第62話 〜編入のお決まり?〜
最近は少しずつではありますが、涼しくなり始め時折肌寒く感じる時があるんですよね。
身体には気を付けないといけないですね。
という訳で、お久しぶり。十識ミトです。
今回は、前回書いたときからあまり時間を開けることなく書けて良かったです。
この状態を維持できたらいいのですが、それがなかなか難しい。
てなわけで、今回は二つ書いての同時更新であります。
良かったら読んでください。
宿屋『クレリック』を出て、東の商業区画に建てられた『コルーナ魔術学園』に向かう。
街は既に起き出している人達が何人も居て、お店の準備に動き回っている。
俺は歩きながらその光景を見て、「朝から精が出るな」と関心する。
「学園ってどんな所なんでしょうか? 私、そういった場所には通ったことが無いので、少し不安ですけど同時に楽しみです」
エルシャは今向かっている学園へ思いを馳せ、どんな場所か考えているようだ。
「さぁな。俺もこの世界の学園には通ったことがないから、良くは知らないな」
「でも、タクトさんとユリカちゃんは元の世界では学園に通っていたんですよね? それと変わらないのでわ?」
「いや〜、どうだろうな。俺達の世界には魔力も魔術も存在しなかったからな」
地球には魔術が存在せず、代わりに科学が発展しそれに依存して生きてきた。
最近では、乗り物の自動運転や仮想空間の開発が大々的に行われ発展して行こうとしていたところだった。
政治体制だって違う。
「前にも聞きましたが、魔力も魔術も存在しない世界なんて、信じられませんね」
「この世界に生きる人間ならそう思うのが自然なのかもしれないが、俺達にとってはそれが自然で、この世界の方が不思議なんだよな」
世界が違えば、ソコに存在する生物や歴史が違うのは当然だ。俺達の世界でも国が違えば生活習慣や風習が違うし、俺たちが知らないことなんかが満ち溢れている。
それどころか、全てを知っている人間なんて存在しないのだ。
そんな者が居るのなら、それは人間では無い、全く別な存在だ。それこそ―――――全知の神の様な。
俺はその神様の知り合いが三柱居るから神の存在を簡単に受け入れられるが、地球では神の存在は証明されてはおらず、伝承や伝説、言い伝えといった言葉や文字と言った目に見えるものではあるが、形なきものでしかし知る事ができない。
それに反して、この世界では神が身近に感じられる。
魔力があり、それによって行われる魔術があり、事象を起こす。
それは神が地上の人間達に授けた力であり、生きる為の手段である。だからこそ、神を認識する事ができる。
地球にも、魔力も魔術も存在しなかったが、その代わりに異能があった。
しかし、その異能も授けた側である神によって使用が不可能にされていた。
「俺達の世界には魔術じゃなく、異能があった。だけど、その異能を使えた者は誰一人として居ない」「力が、使えない、ですか」
「そう。神様自身が与えた後に、それを不必要な物と判断し全て封印したんだ」
「何故、そんな手間を?」
簡単だよ、と俺は答える。
「俺の元いた世界に生きる人間全員に与えられた異能は、与えられた時点では使いようのないまっさらな物だったんだ」
「まっさら、ですか?」
「そう、だから、どんな物にでもなる」
俺は自分の手を見て、自分の中にある異能『幻想具現』に意識を向ける。
「与えられた時には意味が無い。だが、それを意味のある物にできるのも与えられた俺達だ。この異能は持ち主の生きた環境、境遇、願い、欲望で千差万別にその力と姿を変える。例えば、どんな物でも燃やし尽くしたいと強く願えば、それに対応した炎や燃やすという概念が放てる異能に覚醒め、遠くから他の生き物を呼びたいと思えば、生物を呼ぶ召喚の異能が与えられる」
だから、全ての人々の魂に埋め込まれた力の結晶、《根源の種》がどんな異能になるのかは分からない。
「タクトさんが言うに異能とは、一人に付き一つしか得られないように聞こえるのですが」
「その通りだ。異能は一人に付き一つ。一人で二つも三つも得られない」
「それって、かなり使い勝手が悪くないですか?」
エルシャは一つしか使えないことに不思議に思い聞いてくるが、俺はそれに首を左右に振る事で否定する。
「いや、そうでも無い。こっちの魔術は予め発動したい魔術をそれに沿ってイメージし、決められは詠唱を唱える事がほとんどだ。対して、異能はその全てをイメージするだけで良い。例えば炎なら、『燃やしたものを凍らせる炎』というありえない現象を思い描いて放てば、それが実際に起きる」
「凍る、炎ですか」
「そう。炎の異能なら、それだけを突き詰めれば良い。本来、炎でできない事があったとしてもそれを術者―――こっち側で言うところの能力者が『それが出来る』と思い描けば良いだけだ。つまりは、実質異能に限界は存在しない。反して、魔術師達は固定観念に囚われ過ぎていて、想像力に欠ける。何故なら、自分が見て理解出来る自然現象をもとにしか魔術を構築する事ができないのだから」
「……………………」
長々と話してはいるが、俺が端的に言いたいのはこの世界の人間は想像力が乏しく、あっちの世界は想像力が豊かなのだと言うことだ。
エルシャは俺の言葉に思い当たるふしがあるのか黙り込む。
「もしかしなくても、だからタクトさんはあんなにも非常識な魔術を大量に作り上げられたのですか?」
「そういう事。俺の価値観が創作物なんかが多くあった元の世界のままだから、できることは何でもやろうとするんだ。出来なければ、出来る方法を作り出してね」
前を向いて歩いていると、遠目にだが大きな建物が見えてきた。
アレが、俺とエルシャがこれから三年近くを通う事になるとは『コルーナ魔術学園』である。
〜・・・〜 〜・・・〜
「着きました。ここがこれから貴方達が学ぶ教室です」
藍色の髪をショートヘアーにした女性、正しくはこれから俺達が所属するクラスの担任教師である、名前をハイリナ・グリゼルダと言う。
「それでは、私が呼ぶまでここで待っていて下さい」
そう言ってハイリナ先生は教室に入る。
その背中を見送り、俺はこれから所属するクラスの表記が書かれた扉に取り付けられたプレートを見る。
このコルーナ魔術学園には六つのクラスがある。上から『S』『A』『B』『C』『D』『E』。そのクラス分けの内容は、入学試験の時の成績上位の生徒二十名がSクラスに配属され、残りも成績順に三十名ずつ各クラスに割り振られる。
だが、必ずしもそのまま学年が固定されるわけではなく、入った時点ではこうでしたよと言う訳であって今後もそうであるとは限らない。
一年から二年に上がる時、これまでの実績とクラス分けする為の試験があり、その試験の内容次第では上のクラスの生徒が下のクラスになり、下のクラスが上のクラスになるなんてこともある。
だから、誰もが必死に勉学に勤しむのだ、がその中には不正を働こうとする奴もいるかもしれないが、こっちに実害が無ければほおって置くのも構わない。
しかし、何故そんな事を話したというのかと言うと、俺のこれから通う事になるクラスは――――――――まさかの『S』。
最初それを説明された時、「マジかよ~」と思った。
教室の中からはハイリナ先生の話が行われており、そろそろかなと思ったのとほぼ同時に教室から声がかかった。
「それでは、今日からこのクラスに編入する事になる方たちを紹介します。それでは入って来てください」
ガラガラッ、と扉を開け俺とエルシャは教室へ入室する。そのままハイリナ先生が立つ教壇の横に俺達も並んで立つ。
教室は行ったことは無いが、まるで大学の講議を受ける講堂の様な作りになっていた。
俺が通っていた学園の様な形では無いことに少し驚くが、そういうものかと納得する。
教室内に居る生徒は男が六人、女が四人の十人。その全員の視線が俺達に向けられている。
それによって、彼等の思考も何となく読み取れた。
不快、訝しみ、嫌悪、それらの一言で言うところの気に入らないと言うと雰囲気がバシバシ感じ取れた。
「皆さん、紹介しますね。こちらの二人が今日から皆さんと一緒に学ぶタクト・ツガナシさんと、エルシャ・シグナートさんです。皆さん、仲良くしてあげてくださいね」「「「「「はーい」」」」」
全員が気の抜けた様な返事をしたが、全員が友好的ではないのは分かりきっている。
これからの生活は、またある意味で大変そうだなとため息が出る。
その時だった。
「先生、良いでしょうか?」
「はい、どうしましたか?」
俺がこれからの事にする悩んでいると、一人の生徒が手を上げた。そちらに目を向ければ、こちらに疑惑の籠もった視線を向けている生徒と視線がかち合った。
手を上げていたのは一人の男子生徒で、髪は赤と茶色が混ざったような赤銅色。瞳は鋭くつり上がった金眼。顔の造形はこの世界の人間であることから、かなりのイケメン。
それが、こちらを見ている。
「どうして、いきなりこのクラスに編入なのですか? させるなら一番下の『E』クラスにした方が良かったはずです。彼らだって、いきなりこのクラスに入れられて困るのでは? 先生が言っていましたが、彼らは元々冒険者だったのでしょう? それだと色々困るはず」
おや、これは想定外。まさかのこちらを養護するかの様な言い方をしている事から、彼はこちらを毛嫌いしているのかと思ったが、そうでは無かったようだ、と思ったが――――
「そもそもからして、彼らにこの優所あるコルーナ魔術学園に通う資格があるのですか?」
ピキッ、と俺の額に青筋が浮かんだ気がした。だが、自分の顔は自分では見えない。
確かに、俺達がここに通うのは皇王陛下の提案によってであり、最終的に決めたのは俺達だ。そこをとやかく言われる筋合いは無い。
そもそもからして、資格だなんだが必要かどうかなんて知ったこっちゃねえよ。
「そうですね。他の方たちも彼と同じ考えの方も居るでしょうが、これは学園が正式に決定した事なので、今更変更する事はできません」
「しかし、」
「ですが、それでもこの二人が『S』クラスに入るのが嫌だと言うのなら、これから皆さんで模擬戦をしましょう。それで、全てを決めるとしましょう」
ハイリナ先生は笑顔で言い放った。
「そうですね。模擬戦は、このクラス全員とこの二人で行いましょうか。ルールはどちらかが先に全員戦闘不能に出来たほうが勝ち。あなた達が勝ったのなら、私の方から学園長に掛け合って、彼らを他のクラスに異動させます。対して、彼らが勝てばこのままこのクラスに所属させるとします。どうですか?」
「……………わかりました」
何故か、こっちの意見を無視して勝手に話が進んで行く。横のエルシャも突然の流れに目を白黒させ、ついていくことが出来ていないようだ。
「それでは、これより模擬戦をしましょう。練技場に移動しますよ」
ハイリナ先生が音頭を取って、生徒達を連れて出ていく。
俺はその後ろを見て、「編入してすぐにこれとは、先が思いやりる」とため息を吐く。
〜・・・〜 〜・・・〜
移動先の練技場はここに来るまでに見えたあの闘技場の様な場所だった。
「それでは、全員位置に着いてください」
俺とエルシャは『S』クラスの生徒達からニメトス離れた位置で立つ。
「全員、用意は良いですね?」
ハイリナ先生に頷いて返す。
それを見たハイリナ先生は、手を上げ、合図と共に振り下ろす。
「始め!」
合図が下ると同時に、『S』クラスの生徒達は重ならない様にバラけて距離を取る。
それは素直に称賛できる。冒険者になったばかりの者であれば、立ち位置が重なり味方とぶつかったり、巻き込んでしまうからだ。
「大いなる水よ、水雨の流弾となりて、敵を撃て【水弾雨】!」
「大いなる大地よ、砂礫の弾丸となりて、敵を撃て【石礫弾】!」
左右から水と土属性の魔術が放たれてくる。
それを見る限り、互いの魔術が干渉しあっても威力低減が最小限になるようにと考えてのものだろう。よく考えている。
他の生徒達も負けじと魔術を放ってくるが、そこに込められている魔力と術者である彼等の魔力の扱い方を見て愕然とする。
(えっ、何コレ!?)
魔力の扱いが―――――めちゃくちゃだったのだ。
術式込める魔力のほとんどが拡散してしまい、威力が激減しているのだ。こんなもの魔力強化していれば防御しなくても耐えられるものだ。
身体を流れる魔力も、しっかりと循環しておらず、流れる速さもとろくさい。詠唱も遅い。
散開する時も、魔力強化していなかった。
チンタラ自分の足で走っているだけ。その走る速さも遅く、鍛え方も甘すぎる。
(おいおい、こんなので良くあんな態度が取れるよな。呆れるよ、まったく)
はあ、と大きなため息を吐き、おれは軽く腕を振る事で風の渦を俺とエルシャの周りに作り出す。
「なあ、エルシャ。どう思うよ、こいつ等」
俺は横に立ち、微動だにしていないエルシャに尋ねる。
「えっと、あははは」
エルシャもどう答えたらいいのか分からないくらい、自分たちとの実力差に開きがある事に驚いていた。
タクトはもとより、その弟子である自分の足元にも及ばないそれ。
驚くなという方が無理だった。
今も詠唱をして魔術を放ってくるが、そのどれもがタクトが作り出した風の渦に流され、消えていく。
「えっと、何なんですかね、これ?」
「まったくよぉ、呆れるくらい弱いな」
これで『S』クラスなのかと考えると、頭が痛くなる。『S』クラスでこれなら、他のクラスの生徒はこれ以下なのかと。
俺は風の渦を消して、生徒達の前に立ち、言い放った。
「なぁ、これがお前等の全力なのか?」
「なっ!」
「何ですって!」
俺の言葉に怒りを見せ、怒髪天をつく。
「いやな、あまりにも弱っちくてさ、逆に驚いているんだわ。これなら、まだ冒険者の方が強いわ」
「「「「「「「「「「…………………!!」」」」」」」」」」
事実を言えば、全員が顔を赤くし顰める。
「言わせておけば! そう言うそっちだって、一向に攻撃してこないじゃないか!!」
「いやあ~、もうちっと出来るものだと考えていたもんだからさ、どのくらいの力にしようか考えていたんだよ」
「何だと!?」
ポンッと横のエルシャの肩を叩いて言う。
「そういう訳だから、そっち側の十人は任せるぞ。できるな」
「聞き返しますが、タクトさん。この程度でタクトさんに鍛えられた私が負けるとでも思っているんですか?」
エルシャは真面目な表情で俺を見返してきて、俺はそれに笑顔で答える。
「そうだったな。お前に勝てるのは俺か百合華、あとは熟練の戦士か魔術師くらいなものか」
「はい。なので、この程度のことも出来ないヒヨッコに負けるつもりわありません」
「だな。そんじゃ、手加減しながらやるか」
俺とエルシャは魔力を身体に纏い、魔力強化を施す。
魔力を感知できた生徒達は驚いて目を向けてくる。
「な、何だ、それ」
「魔力を、纏ってる?」
「そんな事ができるのか!?」
えっ、驚くとこそこかと思ってしまう。
(ま、もうどうでもいいけど。これから余計なちょっかいをかけられないように力の差を見せるかね)
だるそうな、それでいて自然体のようなその姿勢に誰も動けない。
こいつ等に使うのは勿体ないが、今後の為の投資だと考えて使う事にする。
「そんじゃ、まずは手始めにこれで行くか。【爆衝風波】」
ズゴオバアアアアアアアアンッッッ!!
「「うわあああああ!!」」
「「きゃああああ!?」」
「ぐべらがほえ!?」
「あれ?」
何か約一名まったく違う悲鳴のような悶絶するような声を上げたような気がした。
その人物を見れば、それはさっき教室で俺達の事を色々言ってくれていた赤銅色の髪の彼だった。
どうやら俺は、無意識のうちに他の生徒達には被害が出ないように威力をそらしてはいたが、彼にはクリーンヒットしたみたいだ。
真正面から受けた事で吹き飛び、地面を転がっていく。止まった所でハイリナ先生が駆け寄ると、気絶している事が確認できたようで、これで一人脱落。
「そんじゃ、お次、行きますか」
俺は自分でも分かるような悪い顔をして笑っていた事だろう。




