プロローグ
私的にはかなり攻めた作品となっています。
楽しんで頂けたら嬉しいです。
プロローグ含め4話投稿済みです。
『皆さんは“悲劇のシンデレラ“と言われた女性を覚えておいででしょうか』
年末の【世紀の大事件!!ここ50年での出来事 一挙放送!】の一幕で紹介された、ある事件の振り返りが公共電波を使って放送された。
毎日平日の朝の報道番組で司会をしているフリーアナウンサーがこの半世紀に起きた未解決事件を取り上げながら番組進行していく中、番組終盤にある事件を取り上げてそう紹介し始めた。
『皆さんは悲劇のシンデレラ、と呼ばれた女性を覚えておいででしょうか。今回の事件は今から約9年前に起きたものですが、鮮明に覚えている方も多いのではないでしょうか』
そういうと画面に一人の若い女性が映し出され、事件を知らない観覧席にいた若い男性達は儚げで美しい女性が映し出され魅入っている様子が画面を通して映し出されていた。
『当時大企業の令嬢が、自身の婚約者に傷害を負わせたと話題になりました。この事件は狂気的なものとは違いましたがその背景に悲痛な面持ちになった方もいたと思います。それ故に加害者でありながら悲劇のシンデレラと言われた女性の話です。加害者である女性は婚約者と言われていた男性Aさんとその時一緒にいた女性Bさんの二人を同時に襲いかかった事件です。被害にあったその女性Bさんは後に病院で亡くなっています。現行犯逮捕された加害者の名前は仲嶺真梨21歳。当時傷害罪から殺人罪に切り替えられ捜査は行われました』
アナウンサーが被告の名前を読み上げる時に画面に映し出された女性に右手を大きく伸ばし4つ指揃えて指した。
それに続きコメンテーターの年配の男性芸能人が補足するように口を出した。
『事件直後の当時、取材に応じた亡くなった女性Bさんの親族の話を鵜呑みにして、加害者が婚約者Aさんとただの親友Bさんとの場面を浮気と勘違いして二人を刺したサイコパスだと各局が放送したこともあって、皆信じてしまいましたよね〜』
それに続くようにアナウンサーが大きく頷き言葉を続けた。
『そうでしたね〜。しかし捜査を続けていく内に分かったことは、被害に遭った男性Aさんは事件が起きる数日前に加害者に一方的に婚約を破棄していた事実が発覚しました。その理由が他に好きな人が出来たので破棄するという内容だったそうです』
その言葉にアイドル上がりの若いコメンテーターの女性が挙手し質問してきた。
『私その辺の記憶曖昧で教えて頂きたいんですけど〜、そもそもこの婚約って愛し合って決まった婚約なんでしたっけ?』
可愛らしく首を傾げて人差し指を口元に当てて質問する彼女に、アナウンサーは否定した。
『そこが不可解なんですよ。この二人の婚約はあくまで家同士が決めたものでそこに愛情があったかは定かではないと言われています。なのに彼女は凶行な手に打って出たのは何故なのか。家同士の決まり事であったら他の良い家柄の人と婚約を結び直せば良いだけなのに相手の女性にも傷を負わせるなんてそこに感情がなければしないですよね?』
『あ、じゃあ亡くなった女性Bさんはやっぱり浮気相手だったんですねぇ』
そう突っ込んだ先ほどの元アイドルがコメントすれば、その隣にいた外国人芸人が口を開いた。
『それだけではなかったと記憶していますよ。殺された女性Bさんのお腹には子供がいたとかでDNA鑑定で被害男性Aさんの子で間違いがないことが判明してましたよね』
その言葉に司会のアナウンサーが大きく頷いた。
『警察の発表では被害者Aさんが浮気をして相手のBさんとの間に子供が出来たことが事件に結びついたと見解を述べました。Bさんの家柄と真梨被告の家柄に遜色なかったことで、乗り換えられたのだろうと。そして捜査の過程でもう一つわかったことは、真梨被告は婚約が決まった後に婚約者Aさんにかなり献身的に接していたようで、Aさんが他の女性達との密会現場にアッシー代わりに加害者である真梨被告にさせていたことがわかっています』
『え、クズ中のクズじゃん』
同じ女として元アイドルコメンテーターが言えば、会場の観覧席の女性陣もそうだそうだと頷いていた。
『まあ、だからって殺していいと言う話ではないですけど』
道徳的なコメントを神妙な面持ちで呟いた元アイドルの言葉をマイクが拾い、それはそうだとコメンテーター皆が眉を下げてうつむく中、司会者が話を進めた。
『その報道があってから真梨被告への同情が一気に高まったのですが、彼女はその報道があった二日後、留置場で自死しています』
『何もそこまでしなくても・・・と思ったことは覚えていますねぇ』
年配の男性芸能人が呟けば、元アイドルコメンテーターが再度質問する。
『ちなみにですけど、その婚約者ってどうなったんです?』
『法での裁きが行えるものではありませんでしたし、海外に逃げてその後の行方はわかっていません』
司会アナウンサーの切り捨てるような発言の後、それまで黙って話を聞いていた不良弁護士と言われる人物が口を挟んできた。
『この事件は警察上層部の方針で、被害者側への配慮として異常なほどの報道規制をかけた影響でベールに包まれた事件だった。被害者の親族を名乗る人物が自ら報道各所の前で証言した事以外、報道は完全シャットアウトされた。それでもこの事件には何かあると確信した報道官たちが情報収集して行く中で加害者側の情報だけが拡散し、加害者の一族だけが矢面に立たされた。警察本部もこのままではメンツが潰れるってんで一部情報開示して再度報道規制をかけようとした矢先に被疑者死亡で捜査本部は畳んだ。まるでこの事件を有耶無耶にして早々に引き揚げたようにも俺は感じたねぇ。しかもこの事件の一件で加害者の両親は事故で亡くなり、その捜査もお座なりに済まされた。この事件に対する警察の対応には正直俺は裏があるように思えて奴らの闇を感じたねぇ』
かなり突っ込んだ話に司会者も困惑顔で弁護士を見たが、彼はわかっていると手で静止して再度口を開いた。
『今回この報道の一部にこの話を差し込んでもらった理由ってがあってな。その加害者の妹ってのがあの事件以来姿を隠しているんだが、ある一族がその彼女を追ってる』
『被害者の家族ですか?』
『いいや。彼女を探しているのは知る人ぞ知る白芭家。加害者の母方の実家にあたる一族だ。この事件を機にその一族は事業を一気に畳んだようだが、その婆さんはかなりの資産家だった。約5年近く前に亡くなってるんだが、遺言書が残されていて5年後にその遺言書を公開する手筈になっていて、数日前に初めて親族に通達されたらしい。"加害者の妹の前でないと遺言書の公開はしない"とね。その親族は阿鼻叫喚だったらしいよ。俺がこの電波飛ばしてでも誰に何を伝えたかったかっていうと』
それまで引で撮られていた映像がその弁護士を寄りで映し出すと彼はドヤ顔で言い放った。
『“仲嶺の真のご令嬢“。興味があるなら名乗り出たらどうだい?』
放送はここで終了し、CMが流れた。
雑談や紙をめくる音などが響く室内の一角でその報道の映像が流れるスマホ片手に、空になったお弁当箱を机の端に寄せて1人の女性がその画面を見入って座っていた。
その女性の後ろを歩いていた一人の筋肉質な男が、スマホ画面に特徴のある番組映像シーンに気がつき、立ち止まって声をかけた。
「あれ、この放送って年末にしてなかったでしたっけ?」
そんな若い男性の声が響き、スマホの画面を見ていた三十代の眼鏡をかけた女性は片方のワイヤレスイヤホンを外し振り返りながら返答した。
「そうなんだけど、この時子供の面倒見てて見そびれたんだよね〜。録画するほどじゃなからリアタイでは流し見してたんだけど、子供が愚図るからリビングを離れなきゃいけなくなって。後で旦那にこの事件の情報が流れたって聞いてたから気になってね。わざわざサブスク契約して見ちゃった」
本日は年明け初日の出勤日で、建物外では激しい寒風が巻き起こり若い女性たちの悲鳴に近い声が遠くから聞こえていた。
「気になるって、柴田先生この事件の関係者とお知り合いなんですか?」
スマホ画面を指差し覗き込む男性に女性は笑って手を横に振った。
「まっさかぁ!ただ加害者の女性って私と同い年で地元じゃかなり有名なお嬢様だったらしいのよ。私の友達とか遠巻きで見に行ってたほど綺麗な人だったらしいんだよね」
「あ〜、確かに優しい面持ちの人でとにかく美人でしたもんね〜」
画面に映る女性に釘付けの男性をよそに女性は、昔を思い出すように遠い目をした。
「この人の報道を当時聞いててお嬢様にはお嬢様の悩みがあるんだなぁって勝手に思ったことを覚えてる。と、同時にあの当時は楽しかったなぁって感情が芽生えて・・・・」
ここで女性は目を閉じ、クッと眉間に皺を寄せた。
「何が言いたいかって、今の現実が辛い!」
子育てで疲れた彼女が苦渋顔で言えば男性は苦笑いしていたが、気になっていたことを口にした。
「ところで"しらば家"って何者なんですかね?知る人ぞ知るってどういう意味なんでしょう?」
「本当にね〜。私も旦那に聞いてそこが気になって放送を見返したんだけど、それらしい情報はないもんねぇ。不思議とあれから報道各所では話題にも上らないし週刊誌もなしの礫でしょう。唯一SNS上だけ大炎上中らしいんけどねぇ」
「そうなんですか?」
「旦那情報だから本当かどうかは不明だけど、そのしらば家?って拝み屋の一族じゃないかって言われてるんだって〜」
「拝み屋、ですか?」
「SNS上の無責任な発言だから信憑性は定かじゃないけどねぇ」
ちょいちょいっと手招きした女性が、近づいてきた男性の耳元でボソリとつぶやいた。
「何でも政府御用達の拝み屋だったらしいわ」
聞いた男性は困惑顔を女性に向けたが二人は顔を合わせ、まさかねぇっと苦笑いし合った。
そこへ近くを通りかかった一人の白衣を着た小柄な女性が、何かに気がついたように立ち止まると二人に声をかけて来た。
「お話盛り上がっているところ申し訳ありませんが、柴田先生も木田先生も今日は午後一番で授業なかったです?もう昼休憩終わりますけど、大丈夫ですか?」
その言葉にそれまで話し込んでいた二人の人物は、時計を見て顔を真っ青にさせた。
「やだ!もうこんな時間、教室戻らないと!」
柴田と言われた三十代の女性は慌ててお弁当箱を片しながら、白衣の人物に笑顔を向けて来た。
「あ、先生。声かけてくれてありがとうね!」
そういうと柴田は数冊の教科書と指揮棒のタクトを持って部屋の入り口に速足で移動した。
「俺も授業だった!田中先生感謝っす!」
年若い体躯の良い木田と言われた男性は、白衣の女性に声をかけると大慌てで校庭に向かってその身一つで部屋を出て行った。
「お気をつけて〜」
白衣のポケットに片手を突っ込み、チュッパチャップス咥えながら気怠そうに手を振る女性は、二人の人物が部屋を飛び出したのを見送った後、嘆息し自分も持ち場に戻ろうとゆっくりと廊下へと出た。
ここは都内の有名私立女学校。
先ほどいた部屋は教員達の席が連なっている教員室だった。
年明けの外は気温が下がり、部屋の外は外気温そのもので廊下は底冷えし、窓ガラスは吹き付ける北風の煽りを受けガタガタと揺れていた。
昼休憩の終わりが近づき、数名の生徒がバタバタと教室に戻る姿を目にしながら、白衣の女性は木々が生い茂る窓の外を見て思わず足を止めた。
先ほど二人の教員が話していた内容を思い出し、白衣の女性は思い詰めた表情になった。
小柄な白衣を羽織った女性、田中絵梨は昨年この学校に赴任した保険師だった。
彼女は。
先ほど柴田が見ていた放送で指名された仲嶺の最後の後継者、悲劇のシンデレラと言われた女性の妹だった。




