけなら、怒っているように聞こえるけれど、しかしどこか楽しそうにも見えた。

 そうさ、逃げたら多分、楽しいなんて思うことが出来なくなる。ならば、逃げるは正しい選択ではない。

「ポニテさん」

「ふぁに?」

 ストローを口に咥えながら、ポニテさんが返事をした。グラスの烏龍茶はみるみる減っていく。

「あ、ガムシロとミルクも欲しかった?」

「一緒に逃げるのは辞めません?」

「そっか。そうだよね。あー、ちょっと期待しちゃったから余計に恥ずかしいや」

 ポニテさんはすぐさま顔を伏せて、右手に持ったストローでグラスに残っている氷をカシャカシャと音を立てながらかき回した。

 また、誤解させてしまったか。

「そうじゃなくて。えーっとですね……逃げるじゃなくて、立ち向かいません? 黒の創造主だけじゃない。僕らを利用する奴らもろとも相手にしてみませんか」

「リアルでも喧嘩売っちゃうってこと?」

「物騒な言い方ですけど、まぁ、そうです」

「私と一緒に?」

「ポニテさんがよければ」

「えー、どうしよっかなー」

 嘘、悩むの? さっきの照れはなんだったのかと問い詰めたい。ここは「イエス」的な返事を出す場面ではないのだろうか。

「なんつー顔してんの。真悟くん面白い」

 ケタケタと楽しそうに笑っているポニテさんだが、僕の心中は穏やかではない。

「そ……」

 喉がカラカラで声が出ない。僕はストローを使わずにグラスを鷲掴みにしてアイスコーヒーを一口飲んだ。口の中がアイスコーヒーの苦味で一杯になる。自分の予想していたよりも多く飲み込んだせいで、咳き込んでしまった。

「だ、大丈夫?」

「はい、大丈夫です」

 ちょっとしたアクシデントではあったけれど、口の中は潤いを取り戻した。

「それで、どっちですか?」

「良いに決まってんじゃん」

 僕は浅く目を閉じ、顔を両手で覆った。深いとても深い溜息を吐いた。生きた心地がしなかった。

「脅かさないでくださいよ」

 指と指の隙間からポニテさんを見つめる。

「私に恥ずかしい思いをさせたお返しだ」

「あれはポニテさんが勝手に勘違いをしただけじゃないですか」

「勘違いさせた真悟くんが悪いの」

 ポニテさんはこれまで見せたことのないような笑顔を僕に見せた。これは脈があると思っていいよねと、第三者に問いたかった。さっきからまたこちらを覗き見ている虎猫さんが見え隠れしているけれど、もう邪魔をされるのは御免だ。

 あの鈍感だったポニテさんがようやく気付いてくれた。このリンクした状態を吊り橋と見立ての相乗効果みたいな気もするけれど、終わり良ければそれでいい。

「でもさ。えー、こういうのを真正面から言うのは照れくさいからはっきり言えないんだけど。その、友達より先っていうのはちょっと待ってくれない?」

「大丈夫です。待ちますよ」

 これまで随分と待ったんだ。大きく進展したいまなら余裕を持って待てる。

「私たちのどちらかが、生き残れないかもしれないじゃん。だから……まずはここのリンクを解いて、生き残っていたら。次に進もうよ」

 そう、僕らは理不尽に死ぬし、殺される。そこを忘れてはいけない。

「こんなことを言うと、死亡フラグみたいだね」

「現実でフラグなんか立ちませんよ」

「そりゃそーだ」

 なにが面白いわけでもないのに、僕とポニテさんは小さく笑いあった。

 もう何が起きても恐れない自信が出てきた。あとは、僕らがここから生き残り、リンクしたこの世界を救うだけだ。

 頃合いを見計らったのか、オレンジジュースが注がれたグラスを持った虎猫さんが戻ってきた。

「いやー、何を飲むのか悩んじゃった。ははは」

 僕とポニテさんは「そうなんだー」と適当に相槌をした。嘘だとバレバレではあるけれど、責めることが出来ないのは、彼女が席を外してくれたおかげで、僕と虎猫さんの関係が変わることになったのだ。

 他愛もない会話を繰り広げていくうちに、厨房からハンプティさんが料理を運んできてくれた。

 食卓には注文通りの品々が並ぶ。どの料理も十五分の短時間で出来上がるような料理ではなかった。僕が注文したハヤシライスとハンバーグがそうだ。ポニテさんはチキンとキノコのクリームパスタで、クリームはほうれん草がベースだ。虎猫さんにはベリー系の果実がふんだんに使われたヨーグルトだ。

 調理をした─実際に調理をしたのは妖精のラビットだけれど─ハンプティさんの前にあるのは親子丼だった。

「やばい、どれもめちゃめちゃ美味しそう」

 虎猫さんが並べられた料理を前にして気持ちが高揚している。

「遠慮無く食べてくれっていいたいところなんだけど……」

「なによ? 味に問題があるとか言わないでしょうね?」

「味は保証する。すっげー美味い。ただ、これを食う本当の目的って腹を満たすだけじゃなくて、今後の戦いに向けてだったよな」

「なにか問題でも?」

「問題というか、料理の効果なんだけど」

 ハンプティさんは言いにくそうに後頭部をガシガシと掻いた。

「味見してようやくわかったけれど、どの料理もバフの継続時間ってのがある。理由はまだわからないけど、その時間が料理によってまちまちなんだ」

 ハンプティさんの話を要約すると、料理の量と消化の速さによって継続時間が異なるらしい。最長なのは四時間。僕が注文したハヤシライスとハンバーグだ。最短は虎猫さんのフルーツヨーグルトの一時間半。また料理に使った食材によってバフの効果内容も異なるという。それでも、当初の目的だった闘気上昇はみんな得られるようなので、ひとまずはこれでいいと判断した。

 料理によるバフ効果は完食し終えてから始まるようなので、虎猫さんはゆっくりと味わいながらヨーグルトを口に運んだ。

 ポニテさんは普段から食べるのが遅いみたいで、時間がかかっていた。箸が早い男性陣はというと、もちろん味わっていたけれど皿が空になるのは早かった。

味が絶品すぎたのだ。僕が食べたハヤシライスはデミグラスソースの旨味と香りが絶妙だった。具材の牛肉は一口入れただけでとろけてしまうほど柔らかかった。そして艶やかな白米はほのかな甘味があって幸せが広がった。当然、ハヤシライスを掬うスプーンが止まらなかった。ハンバーグは余計かなと思ったが、しかしこれも美味しかった。牛と豚の合いびき肉から溢れ出る肉汁。程よい肉の弾力が体を熱くさせる。僕は喋ることも忘れてハンバーグとハヤシライスの往復に勤しんでしまったのだ。この数時間、戦闘の連続だったし、腹もいい感じに空いていたのも相まってすぐに食べ終わってしまった。

 幸せの溜息をつくと、他の三人が「がっつぎすぎ」と笑いあった。

 僕は恥ずかしさを紛らわすため、アイスコーヒーを一口、二口と飲んで気分を落ち着かせた。

「女性二人は食べながら聞いてほしい」

 気を取り直し、三人を見据えながら話しだした。

「ここへ来る途中でも話したけれど、棺をすべて壊さなければ、ガルズディアを倒すことは不可能だ。でも、番人を倒すことで攻略の糸口は見つかる」

「絶対的な人手不足ではあるけれどね」

 ポニテさんがフォークを皿の上に置く。

「致命傷となる場所を攻撃するって言ってもさ、本当に攻撃が通るのかも怪しい気はする」

「番人を倒してからの弱体化が最優先ですから。ガルズディアとの戦闘はひとまず脇に置きましょう」

「でもさ、肝心の棺にまだ到着できてないんだけど、そこはどうする?」

 虎猫さんはヨーグルトに視線を落としたまま話しだす。

「きっと小学校の周りにはトラップ型のレリックだらけだって。注意するにしても、また転送されちゃったら時間の無駄じゃない?」

 ヨーグルトを口に含み、匙の部分を天に向けてかき回した。

「トラップはもう考えないことにします」

「どういうこと?」

 虎猫さんだけでなく、ポニテさん、ハンプティさんも食い気味にこちらを見た。

「トラップに引っかからなければいいんですよ」

「真悟くん、それはいくらなんでも無謀というか無茶というか無理だよ。無しの字の三段活用だよ」

 上手いことを言ったつもりらしいが、ハンプティさんと虎猫さんにはピンとこなかったらしく反応が乏しい。

 ポニテさんも気付いたらしく、小さな咳払いをした。

「どう実行するかにもよるよ? 真悟くんはどう考えているの?」

「ゲーム内だと平面移動が基本です。例外的に家や建物にも乗り移ることは出来ましたが、範囲は決まっていました。ただし、このリンクした世界で移動箇所の制約がなかったらどうでしょう? 立体的な移動が可能だとしたら?」

「えーっとつまりどういうこと? 言いたいことはわかるんだけど、頭が追いつかないつーか」

 ハンプティさんが腕を組んで首を傾げる。

「建物から建物への上下移動が可能かということです。今のところ、平面上でしかトラップ型に引っかかっていない。でも、空中移動をすればトラップに引っかからないのでは?」

「わかった! 屋上から飛んで行くってことか!」

 ポニテさんが手をぱちんと叩いて、僕を指差した。

「ええ。どの建物から屋上移動するかはまだ決めていませんが、小学校の円周上にトラップがあるとしたら、東急ハンズの辺りから怪しいでしょうね」

「そんなにうまくいくかなー」

 虎猫さんが難色を示す。同意しかねる理由も見当が付いている。

「それは屋上にもトラップがあったら、ということですか?」

「うん、それそれ。よくわかったね」

「一応、最悪の場合も考えていますから」

 ノヴァさんとの会話がここで生きてきた。一つの希望に託すのではなく、常に数ある最悪を念頭に置くことなのだ。そうすれば道は広がり対処ができる。

「トラップを警戒と発見が最優先です。屋上を移動すると言っても結局は地に足をつくから、結局は面です。トラップの発見は僕らの妖精を総動員してもらいます」

「万が一、トラップに引っかかったら?」

「その時は、闘気の残量など気にせず、各々がもつ最大火力のスキルを使って殲滅です」

「過激な発言だね。そういう無鉄砲さ、好きだよ」

 ポニテさんがにやりと笑う。

「転送トラップが時限装置の場合、殲滅時間は十分程度。これは前の交差点での戦いから出した時間です。黒箱の破壊はしません」

 同意を求めると、みんな小さく頷いた。

「四人全員で攻撃に回るので、ハンプティさんと虎猫さんにも無理はしてもらいます。いいですか?」

「ああ、徹底的にやるよ」

「無理でもやるさ。てか、ここで無理しなきゃどこですんのって感じだもん」

 四人の意思は固まった。無謀かもしれないけれど、それでも気持ちというのは大切だ。

 それからと、僕はハンプティさんに視線を移した。万が一のためにも、彼には戦闘以外で活躍してもらう必要があるの。

 ハンプティさんにしか出来ない大きな役割だ。

最後まで読んでいただきありがとうございます。


ハンプティがなにげに面白いキャラになっているのが、

作者でも意外な展開でした。


明日も投稿します。


よろしくお願いします。

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