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本家のお姉様、地方の聖域でシステムエラーを起こす

「――おい、これは一体どういうことだ! 18区の分際で、本家であるこの私を通さないとは何事か!」


一ノ宮クランの『国家指定聖域バリア』の前に、一台の超高級リムジンが急停車した。


 車から降りてきたのは、4区の一ノ宮本家を統括するエリート女性、一ノ宮レイ(いちのみや れい)だった。


彼女は、全国に男性保護クランを展開する巨大ブランド『一ノ宮グループ』の本家幹部。


地方の、しかも治安最悪な18区の弱小出先機関が、勝手にネット動画で1,000万円も稼いだという噂を聞きつけ、「本家の名前を使って小銭稼ぎを組織に無断でするとは不届き千万。そのひじりを回収し、売上を本家に上納させろ」と、鼻息荒くマウントを取りにきたのだ。


しかし、クランの敷地に入ろうとしたレイの前に、ガシャイン! と重々しい金属音が立ちはだかる。


「――止まれ。これより先は国家最高機密に基づく【不可侵聖域】。本庁の特別許可証なき者の立ち入りは、何人たりとも許されん」


そこにいたのは、本庁直属の防護服に身を包んだ精鋭兵たちと、その先頭で漆黒の魔剣を地面に突き立てて睨みを効かせる、17区最強の女騎士・ジークリンデだった。


「な……ジークリンデ!? なぜ17区の女傑がこんな地方のクランの門番をしているの!? それに聖域指定って……ただの引きこもり男子の部屋でしょう! どきなさい、私は一ノ宮の本家よ!」

「本家だろうが総理大臣だろうが関係ない。ひじり様の平穏を乱す者は、私がここで叩き斬る」


ジークリンデの目は完全に据わっていた。昨日、ひじりから貰った『赤い聖餐(激辛キムチ)』の旨味と刺激で魂をデトックスされた彼女は、今や「ひじり様親衛隊長」として命を捨てる覚悟だった。


そこへ、クランの中からバケツを持ったひじりが、おずおずと顔を出した。


「あの……何か表が騒がしいんですけど……。あ、一ノ宮レイさんですか? 初めまして、18区でお世話になってるひじりです」


ひじりは(うわ、今度は『本社のエリアマネージャー(レイ)』が直々に怒鳴り込みにきた!? 1,000万の臨時収入を本部に黙ってたから、業務上横領とかで訴えられるやつだこれ!!)と、前世のフランチャイズ店長時代のトラウマで完全に縮み上がっていた。


ここで睨まれたら、クランから即刻クビ(契約解除)にされて、18区の路上に放り出される。生き残るためには、徹底的なマニュアル対応(平謝り)しかない!


「レイさん、本当にすみません! 本社への売上報告(動画収益)が遅れたのは、完全にこちらの管理不足です! でも、あの1,000万はクランの狂信者……あ、いや、職員の皆さんが勝手にやったことで、僕に横領の意図は全くなくて! 今ここで全額、本社の指定口座に『返金』しますから、どうかクビだけは勘弁してください……!」


ひじりは、涙目で端末を操作し、一秒でも早く「本社の怒り」を鎮めようとペコペコと頭を下げた。


――だが、その「返金(送金)」ボタンを押した瞬間。

 レイの持つ本家管理用の端末が、けたたましい警告音アラートを鳴り響かせた。


『――警告:国家特例・完全非課税対象および国家安全保障資金(ひじり口座)からの逆送金を検知。これは【国家中枢への宣戦布告および汚職ロンダリング】とみなされます。直ちに処理を中断してください』


「な……ッ!!???」

 レイは端末の画面を見て、目玉が飛び出そうになった。


ひじりの口座は、昨夜カレン監査官が総長に泣きついた結果、すでに国家最高ランクの「触ったら一発で国家特捜部マルサのボスが飛んでくるブラックボックス」に指定されている。


 そこに「一ノ宮本家への返金」という形で大金が流れ込もうとしたため、システム側が『一ノ宮本家が、国家指定の聖母を脅迫して、国家資金を巻き上げようとしている(恐喝)』と判断したのだ。


直後、レイの端末に、本庁特別監査室・冷泉カレンからの直通映像が割り込んできた。画面の中のカレンは、般若のような恐ろしい形相でレイを睨みつけている。


『一ノ宮レイ!! 貴様、本家の権力をカサに、ひじり様に『貢ぎ物の返金』を要求して脅迫したな!? ひじり様は、一晩の激務(動画配信)で稼いだ尊い1,000万を、我らへの配慮から『本社に返上する』とあんなに健気に頭を下げていらっしゃるというのに……貴様という奴は、どこまで強欲なのだ!!』


「ち、違うのよカレン! 私はただ、地方のクランの規律を――」


『問答無用! 一ノ宮本家に対し、聖母様への恐喝未遂および国家重要文化聖域への不法侵入の容疑で、明日、本庁の全力のガサ入れを行う! 首を洗って待っていろ!』


プチッ、と通信が切れる。


 レイは、スマホを持ったまま、真っ白に燃え尽きたようにその場に崩れ落ちた。マウントを取りに来たはずの本家が、明日、国家権力によって物理的に潰されることが確定した瞬間だった。


「へ……? ガサ入れ……?」


 ひじりは、バケツを抱えたまま、完全にポカンとしていた。


(何が起きたんだ……? 本社の大物マネージャーに謝ったら、なぜか本社の法務部(本庁)がブチ切れて、明日そのマネージャーの部署が取り潰されることになったぞ……? 俺、ただマニュアル通りに謝罪しただけなんだけど……)


「流石はひじり様……。一歩も動かず、ただ一言の『謝罪(という名の宣戦布告)』だけで、傲慢な本家を合法的に破滅に追い込むとは。やはり貴方は、全女性を支配する闇のフィクサーですな」

 後ろでジークリンデが、うっとりとした目で深く感服していた。


「だから違うんだってぇええええええ!! 俺はただクビになりたくなくて平謝りしただけなのに、なんで本社が崩壊してんだよぉおおおおお!!」

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