間近に迫った破局噴火――鬼界カルデラの蠢動
「大きな被害を受けた人にとっては悲惨で深刻な出来事なんだけど、関係なかった人たちにとっては、単なるニュースにしか過ぎないだろうな。
地域限定の地震や豪雨だったら、国として災害救助できる。
でも、全国的に打撃を受ける災害となったら、そんな余裕はない。
それが、火山の破局噴火だ」
またユウヤに話のバトンが渡った。
「破局噴火って、何?」
カイトの父親は鹿児島県の出身だ。
奄美群島の徳之島なので鹿児島市は通過点なのだが、何度も立ち寄った。
だから、桜島の噴煙は、見慣れている。
降灰は迷惑だが、火山地帯特有の恩恵もある。
鹿児島市では、街中の銭湯でも「天然かけ流し」のところが、少なくない。一般のホテルや旅館は、「温泉付き」が定番である。
「破局噴火とは、地球規模の環境変化や大量絶滅の原因となるもの。
『近代国家が破滅する規模の爆発的巨大噴火』と表現した方が、わかりやすいかな」
「つまり日本が、破滅しちゃうということ?」
「そう……、南九州一帯は厚い灰に埋もれ、沿岸は最大三〇メートルの大津波に襲われる。
西風に乗って灰は本州へも流れ、大阪・名古屋・東京も機能不全に陥る。
仙台辺りまで、被害が及ぶだろうね。
国内の通信・交通・工業生産は、ほぼストップする。
灰が五ミリも積もったら、車も列車もスリップして走れない。
細かい塵で精密機器も、大ダメージを負う。
火山灰はガラス質で出来ているので、人体にも大きな影響を与える。
呼吸器患者が、激増するはずだ。
成層圏にまで吹き上げられた火山灰は、すぐには地上へ戻ってこない。
一、二年は、上空を漂っている。
世界中に拡散していく。
太陽光を遮り、地表の温度は上がらない。
作物は育たず、やがて飢饉がやってくる。
死傷者なんて数えきれないくらい出るだろうね」
「その火山は?」
「幾つかある。
鹿児島湾の湾奥部を造った『姶良カルデラ』なんかイメージしやすいかな。
桜島の手前が、丸い形をしているだろう?
その湾奥部は、二九〇〇〇年前の大噴火で出来たカルデラ湖だったんだ。
「えッ、淡水湖だったの?」
「そうなんだ。
約一万年前に海面上昇と桜島横の南壁が崩壊して海水が流れ込み、湾になった。
桜島は、そのカルデラの縁にある外輪山に過ぎない。
現在でも湾の底深くには、巨大なマグマ溜まりがある。
そこから桜島下のマグマ溜まりにマグマが補給されて、火山活動が続いているという仕組みなんだ」
「だから、鹿児島市は、温泉が多いんだ。
カルデラの縁の上にあるんだからな」
「近い内に噴火する可能性があるの?」
「桜島のマグマ溜まりは、大正時代の大噴火前くらいには充填されているらしい。
ヤバいかもしれない。
でも、姶良カルデラ自体が、近い内に噴火するという可能性は、とくに言われていない」
「なんだ。
心配しちゃった。
驚かすなよ」
桜島の大噴火は心配だが、日本全国に影響を及ぼす「破局噴火」には至らないはずだ。
「しかし、安心するのは、まだ早い。
姶良に匹敵する規模で、しかも噴火する可能性が高いカルデラが、すぐ傍にある。
『鬼界カルデラ』だよ。
薩摩半島沖にある巨大な海底火山だ」
「何か予兆でもあるの?」
「いま世界最大級の『溶岩ドーム』が形成され、熱水が噴き出している。
カルデラの外輪山にあたる薩摩硫黄島の火山が昨年十一月、大きく噴火した。
今月二十四日の気象庁の発表では、近くの口永良部島でも地下にマグマが蓄積されているので、噴石や火砕流に注意するよう警報が発令されている。
二〇一五年頃から、この地域の火山活動が活発になってきた」
ユウヤの口調は、憂いに満ちていた。
(いつものことじゃないの?
大袈裟だな)
カイトは二つの島が火山島であり、昔から噴煙を上げていることを知っていた。
確かに噴火のニュースを聞くことが多くなった気はするが、恐れるほどのことなのだろうかと思った。
「いつ噴火するの?」
「破局噴火は、七千年に一度くらいの割合で起こるとされている。
すでに前の噴火から七千三百年過ぎた。
これから後、百年以内と推測する学者もいる。
やはり一%の確率ということだね」
それだけ言ってユウヤは、口をつぐんだ。
(淡路阪神大震災や東海豪雨並みか?)
カイトは、教授の話を思い返す。
「それでも千年単位の話を心配したって、しょうがないんじゃないの?」
途方もない話過ぎて、現実感がない。
「証拠は、他にも山ほどあるぜ。
信じる、信じないは君の勝手だけど。
『予言』は当たらないが、『確率』は疑えないDEAYH!」
A教授が、また腕でXを示した。
(何か軽いセンセイだな。
ふざけるにもホドがあるだろ!)
ユウヤにアレコレ言われて、まともに反論もできずに追い詰められている感じが不快だった。その背後にいるのがA教授だと思うと、向かっ腹が立った。
一方で、二人の言うことに理があることもわかっていた。
(正常性バイアスってやつのせいかな?)
「今の安定した生活が、壊れるかもしれない」なんて考えたくないという防衛反応か。
自分が論理的かつ熱意を込めて話しても、最後まで聴こうともせず「上から目線」で嘲笑う人間は少なからずいた。「自分は『まとも』で、常識人だ」という顔をしていた。
そんな人間にはなりたくないと常々思っていたが、今の自分の「受け入れがたい思いからくる反発」は、そうした態度に近いのかもしれなかった。
むろん独善的な「終末論」を説く(押し付ける)宗教勧誘者は大嫌いで、話を聴くつもりはない。だが、客観的なデータに基づく話は、ちゃんと耳を傾けるべきかもしれない。




