ジュマの霊魂を探して大陸へ
「アマミコ様をお招きするに当たって、ご盟友の行方に関して当方でも下調べを致しました。たぶん……といったレベルではありますが、見当はついております」
アマミコの伝説では、盟友がいたことが語られていた。よって、調べを進めていたのだ。
マツカネは十五歳の時、修行の場を山東半島の海岸近くにある「赤山法華院」に移した。彼女にとって、父方の曽祖父に当たる著名な海将、チャンポゴ(新羅系倭人)が創設した寺院であったからだ。ここは仏教寺院でありながら道教の神「泰山府君」と同身とされる「赤山明神」を祀り、祭祀や修行がおこなわれていた。そこで死にかけていた白い仔獅子と出遭い懸命に介護した結果、その命を救うことができた。その後、院主の許しを得て、近くの山で共に過ごすこととなった。
その過程でジュマがキメラであることがわかった。イスラムの錬金術によってライオンと数種類の動物を組み合わせた合成獣であった。成長したジュマの肩甲骨から背中にかけて翼が生え、飛行することもできるようになった。
雲上における吊用之との激闘で相打ちになった際、アマミコと分かれてしまった。満身創痍となったジュマは、最後の力を振り絞ってアマミコと過ごした赤山法華院へ向かい、その地に墜落して息を引き取った。遺体は院主たちの手によって住処としていた近くの山中に葬られ、密かに祀らていた。
そうした事実は知る由もなかったが、経緯を考えればジュマが幼少期を過ごした場所に戻った可能性が大きいことは推察できた。
「彼の地までジュマを迎えに行ってまいります」
アマミコは、源造たちに話した。梅宮の推論を聴き、確信を持ったようだ。
「……お気持ちはわかりますが現在、あの辺りは敵地となっています。アマミコ様が復活なさったという報が伝われば、当然ながら来訪を予測し、待ち受けているでしょう」
梅宮は、懸念を告げた。
「ええ、承知しております。しかし、行かねばなりませぬ」
決意は、ゆるがないようであった。
赴こうとしている場所は、まさに敵の本拠地近くである。敵はただの宗教法人ではない。裏稼業として長年に渡って謀略や暗殺を担ってきた教団である。さらに吊用之も復活している可能性がある。
しばし、沈黙の時間が暴れた。アマミコの気持ちと必要性は、十分に理解できたからだ。
「わかりました。ご意向に添えるよう早急に手段を講じましょう」
源造が、意を決したように顔を上げて言った。政府筋の年配者と梅宮もうなずく。
しばらくジッと考え込んでいた比叡山の高僧が、口を開いた。
「その手段について拙僧に考えがございます。赤山法華院は、当山にとっても縁深き所ですからな」
延暦寺管轄下の寺院(塔頭)の一つに「赤山禅院」(888年創建)がある。ここは法華院から赤山明神を分霊して祀っている寺院だ。
縁は唐の時代に遡る。後に比叡山の天台座主となった円仁が求法にため渡航し、この法華院を拠点とし三年近くにわたって修行をおこなった。その際、チャンポゴの影響下にあった新羅人コミュニティーの庇護を受けたとのこと。日本への帰国時に海難に遭ったが、赤山明神が船の舳先に立ち、一行を護ったという逸話が伝わっている。
比叡山に戻った円仁は、その恩を忘れず赤山大明神を祀る寺院を創建することを遺言として残し、弟子によって赤山禅院は創建された。
ちなみに同寺院は、京都(王城)の鬼門防衛を任務としていた。よって、「魔除け」の寺として知られている。また、赤山明神(泰山府君)は陰陽道の主神であるため、かつては陰陽師や山伏なども集ったと想われる。さらに言えば現在でも比叡山の僧たちにとって「千日回峰行」など厳しい修行の場としてされている。
比叡山延暦寺の高僧は、赤山法華院との深い縁を以上のように語った。
「要するに当山にとってアマミコ様は、恩人のお身内に当たる方です。恩返しをさせていただく絶好の機会となりましょう。全力を挙げて助力致します」
一同は、その話に感銘を受けるとともに、不思議な縁に驚きを隠せないようだった。
「それで、具体的には、どのようなことが可能なのでしょうか?」
カイトが尋ねた。
「円仁大師がご恩を受けてから千二百年となります。いずれ赤山禅院の創建記念祭も催さなけければならないでしょう。ですから、交流記念祭準備のための調査という名目で使節団を送ろうと思います。いかがでしょうか?」
確かに立派な名目となる。皆に異論はなかった。
「その一団に護衛として当山で修業を積んでいる陰陽師と僧兵をを護衛として組み入れましょう」
「えっ、現代でも陰陽師や僧兵がいるんですか?」
カイトが驚いて問い返した。
「ええ、表立って名乗っているわけではありませんが、私人として能力ある者たちが関わっています」
高僧は、静かに答えた。公式の修行僧たちとは別に、同様の荒行をおこなっているらしい。
「対人的な護衛としては、頼もしい限りですね。ですが、吊が復活しているとなると、四凶などの怪物や妖魔が立ち塞がってくるでしょう。ある程度は私と善女竜王で対処しますが、手に余りそうです」
カイトは、言った。
「その御懸念は、もっともです。私ども協会からも人を出しましょう。どこまで対抗できるかどうかわかりませんが、助けにはなると思います」
怪物や妖魔に立ち向かえる能力者がいるというのだ。
アマミコの表情が変わった。
「ひょっとして四神の使い手か!?」
大きく見開かれた眼は、期待に輝いていた。
「赤さん、青さん、白さん、黒さんたちですか?」
間を置かずカイトも問いを重ねた。
「ええ」
梅宮は笑顔でうなずき、肯定した。




