66、困惑の先に見えたもの
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夕方、要の迎えでお開きになったチョコ作りの会。
女性陣が4人集まって作っただけあり大量に出来上がったチョコ達は、完全に固まっていなかったので、絵梨はそのまま知崎邸に預けたまま帰宅することにした。
要の訪問を知らせるチャイムで、一目散に玄関に向かったのは絢音だった。
釘を刺しに行ってくれたのかも。と思いつつ絵梨が貴婦人の絵の前に立つと、再度彼女が姿を現した。
先週とは違うオーラに、ここまで変わるものなのかと戸惑ったが良い方向に向かっているなら言うことはないと笑った。
そんな絵梨に貴婦人は一礼して来た。
《ありがとう》
そう言った彼女の表情は落ち着いており、笑顔もチャーミングだ。
《今は幸せ?》
要望は叶ったのか。そう遠回しに言えば満足そうに頷いた。
その時に放った彼女のオーラが一層と輝き後光が指す勢いだった。
相変わらずの光量に絵梨の顔や頭に光がプスっと指す。
これは、、、、すでに付喪神になりかけているな。
絵梨はこの時、昔姉から聞いた話を思い出していた。
白芭の本堂周りには至る所に古いものが鎮座しており、姉がいつだったか言っていた。
『眩し過ぎて方向を見失うほど相変わらず存在感が至る所にあって、ある意味ここは伏魔殿ね』
『眩しいってどう眩しいの?」
『チリ積もとでも言うのかな。それぞれの光量には差があるんだけれど、高位ほどたくさん輝いていて質も違ってくる。この中で1番高位の付喪神は虹色に輝いてるわ』
そう言った姉は急に腕で目元を遮り『一々主張しなくて良いです!そこにいらっしゃるのは分かってますから!』とどこかに向かって声を張り上げているのは見ていて知っている。
残念かな、その当時絵梨にはそれを感じられるだけの能力はなく首を傾げるだけだたが、今ならばあそこに行けば感じ取れるだろうか・・・。
絵梨は目の前の付喪神予備軍に目を向け《また何かあったら相談して》と言うと、貴婦人がすっと握り拳を差し出された。
意図を把握出来す首を傾げ、同じように拳を作りコツンと拳同士を合わせれば苦笑いされた。
貴婦人は笑顔で絵梨の拳を開かせると、手のひらに何かを渡して来た。
見ればそこには宝石のついたイヤリングが1つ鎮座していた。
見覚えのあるイヤリングだ。
貴婦人の絵画に描かれていた彼女自身が身につけていた装飾品だった。
驚いて彼女の顔を見れば、左側のイヤリングが消えていた。
《これは?》
意味がわからず問えば、彼女はにっこり笑った。
《感謝の印に持っていって欲しい。きっと役に立つはずだから》
《役に立つ?》
《御守りくらいにはなるはずだから、肌身離さず持っていて》
手のひらの上にあるイヤリングに目を向ければ、確かに悪いものは感じない。
付喪神になりかけたモノからのプレゼントに、絵梨は貴婦人に綺麗にお辞儀をして《ありがとう》とお礼を言って素直に懐に入れた。
ちょうどその頃、迎えに来た要がリビングに姿を現したが元気がない。
後ろを歩いていた絢音の明るい表情を見ると、彼女に言い包められたようだと察した。
強い味方が出来て絵梨は心穏やかになると同時に、要に対して申し訳なさも感じ複雑な感情が芽生えたが、だからこそ家族の事件を早々に解決しなければと改めて決意するきっかけになった。
その後、帰宅しようと玄関に向かえば、タイミングが悪いとしか言いようがなかった。
休日出勤していた一心に玄関先で捕まってしまったのだ。
早く帰りたい要と引き止めたい一心の知崎兄弟の応酬の最中、今日に限って門限があるという葉山が笑顔で帰宅する彼女にずるい!と一緒に帰宅の途に着こうしたが一心が許さなかった。
ちなみに義父は取引先の会長とゴルフ接待の後、会食があるとのことで本日は帰宅が夜遅いとのことだった。
義兄の要望(強引)に一緒に夕食をいただく事になったが、先週とは打って変わって明るい家族団欒のやり取りが見れて、絵梨は昔を思い出し懐かしく感じていた。
事件が起きる前の家族との風景と重なり考え深くなったのだ。
仲の良い両親と気立のいい姉。
家族4人で頂く食事はいつも笑い声が絶えない、温かい食事風景だった。
両親はどんなに忙しくても、週に2日は家族みんなで夕食を共にしていた。
叔母の家に行って不幸せだったわけではないが、寡黙な叔父と自身が居候の身という負い目から食卓は賑やかとは言えないものだった。
(ああ、家族団欒ってこういうものだったな)
明るく笑顔の絶えない風景を見ながら、ああ、だから貴婦人も一気に毒気が抜けたのか。と納得した。
これまではいつ誰が通るか分からない暗く長い廊下に飾られ、寂しい環境からここに移動して彼女の置かれた状況は一変しただけでなく、この家の誰もが彼女のことを物としてではなく、人として扱い始めた。
一心が帰宅してリビングに入ってすぐにしたことは貴婦人に帰宅の挨拶をしたことだった。
静波も葉山が帰宅し皆でリビングに移動した際、先輩が帰宅したことや今日は話し相手になれなくてごめんなさいと謝っていた。
この家の誰かが話しかける度に、彼女の周りの光が少しずつ増える現象に絵梨は驚いた。
食事が用意され、皆が席に着く頃には貴婦人は絵画から抜け出てリビングテーブルの上から覗き込むようにその風景をニコニコと眺めている。
この家の家族の一員になったような彼女を見て、この環境が定着すればもう数ヶ月後には付喪神かこの家の守護神になるかもしれないなと感じた。
食事後ようやく一心から帰宅の許可が出て玄関に向かう際、絵梨は絢音に貴婦人には積極的に“ありがとう”という言葉と、お神酒よりは一輪挿しでも良いのでお花を供るともっと良い運気が巡ると助言しておいた。
絢音は笑顔で親指を突き出していたので、この後家族会議を設けて対策を打つだろう。
この家の精神的支柱の彼女が主導してくれるなら、悪い事にはならないだろうと、ようやく家路に向かった。
要の車でマンションに戻る際、1つ目の信号で要に手を握られた。
義姉に釘を刺されたはずなのに、懲りない人だと視線を向けた。
「運転中に片手運転は良くないんじゃない?」
「信号が赤の時くらい少しは良いだろう」
「絢音さんに止められたんじゃないの?」
「止められたよ。結婚するまでは健全であれって。あれエリンが頼んだの?」
「まさか。話の関係で私たちの事を話はしたけど、絢音さんは自身のことと重なる部分があったのか自分から買って出てくれたわ」
「兄さんのせいかよ」
恨みがましい表情をした要は、信号が青になり絵梨から手を離し運転に集中した。
そんな要とは違い絵梨は、仲嶺の家族を思い出し笑みが溢れた。
「絢音さんってどことなく姉さんに似てるのよね」
「そうか?」
同意しかねる!と否定する要に、絵梨はさらに笑いが込み上げてきて口を開いた。
「それからしたら、姉さんが生きていたら絢音さんよりも私たちのことにうるさく口出ししてるんじゃないかしら」
その言葉に要はゲ!っと顔を顰め「冗談でも考えたくもない」と呟いた。
その表情が孤高の紳士には似つかわしくないもので、絵梨は思わず声を出して笑ってしまった。
最初顰めっ面だった要もそんな絵梨を見て、弱目になってウインカーを出しながら主要道路に入って行った。
「あれ、こっちの道通るの?」
要のマンションの位置から考えたら、遠回りするルートに疑問を持って口にすれば要が返答した。
「もう1つの道路は工事になっていて迂回するようになってたんだ。多少遠回りでもこっちしか帰る道がないから、少し長めのドライブしながら帰ろうか」
「わかった。それより少し眠っていい?慣れない事してちょっと疲れちゃった」
「いいよ。迂回車が多くて渋滞気味だし、自宅に着いても起きなかったら部屋まで運ぶからゆっくり寝たらいいよ」
「いや、そこは叩いてでも起こして」
間違ってもお姫様抱っこでマンションに入りたくなくて言うと、要は笑って了承した。
程なくして夕飯を食べたばかりの上に車の振動もあり、助手席の座席で横になって吸い込まれるように寝た絵梨は、久々回想夢を見た。
ほんの少しの時間の中での夢だったが、なんの夢なのか理解出来ない回想夢にこれからどう活用できる内容なのかこの時の絵梨は全く理解出来なかった。
時間にしたら30分くらいのうたた寝だっただろう。
目が覚めても事件にどう関係しているのか分からず、モヤモヤしながら助手席から外の風景に目を向ければ、見覚えのある通りに車は差し掛かっていた。
進行方向右手にあるコンビニを過ぎて2本目の信号のところにある上り坂を登った先に、絵梨が15年住んだ仲嶺邸があった。
今ではよく知らない親戚だという人物が邸宅に住み、父の会社を継いでいるらしい。
こっちに帰って来てからも、家族の思い出が多い自宅を見る勇気がなく意図的にこの辺には近寄らないようにしていた。
こんな形でこの辺に来ることになるとは思わなかった。と邸宅方面を見て絵梨は表情を固くした。
この通りの中で1番大きな邸宅。
道路から見える外壁の手前に低木の樹木が立ち並び、外壁奥にも落葉樹や常緑樹が数本植えられている。
事件が起きる9年前同様の木々が立ち並んでいる中に、この辺では有名な紅枝垂れ桜の木が1本ある。
仲嶺の曽祖父が樹齢500年のその大木を知り合いの園芸屋さんから仕入れ植えた見事な桜木は、エドヒガン系の変種で滝のように垂れ下がる枝に濃い紅色の花を咲かせるものだった。
そこにこの時期にしたらありえないものが、絵梨の瞳に映り狼狽した。
渋滞のために仲嶺邸のちょうど横の信号で車が止まった時に、絵梨は自分の目に映る光景が信じられず二度見し、恐る恐る要に質問した。
「要くん、仲嶺邸の方を見て桜の木はどうなってる?」
「どう言う意味だい?」
要は赤信号なのを確認してから仲嶺邸の方向に視線を向けたが、彼には異変と思えるものは見えなかったらしい。
と、なれば絵梨の瞳だけがその異変を目にしたことになる。
驚愕な表情を浮かべる絵梨に何かあったと感じた要は、運転を再会させながら情報を引き出した。
「あそこに恭二くんの父親に繋がるものがあると感じたのかい?」
要の言葉に絵梨は頷き、パニックを起こしたように宇崎邸に向かうように言ったが要が止めた。
事が事なだけに、時間が遅い時間に宇崎や警察が動くのは逆に効率が悪い。
ましてやあの屋敷はすでに別の人間が住んでいる。
宇崎には事情を説明し、明日の朝に仲嶺邸で集合してからその手がかりを見つける方が良いと要は判断し絵梨を諭した。
緊急性があるとはいえ、確かに夜遅くに警察と乗り込むのは非常識か。
と絵梨もその言葉に納得した。
内容が内容だけに絵梨は感情的になり、まともに会話できそうにないと判断し、気持ちを落ち着かせながら真一にメールを送った。
[仲嶺邸の桜の大木の下に宇崎隆二に繋がる情報あり]
[明日の朝までに捜査令状の発行を求む]
その二文を真一に送れば、すぐに電話が入った。
『仲嶺邸の庭に間違いなく叔父に繋がる情報があるのですか?』
「間違いないわ。この目で見て判断したから」
『しかし一晩で捜査令状を発行するには準備が全くなかっただけに難しいと思います』
「クリリンでも無理そう?」
『仲嶺邸をマークしていたならあり得ませすが、そんな話は最近は聞いてませんから』
彼には通常業務もある。
発行にはどんなに早くても2日はかかると見た方がいいとの事だった。
「それなら、なしで行きましょう」
『捜査令状なしでは、現仲嶺の当主は拒否すると思われますが・・・』
「手土産を持っていけば、快く協力してくれると思うけど?」
『手土産、ですか?』
意味がわからず質問する真一に、絵梨は先ほどの回想夢を思い出しながら、ここでその情報を使えってことでしょう!と目に力を入れた。
「真兄が母さんから預かった例の物よ」
絵梨の言葉に、電話先で息を呑む真一の行動で夢での出来事は間違いがないと判断した絵梨は顔を強張らせた。
「わかったら、この情報をクリリンにも共有した上で明日仲嶺邸に乗り込むわよ」
『了解しました。集合時間は栗林刑事に一任します。よろしいですね』
刑事である彼がいた方が事はスムーズに進むだろう。
「わかった。時間が確定したらメールでいいから連絡して」
『すぐに動きます!』
待ちに待った情報なだけに、真一も意欲的だ。
この捜査の結果、彼らにとって最悪な結果になったとしても現状を正しく知る事は大事だ。
絵梨は悲痛な面持ちで電話を終えたスマホをギュッと握りしめた。
次回投稿、出来るだけ早くUPしたいのですが体調と相談もあるため、気長に待って頂けると嬉しいです(汗)




