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2004年10月 Part3

 「あーーーーーーーーーーーーーー。疲れた」

 もう疲れた。

 時間は過ぎて、今頃、お偉いさん方たちは、会議中だろう。

 まあ、佳澄さんの家督就任もあるから挨拶から入って、ちょうど全員が祝辞を述べたくらいだろう。

 さっき見た限りだと、御錠さんと久峨さん、茂野辺さん、姫条さんは礼節に重きをおいている感じかな。栗栖さんとキリエさんは、困ったときの後ろ盾になってくれれば、という感じに見えたかな。

 最大の問題は、玖条さんだ。

 さっき話した限り、今回の佳澄さんの就任祝いと言うよりも僕と接触をしてみたかったように見えた。

 「嫌な相手に目をつけられた」

 そう言えば………。

 さっきまであの人が寝転がっていたベッドを観察する。

 「あれだけポテチを貪っていたのに、ベッドに破片がこぼれていない」

 それだけじゃなく、読んでいた漫画もない。

 持って出ていったのか、そう思ったけれどそれはない。

 強引に引っ張ったから、位置関係的に漫画は取れなかったはずだ。

 憶測でしかない。

 憶測でしかないのだけど。

 「彼女の付き人をよく見るように言ってくれない?」

 漂っていた精霊や妖精に声をかける。

 『付き人?』

 もし僕の予想が当たった場合、三文芝居を打たれたものだ。

 その時、部屋をノックする音が聞こえた。

 足音が聞こえなかった。ノックをされて初めて気がついた。

 どうぞ、と言うと()()()()鬼のお面をつけたメイドが現れた。

 声も出さないから気配に気がつかない。

 妖精たちも怖がって彼女に近づかない。

 【ご当主がお呼びです】

 そう書いて見せた。

 「佳澄さんが?」

 そう言うと、鬼面の女性は頷いた。

 えー。

 嫌な予感。

 「………それ、拒否とかできない?」

 そう言うと、首を横に振られた。

 そうだよねー。

 話が来た時点で、退路はない。

 でも、さっきの燕尾服は脱いで今は私服のスウェットとカーゴパンツをはいている。

 実にラフな格好になっている。

 【私服で大丈夫です】

 「そうなの? 燕尾服を着ていかないと怒られない?」

 【問題ありません。文句が出ればその方を斬ります】

 こっちの使用人の方が問題だった。

 本気じゃないよね?

 そう思っていた。

 メイド服の袖口に一瞬だけキラッと光る刃物が見えるまでは。

 「………斬るのは無しで」

 この人、お面をつけているから表情が読み取れない。

 大変困る。

 今度、筆談の時は顔文字でもつけてもらうか?

 そう言おうとしたら、メモ書きを再度見せてきた。

 【(#^ω^)】

 なんで怒り状態なの⁉

 というか、言葉に発していないことをさらっとやって見せないでよ⁉

 もしかして、待たせすぎたの⁉

 早くしろ、と?

 そこで頷かないでよ!?

 言葉にしてないよ、まだ!?

 なぜかこの人、僕のことを見透かしている。

 実際、この人にはなんだか頭が上がらない。

 家事の才能はともかく、僕がこの家にいてもいいように取り計らってくれたらしいし。

 「すぐにいくよ。とりあえず、服装の乱れだけは———」

 そういって、鏡の前で整えようとする僕を、彼女は引っ張って対面する形となった。

 なんとなく、整えなくてもいいと言われている気がした。

 彼女の手にはいつの間にか、クシが握られていた。

 握っていたクシを髪に這わせて整えてくれる。

 少し跳ねている部分は、手を添えて戻してくれる。

 それだけのことで、純粋に僕のことを大事に思ってくれている気がする。

 一通り整えてくれると、手を握ってくるように促された。

 なんとなく、彼女が微笑んでいるように見えるのは僕の願望だろう。

 

 

 

 さて、いざ会議場につくとまた胃がキリキリし始めた。

 うわぁ。

 中から、話し声が聞こえてくるけど———。

 「これ、罵声と怒鳴り声が混じってない?」

 不安的中。

 これ、入ったらいかんやつ。

 そんな僕のことなどお構いなしに、鬼面の使用人はノックした。

 が、反応はない。

 たぶん、中が騒がしすぎて聞こえていないのだろう。

 再度、ノックする。

 ………。

 反応なし。

 「ほら、聞こえてないみたいだから間を開けて———」

 逃げよう。

 そう思っていました。

 

 この鬼面の使用人が扉を蹴破らなければ。

 

 分厚い扉は、ひしゃげて部屋の奥に吹き飛んでいった。

 なにしてんの⁉

 どんな突入のしかた!?

 中からは、むき出しの殺気。

 主にそれぞれのお付きの使用人から。

 各使用人の人達が臨戦態勢に入ろうと得物をとろうとしている。

 でも、ダメだと思う。

 例え事故だとしても。


 この鬼面の人(さつじんき)に殺気なんてぶつけたら。


 一瞬で、彼女が消えてどこからともなく出てきた。

 まるで幽鬼だ。

 手には、あふれる凶器の数々。

 ………と、いうか銃火器もある。

 銃刀法違反では?

 各使用人が焦っていた。

 

 この瞬きの間に武器が奪われたのだから。

 

 鬼面の使用人は、ご丁寧にも銃器は瞬間分解。

 刃物は刃の部分をへし折るように叩き割った。

 ………あ、刃物の部分の一部を袖口に隠した。

 僕じゃなきゃ見逃しちゃうね、うんうん。

 だから———。

 「捨てなさい」

 そういった。

 鬼面の使用人は、少しもったいなさそうにしながら捨てた。

 重力に従って、落ちていったのに床にぶっ刺さった。

 ………刃物の選別は一流だよね、この人。

 「ずいぶん、物騒な登場ですね」

 茂野辺さんがニコニコしながらこちらに語りかけてくる。

 この人だけ、何が起きるのか予想していたと見えた。

 止めてよ。

 と言うか、この使用人も問題だけど。

 扉は蹴るものじゃありません。

 あとで言っておかないと。

 それより———。

 どうするのこの空間。

 まるで一触即発の空気。

 鬼面の使用人も腰に………いや、小型の古刀に手をかけていた。

 全身武装していたのか………。

 この人、絶対に見えないだけで他にも隠し持ってそう。

 体重計に乗せるか。

 背丈、幅から見るに五十キロくらいだろう。

 明日から、武装解除………は無理かもしれないけれど軽装にするように言おう。

 この試練が終わってから。

 が、こんな中でも我らが当主様は、つまらなそうにあくびをしていた。

 「早く終わらせてくれない? 明日はやいし、この後、兄さんとスマブラしたいから」

 そんな約束した覚えはない。

 あと、この状況に油を注ぐな。

 「不遜ね。それとも井の中の蛙なのかしら?」

 「まったく、代替わりは早すぎたのではないのかね?」

 ほら。

 御錠さんと久峨さんがこれ幸いに追撃してくる。

 その他の家の人たちは沈黙………。

 いや、僕の出方を窺っているという感じか。

 その筆頭が玖条さんだ。

 こちらをニヤニヤしながら見ている。

 うわ。

 面白がっている。

 まあ、こちらも裏が取れたから見なかったことにする。

 ただ、この中で異彩だったのが姫条さんだ。

 眉一つ動かさず、お茶を啜っていた。

 まるで湖面の波のようだ。

 記録しておこう。

 切り替える。

 この混沌とした場をどうやって収めるかだ。

 そもそも、僕たちが来る前にどうして罵声とか怒号が聞こえてきたのか。

 「えー、と。どうしてそんなに殺伐とした空気になっているんですかね?」

 その言葉に我慢できなかったかのように、玖条さんが腹を抱えて笑っていた。

 さっきまで何事もなかったようにお茶を啜っていた姫条さんまでもが僕を見て眉をひそめていた。

 その他の人達を見ると、頭を抱える人や口元が痙攣している人、ため息をつく人。

 ………あれ、僕、地雷踏んだかな?

 さすがに見かねたのか、久峨さんが助け船を出してくれた。

 「議題は、坊主、お前のことよな」

 ………、なんで?

 あっけにとられていると、茂野辺さんが付け加えてくれた。

 「吾喰家の勢力バランスが過剰に突出しているからだよ」

 それって、僕をどこかの家に人質として送り出せってことかな。

 まあ、それで丸く収まるのなら。

 そもそも、僕は———。

 「聞く必要ないわ、兄さん」

 が、断固として佳澄さんは首を縦に振らなかった、と。

 流れが見えてきた。

 佳澄さんの頑なさはよく知っている。

 病院生活で嫌と言うほど。

 でも、まあ僕も思うところがある。

 「こんな一般人が他所でやっていける自信がないです」

 こんな温室で育ってしまったのだから他は無理だろう。

 それに入院生活まで。

 それこそ無理無理。

 その発言で一同フリーズ。

 考えなおしてくれたか。

 その空白の時間を切り裂いたのが———。

 「ヒヒヒヒヒヒヒッヒヒヒヒッ、ハハハハハハハハッハ! もう無理笑いが止まらない。今どきのお笑い芸人よりよっぽど才能あるよ。ヒヒヒッ」

 玖条さん。

 よくわからないツボにヒットしたみたいだ。

 「ヒットじゃなくてホームランだよ!」

 発言してないのに心を読まないで。

 「じゃあ、お姉さんのところに来なよ?」

 そして唐突に言わないで。

 こっちには、癇癪玉どころか荒れ狂う妹様が———。

 バキッ。

 そんな音が無情にも僕の横から聞こえてきた。

 あー。

 椅子の腕置き部分がご当主様の握力で壊れた。

 小学一年生ですよね⁉

 もう僕の気分は、ヤクザ事務所の抗争に巻き込まれた哀れな人だ。

 流れ弾が飛んでこないように頭でもかかえておこうかな。

 その間にちらりと玖条さんの付き人を見る。

 その一人から黒い泡が出ていた。

 まるで水中の魚のようだ。

 これでわからなかった点が理解できた。

 頭を整理している間も時間は待ってくれない。

 「その減らず口、叩きのめす!」

 佳澄さんの言動は、頭が痛い。

 

 

 


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