試される命
必要とされることは、
守られることではない。
価値が生まれた瞬間から、
それを巡る欲と恐怖が生まれる。
世界だけではない。
人もまた、
異物を観測し始める。
これは、
死なない者が
初めて“狙われる側”になる話だ。
隊列が、微妙に変わった。
誰も口には出さない。
だが、俺の周囲には自然と人が集まり、
前にも後ろにも、誰かがいる。
――守っているつもりなのだろう。
それが、余計に息苦しい。
「少し、間隔を空けてくれ」
そう言うと、数人が気まずそうに視線を逸らした。
英雄だけが、何も言わず頷く。
「……囲われるのは、慣れてないだろ」
「ああ」
正直に答えた。
次の区画に入った瞬間、
空気が変わった。
敵はいない。
罠も見えない。
だが――
“何か”が、いる。
「止まれ」
俺が言うより早く、
背後から声がした。
振り返る。
仲間の一人。
これまで何度も死に戻り、
力を得てきた男だった。
「ここで一つ、確認したい」
彼の視線は、俺に刺さっている。
「お前が死んだら、
俺たちはどうなる?」
場が凍りつく。
「……何を言ってる」
英雄が低く唸る。
男は肩をすくめた。
「興味本位だよ。
だってさ、観測者は言ってた。
“誘導者の喪失は修正対象”って」
一歩、近づいてくる。
「もし修正が入ったら?
このダンジョンが変わるかもしれない。
死に戻りが、もっと効率良くなるかもしれない」
――理解した。
こいつは、
俺を“実験”に使おうとしている。
心臓が、嫌な音を立てる。
「やめろ」
英雄が前に出る。
だが、男は笑った。
「安心しろよ。
一瞬で終わらせる」
剣が、こちらを向く。
その瞬間。
【介入】
空間が、歪んだ。
観測者。
今までで一番、近い距離。
【警告】
【想定外の干渉を検知】
男の動きが、止まる。
「……な、何だよこれ」
【誘導者は、検証中の資源】
“資源”。
その言葉に、背筋が冷えた。
【故意の損壊行為を確認】
【修正を実行】
光が、男を包む。
悲鳴はなかった。
次の瞬間、
彼の姿は――戻らなかった。
死に戻りも、ない。
完全な消失。
誰も、声を出せない。
観測者は、最後に俺を見る。
【生存を維持せよ】
【それが最適解だ】
消える。
静寂。
英雄が、震える息を吐いた。
「……なあ」
俺を見る。
「お前、気づいてるか」
「何に」
「もうこれ、
お前が死ねないんじゃない」
英雄は、はっきり言った。
「俺たちが、お前を死なせられない」
俺は、何も言えなかった。
生きたいだけだった。
死にたくなかっただけだった。
それなのに――
いつの間にか、
世界と人間の両方に、
命を管理され始めていた。
死なないことは、
自由ではなかった。
価値になった瞬間、
それは管理される。
彼は守られた。
だが同時に、
選択肢を失い始めている。
死ねない異物は、
今や――
壊せない装置だ。
世界は彼を修正せず、
人は彼を試す。
その狭間で、
彼自身の意思は、
まだどこにあるのか。
答えは、出ていない。
だが一つだけ、確かなことがある。
次に試されるのは、
彼の命ではない。
彼の
心だ。




