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カボチャ頭のランタン  作者: mm
12.Over The Hypernova
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 帰還は討伐の翌日だった。

 朝でも夜でもなく、珍しく昼間に地上へと戻った。

「ああ、太陽が白い」

「……なに言ってるんすか?」

 かちゃかちゃと転落防止用のベルトを外しながらミシャが呆れたように呟いた。

 真上から降り注ぐ陽光を見上げて目を細めるランタンの表情は、ただ眩しさだけではなく倦怠感を感じさせる。

 そんな表情にミシャは胡散臭そうな目を向ける。

 空は高く、青空は膜を一枚透かしたような冬の淡い晴れ間だった。丸い太陽は(かさ)を背負っており、その円環の内にはいくつか星の燦めきを見つけることができる。

「んー?」

 ランタンはぼんやりと相槌を打って、ふふ、と鼻の奥で笑い声がこもる。

 ミシャの目付きがいよいよ疑わしげになって、そんな目を向けられていると気付いているのかいないのか、ランタンは上の空である。

「はい、外したっすよ」

 合図に腰元を叩いても、ぼんやりしているので、ミシャは溜め息一つ、正反対に溌剌として順番を待っているリリオンのベルトを外しにかかった。

「ランタンくん、あれ、どうしたの?」

 ミシャは顎をしゃくった。

 順番待ちの間、紐で繋がれた犬のようにうろうろしていたリリオンは、ミシャの前に立った途端に背伸びをした。向日葵のような大きい背伸びは、その大輪の重さに頭を垂れるようにミシャの耳元に顔を寄せる。

 汗の匂い。金属の匂い。血の匂い。埃っぽさと、どこか甘い匂いも。

 探索の匂いがする。

 ランタンからも同じ匂いが香った。

 二人は匂いを共有している。

「迷宮でね、魔物にさされちゃったの」

「えっ!」

 リリオンの言葉に、ミシャは驚きに目を見開いた。

 迷宮の毒は蚊に刺された程度のものあれば、ほんの一滴垂らしただけで、大きな湖が死の沼に変わるようなものもあると聞く。それが噂に過ぎずとも、人を殺すほどの毒は当たり前にある。

 ミシャの、今は折り畳まれてしまわれている毒牙でさえ、人を死に至らしめるには充分な危険性を有している。

 ランタンのあの様子、まさか毒によって頭がおかしくなってしまっているのだろうか。

「大丈夫よ、わたしがきちんと、――看病してあげたから」

 噛み締めるような言葉に、ミシャは冷静さを取り戻した。

 そんな致命的な毒にランタンが冒されたとして、ならばリリオンがこれほどに平然としているわけはないだろう。つまり刺されたと言っても、それほど慌てるほどのものではないのだ。

 そうだ、とミシャは納得する。

 ランタンは危険にあえて踏み込んで、それによって命を繋ぐような危うさを持ち合わせる探索者だが、繋いだ命を切らしてしまわない見極めができる探索者でもあった。だからこそ、こうして迷宮から帰ってき続けるのだ。

「ただちょっと、疲れちゃっただけなのよ。たくさん汗もかいたし」

「そう? なら、いいんだけど」

 溌剌としたリリオンのそれは、満足感によるものかもしれない。

 看病したことへの満足感。リリオンはそう言うところがあった。何かをしてあげるということに飢えるような。

 だが単純な世話焼きというのとは少し異なる。その情熱は基本的にランタン一人に向けられるからだ。

 ならば他者に無関心かといえばそう言うわけでもない。

「ねえ、ミシャさん」

「なに、リリオンちゃん」

「ローサはどうだった?」

「ローサちゃん? んー、そうね」

 ミシャは思い出し笑いをしたが、それは困ったような笑みでもあった。

「元気だったわよ、元気に泣いてた。面白い子ね、あの子」

「やっぱり泣いちゃったのね」

 リリオンは心配そうな顔をして、眉を八の字に下げた。

「会いに行っても泣いて、帰るって言っても泣いて、忙しそうだったわ。たまに燃えちゃうし。リリオンちゃんも素直な方だと思うけど、ローサちゃんにはちょっと負けるわね。あの子はうまく喋れない代わりに、涙で感情を表現するのね」

「泊まってくれたの?」

「残念、私には朝早くの仕事があるの。それにランタンくんが、――ランタンくんやリリオンちゃんがいてくれたらいいけど、あのお屋敷に一人でお泊まりはさすがに少し、怖じ気づいちゃうなあ」

「みんないい人よ、怖くなんてないわ」

「そういう怖さじゃないわよ。畏れ多いのよ、貴族さまのお屋敷は。レティさまもいらっしゃらないんでしょう? リリララさんも」

「うん、でもそろそろ帰ってくるって」

「あら、そうなんだ。探索者さんたちもぼちぼち帰ってきているっていうしね。けど、みんな大変ね」

「それはミシャさんもでしょ」

「私にはとってもお金の払いがいいお客さまがいるもの。今はちょっとぼんやりしてるけど」

 ミシャが横目に見たランタンは相変わらず太陽を見上げていたが、唐突に我に返ったようだった。

「んあ――ああ、疲れた」

 大きく背伸びをして、ようやく迷宮から帰ってきたみたいに溜め息を吐く。

 首を撫でるとそこにはまだ灼熱感のようなものが残っていた。刺された事による発赤は首筋や手首や足首に微かに残るだけだ。

「なに?」

「いいえ、べつに」

 ミシャは軽く肩を竦めて視線を逸らす。ベルトとロープを一纏めにくるくると巻いて、起重機の荷台に放り込んだ。

「ああ、ギルド行くの面倒だな」

 ランタンは支払いを用意しながら呟く。

 身体の芯が鉛になったような、下腹部に重石を飲んだような疲労があった。毒による興奮作用がすっかり抜き去られて、後に残されたその気怠さはランタンに余り馴染みのないものだ。

 空しさに、少し似ているかもしれない。

「はい、毎度あり。――ランタンくん、ギルドより先にローサちゃんに顔を見せてあげてよ」

「そんな大げさな。たかだか数時間のことだよ」

「その数時間が寂しいのよ。それに毒も浴びたんでしょう? すぐにギルドに行かなきゃいけないなんて決まりはないんだから、ちゃんと休んだほうがいいわよ」

 集金箱に金をしまいながらミシャは諭すように言った。

 ランタンは腕を組んで考える振りをする。

 探索後すぐにギルドへ行くのは習慣のようなものだが、迷宮を未攻略にしたまま放っておくことほどに、これをしないことに抵抗があるわけではなかった。

「じゃあ、そうするか。それでいい? リリオン」

「もちろん。わたしは最初からミシャさんの案に賛成だもの」

 ミシャは次の現場に向かって、二人は帰りを待ちわびているだろうローサの待つ屋敷へと向かった。




 何やら楽しげな声が聞こえてくる。

 それは少女の笑い声で、笑い声は複数あった。

「三人、かな」

 屋敷で働いている侍女の中には年若いものも複数いた。若い侍女たちは時折噂話などで盛り上がって、甲高い笑い声を響かせることがある。

 ランタンがそれを怪鳥の鳴き声と勘違いしたということもあったし、そう言う笑い声が聞こえた時は大抵、その後に彼女たちが叱責される姿を目にすることができた。

 彼女らの声だろうかと思ったが、それにしても幼い笑い声だ。リリオンのそれよりももっと幼く、鈴の音が転がるようである。

 今この屋敷で、こういう声を出すのはローサただ一人だ。

 一人がローサだとして、残りの二人は誰だろうか。探索に出かけている間に分裂したわけでもあるまいし。

 レティシアを訪ねてくる貴族の娘は時折いて、中にはひどく幼い娘もいたが、これほど笑い声が響くことはまずない。そもそもレティシアはまだティルナバンに戻ってきてはいないはずだった。

「きゃー、あはははははは、えへへへへ」

「みぎみぎみぎみぎっ!」

「ちーがーうー、ひだりっ! ちょっとうしろ、ななめまえ! まえまえうしろ!」

 よしんばローサと貴族の娘が遊んでいるとしても、貴族の娘はこんな笑い方をしない。

 誰だろうか。

 ランタンは楽しげな声がむしろ不安で、難しい顔をする。だがリリオンの方は微笑みすら浮かべていた。

 見ずとも何が起きているのかをわかっているように。

 足を止めたランタンを急かすみたいに腕を掴んで、声のする方へとずんずんと引っ張ってゆく。

「ちょ、ちょっと待って」

 もし魔物や物盗りでもいたらどうするんだ、と思う。

 もっとも竜種の巣であるこの屋敷に襲いかかる魔物や、武勇の誉れ高いネイリング家に忍び込む物盗りなどいないのだが。

 ランタンがもたもたしている間にも、リリオンは気にせずに足を進める。

 声は庭の方から聞こえてくる。

 ひときわ高い、笑い声混じりの歓声が聞こえた。

 青空に何かが浮かんでいるのが目に入った。

 それは鞠だった。

 綺麗な幾何学模様が縫い取られていて、大きさは西瓜ほどだろうか。中には鈴が仕込んであるようで、不規則な揺れに合わせてりんりんと音を鳴らしている。

 それは手でもって投げたのではないだろう。

 庭の片隅にはダニエラがいて、風の魔道を使って鞠を空に巻き上げたらしい。力に指向性を持たせるために、人中の二指を揃えて突きだしている。

 老いたりとは言え、精密な魔道の行使だった。

 目に見えぬ風が渦を巻いている様子が、不規則な鞠の動きに可視化される。

 鞠はある程度まで高く舞い上がると、解けた旋風の名残に翻弄されながら、落ち葉のように落ちてくる。

 そしてローサはそれを楽しげに追いかけているのだった。

 目をきらきらさせて、真っ直ぐな喉元を風にさらして、夢中になって空を見上げて走っている。

 鞠は星が一粒、ゆっくりと落ちるようだ。

「まてーっ! あは、あははは、やーん!」

「走ってる……!」

「わあ、すごい!」

 ローサは多少どたどたしているが、それはどこに落ちてくるかわからない鞠を追いかけているからで、探索前のよたよたした動きではなく、普通に走っていた。

 虎の四つ足が力強く地面を蹴って、鞠の落下地点へと走り込もうとする。するのだが、走るほど目測を定めるのは上手くないようだった。

 右に行こうか、左に行こうか。足運びは迷いだらけだが、迷った方向にちゃんと脚が進んでいる。三日前までは、真っ直ぐ歩いても左右によれたというのに。

「いきすぎ! もどってもどって!」

「そこ、ああん、うごいた! ひだり、ひだりはこっち!」

 迷えるローサに指示を出す小さな人影が、ローサの背中に二人ほどいた。

 それは孤児院の子猫と子犬の二人の少女だった。

 虎の胴体を短い足で一生懸命挟み込んで、片手で毛皮を握り、もう一方の手を空に向けてローサに指示を送っている。

 そしてその指示がローサを更に迷わせていた。

 二人して好き勝手なことを言っているし、興奮しすぎて左右の区別がついていないし、そもそもローサは左右の区別をまだ完璧には理解していない。

 それにローサの目測も二人の目測も、どっこいどっこいで不正確だ。

 だがとても楽しそうだった。

 ローサは額に汗をして、頬が林檎のように赤かった。

「これは一体?」

「友達ができたのよ。きっと」

「ともだち」

 未知の生物の名を呼ぶようにランタンは呟く。

 そんなランタンに向かって、鞠を追いかけるローサが向かってきた。ダニエラはすでに二人に気が付いているので、これはちょっとした悪戯のようなものだろう。

 ローサは鞠からまったく視線を外さない。

「ローサ!」

 リリオンが声を掛けた時にはもう遅い。

 ローサは速度を緩めることなく突っ込んできて、リリオンに抱きとめられた。さすがのリリオンも二歩ほど後ろに踏鞴を踏む。

 ランタンは背中から落っこちそうになる二人の首根っこを掴まえて、そのまま優しく地面に降ろした。

「ランタンさま、リリオンさま!」

「こら、ローサ。あぶないでしょ、ちゃんと前()見なきゃダメよ。壁にぶつかったらいたいいたいよ」

 鞠が地面に跳ねて鈴の音を鳴らす。

 目を丸くして驚いたローサははっとして、ぱっと笑った。抱きついたリリオンを更にいっぱい抱きしめる。

「リーオン! ランラー!」

「リ、リ、オンとラン、タ、ン。もうちょっとだな。はい、ただいま」

「おかえり!」

「あら、それはちゃんと言えるのね。ただいま、ちゃんと約束通りに帰ってきたわよ」

 ローサは首を傾げた。

 探索前にした約束のことを、今日が二人の帰還日だということをすっかり忘れていたのかもしれない。

 それぐらいに鞠を追いかけることは、友達と遊ぶことは楽しかったのだろう。

 それはきっと喜ばしいことだ。

「もー、この子ったら」

 リリオンはそう言いながらも笑っていて、その母のような、姉のような表情にランタンは思わず照れてしまった。

 ローサはもう一度リリオンに抱きつくと、胸の辺りに顔を埋めて匂いを嗅いだ。そして同じようにランタンにも抱きついて、こちらは首筋の臭いを嗅ぐ。

 ローサは嗅ぎ慣れぬ、迷宮の匂いを感じ取ったのか怪訝そうな顔をして、また二人の匂いを嗅いで、ぐるりと二人の周りを一周した。

 そうやって二人が本物かどうかを確かめるみたいだった。

 最後にもう一度匂いを嗅いで納得したのか、ごしごしと身体を擦りつけてくる。こういうところは炎虎の名残を強く残していた。

「おかえりなさい、ランタンさん、リリオンさん。予定よりも早かったですね」

 ダニエラが声を掛けてきた。

「はい、ただいま戻りました。ギルドに寄らずに戻ってきたので」

「ああ、そうですか」

「ローサの面倒を見てくださってありがとうございました。悪さはしませんでしたか、家具を燃やしたり、おねしょしたり」

「むー」

 ダニエラが答えるよりも早く、ローサは不満気に頬を膨らました。言葉を理解したわけではないだろうが、侮辱された雰囲気を感じ取ったのだろう。

「シーツを少し焦がしたぐらいですよ」

「ああ、そうなんですか。むー、じゃないじゃないか。やってるじゃん」

「それぐらいなんだから上出来よね」

 リリオンに褒められて、今度は胸を膨らませた。

 ランタンは肩を竦め、ローサを撫でていた手を子猫と子犬の二人の頭の上に置く。

「で、この二人はどうしたんです?」

「はい! はいはいはい!」

「あのね、あのね!」

 二人は競い合うように手を上げて、我先にと言葉を発するが重なり合ってぜんぜん聞き取ることができない。

 ランタンは二人の口に飴玉を押し込み、ついでにローサとリリオンにもあげて、落ち着かせてから話を聞くと、どうやらこういうことらしい。

 街ではネイリングの屋敷から、夜な夜な謎の生物の声が聞こえるという噂が立っている。

 それはきっとローサの泣き声なのだろうが、どこかでその特異な姿を目撃した者がいたのかもしれない。

 噂は、その泣き声の主は毛皮を持つ竜種であるとか、竜種の餌にされる猫人族だとか、亜人とも獣とも違うネイリングが生み出した人造魔物であるとか、さまざまな尾鰭がついて広まっているらしい。

 この二人は孤児院併設の探索者宿泊施設で手伝いをしているため、探索者たちからそういった噂を聞いたようだ。

 そしてその声の主があの()()なのではないかと思い立ち、いても立ってもいられなくなって、その真偽を確かめるべく行動に出たということだった。

 二人は屋敷の中に忍び込もうとしたところを捕まって、なんやかんやとあって無事にローサと出会えたということらしい。

「ここでよかったよ。他の貴族の屋敷だとげんこつじゃ済まないぞ」

「やさしい」

「おやつももらった」

「そうか、そりゃよかったな」

 二人はポケットから食べかけの焼き菓子を取り出してみせてくれた。とても美味しかったから持って帰ってみんなで分けて食べるのだという。

 ローサのポケットからもそれが出てきて、半分に割った焼き菓子をランタンとリリオンに差し出してくれた。

「え、くれるの? ありがとう」

「わあ、うれしい! じゃあローサ、わたしと半分こしましょ」

 リリオンのやり方を見て、ランタンも焼き菓子を千切って二人に分け与える。

 この二人は、ローサの特異な姿を見て、恐れを抱かなかったのだろうか。

「これ!」

「これ、ねこのもよう!」

 ローサの後肢の付け根では縞模様が渦を巻いて、薔薇の花のようになっている。その模様は特徴的で、だが二人はねこがローサであり、ローサがねこであることを知らないようだった。

 二人が手伝いをしている宿泊施設からも戦争へ向かった探索者は多くいたようだ。

 そして最近になって、ようやくぽつりぽつりと彼らは帰還した。

 帰ってきた彼らの姿は、戦争へ行く前と後ではすっかりと違っていた。

 それは探索から帰ってきた探索者が、傷つき肉体の一部を失うこととは訳が違った。

 あの戦いの中で肉体は変化した。

 例えば角や牙や爪。もともと有していた攻撃的な器官が、戦いのためにさらに発達していた。

 あるいはなかったはずのものが身体に発生していた。先述の角牙爪はもちろん、つるりとした人肌に獣毛が生えたり、あるいは獣毛を押し分けるように鱗が浮かび上がったり。

 帰還探索者の中で、身体を隠しているものがいたら、そういう変化が肉体に現れていると思って間違いはない。

 彼らはその変化に戸惑い、他者の視線を恐れ、それでも帰ってきた。

 彼らを変わらずに迎え入れ、いつも通りに接するようにと教えたのはシスタークレアだった。

 肉体ほど、彼らの心は変わっていなかった。

 この二人はローサの身体を、それと同じようなものとして捉えているようだった。

 自分たちとローサの身体の違いは、人族と亜人族、いや人それぞれにある当たり前の違い程度にしか思っていない。違っていて、当たり前なのだ。

「フーちゃ、クーちゃ! ともだち!」

 子猫の方がフルーム、子犬の方がクロエというらしい。

 すっかり仲良しになったようで、フルームとクロエはよじよじとローサの背中に跨がった。

「ローサちゃんの背中おもしろい」

「ベリレさまの肩車と同じぐらい」

「のって、のって! ランラもリーオーも!」

「ほら、僕ら荷物あるから」

 ローサは背に何かを乗せることで、安定した歩き方ができるようになったようだ。

 ダニエラ曰く、目を見張るほどだという。歩行訓練で色々とためしてみたが、あえて負荷をかけるというようなことはしてこなかった。

 重さによって動きが制限されているためだろうか。それとも落とさないようにという意識が良い方向に働いているからだろうか。人の体温が近くにあって、安心しているという可能性もある。

 ローサは二人を背に乗せて、ランタンたちの周りを自慢げにぐるぐると回っている。

「ねえ、ランタンさまたちは迷宮にいってきたの?」

「そうだよ」

「でもぜんぜんけがしてないよ。みんなけがして帰ってくるのに」

「ふふん、すごいでしょー。ランタンとわたしにかかれば迷宮なんて、……ちょっとは大変だけど、こんなものよ!」

「かっこいいー」

 リリオンが胸を張って自慢げにすると、なぜだかローサも自慢げに胸を張った。

「まあこんなもんだけど、疲れたからな。早く風呂入りたい。あー、身体べたべたする」

「ああ、ランタンさんお風呂の用意できていますよ」

「ほんとうですか? ありがとうございます」

 ランタンは目に見えて元気になって、よし、背伸びをした。

「僕、風呂入ってくる。リリオンどうする?」

「わたしも行く。みんなはどうする? もうちょっと遊んでる?」

「やー! いっしょ、いく!」

 ローサはリリオンの腕にしがみつき、ランタンはその背中の二人を見た。

「一緒に風呂入るか?」

「ランタンさまもいっしょに?」

「ランタンさまってやっぱり女の子なの?」

「……どこをどう見ても男だろうよ。やっぱりってなんだよ」

 二人は顔を寄せ合い少し考えて、ローサの背中で内緒の相談をした。

「おふろはいる」

「ランタンさまならへいきかなーって」

 何だよ平気って、とランタンは小さく呟いたが、二人の反応の方こそが普通であり、リリオンとの関係の方が異常であることに思い至って少しばかり反省した。

 一番幼いこの二人の方がリリオンよりも、よっぽど女性としての意識がある。

「お荷物を預かりましょう」

「いいですよ、重いですし、色々持って帰ってきたから後で仕分けします」

「そうですか。ではこちらを」

 ダニエラから手紙を貰い、少女四人を先に浴室へ向かわせて、ランタンはリリオンの荷物も一緒に自室へ向かった。

 背嚢から洗い物を引っ張り出しながら、地面に広げた手紙を読む。

 手紙はレティシアからのもので、それは七日後にティルナバンに戻ってくることを告げる手紙だった。


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