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どんな姿でも  作者: ねこまんまときみどりのことり


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8/8

ある王妃の場合

 深い森にある小さな家。


 そこで7歳の少女ティミーは、お婆さんのウララと2人で仲良く暮らしていた。


 収入源は森に自生する薬草などで作った、すごく良く効くポーション。引き取りに来るのは、人の良さそうな髭が真っ白なお爺さん商人のダムだ。


「頼まれていたやつ、出来とるよ」

「ああ、助かる。あんたのとこの薬じゃないと、もう先方が納得しなくてな。買い取り金には色を付けておいたよ」

「ほお。それは嬉しいわい。お金はいくらあっても困らないからのぉ」

「ははっ。違いねえ。いつ景気が悪くなるとも限らんしな。幼子がいるなら尚更だ。そうだ、これを嬢ちゃんに。うちの母ちゃんが作ったあんず飴だ。ウララと分けな」

「ありがとう、お爺ちゃん」

「良いんじゃ。また持ってくるよ。じゃあな」

「すまないな、ダム。気をつけて」

「ああ。またな」


 お爺ちゃん商人のダムは、ティミーの頭を撫でてから竹で編んだ篭を背負い、夕暮れの眩しい光を浴びて街へと下って行く。


 ダムはティミーが不憫だった。

 遊び盛りの少女が、娯楽が何もない山で暮らしていたからだ。

「早く、解決すると良いな。ティミーの為にも」



 日が陰り始めた山道は、まるで街と山を遮るように暗さを増していった。




◇◇◇

 ある国に、美しい国王と王妃が暮らしていた。彼らの間に生まれた一人娘の王女は、赤ん坊の時から輝く美しさであった。


 神殿に暮らす聖女は、1歳のお祝いに訪れたその赤ん坊に祝福を与えた。それは王女だけではなく、訪れた赤ん坊全員への祈る儀式の一つだった。


 年老いた聖女は、幼い時から神殿に仕えて奉仕する人生を送ってきた、戦争孤児の1人だ。もうすぐ引退し、教会の離れで世話を受けて穏やかに余生を送るはずだった。


 けれど、ふと思ってしまう。

(この王女は美しく、皆に傅かれる輝く日々を約束されている。それに比べて自分はどうだろう? 物心ついた時から神殿に預けられ下働きを行い、たまたま聖女の力が覚醒して感謝される身分となった。けれどとても虚しい。人の幸福が羨ましい、妬ましい)


 その一瞬の黒い迷いが、王女に向いてしまった。


 王妃はその邪悪な気配に気づいた刹那、王女を抱き上げ背を向けた。

 次の瞬間。

 強い光に包まれたその場所で、ほぼ全員が意識を失い倒れてしまう。

 正気を保っていられたのは、王妃と王妃に抱えられた王女だけだった。


 しかし王妃は、目を疑った。

 聖女のいた場所に、自分の姿をした者が倒れていたのだから。


 そして自分の姿を見ると、白いローブから突き出たシワだらけの手と腕が目に入った。その腕の中には、愛しい王女が微笑んでいるではないか。


「聖女様は娘の体に魔力を向けていた。もし庇わなければ、この子が犠牲になっていたはず。ここから逃げなければ」


 早急な思考により、王妃はその場を後にした。

 倒れている王妃(の姿をしている聖女)の体から、いつも身に付けていたネックレスと護身用のナイフ、お守りを手に取る。


 幸いなことに聖女(の姿をしている王妃)は、白のローブを外すと生成りのワンピースを着ていた為、王女を抱えそのまま急いで逃げ出したのだ。


 お守り袋の中には、魔石や鉱石がたくさん入れてあった。黒瑪瑙やオニキス、水晶などの守り石を複数。その中の幾つかは聖女からの干渉で割れていたが、残った物を換金して御者を雇い、馬車での移動を開始した。


 行き先は謀叛があった際などに、王族が逃走時に使う家だった。家の近くにある街まで移動し、その日は宿屋に泊まって翌日に必要な物の購入をすることにした。遠い場所まで運んでくれた御者には、深く礼をして街で別れた。


「俺も現金収入があって助かったよ、ありがとう」

「感謝致します。帰りはお気をつけて」


 こちらが訳ありと思ったのか、意外に遠くて追加金を渡そうとしたのに断られた。きっと配慮してくれたのだろう。



 幸いなことに、宿屋では赤ん坊用にパン粥を用意して貰えたので、王女はとても満足な顔をしていた。王妃も食欲はないものの、今後の為に宿屋の煮込みをたいらげる。モツ煮込みは栄養満点で、美味しかった。


「おかみさん、ありがとうございます。とても美味しいですわ」

「そりゃあ、良かった。あんた疲れが顔に出てるから、今日は早くやすみなよ。このご時世だから、無理するなとも言えないけどさ」


「はい……はい。休ませて頂きます」


 さりげない優しさに触れ、危うく泣きそうになっていた王妃。どんな場所にも人情があるのを感じていた。おかみさんの言葉に、王女も微笑んでいるように見えた。



 翌朝も食事をたいらげ、挨拶をして宿屋を後にする。ありがたいことに、焼きたてのパンも持たせてくれた。

 必要な買い物をした後、おんぶ紐で王女を背負い、両手に荷物を持って山道へと歩き出す。

 引退間際の聖女の体は老いていた為、坂道では足腰が強く痛む。長く歩いても激痛となる為、とうとう歩けなくなってしまった。


「このままでは家につかないわ。どうしよう」


 王妃が項垂れていると、頭の中に声が響いてきた。

(治るようにと、声を出してみなさい。きっと良くなりますから)


 すがる思いで「痛みをなくして」と言えば、本当に痛みが消えた。とても不思議だった。

 けれど考えている時間も惜しいので、王妃はとにかく歩き続けた。疲れれば術を再度かけ、漸くと家の前へと到着したのだ。


 ただ2階建ての外観は風化し、壁の煉瓦は所々壊れていた。ドアを開ければ、長く使っていないせいでホコリが舞っていた。 


 王妃はまた、祈った。

「せめて王女が、安心して眠れる場所にして下さい。お願いします」と、頭を下げ額につくように手を合わせ、無我夢中だった。


 すると建物全体が輝き出し、外観は修復され磨かれたように綺麗になり、家の中も清浄な空気で満たされていった。ホコリやダニの気配もなく、まるで掃除したてのようだ。


 気を使ってか泣かないでいた王女は、「ふえっ、ふぎゃあ、マァ、マ!」と大声をあげる。どうやら安心したようだった。

 王妃も背から王女を降ろし、ベッドへ横にした途端にへたり込む。


「何とか、なったのね。神様、ありがとうございます」



 その日は王女のオムツを換え、粉ミルクを飲ませた後、眠る王女の横で王妃もすぐに眠っていた。すっかり疲れきっていたようだ。


 そして翌日から、2人の生活が始まった。

 戦時下で急襲にあった王族が身を隠す際の、平民に紛れる訓練も受けていた王妃。その為何も家事が出来ないという状態ではなかった。元々優秀さを見込まれて嫁いだ伯爵令嬢だったので、だいたいのことは一度見聞きすれば習得できていた。


 と言うか、国王が残念な人物だったので、そちらの執務を補佐していた為(ほぼ熟していた為)に有能にならざるえなかったのだ。


 国王は努力が嫌いだ。

 前国王夫妻も、優秀な臣下に任せる方が安心だと思っていた。ぶっちゃけ彼らも諦めていたのだ。

 王妃はある意味、国を支える生け贄のようなもので。


 常に戦禍の燻る、緊張状態の時代だったから、王妃の執務は膨大な量になっていた。彼女がいなければ、とっくに国の破綻を招いていただろうに、国王マーベラは愛人を囲っていた。


「俺は王妃の上から目線が嫌なんだ。たいして美しくもなく、伯爵家の娘の癖に重鎮達が傅くのもムカつく。やっぱり女は可愛くて優しくて、たわわな胸がなきゃあ駄目だ。アハハハッ」

「まあ、マーベラ様ったら。王妃様がお可愛そう。クスッ」



 隠す気もない国王の戯れ言は、王妃にも丸聞こえだ。貶めるような笑い声も、癪に触りまくりだった。


(はああぁ? じゃあ、お前が仕事をしろよ。こっちは殆ど寝ずに、可愛い王女に会いに行く時間も僅かだってのに。あの重鎮(爺さん)に理論を告げて承認を得ろよ! 書類1つ書かないお前が、愛人なんて持つな。腹立つ!)と思いつつも。


「下手に国王に任せて、隣国との同盟が崩れても厄介です。ここはみんなで慎重に構え、調整を重ねましょう」

「「「はい、王妃様!」」」


 国を支えているのが誰なのかを、みんなが知っていた。逆に国王のことは「余計な真似をされるよりマシ」なくらいの、温度のない瞳で見ている者が多かった。



 そんな王妃の名前はウララで、王女の名前はティモテ(ティミーは愛称)。小さな山の家で暮らす、お婆さんと幼女の名前と同じだった。


 真っ白な髭のお爺さん商人は、魔力が優れている他国の間蝶だ。合法的に各地を回れるのは商人の特権であり、情報を得るのにもってこいだった。


 

 そんな訳で王妃と王女の逃亡生活は、いつの間にか6年目に突入していた。




◇◇◇

 聖女はただ、1年くらい王女の体に入り、大事にされる暮らしを味わいたいと望んだ。後から考えると、周囲を巻き込む過ぎた願いだったと青くなった。


 けれど王妃が庇い、守りの魔石が発動したことで制御不可能となり、聖女もその場で倒れてしまう。


 無垢な赤ん坊との魂の交換ならば主導権は聖女のままだったが、守護の魔石を持った王妃との魂の交換は混乱が生じてしまった。


 結果として体の交換はできたものの、聖女は悪し者と魔石に判断され、聖力は(聖女の老いた体である)王妃に渡ってしまう。


 王女は神殿でいなくなったことで、神に気に入られ連れていかれたと噂になり、近くにいた聖女も跡形もなく消えたことで信憑性も増していた。

 神殿での不祥事である為、総出で捜索を行うも結果はふるわず。王家で捜索をしても、手がかりは見つからないままだった。



 そんな訳で聖女は聖力が使えなくなり、他者から見れば王妃にしか見えなかった。


「王妃様、来期予算の了承を…………」

「国境の防衛騎士と医者の手配を…………」

「敵軍に貯水地が破壊され川が氾濫した後、水が不足し干上がっています。何とぞ、職人と護衛騎士の派遣を…………」

「戦争孤児が増えております。教会への予算の増額を…………」



 仕事は山積みで、頼り(になると今まで思っていたはず)の国王は遊んでばかり。前国王夫妻は安全な他国の避暑地にいると、事務官より報告を受けていた。国王の無能さは市井には隠されており、聖女も実態を知り驚くばかりだ。


 それでも王妃の日記と言う名の、業務経過表を読みながら、少しずつ仕事に手をつけていく。

「これはこうかしら? 先月の分を照らし合わせて、ああ、人数が変わっているわ。じゃあこの数字は……。ああ、どうしてなの。私は少し休みたかっただけなのに。うっ、うっ」


 今までテキパキと仕事を熟していた王妃の手が遅くなり、臣下達は慌てていた。締め切りが過ぎても、書類がまわって来ないのだ。しかし王妃は怠けている訳でもなく、泣きながら執務机にかじりついていると言う。

 年の功がある聖女は、この程度の書類仕事なら神殿でも手伝ったことがあった。だから全くの無能と言うことではないのだが、いかんせん量が多すぎる。国王の分もあるからだ。



「王妃は疲労がたまっているのだ」

「無理もない。殆ど眠れていないのだし」

「ああ。王女が神殿で行方不明のまま見つからないし、心労も重なったのだろうな」


「「「今こそ、俺達も頑張ろう!」」」



 そんな都合の良い解釈をしてくれる者もおり、聖女は疑われないものの休む間もなく仕事に向かう日々を過ごしていた。


「これも聖女の力を悪用しようとした罰なのね。体が若い分、無理が効いてしまうから、頑張れそうだわ。……私のせいで体が入れ替わり、きっと困っているであろう王妃様達への償いの為にも…………」


 あれからも細々と王女の捜索は続いていたが、手がかりの1つも見つからないままだった。何となく感覚的に、聖女だけは彼女達が生きていることを分かっていた。さすがに場所までは分からなかったが。




◇◇◇

 一方のウララは、聖女や王家から追っ手が来ないことに安堵していた。そして街の人との交流を開始することにしたのだ。


 ティミーも7歳になり、街の学校に通うことになった。奇しくもここは変身前の王妃が計画し、最近漸く立った学校だ。


 聖女も文官達も諦めず、あれから(変身後)も福祉政策を続けていた。周辺国との停戦合意もなされ、今は経済も安定してきていた。


「私がいなくても、国は維持できているみたいね。良かった」


 すっかり自由となり、娘と楽しく生きていたウララ(王妃)は、奇跡のような幸福を感じていた。

「きっと城にいれば、執務に追われティミーと過ごせる時間はなかったわ。体は時々痛むけれど術で治癒は可能だし、王族用の逃走時教育のお陰で薬草や野草の見分けはできるし、ポーション作りの材料もそこら辺に生えているし。

 必要な物は商人のお爺さんもいるし、ラッキーだったわ」


 そんな彼女(ウララ)の姿は老人だったが、幼子を抱えていても街の者はさほど気にすることもなく、穏やかに接してくれた。戦争は大事な人も物も奪っていき、悲しみを抱えながら乗り越えた人も多かったから、事情のある者にも優しかったのかもしれない。


 老人の体で子育ては大変だったが、回復魔法をかけながら頑張っていたウララ。少々の痛み以上にティミーが可愛くて可愛くて、苦しいことなんて忘れていたくらいだ。その時は何故、魔法が使えるかなんて考えてもいなかった。使える物は何でも使うの精神だった。



 ティミーも、彼女(ウララ)が母か祖母かを聞くことはなかった。

 幼い時から「ウララ」と呼ぶように言われ、変わらぬまま今となっていた。


 もしかすると、「血の繋がりがないのかも?」と少しだけ不安のあったティミーだが、そんなことは関係ないくらいウララのことが大切で大好きだった。


 仲良く料理を作り、時々ティミーが仕事を手伝い、大きな樽で一緒に洗濯して、笑い合う生活は続いていた。


 ある日王妃が倒れ、そのまま亡くなったと国中が大騒ぎになった。王妃はまだ30代だったから、誰もが早すぎる死に心を痛めたのだ。


 ただ、聖女の死因は寿命だった。

 変身とは関係なく、始めから決まっていたのだ。


 そんな話の翌日に、ウララの隣で眠っていたティミーは「誰よ、あなた?」と、ビックリして大きな声をあげていた。


 聖女と入れ替えられた体が、彼女(聖女)の死で元に戻ったのだ。

 動揺するティミーに、寝ぼけまなこのウララは優しく話しかけた。


「よく聞いてティミー。これが本当の私の姿なの。聖女様の力で2人の体が入れ替わったのよ。

 貴女の1歳の祝福を受けに神殿に行った時、聖女様の禍々しい波動が貴女に向かったのを私が庇うと、体が入れ替わったの。何かおかしいと思い、私は逃げたわ。万に一つでも、貴女に何かあれば大変だもの。そして6年が経ったの。

 本当の貴女は王女なのに、こんな暮らしをさせてごめんなさい。でも聖女様の考えが分からないまま、危険に身を晒すことができなかったの…………」


 

 ティミーはその話し方で、すぐに彼女がウララだと言うことが分かった。そして自分の身の上も、ぼんやりと理解できたのだ。


「もしかしたら私……呪われていた、とか?」

 ティミーは不安げに言うものの、それはないわとウララが首を横に振る。


「だって、もし呪われていたら、お払いするでしょ? 体の入れ替えをする理由がないもの。私が思ったのは、あの一瞬で禍々しい存在が聖女様の体を乗っ取り、力が使えないように赤ん坊の体に入れ替えるつもりだったのかと。なので悪い存在から再び狙われないように、身を隠したのよ」


「でも……ウララは王妃だったのでしょ? その立場を捨てたのよね」

「そうなるわね。仕事も全部置いてきたわ。それでも貴女の方が大事だったから、それ以外はどうでも良かったわ。私はずっと幸せだったし」


「お城から、山の家に住んでも?」

「ええ、場所なんて関係ないわ。貴女さえ元気で笑ってくれれば、それで良いもの」


「……ウララはお母さんなのね。そう呼んで良いのよね」

「勿論よ。今まで隠していてごめんなさい。世界中で一番、貴女が大好きよ」


「お母さん、お母さん。大好きだよ。いつもありがとう」

「うっ、こちらこそ、ありがとうね。貴女が生まれてから、ずっと私は幸せなのよ」


「うえ~ん、うわ~」

「うっ、ぐすっ、ずびっ」



 生い立ちを知ったティミーとウララは強く抱きあい、ウララのお腹が「グゥ~」と鳴るまで泣いていた。朝食前だったしね。大笑いしたのはいつものことだった。


 彼女達は、住み慣れたその地に留まることにした。ただ住み家を街に移し、他者との交流を増やしていくことに。


 体が元に戻ったウララは、ララと名前を変えティミーの母だと名乗った。病気で入院していたが、治癒して戻ったことにして。

 逆に聖女の体だったウララは、腰痛が酷いので湯治に行ったことにしたのだ。


「良かったなぁ、ティミー。そこら辺のとこ話さないから、お母さんは亡くなったものだと思ってたよ」

「ごめんなさい。商人さんに頼んで手紙のやり取りはしていたけど、こんなに良くなると思わなくて」

「まあ、良いさ。良くなったのは嬉しいことだもの」

「うん。本当に嬉しいの。勿論ウララのことも大好きだよ。ウララもお母さんも大好きなんだ」


 2人はついぞ城に戻らず、平民として暮らすことになった。ララとなった王妃は、商人ダムの孫だと言うジムと結婚した。


 ジムはその街で何でも屋を開き、果物でも雑貨でも目新しいものを運んで売っていた。逆に街や周辺の村で作られたり育ったものを、遠くの街に売りに行って利益を得ていた。


 彼が留守の間の店番はティミーで、ララは山に薬草を取りに行きポーションや薬を作り、店に並べていた。

 みんなで働き、ほどほどの暮らしだ。

 疲れたら休み無理をしないので、いつも家族でゆっくりお茶を飲む時間があった。


 ジムは初めて会った時から、他人と言う感じがしなかった。いつも薬草を取りに来てくれたダムの雰囲気を纏っていたから。だからこそララも心を許したのかもしれない。



 実はダムとジムは同一人物だった。

 戦時下では若い男より爺さん姿の方が弱く見え、受け入れられやすいので魔法で変身していたのだ。

 魔力の強さゆえか、ウララの体も聖女とウララが重なって見えていたと言う。間蝶なのでウララが王妃だと分かっており、ティミーのこともティモテではないかと当たりをつけていた。

 王都では、娘がいなくなった心労のせいか、王妃の性格と口調の変わったとの噂も流れていた。


 そんな話を集めながらも、自国には報告はせず、彼はずっと2人を見守っていたのだ。


 平和な世が訪れ、彼の仕事は結婚して信用を掴み、周辺の情報を集めることだけに変わった。彼のいる場所はかなり田舎なので、諜報の仕事は終了したのと同義だった。



「幸せだな。ララとティミーがいれば、この世は天国だよ」

「ジムったら、もう。でも一生懸命に働く貴方は素敵よ。尊敬できるわ」

「働くのは当たり前だろ? なんでそんなことを言うの?」

「ティミーの父親がダメダメだったの。他に恋人も作るし、働かないしで大変だったんだから」

「そうなんだ。こんな綺麗で優しい女性を放っておくなんて、馬鹿な男だよ。でもだからこそ君に会えたんだから、ちょびっとだけ感謝を送っても良いかな」


「私も貴方に会えて良かったわ。いつもお仕事お疲れさまです。無理しないでね」

「うん、君もね。チュッ」


 もうすぐララは臨月を迎える。

 ティミーの弟妹ができるのだ。


 ティミーも楽しみに待っていた。

「弟や妹がたくさん生まれても、私がちゃんと面倒をみるから大丈夫よ。早く抱っこしたいなぁ」


 からかう訳ではなく本気の発言なので、2人は照れてしまうばかりだ。


「だってさ。どうしよう?」

「もう、まだ生まれる前からそんなこと。でもそうね。家族は多いと賑やかかもね」

「うん。俺もそう思ってた」


 家族はもう少し増えそうだ。




◇◇◇

 王都では王妃が亡くなり、役に立たない国王(マーベラ)は爵位を剥奪され、表向きは退位となった。愛人と共に寂れた離宮に放り込まれ、最低限の生活に我慢できず改善を訴えたが、その声は黙殺された。

「こんな汚い離宮は嫌だ。城に戻せ。あとは金を寄越せ。たまには外出させろ!」



 既に何の出番もなく、邪魔なだけの存在だった。毒殺されてもおかしくない。ちなみに愛人は脱兎の如く逃走した。どうやらその道のプロだったようだ。



王妃(ウララ様)は心労で、若くして逝去したと言うのに。夫の癖に悲しみもせず、逆に葬儀の後も、女性を侍らせ高級飲食店で遊んでましたよね。本当に目も当てられません。離宮でも食事はお出ししますから、贅沢は言わないで下さい。え? ワインが欲しい? 王宮にいる時に一生分飲んだでしょ。もう水でも飲んでて下さい。不快です!」


 宰相は王妃と共に、戦時下の国を支えてきた1人だ。彼女に憧れ、独身のまま全力で支え続けていた。王女をうしなってから表情が抜け落ち、落胆のまま政務を続ける王妃を見ているのが本当に辛かった。

 次の国王は王弟の息子に決まっている。目下王弟夫婦も協力し、政務に取り組んでいる最中だった。マーベラの命はまさに風前の灯火なのだ。

 前々国王夫妻となった2人に送られる毎月の支給金も、大幅にカットされている。教育失敗の代償である。宿泊と飲食は、安宿を選べばおつりもくるだろう。今までのスパ付き物件は、もう解約するしかない。



◇◇◇

 女神の采配で、王妃(聖女が変身した姿)の棺が土に埋められるまで、女神の聖力で体は保護され、大切に維持されていた。全ては途中で姿が戻り、いらぬ混乱を避ける為である。



「申し訳ありません、女神様。私が欲深いばかりに」

「しょうがない子ですね。でも貴女はずっと真面目に仕事をしていたし、変身後は王妃として頑張りましたから、許してあげましょう。きちんと反省もしていたようですしね」


「王妃様には、とんでもないご迷惑をおかけしてしまいました。あの姿のまま赤ん坊を育てるのは大変だったでしょう。それに高位の地位にあるお方でしたから、市井では大変な苦労をしたことでしょうね。本当に罪深いことをしました」


「その辺はまあ、大丈夫だったみたいよ。苦労はしても、幸せなことも多かったみたいだし。向こうは許してくれているから、安心して昇天しなさい。じゃあね、お疲れさま」


「ありがとうございます、女神様。それにしても、こんな仕打ちを許して下さるなんて。なんて心の広い方でしょう。どうか王妃様と王女様がお幸せでいられますように」


 聖女は残りの力を彼女達に送った。


 今のララは、もう聖女の力は使えない。

 けれどポーションの成功率があがる祝福を送ったことで、よく効くポーション職人の名はこれからも不動のままだろう。ティミーも祝福を受けたので、何かあってもポーション作りで食べていけるはずだ。


 但し彼女達(ララとティミー)は、それに気づくことはない。





 とんでもない出来事だったが、王妃にとっては幸福なことばかりだったようだ。




 めでたし、めでたし♪♪♪







ーーーーーーーー

 王妃時代のウララの言葉遣い(心の声)が荒れていたのは、避難後に平民の中で浮かないように王族教育で学んでいたからです。心の中で吐いた悪態が多くて、実践ですぐに役立っていたのは僥倖でした。


 新たなお話を思いついたら、またそっと追加するかもしれません。

 読んで頂き、ありがとうございました(*´∀`*)♪♪






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