霊的に国を護るもの――天皇と聖剣
「皇室にとって、それほど大切なものなの?」
「言い換えると、『王権の象徴』ということになるからね。
昨年の秋、『大嘗祭』がおこなわれただろう?」
「テレビで中継を見た」
「大嘗祭というのは天皇陛下が代替わりする際、『天皇霊』を受け継ぎ、それを民衆に知らしめるためにおこなわれる儀式なんだ」
「天皇霊?
何だよ、それ」
「霊的に国土を治め、護る力さ」
「天皇って、『国民の象徴』だろ。
力なんて、ないはずだ」
「法律や政治的には、その通りなんだけどね。
その議論に入ると話が逸れちゃうから、『歴史的、または宗教学的な解釈』ということで聴いてほしいんだ」
「わかった」
「大嘗祭というのは、一種の『神話劇』だと僕は考えている。
どうして天皇家が国土を治め、護るようになったかを示すためのね」
「へぇ――」
「日本史学界では、『単なる神膳供進と共食儀礼』という解釈が一般的になっている。
でも、それだけだと『儀式の意味付け』の点から、納得できないところが多いんだ。
だから今のところ、僕は『天孫降臨神話劇』説を基に考えている」
「なんか難しそうな話だな。
歴史や宗教の話は苦手だから、簡単に話してくれよ」
「ああ、わかった。
A教授の家での仕返しなんてしないから」
「あ、ははは……」
「まずは、聴いてくれ。
テレビ中継で、一連の儀式を終えた新天皇が『高御座』から、姿を現した。
あの時、天皇陛下の左右に錦包みの箱が置かれていただろう?
長方形の箱に『剣』、正方形の箱には『璽』、つまり勾玉が入っていたんだ。
合わせて『剣璽』と言う。
つまり高御座の幕が左右に開かれて新天皇が姿を現した場面、あれは剣と勾玉を携えたニニギノミコトが、この世に降臨したことを表していると見ることができる」
「ニニギノミコトと天皇が、一緒ということ?」
「天皇霊の継承者『皇孫』、同じ霊威を持つ者という観点からはね。
その徴が、アマテラスから授けられたとされる剣璽なんだ。
だから、それ以後、天皇陛下は剣璽と共に過ごす。
寝室の隣に『剣璽の間』がある。
元々は、寝室に置かれていたみたいだね。『同床』、寝床を同じくするということだ。
戦前までは天皇が地方へ赴く『行幸』の際、剣璽を携えていた。
戦後はGHQ、占領軍の指示でできなくなっちゃったけど、近年でも伊勢神宮へ参拝したときは、侍従が剣璽の箱を持って陛下に付き従っていた」
「常に身近になくちゃいけないんだ。
イザというときは天皇が直接、剣を腰に差すことがあるの?」
「実際はないだろうけど、象徴的には『身に着けている』とされるのかな」
「何か『アーサー王伝説』のエクスカリバーみたいだな。
石に刺さった剣を抜いたから、神から王として認められたという話」
「そうだな。
剣が『王権の象徴』である話は、いろんな国にあるよね。
竜も『王者または英雄の標』として、紋章などに使われことが多いよ」
「そうかあ――。
天皇陛下が、『竜の剣』を携えているなんて、何かカッコいいな」