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死んだ回数だけ強くなる世界で、俺は一度も死ねない  作者: もぺこ


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5/12

死ねない者の価値

死ぬことは、成長だ。

そう信じられている世界では、

生き延びることに意味はない。


何度死んだかが語られ、

何度生き残ったかは、数えられない。


だが、

もし「死なないこと」を前提にしない場所があったなら。


そこでは、

勇気よりも慎重さが、

力よりも観察が、

死よりも生が、試される。

遺跡の最深部へ向かう通路は、これまでと明らかに違っていた。

壁に刻まれた紋様が、淡く脈打つように光っている。


「ここから先は……“試練”だ」


英雄が低く言った。

その声には、これまでにない慎重さが混じっている。


「何度死んでも突破できなかった場所だ。

 死に戻りで力を積み上げても、な」


仲間たちがざわつく。

“死んでもダメだった”――それは、この世界では異常事態だ。


通路の先に広がっていたのは、円形の広間。

床には無数の溝、天井には重そうな石柱。

一歩踏み出した瞬間、空気が凍りついた。


――来る。


直感が叫ぶ。


次の瞬間、床が沈み、壁が動き出した。

刃、落石、圧殺。

回避不能に見える罠が、同時に襲いかかる。


仲間たちは迷わず突っ込んだ。


光が弾ける。

叫びもなく、次々と消えていく。


「クソッ……!」


英雄ですら、初動が遅れた。

彼の身体が切り裂かれ、光へと変わる。


――全滅。


……いや。


俺だけが、生きていた。


壁際に張り付き、沈む床の“止まる瞬間”を見逃さなかった。

落石の影。刃の周期。

死なないために、全部を見ていた。


広間が静まる。


数秒後、仲間たちが再出現する。

英雄も、少し強くなった姿で立っていた。


だが――


「……何が起きた?」


英雄が、俺を見る。


俺はゆっくりと息を吐き、口を開いた。


「この部屋、死んだら進めない」


全員が固まった。


「罠は、侵入者が“死ぬ前提”で組まれてる。

 死ぬことで強くなっても、

 この広間自体は、攻略されない」


沈黙。


俺は床の溝を指差す。


「ここ、動きが一定だ。

 死なないで観察しないと、分からない」


英雄の目が、初めてはっきりと変わった。


冷たい光ではない。

戦士の目でもない。


――理解者の目だった。


「……つまり」


彼は静かに言う。


「ここを越えるには、

 お前が必要だ」


胸が、強く鳴った。


この世界で初めて。

死なないことが、

“弱さ”ではなく“価値”になった瞬間だった。


俺は一歩、前に出る。


「俺が先に行く。

 誰も死なせないルートを作る」


仲間たちは言葉を失い、英雄は短く笑った。


「死に慣れた俺たちが、

 死ねない奴の背中を見る日が来るとはな」


罠だらけの広間の先に、まだ見ぬ世界が待っている。


死んで強くなる者たち。

死なずに道を切り開く俺。


――この世界の“前提”が、

今、静かに崩れ始めていた。


その部屋は、

死ねば進めなかった。


何度死んでも、

何度強くなっても、

死んだ瞬間に、答えから遠ざかる。


死なない者だけが、

立ち止まり、見て、考えることを許された。


この世界において、

それは異常で、

危険で、

そして――必要な存在だった。


英雄たちは剣を振るう。

彼は、床の動きを見る。


どちらが正しいかは、

まだ分からない。


ただ一つ確かなのは、

この瞬間から、

「死なない者」は足手まといではなくなった。


世界がそれを認めるかどうかは、

別の話だが。


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