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Merfana ーメルフェマー  作者: 八神あき
異世界サバイバル
9/19

トラップ

 ボス戦と聞いて一時はテンションの上がった晴人だったが、三日もすればまたふてくされはじめた。

 正亜に恨みがましい視線を向ける。

「おーい。あれから僕なんもやってないぞー。食べ物見つけてるだけやぞー。貴様もなんもやってないぞー」

 批判を向けられた正亜はけろりとしている。


 火鼠討伐宣言のあとも、はたからみたら正亜は工作しかしていない。

 紐を作り、石器を作り、弓矢を作る。晴人も晴人で、狩猟採取を行うだけ。


 が、実際にはそうではない。

 正亜は工作をしながらも、ブラックハウンドに指令を送り続けていた。今では手作業をしながら、三日間で新たに召喚した6匹を加えた15匹全員を正確に動かすことができる。


 ブラックハウンドを使って調べていたのは二つ。火鼠の習性と、巣および湖周辺の地形だ。

 正亜の頭の中にはすでに周辺の地図ができあがったいた。とくに火鼠が通れる道幅の獣道は一本残らず把握している。


 もちろん、もっと詰めれる部分はある。だが頭の中で考えてばかりいてもキリがないのも事実。

「わかったよ。じゃああとひとつだけ条件がある」

「なに?」

 答える代わりに、晴人に弓と矢筒を投げつけた。晴人はそれをキャッチする。

「弓、ちゃんと当てれるようになれ。そうしたら作戦開始だ」

「お前は当てれるんか?」

「ここ一週間は四時起きで弓の練習と筋トレしてるよ。そのあとブラックハウンドを使っての偵察、陽が出てる間は道具作り……。過労で死にそうだ」

「ふうん。やるな貴様」

「あそこに炭でバツ印つけた木がるだろ。あれ的にしていいから、練習してろ。俺はちょっと寝る」

「おおお、準備がいい」

 晴人は木を見つけるやさっそく矢をつがえた。


 正亜はあくびをし、テントの中で横になる。

「ソ ゲ キ」

 なにその掛け声、と突っ込もうとしたが、眠いのでスルー。

「当たった!」

 スルーできなかった。正亜はゾンビのような足取りでずるりとテントから這い出る。


 バツ印のど真ん中に、矢は突き刺さっていた。晴人がドヤ顔で正亜を見てくる。

 腹が立つので殴っておいた。

「いたっ。なんで殴られるん?」

「顔腹たったから。偶然じゃねえの?」

 正亜がいちゃもんをつけると、晴人は人差し指を左右に振る。

「見てなさい」

「なぜオネエ口調」


 晴人が射た二矢目は、一発目の矢の尻に突き刺さった。

「……は?」

 続く三矢、四矢も狂いなくバツ印の範囲内に命中。

「…………お前どんな運動神経してんだよ。四時おきで練習してたのバカみたいじゃん」

 言うと、晴人はなぜかシャツを脱いだ。

 ポーズをとり、背中の筋肉を見せつけてくる。

「ソ ゲ キ に必要なのは、広背筋!!」

「筋肉ですべてを解決しすぎだろ…………」

「あと、僕視力2.0」

「身体能力お化けめ……っ! わあったよ。じゃあ今日ケリをつける」

「うほっ」

「けど、どの道やるのは夜だ。そのためにも、今のうちに眠って休んでろ。俺も寝る」

「寝るのは得意だ」

 晴人は半裸のまま寝転がる。

「やっぱお前、バカだよなあ」

 正亜はぼやき、テントに入った。


ーーーーーーーーーー


 夕方、2人は起きた。食事をとるや支度をはじめる。

 弓と、矢が20本入った矢筒、晴人は槍も持つ。

 武装した2人は、湖のそばで息を潜める。

「で、どうするんだ?」

「火鼠の習性を利用する」

「わからん」

「あいつらは夜行性だ」

「昼にも見たぞ」

「ああ。けど昼は活発じゃない。獲物を見つけても深追いはしない。逆に夜は執拗に追ってくる。狩をするのはだいたい10匹前後、おそらくメスだろうな。今、ブラックハウンド5匹をメスどもの狩場にうろつかせてる。これなら確実に狩れる数だから、逃げればどこまでも追ってくる。…………お、言ってる間にもかかった」

 正亜は目を閉じてブラックハウンドの視界に集中する。火鼠は11体。いつものように炎を吐きつつ、仲間内で連携してブラックハウンドを追い詰めようとしてくる。


 だが、正亜は地形を知り尽くしている。

 岩や巨木を盾にして炎から身を守りつつ、抜け道を通って包囲網を抜ける。だがあまり逃げ足が速くても諦められる恐れがある。火鼠たちと距離を空けすぎないよう、調整しながらブラックハウンドを走らせる。


「そろそろ来るぞ」

 正亜が言った直後、ブラックハウンドが2人のいる方へ走ってくるのが見えた。20メートルほど感覚をあけて火鼠が追ってくる。

「弓矢の出番!」

「出番じゃねえ! じっとしてろ!」

 飛び出そうとする晴人の足を、両腕で掴んだ。さすがの晴人もつんのめってこける。だが体重差はいかんともしがたく、正亜も一緒に転んだ。


 転んだ拍子にブラックハウンドの制御をミスり、一匹が炎に焼かれる。感覚が共有されているせいで、正亜もまた身体中を焼かれる痛みにうめく。

「くそっ……くだらねえことで戦力削らせやがって!」

 正亜は飛び出し、メルフェマ湖に手を突っ込んだ。

「来い、クラーケン!」

 指輪を回すと、巨大な触手が水面から飛び出す。10本の触手がそれぞれ火鼠を掴み、地面に叩きつけた。

 残りは一匹。


 それまで逃げていたブラックハウンドは踵を返し、火鼠に向かっていく。

 火鼠もまた、口の中に特大の炎を発生させる。

 火炎放射が放たれようとした時、身を潜ませていた10匹のブラックハウンドが、火鼠の背後から襲いかかった。

 奇襲を受け、火炎放射はあらぬ方向へ放たれる。四匹のブラックハウンドも攻撃に加わった。


 14匹のブラックハウンドに、噛みつかれ、爪を立てられ、火鼠はなす術もなく死体となった。


 火鼠を全滅させると、クラーケンは消滅。ブラックハウンドと違い、クラーケンは短時間しか召喚できない。

 クラーケンを召喚した代償の侵食が正亜の手を蝕む。人差し指と薬指まで黒く変色し、ひどく痛んだ。


 正亜が顔をしかめていると、晴人がおずおずと話しかけてきた。

「ごめん、僕やらかした?」

「いや、今回は俺の説明不足だ。リアルタイムで指示しようとしてたが、事前に作戦伝えとくべきだった」

「事前に言われても僕覚えられへんで」

「だと思って説明してなかった。けどこっからは単純だ。巣に突撃して残った火鼠を掃討する。弓矢も槍も使っていい」

「今度こそ僕の出番か」

「ああ。けど、攻撃は俺の合図をしてからだ。とりあえず巣まで移動するぞ」

 正亜はブラックハウンドに周囲を警戒するよう命じ、森へ足を踏み入れた。

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