死ねない異物
これは、死ななければ何も得られない世界の物語。
死ねば力を得る。死なずに生きれば、何もない。
そんな世界で、ただ一人——死ねない者がいた。
生き延びることしかできない少年の視点で、世界の残酷さと常識の裏側を見つめる。
さあ、彼の一歩を追ってほしい。
右隣の男が、急に動かなくなった。
叫び声も、苦痛も、残らない。光のように消えていく。
その瞬間、周囲の空気が一瞬だけ止まったように感じた。
「初死か、派手だな」
「次は気をつけろ」
声は軽い。まるで遊びのようだ。
死ぬことが、ここでは日常なのだ。
数秒後、男は別の場所で立っていた。姿形は変わらず、どこか以前より力強く見える。
「痛ぇ…」
小さく呟き、笑う。死んだ者だけが得る強さを、その身に宿しているのだ。
この世界では、死ぬほど強くなる。
死んだ回数が多いほど、身体も力も速さも増す。
死んで覚えることが当たり前の世界。
しかし、俺は違う。
死んだら終わりだ。再び戻ることも、強くなることもない。
背を壁に預け、剣を握らず息を殺す。
敵は骨のような姿で、鋭い動きを見せる。
他の連中は正面から突っ込み、死んでは戻り、死んでは戻る。
俺は観察する。
敵の動き、罠の位置、天井のわずかな揺れ。
死なずに進むため、すべてを記憶する。
戦闘が最高潮に達した時、天井の一部が崩れた。
巻き込まれた二人が姿を消す。光に変わり、再出現はない。
「ラッキーだな、これで防御上がるぞ」
声が響く。
俺は隙間を縫い、出口へと走った。
遺跡の外に出ると、足が震えていた。
生きていることが、恐怖とともに胸を突く。
後から出てきた仲間たちが、俺を見つめる。
「……死ななかったのか」
「一度も?」
俺はうなずくしかなかった。
沈黙のあと、誰かがぽつりと言った。
「……弱いままだな」
この世界では、死んだ回数が力だ。
死を避ける俺は、最底辺。
だが、死なずに生き延びることだけが、俺の武器。
死ねない異物として、俺は進む。
死んだ者は戻り、力を得る。
生き延びた者は、何も得られない。
そんな逆説の中で、彼は今日も前に進む。
もしかしたら、それが唯一の武器なのかもしれない——。
次の章では、死を繰り返す英雄たちとの出会いが待っている。
生き残る者と、死に慣れた者。世界は、どちらを選ぶだろうか。




