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死んだ回数だけ強くなる世界で、俺は一度も死ねない  作者: もぺこ


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6/12

死なない者を記録するもの

世界は、

すべてを許しているわけではない。


死ねば戻れる。

強くなれる。

やり直せる。


だがそれは、

「そうなるように作られている」からだ。


想定された死。

想定された成長。

想定された英雄。


その枠から外れた存在は、

祝福されない。


ただ――

記録される。

広間を抜けた先は、拍子抜けするほど静かだった。


敵はいない。

罠もない。

あるのは、壁一面に刻まれた無数の文字だけだった。


「……墓標、か?」


誰かが呟く。


近づいてみると、それは名前だった。

人名。称号。

そして、その下に並ぶ数字。


「死んだ回数、だな」


英雄が低く言う。

三桁、四桁……中には、常軌を逸した数もある。


俺は、嫌な予感を覚えながら、さらに奥へ進んだ。


一番奥の壁。

そこだけ、文字の刻み方が違っていた。


名前が、無い。


代わりに刻まれていたのは――


【到達者:一名】

【死亡回数:零】


空気が、完全に止まった。


「……俺以外にも、いたのか」


無意識に、声が漏れる。


英雄が振り返る。

その顔は、驚きよりも、困惑に近かった。


「お前が、初めてじゃない……?」


壁の下部には、さらに小さな文字が続いていた。


【警告】

【死なない個体は、世界の設計外である】

【観測次第、修正対象とする】


修正。


その言葉が、やけに重く胸に落ちた。


「なぁ……これ、どういう意味だ?」


仲間の一人が、笑い混じりに言う。

だが、誰も答えられなかった。


その瞬間、広間の奥で、微かな振動が走った。


――ギィ……。


何かが、動いている。


英雄が剣を構える。

だが、俺は本能的に悟っていた。


これは敵じゃない。

少なくとも、これまでの“敵”とは違う。


「来るぞ……」


壁の一部が開き、

人型の“何か”が姿を現した。


顔は仮面のように無機質。

身体は、光と影の境界で揺れている。


武器を持っていない。

だが、圧倒的な“視線”だけが、こちらを貫いていた。


それは、真っ先に――


俺を見た。


【確認】

【死亡履歴:零】

【想定外個体、検出】


頭の中に、直接声が響く。


仲間たちは動けない。

英雄でさえ、歯を食いしばって立つのが精一杯だった。


【質問】

【なぜ、死なない】


答えなんて、持っていない。


俺は、ただ――


「死にたくないだけだ」


そう、言った。


一瞬。

その存在が、沈黙した。


【……記録完了】

【観測を継続する】


次の瞬間、姿は霧のように消えた。


広間に、音が戻る。


誰かが、息を吸う音。

誰かが、震える手を下ろす音。


英雄が、ゆっくりと俺を見る。


「……お前」


言葉を選びながら、続けた。


「世界に、目を付けられたな」


俺は、乾いた笑いを浮かべた。


死ねないだけで、異物。

死なないだけで、修正対象。


だが――


ここまで来て、引き返す理由はない。


壁の奥には、まだ続きがある。

この世界の仕組みも、

“死んで強くなる”理由も。


そして、

なぜ俺たちが、この場所に呼ばれたのかも。


俺は一歩、前に出た。


背後で、英雄が言う。


「……最後まで付き合うぞ、異物」


霧の向こうで、

“世界”が、再びこちらを見ている気がした。


彼は戦わなかった。

叫びもしなかった。

死にもしなかった。


それでも、

世界は彼を見逃さなかった。


死なないという事実は、

抵抗でも、選択でもない。


ただの結果だ。


だが結果は、

時に意志よりも重い。


観測者は去った。

修正は、まだ行われていない。


――まだ。


この世界は、

異物をすぐには排除しない。


まず、

どんな“影響”を与えるかを見る。


彼が生きている限り、

記録は続く。


そして次に起きることは、

彼自身にも、

まだ分からない。


だからこそ、

物語は終わらない。


彼が、

一度も死なない限り。

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