白黒(2−5)遮音 秀才 鬼才
「ああ、うるさいですねぇ。 すいませんがちょっと待ってください。
これを・・・、こうして・・・。 よし」
白衣に眼鏡に猫背という、いかにも「怪しい科学者」といった感じのおっさんが何かの機会をチョチョイと弄ると、途端に観客席の歓声は闘技場内部に届かなくなった。
この装置は『遮音結界』といわれており、闘技場の内側と外側の間に薄い真空の幕を作り出すことで、あらゆる空気の振動を遮断する効果がある。
「おお、すごいんだぞ☆
口を見ると相変わらず大声で叫んでるみたいなのに、内側には全く聞こえてこないんだぞ☆」
「私も外からは何度か見たことがありますが〜、中に入るとこんなに静かだったんですね〜」
「さて、静かになりましたねぇ。
それでは早速能力の検査を・・・と言いたいところなのですがまずは、能力の計測の前に、発動の練習から始めましょうか。
まずは、二人とも、目を閉じてください」
「閉じました〜」
「私も、閉じたんだぞ☆」
「はいそれでは、二人に質問です。
今、何か見えますか?」
「そんなの、目を閉じてるから何も見えるわけがないんだぞ☆」
「フーちゃんの言う通り〜・・・いえ〜? 何か、薄い光のようなものが見えます〜」
「確かに! 言われてみれば、何か光がちょろちょろ見えるんだぞ☆」
「おお! まさかこんなにも早くに光を見出すとは・・・
さすがはこれだけ多くの人に注目されるだけのことはあるようですねぇ・・・」
『固有能力』が開花すると、目を閉じた状態でも光の点のような物が見えるようになる。
この光の点こそが『固有能力』そのもので、慣れれば目を開けた状態でも認識できるようになるのだが、はじめのうちは目をつぶった状態で1時間ほどかけて見つけ出すのが普通だ。
それを、目を閉じた瞬間に見つけ出してしまうあたりからすでに、スノウとフログの才能の片鱗が感じられるのだが。
「なるほど〜、これが『固有能力』なのですね〜。
ならば、これをこうすれば・・・」
「なるほどなんだぞ☆ 『固有能力』って言うのは、こう言うことだったんだぞ☆
つまり、能力を発動するには・・・」
「お、おいまさか!? ふ、二人とも、能力の発動はちょっとま・・・」
瞬間、能力発動時の強力な衝撃波が、遮音結界を通り抜けて、闘技場全体を揺らした。
この衝撃波は能力が初めて発動するときの特徴的なもので、ある意味能力が正しく発動した証明なのだが、発動の手順を教えられることもなく能力を発動してしまうなど、それこそ前代未聞の出来事である。
観客席の生徒や教員はあまりの展開の早さについていけていないし、能力発動の手順を教えようとしていた教員も、目の前で何が起きたのかを未だに把握できていないようだった。
「・・・・・」
「先生〜、大丈夫ですか〜?」
「そうだぞ☆ さっさと検査の続きを進めるんだぞ☆」
「・・・・・・・・・・まさか、これは・・・、しかも二人同時に・・・?」
スノウの左眼、フログの右眼には複雑な魔法陣が描かれ、スノウの右眼、フログの左眼には何も描かれていなかった。