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異世界化した現実世界を救済します  作者: アサクラ サトシ
第一章 『終末の咆哮』
19/143

015 『意外性(エレメント・オブ・サプライズ)』

015です。


予約投稿になります。

 ファミリーレストランを目指す途中で、兎種の下級レリックモンスターに襲われたがラクラに可愛いもので、倒すのは容易かった。

 道玄坂の車道は上限線ともに玉突き事故を起こした車で列をなしていた。もう見慣れた光景になりつつある。

 渋谷109を脇に見ながら僕らは坂を登り始める。目的としているファミリーレストランは一階にコンビニエンスストアと大手ハンバーガーチェーン店があって、その二階で営業をしている。

 僕としては店名にもされているハンバーガーを食べたいところだけれど、作ってくれ店員はいない。店頭には各種ハンバーガーの写真。もちろん多く取り上げられているのは例のハンバーガーだ。この店特有のソースとトマト、そして食べ応えのあるパティ。見ているだけで美味しいと思わせてくれる。

「シンくん、ハンバーガーのほうが良かったりすんの?」

 思わず立ち止まって見ていた僕にハンプティさんが声をかけてきた。食い意地が張っているように思われたようで気恥ずかしかった。

「安心してくれ。ハンバーガーよりも美味いもの用意するからさ」

 ハンプティさんは運転自慢をした時みたいに自信満々に言った。

「作るのは妖精ですから。それに、まだ誰の妖精が作るか決めてないし」

「だから、そういうことは俺に任せればいいんだって。リーダーはさ、どーんと構えてくれればいいっつーの」

「あんたはどうして何でもかんでも自信満々に言えるの? 見ているこっちが恥ずかしいんだけど?」

 そう茶々を入れたのは虎猫さんだ。当然、ハンプティさんは反論するけれども、どこか楽しそうに見える。区役所前の交差点でも思ったけれど、この二人の相性は良いのかもしれない。

「そんなこと言ってと、お前に飯用意してやんねーからな」

「いいよ、別にー。うちのシャムが美味しいの作ってくれるから。ねぇー、シャム」

 売り言葉に買い言葉を続けていた虎猫さんは、スマートフォンを手にしてディスプレイの中に引っ込んでいたシャムを呼び出した。

「私、料理レシピとか貰ったこと無いよ?」

 シャムがとても残念そうに言う。

「あれ? そうだっけ? でもでも、スマホからレシピ引っ張ってくれば作れるでしょう?」

「作れるけど、料理を作るという経験が不足しているの、忠実に見た目と味を再現できるなんて自信ないよー」

「大丈夫!」

 なにが大丈夫なのだろう。

「虎ちゃん、そんなこと言われても無理だってば」

「だから大丈夫! 経験が足りないなら、フェミレスで練習すればいいの!」

 虎猫さん、意地なっているように見える。

「どうせ、ハンプティの妖精だってろうなレシピ持ってないって。口先だけでホントはなーんにも出来ないに決まってるって」

「ラビット。お前が持っているレシピ数を教えてやれ」

 ハンプティさんは自信に満ちた声で自前の妖精、ラビットを呼び出した。持ち主とは対照的にラビットは初めて出てきた時と同じようにおどおどしている。

「はい。私がハンプティさまから授かったレシピ数は五十二種です」

 レシピ数を聞いた瞬間、ハンプティさんを除いた三人が驚愕した。

「五十二種といったら、料理レシピ全種ですよね? あのレアレリックを全部みつけたんですか?」

「俺は車も好きだけど、もっと好きなのは料理なんだ。こう見えて、毎日手作り弁当なんだぜ」

 人は見かけによらないというけれど、ハンプティさんがいい例だ。いまどき弁当を作る男性も多い。まぁ、冷凍食品のおかずやレトルトといった出来合い物を詰め込むだけだろう。

「お? その目は疑ってるな? いいぜー、俺のお手製弁当と夕食の写真を見せてやる。ラビット、写真ファイルから幾つか俺の作った写真をピックアップしてみんなに見せてくれ」

「かしこまりました」

 僕らは必死になって写真の閲覧を拒否したが、これまた受け入れられず強制的に見せられた。

 次々に現れる料理写真の数々。色鮮やかなお弁当のおかずたち。しかも、弁当箱は一種類ではなく、入れるおかずによって弁当を使い分けている。スープ用のランチボックスにはシチューまであった。夕食の料理写真は一汁二菜が主立っていた。おかずは焼き物、煮物、揚げ物とバリエーションも豊かで、野菜も充実している。

 ノヴァさんに自炊をしているといったが、ハンプティさんにはとてもじゃないが足元にも及ばない。

「昔、料理学校とか通っていたんですか? それとも本職の料理人とか?」

「いんや。趣味。本業はスタジオアーティストだし。俺、ベーシストなんだ」

「え!」

 僕らは同時に声を上げて驚いた。

「いやいや、スタジオアーティストだし、ちょろっとだけベースが得意なだけなんだってば。バンドもとっくの昔に解散したしさ」

 いやいやと言いたいのは僕らのほうだ。そんな身の上のことじゃなくて、僕らが驚いたのはベーシストがどうこうじゃなくて、これだけの料理を趣味で作っているハンプティさんに驚いているのだ。

「虎猫。俺のラビットと勝負するか? シンくんの話だと妖精の腕前は俺たち適正者の遺伝子が物を言うみたいだぜ?」

 虎猫さんは目の前に広がる料理写真を眺めながら、首を横に振る。

「いい。そんなのどうでもよくなった。てか、嫌になった」

「私もこんなん見せつけられたら、なにも言えないよ。ありえないって、マジで……」

 女子二人が予想以上のダメージを受けている。ノヴァさんの言っていたことが的中した。確かに料理が上手すぎてもダメなのだ。

 いまどき料理ができる男は多いけれど、ハンプティさんの料理は行きすぎだ。こんなクオリティの高い料理を趣味と言われたら立つ瀬がない。

 僕は今後間違っても自炊していますなんて得意気に言わないことを誓った。

「そうだろそうだろ。なぁ? 飯に関しちゃ俺に任せてくれ! なぁ!」

 同意を求められ「はい、お願いします」と僕らはふたつ返事で応えた。

 意外すぎるけれど、メモリレリックの料理レシピを全て手に入れているし、本人の料理が得意ともあれば、出てくる料理がなんであれ、得られる闘気やステ値の上昇は期待していいだろう。

 階段を使って二階へと上がり、ファミリーレストランの中へと入ることにした。

 昼間にファミリーレストランに入るのはいつぶりだろうか。大学の講義がある日はだいたい学食で済ましている。大学の近くには学生の懐に優しい定食屋もあるのだけれど滅多に利用しない。大学の友人たちに誘われることはあるけれど、大人数で食事をすることが苦手なのだ。

 ゲームではようやく人とのコミュニケーションを取ることは出来ても、現実ではまだ難しいのが現状だった。過去形にしたのはその現実もいまとなってはこの有様だ。もう勉学に勤しむ時間すら持てなくなるだろう。

 店内は思っていたよりも荒れた様子はなかった。レリックモンスターに襲われたような痕跡もない。凶悪なレリックモンスターに襲われるよりも先にラズリラブルの影響でここにいた人は棺の中に収容されたのだと思う。

 怖い思いをしないだけ、ここにいた人達は良かったかもしれないな。

 ちょうどお昼時にリンクしたのでほとんどの席が埋まっている。仕方ないので、四人席に残された皿などを他所に移してから、ソファーに腰を下ろした。

「ここにある食材にもよるけど、食べたいものがあるなら言ってくれ。レシピを探して作るからさ」

 僕らは思い思いの注文をハンプティさんに出した。

「ハヤシライスにハンバーグを」と僕。

「真悟くんって細いのに意外と食べるんだね。男の子だねー。私はクリーム系のパスタなら何でも。具材もお任せする」とポニテさん。

「あたしはどうしよう。なんかお腹に優しいのがいいな。ヨーグルトを使った料理ならなんでもいいや」と最後に虎猫さんが注文を出した。

「あいよ。どれくらい時間がかかるかわからないけど、待っててくれ」

 そういって、ハンプティさんは厨房へと向かった。

「ここってドリンクバーあるよね? 何飲みたい?」

 虎猫さんが席を立って、促した。

「それなら僕が行きますよ」

「いいって。ハンプティの受け入りだけど、リーダーはドーンと構えてればいいの。さぁ、なに飲みたい?」

「はぁ……じゃあ、アイスコーヒーを」

「私は烏龍茶でお願い」

「はーい、かしこまりー。行ってくるねー」

 くるりと背中を見せた虎猫さんだが、数歩進んで所で僕のほうに近寄ってきた。

「戻るのちょーーっとだけ遅れるから。二人きりでお話しちゃいなよ? 二人きりで、ね?」

 耳元がこそばゆくなるくらい近い距離で囁かれた。

「ちょっ! 虎猫さん」

「ははー。んじゃねー」

 手をヒラヒラさせながら、虎猫さんもテーブルから離れていった。

「なになに? また内緒のお話?」

 僕の真向かいに座っているポニテさんが上半身をテーブルに乗せながら近寄った。

「内緒なんて、ありませんよ?」

「本当にー?」

「本当です。信じて下さい」

「いいよ。それで。もう気にしてないし」

 唇を尖らせているところを見ると、気にしているのがもろわかりだ。どういうわけか、僕と虎猫さんの内緒話が胸の話だと決めつけているらしい。ポニテさんは確かに慎ましく、日本人女性らしい胸を持っているけれど、気にする程でもないと言いたかった。

 そんなことを言おうものならまたへそを曲げるのが目に見えるので黙っておこう。

 こうして二人きりになると、なにから話していいのか迷ってしまう。面白い話題とか、話の振り方を知っていれば場を盛り上げることができるのだけれど。僕には現実社会で必要なスキルを体得していない。

 共通の話題といっても、『Relic』か他のゲームくらいしか思いつかない。ポニテさんもアニメや漫画を嗜むと言っていたから、そこを切り口に……って、ここでオタク的な話題はありなのか。

 うんうんと悩んでいるとポニテさんが「ねぇ?」と呟いた。

「真悟くんはさ。このリンクした世界を元に戻したら、どうなると思う?」

「混乱、ですかね」

「うん、混乱がまず起こる。てか、もうリンクの外は大混乱だけど。まぁ、元に戻ったとしてもきっとリンクした地域は絶対に残っている」

「きっとあるでしょうね」

「そう残ってる。じゃあ。そのリンクした地域を救うのは誰? 攻略した私たちに白羽の矢がささるんじゃないのかな。真悟くんは代々木公園で行きたい人が行けばいいって言ったけれど、私たちの意志なんて無視されて強制的に向かわされるんだよ。適正者になれない弱い立場の人達から」

 考えていなかったことじゃない。世界規模でゲームの世界が現実世界を侵食している。世界各国の偉い人達は打開策を練るはずだ。しかし、この世界にある兵器はレリックに通用しない。

「私らは、国々を代表する兵士……いや、兵器か。都合よく使われて捨てられるんじゃないのかな」

「ポニテさん」

「適応者も、黒の創造主のレリックモンスターも怖い。でも、本当に怖いのは、自己都合の為に私たちを利用する人達だよ。そんな人たちに比べたら、私たちの為に適応者を殺すと買ってでた真悟くんは怖くないよ」

 ポニテさんの真っ直ぐな視線が僕に向けられる。信頼と信用がその目には込められていた。

「そこは、怖がってくださいよ」

「いいじゃん。私はそれでいいんだから。でも、このクエストを終わらせても、現実世界だけに生きる人達は私たちを逃してくれない。そう思うんだ」

「世界が相手じゃ無理でしょうね」

「……うん」

「一人で逃げないで、二人で逃げませんか?」

「二人って? 誰と誰が?」

「僕とポニテさんで」

「え? えっと……え?」

 動揺している。ポニテさんがこれまで見せたこと無い表情で動揺している。そして、言った当人の僕も口から心臓が飛び出そうなくらい動揺している。

 勢いに任せて言ってしまった。

 どうする? いや、どうなる?

最後まで読んでいただきありがとうございます。


明日、10/1も投稿します。


よろしくお願いいたします。


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