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カボチャ頭のランタン  作者: mm
04.Value Of Life
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 探索後は高級宿に泊まるのがランタンのささやかな楽しみであるのだが、レティシアの父であるドゥアルテにうちの屋敷に泊まりなさいと言われてしまうとなかなか断れるものではない。それは提案ではなく、命令のようなものだ。

 王都に本邸を構えるネイリング公爵家であるが、当たり前のようにこの都市にも邸宅を所有している。

 年に何度も使用する邸宅ではないらしいのだが、庭は庭園と呼ぶに相応しく管理され、建物は高級宿が霞むほど豪奢な造りをしている。

 好きに使っていいと用意された客室は阿呆みたいに天井が高い。灯りを見上げるだけで首が痛い。

 シャンデリアが眩しい。清涼な空気が循環していて、快適な一定の温度を保っている。

「豪華だなあ」

 呟いたランタンに、リリオンが不思議そうに目を向けた。

 この部屋の真隣に部屋を用意してもらったはずの少女は、当たり前のようにランタンの隣に腰を下ろしている。

 洗い髪から甘い香りが漂っていた。探索で染みついた汚れをすべて洗い流したように。

 探索成功を祝した豪勢な晩餐の後に入った風呂は、男と女で別れた。

 エドガーは怪我に障るので遠慮していたが、シュアやドゥイと言った探索者でない者も一緒に。

 男女の区別は当然だと思う。ベリレの裸体を見てむさ苦しいなと感じたのも当たり前だし、リリオンがいなくて物足りないなと思ったのもおそらく当たり前のことなのだが。

 ランタンはきちんと乾かされたリリオンの髪を指に巻き付ける。

 リリララに乾かしてもらったそうだ。髪油を薄くのばして綺麗に梳かしてある。探索中は結ったり編み込んだりすることが多く、きつく癖がついてしまったリリオンの髪は少女の性格のように真っ直ぐさを取り戻していた髪は白銀の絹に似た手触りをしている。指に巻いた髪がはらりと解けた。

「綺麗にしてもらえて良かったね」

「うん。みんなで洗いっこしたのよ! レティシアさんもシュアさんもおっぱい大きかった! 知ってる? ランタンよりも柔らかいのよ!」

「……ああそう、知らない」

 ランタンは低い声で呟いた。そして名前の挙がらなかったリリララを哀れんでいると、リリオンは興奮した様子でランタンの肩を揺すった。

「ランタンは洗いっこした?」

「しません。ベリレもドゥイさんも背中大きいし、面倒くさい。不公平。あとあの二人に力加減ができるとは思わないし。背中ずる剥けになるよ」

 ランタンはおぞましいとでも言いたげな表情で身震いをした。力任せに身体を洗う二人の姿を見て、ランタンは己の身体に指一本触れさせようとは思わなくなった。優しく洗ってくれるとしても御免だが。

 リリオンはランタンの襟首に人差し指を引っ掛けると、ゆったりとした隙間を覗き込んで背中に傷がないことを確認した。そして指をそのまま前にまでするりと滑らせて、胸元も確認する。

「おっぱいないね」

「……知ってるでしょ?」

 馬鹿みたいなことを言ったリリオンにランタンがそう返すと、少女はうれしげに笑った。

「うん、知ってるの。ランタンにはおっぱいがなくて、男の人に触られるのが嫌いで、いい匂いがして、戦うのが強くて、あったかいのよ」

 リリオンはのそのそとベッドの上に這い上がり、後ろからランタンの身体を抱きすくめる。何時もならば熱いだの何だのと押し退けたりするが、あいにく部屋の中は涼しい。

 外は雨だ。

 レティシアが吹き飛ばした雨雲は迷宮特区の上だけで、ぽっかりと顔を覗かせた青空はやがて都市の外へと風に押し流されてしまった。

 窓を叩く雨脚が強くなる。上空高くに流れていた風が吹き下ろして、がたがたと窓が音を立てた。

 リリオンはランタンの肩に顎を乗せて窓の外をぼんやりと眺める。呼吸が耳を擽った。

 甘やかな息遣いと、匂いがする。

 窓硝子に物憂げな表情が反射して映っている。愁いを帯びたように見える表情は、しかしただ眠たいだけだろう。

「シャンデリアってどうやって消すんだ……?」

「んー?」

 呟いたランタンにリリオンは眠たげな声を発した。

 ランタンの背中に猫のように身体を擦りつけて、船を漕ぐように前後に揺れている。幼いその様子は、けれど同時に赤子をあやす母親のような雰囲気もあった。

 ランタンは窓に映るリリオンの姿から視線を逸らし、肩に乗せられた頭を撫でる。

 育ちつつある胸と違ってそれはランタンの知っている大きさをしている。

 ふと気を抜くと項から背中まで滑り落ちそうになるほど綺麗な卵形で、指の腹で頭を揉んでやるとリリオンはくすくすと喉を鳴らした。

 笑い声を抑えるように首筋に唇を押し当てた。

「もう寝る?」

「うん」

「どうする? 部屋に戻る? せっかく用意してもらったし」

「や、――ひゃっ!」

 雷が光った。遠雷だ。音は四秒後に聞こえ、それでも窓硝子が引っぱたいたように震動した。どこかに落ちたようだった。光と音に驚いたリリオンがランタンにいっそうしがみついた。吐息がか細い。

 あの多頭竜に立ち向かえる勇敢な探索者も、この時はただの少女でしかない。

「レティシアさんのはすごいすごいって喜んでたじゃん」

「レティシアさんのは、レティシアさんのだから平気なの」

 ランタンが言うとリリオンは縋り付いたまま唇を尖らせた。

「ま、それもそうか。こら、跡付けるんじゃない」

 リリオンは何度も首を甘噛みして吸い付く。眠気に支配された身体は理性によっては動いていない。本能の赴くままに甘えてくるリリオンをランタンは抱き寄せて、ベッドに横たえてやった。

「もう、全部してくれるんじゃなかったの?」

「うん……でも、眠いの」

 下街の自室にあるベッドの何倍も広いベッドはリリオンを運ぶだけでも一苦労だった。ふかふかで足を取られるほどだ。

 リリオンに布団を掛けて、ランタンはベッドを降りるとカーテンを閉めた。

「ランタン」

「はいはい、すぐ戻るよ」

 胸元をあやすように叩いてやるとリリオンは薄目を開けて、夢を見たままにランタンの姿を探した。

「まぶしい……、ねえ、ランタン……」

「なに?」

 ランタンはリリオンの顔を覗き込んだ。

 薄く開かれた淡褐色の瞳がじっと見つめてくる。ランタンはその目を穏やかに見つめ返す。シャンデリアの光や雷光を呑み込んだような瞳だった。

 少し潤んでいるのは欠伸を噛み殺したからだろう。虹彩が滲んで星々の燦めきに似ている。

「……おやすみ、の――」

 ランタンはリリオンの目蓋を手で押さえた。

 掌を長い睫毛が擽り、リリオンはその先を言わなかった。

 ランタンが言わせなかった。

 ランタンは手を外すと、閉ざされた少女の目蓋に口付けを落とした。

「おやすみ」




 雨が降る迷宮もある。けれど今回探索した大迷宮は気候のない鋼鉄の迷宮だった。

 そんな中に一ヶ月も居たためか久し振りに耳にする雨音が心地良かった。それは子守歌になりうる心地よさなのだが、ランタンは眠ることなくその音を聞いていた。

 雨音と少女の穏やかな寝息。

 幾つも枕の積み重なったベッドの背もたれに身体を預け、リリオンの寝顔を見つめていた。寝返りを打ったりすることもなく静かに眠っている。

 ランタンは指で自らの唇をなぞった。

「……よくわからない」

 寝られないのは本当に雨のせいだろうか。

 ランタンは呟き、思わず膝を抱えるように座り直した。身体を小さく纏めて、一つ溜め息を零した。

「睫毛長いなあ……」

 鼻筋が通っている。唇が桜色で、柔らかそうだ。

 ランタンがしばらくそうやっていると、厚いカーテンに雷光が透けた。雷の音は遠く、リリオンの眠りを妨げるようなことはなかった。

「――誰ですか?」

 雷鳴と同時に扉がノックされた。

 雷鳴に混じったノックの音をランタンは聞き逃さなかった。

 寝られないのは、あるいはここが見知らぬ場所だからかもしれない。長期の探索で人に慣れたかと思えばまたこれか。ランタンが苦笑すると、そっと扉が押し開かれた。

「夜分遅くに失礼致します」

 そこにいたのはリリララだった。垂れた兎耳も赤錆の目付きもそのままに、けれど言葉遣いをあらためて古風なメイド服に身を包んでいたのでランタンはそれが一瞬他人の空似のように思えた。

「ええっと、なんかの冗談ですか?」

「……旦那様がお話をしたいと仰っているのですが」

「その言葉遣いを止めてくれたら考えないでもないです」

「ちっ、黙ってついて来いよ。あーあー、もう女なんか連れ込んじゃって、さすがは甲種探索者様だな。お手が早いことで、いやらしい」

「……考えた結果、お断りしようかと」

「そういうのはもういいよ。はよ来い、……起こしてやんなよ」

 了解、とランタンは小さな声で囁いた。そしてそうすれば安心するとこと知っているのでランタンはリリオンの額に触れ、顔に掛かる髪を払うように頭を撫でた。そしてそっとベッドから降りた。

 部屋の中に入り込んできたリリララがごく自然に用意した室内履きに足を通した。

「ありがとうございます。でも、どうしてそんな姿なんですか?」

「そんなって失礼だな」

 部屋を出て、明かりを落とした廊下を進んでいく。シャンデリアのついたままの部屋を出たせいでひどく暗く感じた。瞬きを何度も繰り返し、闇に目を慣らしていく。

「あたしの本職はこっちだよ。結構いけるだろ?」

 リリララは紺色のスカートをちょんと摘まんで、裾を揺らしてみせた。白いソックスに包まれた足首の細さにランタンは一瞬目を奪われた。脹ら脛の形が綺麗だ。

「ええ、すてきです。でも今日の今日、じゃないや。昨日の今日で、まだ疲れもあるのに」

 日付はすでに変わっていた。けれど探索を終えてからまだ半日ほどしか経っていない。

 リリララはぱっとスカートを手放し、ぱっぱと(はた)いて裾を伸ばした。

「お嬢の仲間でいられるのは風呂までだよ。探索の垢と一緒に、探索者のあたしは綺麗さっぱりよ。んで、こっちの仕事は無断で休みっぱなしみたいなもんだったから慣らしを兼ねてね。それにちょっと寝られないし丁度いいよ。あー、お前の顔みたら眠たくなってきた。リリオンもぐっすりだったみたいだし、睡眠薬代わりだな」

「廊下で寝ないで下さいよ。……それでネイリング公は何の用事でしょう?」

「さあ? あたしはただの使用人だからな。でも(わり)い話じゃねえよ。こほん」

 リリララは立ち止まり口元に拳を当てて咳払いをした。まるで手を温めるようだった。

 そしてその拳で大扉をノックした。

「――失礼します。ランタン()()をお連れいたしました」

「……うわ、鳥肌が。痛い!」

 リリララは振り返りもせずランタンの臑に蹴りを叩き込んできた。本気になれば臑を踏み折るような蹴りだ。ランタンはじんじん痺れる臑の痛みに黙りこくり、ゆっくりと振り返ったリリララに取り敢えず曖昧な笑みを浮かべた。赤錆の目が据わっている。

「ご苦労、入ってくれ」

 ドゥアルテの声にリリララは表情をあらためて、扉を開いた。

「どうぞ、ランタンさま」

「あ、ありがとうございます。――失礼します」

 頭を垂れたリリララに見送られて足を踏み入れると、すぐに背後で扉が閉まった。

「休みのところ、呼び出してすまなかったな。そんなところに立っていないで、こちらに来なさい」

 ドゥアルテはこの時間まで仕事をしていたのだろう、執務机から立ち上がり手招きをした。晩餐の際にレティシアが心配で書類仕事に手がつかなかったとドゥアルテは冗談めかして言っていた。

 ドゥアルテは見かけによらず気さくな人物だったが、ランタンは教師に手招きされたような億劫な気持ちになった。

 恐る恐る足を踏み出したランタンの肩に、背後から手が置かれる。ランタンは反射的に振り返った。リリララは扉の外で、肩に置かれた手は女のものではない。

「緊張しすぎだ。それとも眠いだけか?」

 エドガーが笑いながら呟き、ランタンは眉根を寄せて、同じく笑うドゥアルテの顔と交互に見比べた。

 ランタンは腰に手を当ててはっきりと言い放った。

「眠たいだけです」




「明日には帰らねばならん。その前に少し話をしたく思ってな」

「お話ですか……?」

 ランタンはドゥアルテに手ずから淹れてもらった暖かい紅茶を、唇を湿らせるように啜った。雨の夜は僅かに肌寒さを感じさせる。雨音がそう錯覚させるのだろう。

 話とは一体何だろうか。

 探索にまつわる感謝や労い、あるいは詫びは晩餐時にすでに頂戴している。

「ランタン、君の事については君が探索している間に調べさせてもらった。君自身のことも、君の置かれている状況も。君とレティシアの間に交わされた約束も、聞かせてもらった」

「はい」

 ランタンは返事をしながら、しかしそれにしても貴族は人を調べることが好きだな、とぼんやりと考えた。それがきっと顔に出ていたのだろうエドガーが頬に苦笑を滲ませた。

「まず結論から言おう。ネイリング公爵家はランタン、君をエドガーさまと同列の客分として歓迎させて頂きたい」

 ドゥアルテはそう言って一振りの短剣をランタンに差し出した。

 鎧通しと呼ばれる刺剣だ。柄頭と鞘にネイリング家の家紋が記されている。鞘の彫刻は美術品のように見事だったが柄巻の革は実用的で、刃の厚みは鎧の隙間を狙わずとも人を殺傷できそうだ。

「面倒事があったらその短剣を見せなさい。その竜紋を知っている者が相手ならば効き目は抜群だ」

 ネイリング家の家紋を一目見て理解できる人間とは、つまり尊い世界に生きる者たちのことである。

「ありがたく頂戴いたします」

「……しかしサラス家か。面倒な者を相手にしているな。」

「でも、それが……狙われているという事自体は面倒なのですが、何かが実行されたというのはまだ一度きりしかないのです」

「それは君が知らぬだけだ。事実、君への逮捕状が発行されていた。……娘の恩人が犯罪者では困るから握り潰させてもらった。罪状はでっち上げのようだったがな。サラス家の者を下街にて殺害した嫌疑が掛けられていたか」

 ランタンは小首を傾げた。その記憶はないが、あるいは襲いかかってきた有象無象のうちの一人二人がそうであった可能性は否定できない。

 ドゥアルテはギルド証を指差した。

「それは大事にすることだ。君の身の潔白を証明する確固たる証拠になりうる。襲いかかってくる者を返り討ちにしたとしても、逮捕の口実になりうるからな。下街は事実上の無法地帯だが、完全に法の外にあるわけではない」

 ランタンは真新しいギルド証を撫でた。体温に暖められて、それは手首と一体となったように馴染んでいる。

「此度の狙いはランタンの生け捕りと、リリオンとの分断だろうな。君を失った巨人族の娘など捕らえることは容易いだろうし、罪人となった君を金で買い取ることなど造作もない。狙われているのはあの娘ばかりではないぞ」

「肝に銘じておきます。もしかして、……知らない間にそういうことは他にもあったのでしょうか?」

「あった」

 断言したのはエドガーだった。

「だが探索者ギルドがそれを潰してきた。リリララが告げ口をしていたようだから知っていると思うが、ギルドはお前を調べていた。俺まで使ってな」

「……理由はなんでしょう? 僕を調べるのも、守ってくれていたのも」

「一つはお前の活躍ゆえに、目立つ探索者は経歴を探られる。これはお前に限ったことではない。そして二つ目は素性の怪しさゆえに。ギルドが本腰を入れても過去が探れないとなると、以前も言ったが、それは尋常のことではない。正直なところリリオンの血のことよりも、そちらのことの方が気になる。巨人族は人間だ。リリオンこそが、その証明だ。だがお前はどうだ? どこから来た? 何から生まれた? 果たして、本当に人間か?」

 突き付けるように言われてランタンがむっとして眉根を寄せた。

 するとエドガーは厳しく細めた目付きを緩める。

「と、言うようなことを探れとギルドに言われたわけだ。安心しろ、お前が不利になるようなことは言わん」

 冗談めかしてエドガーは続けたが、ランタンはしかし自分への疑いが湧かないわけではなかった。

 過去を正確に把握しないからこそ誰かから、お前は魔物である、と断言された時に一つの疑いもなくそれを否定できるかと問われるとランタンは頷くことができない。

「失礼な話ですね」

 ふん、と鼻を鳴らした。呟きは強がりかもしれない。

「これ、エドガーさまを責めるでない。ギルドの杞憂も仕方のないところはあるんだ。貴族の中では探索者ギルドを公的な機関にしようとする動きが根強いからな。魔物を忍び込ませたことに気付かぬとなると、責任能力が問われて迷宮管理の権利を取り上げられかねん」

「ネイリング公は貴族なのに、肩入れしてよろしいのですか?」

「権利を取り上げただけでは意味がないからな。今まで積み上げられてきた人も含めた技術がなければ、迷宮どころか探索者すら管理はできん」

「それを理解せん奴も多いがな。特に最近の探索者は、以前よりも(たち)が悪い。そして、それこそがギルドがお前を守った理由だ」

「自分で言うのも何ですが、僕が使える探索者だからですか?」

「……そうとも言えるし、そうでないとも言える」

「煮え切らない言い方ですね。言いたくないのならば、いいですけど」

 ランタンが拗ねたような表情になるとエドガーは左手で頭を掻いた。困っているというよりは、悩んでいるような雰囲気があった。

 ドゥアルテがエドガーの続きを口にした。

「どうやら探索者ギルドはエドガーさまに代わる次代の英雄を求めているようだ」

「何のために」

「大々的な英雄を立てて、今ある探索者の風潮を一掃したいのだ。探索者による犯罪の増加、攻略失敗、未帰還の増加、そもそもとして志願者が減っている。エドガーさまが黒竜を討たれた時、多くの探索者が死んでいったが、結果的に探索者の数は増大した。エドガーさまに憧れてな」

「僕では力不足かと思いますが」

「そんなことはない」

 ランタンが胡乱げに呟くとエドガーが強い口調でそれを否定した。

「お前には人を惹きつける魅力がある。そして探索者という性質上、それは人を死に向かわせる力にもなる」

 エドガーは眉根を寄せて厳めしい顔で言ったかと思うと、自らの言葉を否定するように、あるいはやりきれぬように首を振った。

「いや、――これはもうギルドは関係ないのだ。俺は時代が英雄を必要としたからギルドが仕立て上げた人造の英雄だが、……だがお前はものが違う。お前は強く、眩しい」

「そんなことはないです」

「あるのだ。お前には英雄の資質が」

 ないです、と言おうとしたランタンをドゥアルテが制した。

「両雄並び立たずではないが、その言い合いに終わりはないだろう。エドガーさまにはそのように見えたという話だ。だが、俺も今日の探索者の煽りようには感服した。人を率いる資質は間違いなくある。どうだギルドを辞めてうちの騎士団に来ないか、隊長にしてやるぞ」

「おい、ドゥアルテ。貴様」

「そしていずれレティシアの婿になればよい。ネイリング公爵ともなればお前に手を出す者は何もなくなるぞ」

 ドゥアルテはレティシアにそっくりの緑の瞳を爛々と輝かせた。

 冗談で言っているのか、本気で言っているのか理解できない。

「エドガーさまが英雄と見立てたのならばレティの婿として申し分はないし、宝剣は君に寄り添って帰ってきたといっても嘘ではない。それにレティも君のことを好ましく思っているようだからな。――それに何より血も繋がっておらん」

 最後の言葉にランタンがぷっと噴き出すとドゥアルテも笑った。そして咳払いをした。

「急のことで混乱するのはよく判る。お前は英雄だ、と指を差されても実感はない。そう仰っていたのは貴方でしょう? エドガーさま」

「む、確かに。そうだな」

「――ランタン、その短剣で多くの面倒を払うことはできよう。だが世の中には竜紋の威光が通じぬ闇もある。サラスは表立って動けぬとなれば、迷宮よりも暗いところから君を狙うだろう。……英雄や、公爵という肩書きは、単純な腕力では敵わぬ者から自分も、大切な者も守ることを可能にする。君たちがネイリング家の庇護下に入ったように、君自身がそういったものになれる」

 ランタンは唇を結んで、祈るように両手を組んだ。拳に押しつけた唇が熱い。

 三人は暫く黙り込み、沈黙を破ったのはエドガーだった。

「混乱させて悪かったな。だがその可能性を知らんでおるより、知っておいた方がいい」

「実感がこもっていますね」

「……まあな」

 エドガーは苦み走った顔で、億劫そうに身体を伸ばした。

「もういい時間だな。呼び立てて悪かった。何か聞きたいことはあるか? 明日の早朝にはもう街を出ねばならんのだ」

「聞きたいことですか? そうですね」

 ランタンは立ち上がり小首を傾げ、暫く悩んだ末に天井を指差した。

「シャンデリアってどうやって消しますか?」


来月の更新終了!(前借り)

さて来月はどうなるかなあ……?

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