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聖獅子戦に向けて


ともあれ、フワの特訓が始まりを告げた。


Tはまず初めにフワをどのように育てるかを決めることから始めた。


「さーて、フワよ。君はなぜ強くなりたいのかね?」

「はい! 生徒を守れる力が欲しいからです!!」

「ふむ、守る方面ね……で、次、自分の長所と短所を述べよ」

何かいつぞやの面接みたいになっておるな。まぁ、間違えてはいないと思うが。


「長所は体が強いところ、短所は突発的なものに対して対応できないところです!!」

その強い体も妾の物で前世のおぬしの体は弱いもので何ならその弱さが原因で病気に殺されたのだがな。


「その体も言うてそこまでなんだよなぁ、絶対に死なないっていうのは長所か――――そしてでかいものや繊細なものは場合によっては使えなくなるっと」

Tは妾が反逆術式を発動させるためにわざと弱めに体を構築しておるのを知っておる。だから苦笑いしながらそう評価した。


「じゃあ次、早く、それなりに強くなるのと、じっくり時間をかけてめちゃくちゃ強くなるのはどっちがいい?」

「早くとじっくりって具体的にはどのくらいですか?」

「そうだね、早くなら数か月から半年長くて数年、じっくりは数年から数十年、場合によっては数百年まで見てあげるよ」

「は、早くでお願いします」

「了解」


「で、最後の質問だけど、君は他人を頼ることが得意、それとも苦手?」

「人を頼ることは得意だと思います!」


フワは前世は途中から寝たきり、今世では妾に頼りきりであるから、この質問には自信をもって首を縦に振った。

そして、これらの質問の結果からTはフワに適した育成プランを考えたみたいだ。

Tは神妙な面持ちでフワに告げる。


「よし、決まった。フワにはこれを使ってもらおう」


そう言ってTが取り出したのは剣というには短すぎる肉厚な刃物、すなわちダガーであった。


「ナイフ?」

「対称で両刃だからダガーだよ。別にこれじゃなくてもいいんだけど、質問から判断して君には短めの武器が適していると思ったからね。今はこれしか持ってないからこれを渡すけど、今度ちゃんとしたのを買いに行くよ」

「は、はぁ……それで、なんで短い方がいいの?」

「まず守る、ってことは戦場を選べないだろう? となると長物はNG、どこでも戦えるように短い方がいい。そして受け太刀ができるように丈夫なものがいい。加えて言えば、不測の事態に最悪手首の動きだけでそれなりの速度で飛ばせる武器のほうがいいってことで今俺が持っている中で一番適していたのがこれってわけだ」


Tの言い分を聞いてフワは納得したようにうなずいた。妾も納得した。

Tの奴は目的に応じて武器を変える特徴がある配下だ。ほかの一つのことを極めた他の配下たちと違い、汎用性だけで言えばトップクラスなのだ。まぁ、言い方を変えれば器用貧乏だし魔法は使えんしで欠点もあるがの。

Tはフワにダガーを持たせて

「じゃあ早速見てやるから本気でかかってこい」

といった。フワは不安そうな目でTを見た。本当にやっていいのかと、そう問いかけるような目だ。

その意図を読み取ったのかTは笑みを見せる。


「そのダガーは俺を殺せないようにできてるから」

Tは言うが、それは嘘である、が、本当でもある。今のTは生前とは違い魂だけの存在だ。

だからあのダガーで刺されても肉体は死ぬことはないが、今の状態でその体を破壊されれば器が修復するだけの時間がかかる。また、相応のダメージが魂にもいくだろう。その治癒にも時間がかかる。

結果、死にはしないが当分は会えなくなるだろう。

だが、そんなことは知らんフワは意を決したようにTに襲い掛かった。

全力で、と言われたからか今の体で出せる全力を出してTに切りかかる。


だが、Tは忘れてはならぬが妾の配下―――英雄の集団イニシャルナイツ――――に名を連ねる者である。

それも技術面で優れたタイプだ。フワの、素人の振るう武器にとらえられるほど甘くはない。


Tはそれを避ける、いなす、掴む、摘まむ、弾く、様々な方法で防いで見せた。時たま反撃もして見せた。

それから少ししてTは待ったサインを掛ける。

フワは肩で息をしながら止まり、Tの言葉に耳を傾けた。


「うん、先は長そうだ。スパルタコースだね」


Tは笑顔でそう告げた。

そこからはフワにとって地獄のような特訓が始まった。




フワの強化特訓が始まってからしばらくして―――具体的には2週間が経過して、フワの受け持つクラスのホームルームで前日にミリータの奴から生徒に伝えるようにと言われたことを伝える。

「みなさん、もう知っていると思いますが来月の1日から3日まで選抜戦が開催されます」


選抜戦とは、夏に王都で開催される聖獅子祭と呼ばれる祭りで行われる聖獅子戦に出場するためのメンバーを決めるための戦いである。

そして聖獅子戦とは、ここと同じような学園が国内に5つ存在するそうなのだが、その5つの学園から代表を選抜して戦うものなのだそうだ。

ミリータから説明を聞いただけなので妾も詳しいことはよくわからん。

フワ的には『体育祭』と言った方がしっくりくるのだそうだ。


ともあれ、選抜戦が来月の初頭に開催されるわけだ。そして今は8日であるから、大体あとひと月弱先の話になるの。


少し先の話にはなったが、それを聞いた生徒たちは興奮しておった。


「よっしゃああ!! 俺はやる、絶対に選抜戦を勝ち抜いて聖獅子戦に出てやるんだ!!」

「はっ、おめーには無理だよ! 俺にも勝てねえじゃねえか」

「うるせぇ! 俺は本番はやるタイプの男なんだよ!!」


ハハハハハ、とクラス内に笑い声が木霊する。

だが、笑いの中に隠れておるが目をぎらつかせておる物は結構おった。何としてでも選抜戦で勝利してやろう。

そう思っておる者の目である。

そういった目標を見据えてにらみつけるかのような目、妾は嫌いではない。むしろ好きであるな。

今、必死に生徒を守れるようにと力を求めておるフワもたまに同じような目になる。そういったものは成長が速かったりするのだ。ま、最近は特訓の内容が内容だけに死んだような目になることのほうが多いがの。

だがフワよ、安心するがよいぞ。傷はすべて妾が益に変えてやるからの。


フワは選抜戦のことをよくわからんものもおるだろうから補足説明を加えた後にホームルームの終了を宣言した。

ホームルームが終わるとフワは素早く職員室に戻り講義資料をとり講義室へ向かった。今日はしょっぱなから魔法理論、そして次に魔法実習の講義がある日だ。

最近では魔法の妨害についての説明がひと段落ついたから、次は魔法の属性について掘り下げてみようという話になっておったはずである。

フワが講義室に入るともう生徒はみな着席をして近くのものと雑談に興じておった。

しかしそれもフワが入ってくるまでで、すぐに話をやめてフワのほうに視線を向けた。そこにおるメンバーはいつも変わりがない。

稀に体調を崩して休むものなどはおるが、基本的にフワの講義を受けると決めたものはずっと受けておる。例外がおるとするならば例のアリナという生徒であるな。



あやつはフワの…というか妾の教える魔術理論に納得がいかんということで二回目からは別の講師の魔法理論の講義を受けておったはずなのだが、少し前、具体的には悪魔が出てきた後から再びフワの講義を受けるようになった。

しかもなぜか、他の生徒より抜きんでて熱心に受ける。フワもそれに気をよくしているのかアリナのことをかわいく思ってきているらしい。

お主がよいなら妾は口出しせんがの。


「はーい、それじゃあ魔法理論の講義を始めます。今回のテーマは魔法の属性について、です」


フワの講義が始まった。

内容は要約するとこんな感じであった。


魔法には火、水、風、地の4つの基本属性と光、闇の2つの特殊な属性が存在する。

基本の4属性はだれでも扱うことができるが、光と闇属性は特定のものと契約した人にしか使えない。

また、魔法の属性にはそれぞれ相性がある。

雷やら氷なんかの魔法はそれらの複合属性である。

【魔法】という区分の中では属性を持たない事象は引き起こすことはできない。

これは、魔法が近くにいる精霊に魔力を与えて事象を引き起こしてもらうことと、属性を持たない精霊は世界中を探しても数えるくらいにしかおらんということが原因である。

精霊が自我を持った存在を妖精と呼び、その妖精に事象を引き起こしてもらうことを妖精魔法と呼ぶ。

この場合、当然であるが起こる事象は妖精の属性に依存する。

しかし、妖精によっては無属性の事象を引き起こすことも可能になる。

これは妖精自身が術式というものを深く学び、その中で魔力を無属性のまま使うことができるようになった場合に起こる。



ここまで話したところでフワは一度小休止として何か質問はないかと生徒に問いかけた。


「先生、先生の話だと魔法の属性に得手不得手がないように聞こえますが、私が炎の魔法を使おうとするとうまく発動せず、逆に水の魔法を使おうとするとすごく調子がいいと感じます。どうしてでしょうか?」


「いい質問ですね。さて、私の魔法実習の講義を受けてくれている生徒の人は一番初めの講義で調べさせましたが、人の魔力には適正と呼ばれるものがあります。これは無色の魔力を属性魔力に変換する際にいくらか魔力が減ってしまうのですが、その魔力の減りが少なければ少ないほど小さい魔力で大きな魔法が使えるわけです。また、属性魔力への変換効率は人と属性によってそれぞれ違うので、結果的に精霊に行使してもらうだけの魔法でも得手不得手が存在するようになるわけですね。わかりましたか?」


「はい、ありがとうございます」


とまぁ、講義は大体こんな感じに進んでいき、そのまま魔法理論の講義は終了した。

ここから少しの休憩をはさんで魔法実習の講義に入る。フワは次の講義の準備のために素早く移動を開始した。


で、魔法実習。

ここでは理論に基づいて的に向けて魔法を放つ練習をするだけの講義が展開されておったから特段語ることはない。



それよりもフワの特訓である。

休日や、平日の放課後、仕事に余裕があるときにフワは街の外に出て特訓をするようになっておる。何故訓練場を使わんのかと問われそうだから先に行っておくと、外に出て一目のつかんところで特訓をしておるのはその特訓方法が常軌を逸しておる部分に入ったからであるな。

具体的に何をしておるのかと言えば、まぁ、見たほうが早いの。



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