神話ノ弍 アテナ
プロローグは長ったらしかったと思いますが、ここから物語は加速していくってことで、よろしくお願いいたします。
「うわ!!」
驚き跳ね上がった僕は、少女の方へ突っ込みかけたが、僕は少女の体をすり抜け、奥の壁に激突した。
「いててて、あれ、あんま痛くない?」
"何よ、驚いて。"
少女はゆっくりと僕の方に寄り、じっと見つめてくる。
「ゆ、ゆゆ、幽霊??」
"違うわ、神よ神。"
「……診てもらった方がいいんじゃ……」
"五月蝿い!私のおかげで生きてんのに何よその言い方は!!"
少女は僕をビンタしようとするが、ヒュッと僕をすり抜ける。彼女の声、聞いたことのあるような、不思議と惹かれる声だった。
「!あ、夢の中で聞いた気がする声……?」
"そうよそれそれ、私はアテナ。あなたと同日に人間に殺された被害者よ。"
「え、じゃあ、あの事故って……。」
"あー、あなた神器に殺られてたわね。神器を使って人を無差別に殺害する集団がいる……。以前調査したことがあったけど、まさか私が殺されるなんてね。"
「そいつらに!お母さんや、瑠花や里奈が!!」
ベッドの上にいるアテナとやらに叫ぶ。貫かれたはずの腹部の痛みは全くなく、ぼーっとした頭も今は妙に冴えていた。
"分かってる。あなたの見てきた過去も、私は理解してる。辛い思いをしたわね。"
「僕だけか!?僕しか助からなかったのか……!?」
涙で視界が滲む。目の前の絶望、そして自分の如何ともし難い無力さに反吐が出る。
"……あなただけよ、生き残ったのは。"
「そんな……。」
"あなたの腹部を貫いたものは、呪いの様なものを帯びていた。だけど、あなたには何故かそいつらの呪いを弾く力があったっぽい。瀕死のあなたに、私の魂を混合させて、なんとか九死に一生を得たってことよ。"
「……よく理解できないんだけど。」
"神話学びたい癖にこんなことも分からないの?"
ガタン!と音がして、こちらを向いている人影。先程走っていったナースが担当医を呼びに行ったのだろう。
「零……君??起きたのか……?」
「え?」
「精密検査の準備を!奇跡だ、植物状態の絶望的状況から覚醒した!」
「……え?」
僕は促されるまま精密検査などを受け、気づけば沢山の医師とナースに囲まれていた。そんな中、アテナが空中をふわふわと漂っているのを見ると、彼らがアテナを視認できていないのがわかる。
担当医師と思われる男が僕をじっと見つめ、口を開ける。
「……何故かは分からないが、腹部にあった傷はほぼ完治、何針も縫い合わせた跡すらも残していない。脳内出血も完全に治り、障害や後遺症を残していない。しかし何の影響かは分からないが、髪は透き通るような薄い水色に変色している。前例の無い回復や変化、君はいったい、何者なんだ??」
周りの人が僕を見つめる。重圧が凄いが僕は至って普通の人間……のはずだ。
「普通の、普通の高校卒業したばっかりの男ですが……?」
キョトンとした顔でそう答えると、上の方からクスッと聞こえる。アテナが笑っているのだろう。しかし周りの誰も気づかない。
「しかし、この回復、DNAに変異……?よく分からないが、人智を超えている……。明日には退院出来るほどだが……。明日は少し私たちの指示の元、少しデータをとらせてくれないか??」
「はい……僕なんかで良ければ……。」
すると、突然後ろにいた短髪のナースが僕に言う。
「上になんかいます?」
僕の視線を見ていたのか。アテナをチラチラと見ずには居られなかった仕草を、彼女は見抜いたのだろう。医者全員が上を見るが、何も見えないようで、首を傾げる。
「何も、いませんが……。」
「そうですか。」
冷ややかな返答。上のアテナがじっとナースの方を見ている。
「君月君、凍矢君が混乱することを言うのは止めなさい。」
「すみません。」
こちらにももう一度謝罪をして、部屋を出る。アテナは手を顎に当て、何か考えているようだった。
入院室に帰った瞬間、アテナが壁からすり抜けて、僕に告げた。
"あの女、黒いな。"
「やっぱり神じゃなくて幽霊じゃないか。みんなナースの言葉に気味が悪いようにしてた。」
"違うわ馬鹿。それより……。"
「ナースがなにか怪しいの?」
"そう。私は精神体で浮遊してるから人に見えないどころか同族の神や神器持ちの神狩りにも理論上見えない。そもそも君に見えている私は神威を発することが出来ない。"
「何を言ってんの……?」
"順を追って話そうか。"
<hr>
アテナが自分が2人の神狩りに肉体を殺され、精神体を瀕死の僕に溶け込ませた経緯を全て話してくれた。
「やっぱ幽霊じゃないか。」
"違うて。そして、神が何故狩られるかは分からないし、多分君の半神半人的な存在自体が限りないマイノリティ。今頃私は天界で死んだことになってるし、神狩り共は私の神器を血眼で探してる。"
「んで、神の力である"神威"に触れる事で、本来見えない神様が見えるようになると。」
"そ。んで、あのナースの話に戻すと、"
「ん?」
アテナが頭をかく。その仕草は僕の癖だ。あらゆる知覚情報が共有されている今、不思議なほどアテナの言葉や行動が僕に似ている。いや、僕と言うより、瑠花に。
"私のことが見えていたとは考えにくいので、このような推測が立つ。"
アテナは指をピンと立てて言う。
"奴は神威を感じることが出来ている。おそらく神器持ち。"
「……なるほどね、アテナを殺したグループの可能性があるのか。」
"君を殺した奴らかもしれないよ?"
……! 僕を殺した奴ら。禁断を名乗るテロリスト。凶器は神器で、何を目論んでいるかは全くの不明。いや……そんなことはどうでもよくて、
あいつらは僕の家族を殺した奴らだ。
瞬間、窓の外の木に留まっていた小鳥たちがバサバサと飛んで行った。
"神威、漏れ出てる。"
「え?」
"あんた自覚ないの?さっき言ったじゃない、あんたは半神半人よ、凍矢零は神の力を会得している。"
「嘘でしょ……?」
"本当よ。あなたは今その禁断とやらへと怒り、復讐心を燃やした。その瞬間に、結構でかめの神威が漏れ出てた。"
「……もし推測が合ってるんならさっきのナースが……。」
"君を見つけ次第殺しにくるかもね。"
「……逃げるべき?」
アテナが上をぐるぐる回りながら考えるが、こちらを見て言う。
"いや、多分逃げなくていいんじゃないかな。"
「え?なんで?」
"あのナースの神威は多分そんなに強くないよ。化けてスパイしてるくらいなら暗殺的な技能しかない。サシでの戦いなら絶対勝てる。"
「待って待って待って、僕戦いとかできないけど!?」
"大丈夫。来ると決まったわけじゃないし、今漏らした神威を察知して恐らく別の神がこちら側に来てるから優勢ではある。"
「別の神?」
"えーっと、私の仲間よ、多分。最悪そいつらぶつからせて、漁夫の利を狙う。"
「あーなら行けそう。」
"よし、じゃあとりあえずあのクローゼットに隠れて。絶対感情昂らせないでね、あとできるだけ力抜いて。神威出るから。"
病室の隅にあるクローゼットに隠れる。外はもう夜。面会は本来ならできず、院内が不思議なほどしんとする。僕はクローゼットの少しの隙間から見ると、ガラッとあの時のナースが現れ、何やら焦った様子で連絡をとっている。
「こちら猫田班三上、神威を検知した少年が部屋にいません。指示を。」
同時に、窓の方に神々しい女性が1人立っていた。三上というナースの姿をした神狩りが女性に気づいた後、クナイのような神器を構えて無線連絡をする。SFのような光景が目の前に広がる。
「……こちら三上、少年はいませんが、特級狩猟対象、オリュンポス十二神の1人、アルテミスを発見。戦闘を開始します。」
ナースの服を脱ぎ捨て、忍者のような姿になる三上。アテナの予想通り、暗殺に特化したようなスタイルだが、何がどうだかよくわからない。すると、アテナが窓側の神を見て驚いた様子を見せる。
"ア……アルテミスさん……!?"
僕は不思議と納得していた。彼女の言った名前、アルテミス。オリュンポス十二神の1人だから、親しい仲間なのだろう。一説では姉妹だというものもあるし……。
「……アテナの神威。1度は燃え尽きたが、今確かにここでまた感じられた。貴様か?アテナを殺ったのは……。」
「あなたにお答えできることはありません。死んで貰えますか?」
「…殺生は苦手なんだが……。」
アルテミスが窓を開ける。
「やむを得ないな。広いところに出るぞ。」
瞬間、三上がアルテミスに飛びかかる。タイミングを見計らった完全な不意打ち。アテナを殺した、あの時の男のような間合いの詰めの速さ。
クローゼットの細い隙間からは全ての情報が入ってくる訳では無い。だが、あの不意打ちを果たして避けられるのか。
"アルテミスさん!!"
アテナが叫ぶ。しかし、どうやらその不意打ちをアルテミスは余裕で避け、そのまま
「やれやれ、ここは広くないだろう。外に出るぞ。」
入ってきた窓から三上ごと飛び出す。クローゼットから出て窓の外を見ると、既に病院近くの公園のような場所に着地していた。恐らく地面に投げられたであろう三上も、受け身後でクナイを逆手に、臨戦態勢である。
「不意打ちなどという手を使い……ましてアテナを殺した貴様らに……慈悲などない。」
アルテミスは背中に担いでいた神器を、白銀に染る弓矢を取り出した。
"アルテミスさんの神器は神弓アルテミューズ。今更言うけど、私たちオリュンポス十二神は「絶対」を司る。彼女の神威は「絶対命中」。対象を設定すると、何があろうと必ず「当たる」。あのナース死ぬかも。"
「え、死ぬのはまずいんじゃないの?」
"何言ってんの、私たちを殺すかもしれない奴らよ、そしてそいつは今アルテミスさんに刃を向けてる。"
「……。」
アテナは冷静だった。そのおかげかもしれない、僕も不思議と冷静だ。だからこそ、僕は言う。
「じゃあ、殺さずにあの戦いを終わらす方法を教えて。」
"……。確かに、無駄な殺しはしない方がいいわね。私たちの正体が知れるかもしれないし、アルテミスさんが凍矢零=私と繋げられる可能性も低いし。凍矢零の半神半人である「真実」は、人間に対しては隠蔽して動きたい。"
「まず前提として僕は人を殺せないどころか傷つけるのも難しい。」
"そりゃそっか。"
目の前で死んだ母、妹たち。
全てを失った僕が、新しい生を受けてすべきこと。力があるなら、使わなきゃ。
使って命だけは守らなきゃ。
僕の手にはいつの間にか美しい、真っ白な短剣が握られていた。
"……!なんで私の神器が呼応して……!"
「この剣の使い方を教えて!」
"…私の神威は「絶対切断」。対象を必ず「斬る」ことができる。"
「なるほどね……。じゃあ、」
"私に、握ることすら出来なかった神器を……。なんで……。"
「対象物を……設定する。」
<hr>
広場では戦闘が始まっていた。アルテミスの矢はどうやら三上に当たってはいるようだが、そこまでのダメージを負っていない。
「人間……。私の攻撃をさばくとはな……。」
「あなたの能力が矢が絶対に私に当たるというニュアンスなら、必中場所を特定してしまえば"当たってから弾ける"。」
「それは、半分も"引き絞ってないからな"……?」
三上がやっていることは常人じゃ有り得ない瞬発力の偉業。矢が皮膚に当たった瞬間に手持ちのクナイで弾くという、速度も意味わからんほど速くなきゃできない技だ。
「余裕ですか?」
「人間如きが神を超えることなどできない。」
「ならばアテナは神以下人間以下。野を這う畜生共と同レベルだった……ということですね?」
「何……?」
ドンッと覇気のようなものが広がる。ビリッとした空気が病室の僕にもわかる。その中アテナの表情が曇る。
「これ以上……口を開くな。我が神業をもって貴様を殺す。」
「カミワザ?」
"……奥義みたいなものだよ。神は本来自持ちの神器の100%の力を出せる。その力を一気に解き放つ技が、神業。"
「本来……?」
アテナの表情がさらに曇る。この剣と彼女の過去に何があったのかは僕にはまだ分からない。剣が発現したときの反応といい、三上に蔑まれたときの反応といい、彼女にはまだ何か言えない過去があるのだろう。しかし、考える時間は無い。既に病院が軋んでいるような音がする。
「一般人に被害が出る前に止めなきゃ。」
"……そうね、じゃあ、アルテミスさんが神業を打った瞬間にしましょう"
「それじゃ絶対あのナースに当たって死ぬんじゃ?」
"大丈夫、タイミングは指示する。"
アルテミスが矢をつがえ、そこに光が集約する。三上はそれを見て、彼女の技なのか神器の力なのか分からないが、彼女の足元に影のようなものが広がり始める。
「神業。絶光射。」
アルテミスが神業を撃つ瞬間、僕も窓からとび出た。かなりの高所。僕の入院室は5階だ。普通に降りたら即死だろう。しかし、今の僕は神威によって守られている。無事着地とともに2人の中心にとび出て、剣を構える。
「誰だ!」
「凍矢零!?」
「神短剣ギアティーナ。」
設定した対象物は、「僕の記憶」「戦闘相手の記憶」「神業」「戦意」
「もう、やめろ……!」
僕の一閃は光となり、三上とアルテミスを切り裂くが、彼女らに怪我はない。それどころか衣服にすら目立った傷や布切れも無い。この剣は、正確に"概念"や"思考"だけを斬り伏せた。
光が止み、視界が元に戻る。あまりの眩しさに、まだ不鮮明な箇所があるものの……
「ここは……?私は何をして……。」
「……。」
先程まで殺し合いをしていた2人はいきなり何も覚えていないかのように、突然去っていった。
広場に残ったのは僕1人だけ。短剣は既に僕の手からは消えていた。
"……ギアティーナ。事象、概念、物質、これら全てを対象設定を行えば必ず斬ることが出来る代わりに、命ある者を物理的に斬り伏せることが不可能な神器。私に呼応する唯一の短剣だが、私は握ることを剣に拒まれた。"
「剣に?」
"剣の心のようなもの。私の戦う意思が弱いばかりに、この剣は私を認めていない。結局最後まで、自由に握ることすら許されなかった。"
「僕の意思に、応えてくれたってことか。」
"1度だけ……私も1度だけ使うことが出来たことがある。だけど……。"
アテナの表情が暗くなる。ギアティーナの話題はアテナの心情を悪くしてしまう可能性がある。
「……無理して言わなくていい。誰だって辛いこと悲しいことはあるし、それを思い出して暗くなるのは、良くはない。」
アテナが目を丸くしてこっちを見る。
「さて、部屋に戻ってお菓子でも食べるか!帰りコンビニ寄ってこうぜ。」
"……ありがとう。"
僕は微笑んで歩き出す。アテナもまた、少し浮いてる気はするけど、僕の隣で歩き出す。
僕ら2人の神話は、ここから始まった。
"あれ、私お菓子食べられなくない??"
「たしかに……。」
<hr>
ーGEO猫田班会議室にてー
「結局、三上が追っていたテロの被害者の"少年"は神だったのかね。」
「可能性は限りなく低いと思われます。三上の報告にもそのような文言は無いですし、部屋にいなかったというのも一時的なもので、検知した神威もアテナの残留の可能性が高いと。」
ホワイトボードに貼られた凍矢零の資料や記事、それを見て2人が溜息を着く。たった1人だけの生存者が、翌日には何事も無かったかのように全快……。明らかに不自然で"神憑っている"。だが、人間に恒常的に知覚される神など聞いたこともないし、略歴もただの一般青年だ。
「んーそっか、じゃあやはり俺らが追うべきはテロリストの方かね、柴崎。」
「そうですね。」
「また忙しくなるなぁ……。」
ホワイトボードの資料や記事をシュレッダーにかけ、2人はまた捜査を始める。
次回更新は未定です。




