2003年7月 Part1
その日の夜は、僕の中で記録されている。
うだるような暑さ。
肌にまとわりつく汗。
以前まで風流とされてきた虫の鳴き声は、フライパンの熱を表現するかのようだ。
アツイ。
見上げた空は、雨天前の重くのしかかるような暗色。
サムイ。
地面に横になった僕から体温が消失していく。
周りがアツイのに僕はツメタイ。
意識がぼやける。
胸がジクジクする。
左目が沸騰しているように熱い。
逆に体温が流れ出る赤いペンキと一緒に無くなっていく。
カチカチ。
もう体に力が入らない。
止めどなく胸からペンキが流れていく。
横たわっている地面には、バケツ一杯の赤いペンキをぶちまけたようだ。
このペンキが僕のモノなのか、目の前の女の人ものかわからない。
いや、どっちも………か。
目の前にいる女性の人はお腹に大きな剣が刺さっていた。
だけど、女性の人は痛みなど感じていないのかずっと僕に語りかけていた。
「ごめん………なさい」
あやまらないで。
こうなったのは、しかたのないことで。
起きたことは、覆らないことで。
みんなが死んだのは事実で。
時間は不可逆的で。
もしここで、後悔しているのならそれは間違いで。
殺したのであれば、後悔を残すことはしてはならない。
死者を冒涜してはならない。
カチカチカチ。
そんな僕の思いとは違う方向で事態は動いていく。
女の人の背後から大柄な男の人が出てくる。
手には鈍器。
振り下ろすだけで頭蓋くらいは簡単に割ることができるだろう。
やめてくれないかな。
もう命の搾取は済んだはずだ。
そんな暴力的なことをする理由がわからない。
せめてきれいなまま死を迎え入れさせてあげてよ。
頭痛がする。
カチカチカチカチ。
頭の中でリミッターが外れていく。
体は、さっきまでの全力疾走でまともに動かない。
肺に穴でも開いているのか、呼吸も不自然で息ができなくて。
ああ、口からも止めどなく血が流れ出ていた。
自身の体が痙攣していることすら認識していなかった。
それでも、目の前の光景は看過できなくて。
僕は———。




