第61話 〜妹の冒険者登録〜
「あ、だったら、私も冒険者になりたい」
「………………………は?」
突然の百合華からの申し出に俺は理解出来ず、呆気にとられてしまう。
エルシャも驚いて百合華に視線を向けているが、何かを言おうとしている訳ではないようだ。
だから俺が答える。
「百合華、それ本気か?」
俺は妹の心意を問わずにはいられなかった。
唐突な申し出だったから当然ではあるのだが、どうしてこんなときなのか、それが知りたかった。
「本気も本気だよ。お兄ちゃん」
「何で、今なんだ?」
「それは、その………………」
答えにくい事なのか、百合華はどもりがちになるが、意を決したように言う。
「このまま、お兄ちゃんに任せっきりなのは良くないんじゃないかなと思ったから?」
「何だそれ」
「ほら、向こうに居た時からさ、お兄ちゃんには頼りっぱなしだったじゃない? ならさ、この期に少しでも自立出来るようにしたいかなって思って。ちょうど、お兄ちゃん達が学園に通っている間は私が暇になるじゃない?」
確かに、俺とエルシャがコルーナ魔術学園に通っている間は百合華に構ってやれる時間が限られてくる。今は宿屋『クレリック』に宿泊しているから、部屋は別々にしているし、ゆっくり寛げはするが未だに落ち着けないでいるのはいなめない。
そんな所に百合華を残して行くのは少し不安になる。俺達がいない間に街に出掛けて何かしらの事件に巻き込まれないとも限らない。百合華は非道な事は見過ごせない質だからその可能性が高い。まあ、それで百合華をどうにかできるのかと言うと、それは無いと断言できる。
百合華も俺と同じで、異能に覚醒めシロナから全属性の適性を与えられているから、まず間違いなく返り討ちにするだろう。
「お金の事なら俺が何とかするから気にしなくても良いんだぞ? これでも『A』ランク何だし」
「そういう事じゃなくて。さっきも言ったけど、このまま、自堕落に生活するのはよろしくないんじゃないかなと思った次第で」
「ふむ」
腕を組んで考える。
俺は異能少なめ魔術多めで『A』ランクまで登り詰めた。この世界に存在しない異能は悪目立ちする可能性があるから、基本は魔術を使う。
実際のところ、俺の異能はそこまで目立たないし、魔術の様に見せる事は出来る。
何せ、万能ですから。
百合華も、同じことが出来るだろうからすぐに俺達と同じ『A』ランクになる事はある間違いない。
だがそうなると、百合華はソロかパーティーを組む事になるが、その場合は難しくなる。
ソロであれば、異能を大々的に使っても問題ない。しかし、ソロだと自分だけで安全マージンを確保しなくてはいけなくなるが、依頼報酬は丸々一人で受け取れる。
逆にパーティーなら、異能の使用は制限しなくてはいけないが、役割分担する事で負担を減らす事ができる。しかし、ここでも問題があり、信用できる相手以外と組む時は常に気を付けていたくては、良からぬ事を考える輩も居るから気が休まらない。
さらに、報酬の分配で揉めることもあるかもしれない。
「………………はぁ、分かった。百合華の冒険者活動を許すよ」
「ありがとう、お兄ちゃん」
「―――――ただし、条件がある」
「……………条件?」
俺は頷いて、百合華の目を見て言う。
「百合華が冒険者として活動する間、俺の召喚獣を常に連れ歩くこと。これだけは譲れない」
「? それだけ?」
百合華は真剣な表情をしていた俺から無理難題でも吹っかけられるとでも思っていたのか、提示された条件が召喚獣を連れ歩くことだと言われ拍子抜けな表情になる。
「それだけって、まぁ、本当なら俺と戦りあってもらう何て事でも良かったんだが」
「いや、それだけは勘弁して。お願いします」
俺が提示したもう一つの方を聞いた百合華は平謝りするように頭を下げる。
「そう言うだろうと思ったから、この条件にしたんだ」
「なるほど」
召喚獣は召喚した術者との間に魔力のパスが繋がれていることで状況確認を即座に行うことができ、召喚獣との意思疎通も可能とする。
つまりである、俺の召喚獣を連れ歩くという事は、俺の監視が付いている事と同義であるとも言える。
「まぁ、そういう事だから、百合華の冒険者登録をさせてもらえますか?」
「構わないよ。後で受付に言っておくとしよう」
冒険者は基本的に十二歳から成れるものだから、年齢的には百合華は問題はない。
だがそこで、俺はある事を思い出す。
(そう言えば、俺が冒険者登録をした時に言い掛かりをしてきた莫迦が居たっけ)
そう、あれは冒険者として登録した直後に勝手な因縁を付けてきたクズで莫迦な奴との模擬戦。
結果は言うまでもなく俺の圧勝。
しかし、もしそれが何処のギルドでも様式美的に備え付けてあるのなら、百合華が登録する時にもありそうだと考える。
「百合華、登録する時は俺も付いて行く」
「え? 何で?」
「いやなに、俺が登録した時に莫迦な奴が因縁つけてきたからさ、そのまま模擬戦に発展して」
横で聞いていたエルシャはその時のことを覚えていたのか「ああ、そういえば」と懐かしむ様なそれでいて対戦した相手が不憫だったと思う表情になる。
「へえー、その人って命知らずなの? お兄ちゃんに突っかかるなんて。最初から勝てるわけないのにね(神様に直々に鍛えられた)お兄ちゃんには」
「……………あはは」
小さな声ではあったが、近くに居た俺には百合華が小声で言った台詞が聞き取れ、から笑いする。
「そういう事なら、お兄ちゃんに私のボディーガードをしてもらおうかな」
ニヤニヤと笑いながら言う百合華。
「はいはい。仰せのままに」
〜・・・〜 〜・・・〜
話が終わり、俺とエルシャ、百合華は一階に降りてその足で空いている受付に向かう。
今の時間帯は冒険者の数も疎らになっているのでそこまで苦労ぜず見つけられた。
「いらっしゃいませ。本日はどのような御用でしょうか」
受付に座っていたのはキラキラと日の光を浴びて輝いているように見える銀髪とエメラルドグリーンの瞳をした女性だった。
この受付嬢を見て、俺は一年を過ごした森から出た後にも思ったことを再認識する。
それは、
(改めて思うけど、この世界の顔面偏差値高くね?)
俺の正面に座る受付嬢は見た目の年齢は三十くらいの美女だった。全体的に豊満さを溢れ出させ、母性の塊のような雰囲気をしている。
特に、男として見過ごせないのが、この人の―――――胸だ。
服からはち切れそうになる巨乳。男ならそこに視線が行くだろう事は間違いない。事実、俺もそこに視線が行ってしまった。
すぐさま、視線を受付嬢のソコから視線を引き剥がし、顔に視線を向ける。
受付嬢は今もニコニコとしているが、もしかするとこういうのに慣れているのかもしれないと考え、またソコに行きそうになる視線を相手に固定する。
「どうしましたか?」
「……………え?」
「何か、御用がお有りだったのではないかと」
「あ、そ、そうでした」
受付嬢の問い掛けに俺は不甲斐なくもどもってしまう。
その時、鋭い視線が左横と後ろから向けられる。ギクッとし、その視線の先に目を向けると左からは妹の、後ろからはエルシャからのグサグサと刺さるような視線が向けられていた。
「お兄ちゃん?」
「タクトさん?」
「えっ、いや!? な、何でもないんだよ! 何も見てないよ!」
「「まだ、何も言ってないよ」」
慌てて釈明する俺と、それを冷めた目で見る妹とエルシャ。俺はわざとらしく咳払いし、受付嬢に視線を戻す。戻す際、胸元に付けられていたネームプレートに刻まれた名前から彼女がシェネリア・クシスタシルと言う名前だと知る。
「コホンッ、えっとですね。多分ここのグランドマスターのレウルさんから連絡があったと思うんですが、俺の妹を冒険者登録したいんです」
「はい。伺っております。『A』ランク冒険者パーティー『連なりし絆』のタクト・ツガナシさんですね。確認の為、ギルドカードの提示をお願いします」
俺は自分のギルドカードを差し出す。
それを受け取ったシェネリアさんが何かしらの魔術具に翳すと色が青から緑に変わった。
「はい、確認できました」
ギルドカードを返還され、俺はそれをしまう。
「それでは、こちらに登録に大切な必要事項の記入をお願いします」
「はい」
百合華は記入用紙を受け取り、その場でサラサラと書き出していく。
記入する内容は俺の時とあまり変わらないようだ。
「できました」
百合華は書いたそれを差出し、シェネリアさんが記入漏れが無いかをかくにんする。
「大丈夫そうですね。それでは、今からギルドカードを作成してきますので少々お待ち下さい」
用紙を持って裏に回るシェネリアさんを見送ると、それを待っていたかのように、俺達の所にやって来る三人組の男たちが居た。
勿論、それに気付いたのは俺だけではなくエルシャも百合華も気付いていた。
俺の予想が当たった事とにため息を吐き、この後の展開を知っているからこそ呆れる。
「おいおい、何でてめえらみたいなガキがこんな所にいるんだ?」
「ギャハハッ、言えてらあ! ガキはさっさと帰って大人しくしてな!」
「よく見たら二人も上玉がいるじゃねえかよ。こいつは楽しめそうだな!!」
エルシャ達に向かって下卑た視線と汚い笑いを声を上げるこの三人に俺は冷めた視線を向ける。
「ギャアギャアうるさいな。もうちょい静かにできないのか?」
俺の物言いが癪に触ったのか、すぐさま怒鳴り散らす。
「んだとこのガキ!!」
「目上の人間に対する言葉使いがなってねえんじゃねえのか!! ああっ!」
「土下座してその二人を渡せば、許してやるからさっさとしろよ!!」
この言いように俺はカチンときて、近くに居た受付の人とエルシャ達二人に言う。
「まったく、やっぱりこうなったか。そこの人、ちょっと外の練技場を貸してください。エルシャ、百合華の登録が終わったら来てくれ」
「は、はい。ご自由にどうぞ」
「分かりました。こちらはお任せください」
職員からは突然の事にオドオドと、エルシャははっきりと答える。
「そんじゃ、俺達はあっちに行こうか」
後で聞いたところによると、その時の俺の表情はかなり不敵な笑みを浮かべるものだったそうだ。
ズドオオオオオオオオオン!!
「「「ぎゃああああああああ!!」」」
爆音と悲鳴。
衝撃によって薙ぎ払われる男達と、その爆発の中でも平然と立つ少年。
「おいおい、どうしたよ。さっきまでのギャアギャアうるさいくらいの威勢わよ!」
爆風の中に居ながら平然とし、薙ぎ払った俺達に絡んできた男達を見回す。
「クソがっ! 何なんだよコイツは!!」
「知らねえよ!? そんな事!」
「口答えしてねえでキリキリ動け!! ヤラれるぞ!」
喚き散らしながらも、練技場を走り回り無様な格好になりながらも俺の攻撃を必死に避け続ける。
俺がその気なら即座に終わらせる事もできるが、何故そうしないのかと言うと、こいつ等に身の程と相手との実力差を理解させる為である。
だが、そろそろこれもつまらなくなってきたので、終わらせる事にする。
「そろそろ飽きてきたな。軽い運動にはなったから、これで終わらせるとしよう」
俺は放出する魔力の量と質を上げる。
魔力を感じ取る感知能力がそこまで高くない者でもすぐに分かってしまうほどの強大さであった。
俺達の戦闘を遠目で観戦していた冒険者達でさへ身体を震わせる。
「な、なんだよ、これ」
「あ、あり得ねえだろ、こんな魔力」
相対していた男達は、俺から発せられる魔力の大きさに慄き、腰を抜かす。
「何なんだよ。何だってんだよ!? テメエは!!」
「喚くなよ。それに、俺が誰かって?」
俺は大声で喚きながら問うてくる男に冷静に答えてやる。
本当なら答えなくてもいいのだが、ここは俺の身分を知らしめる事で俺やエルシャ、そして百合華に対しての余計なちょっかいをかければどうなのかを知らしめる場として利用することにした。
「俺の名前はタクト・ツガナシ。『A』ランク冒険者パーティー『連なりし絆』のリーダーをしている者だ」
ダメ押しとして、俺は懐から『A』ランクである事を証明するギルドカードを提示すれば、それが嘘ではなく真実なのだと分かるだろう。
そうして、コイツ等も理解したことだろう。自分達が絡んだ相手が高位の冒険者である事を。
驚愕し、目をこれでもかと見開く。
「…………………嘘だろ」
「え、『A』ランク、だと!?」
「おい、嘘だろ? 誰か、嘘だと言ってくれよ」
しかし、彼らの懇願や願いは届くことは無い。
これは純然たる事実なのだから。
「殺しはしない。それはギルドの規約に反する事だからな。だが、お前達が誰に歯向かったのかは、その身で理解してもらうとしよう」
身体から発せられる魔力をコントロールし、俺の周りを螺旋を描く様に回転させ、その魔力でもって魔術を行使する。
「『氷波晶茨』」
俺を起点に地面が凍りつき、凍りついた場所から幾本もの水晶のように透き通った茨が飛び出してくる。
その場から逃げ出そうとする男達だが、その前に呆気なく捕まってしまう。
「な、何だよ、コレ!?」
「クソっ、見た目は脆そうなのに切れねえし、壊せねえ!」
「いったい、どんだけ出てくるんだよ!!」
慌てて応戦するが、俺の『氷波晶茨』は見た目に反してその硬度は鉄を遥かに凌駕し、この世界で最硬の鉱石と言われる重魔鉱石に匹敵する程だ。
「グギャアアア!?」
「チクショ!」
「つ、冷てえ!?」
「氷なんだから、冷たいのは当然だろう。少しの間そこでおとなしく反省してろ」
一応は凍傷になる前には溶けるように設定して使っているので問題はないだろうと考え、それらを放置してその場をあとにする。
後ろからはギャアギャアうるさいのが聞こえるが、自業自得として聞き流す。
すると、冒険者の中からエルシャと百合華が一緒にやって来る。
「また、派手にやりましたね。タクトさん」
「おいおい。こんなの派手でも何でもないだろ? というか、これはあいつ等の自業自得」
「でも、大丈夫なんですか? あのままだと、凍傷になったりしませんか」
彼等が気になるのか、しきりに視線で訴えてくる。
「問題ないよ。そうなる前に解けるようにはしてるから。保っても数分かな」
「そうですか。なら大丈夫ですね」
俺の説明に一応は納得してくれたエルシャ。
「それで、そっちはどうだった」
「こっちはアレ以降問題なく、つつがなく終わりましたよ」
「そうか。そうなると、百合華のランクは初心者の『F』からか」
「そうなるね。さっきチラッと覗いたけど、そこまで大掛かりな依頼は無かったかな」
「低ランクの依頼の殆どは街の中でできる手伝いの依頼か、街から少し離れた所に行っての薬草採取がメインだからな」
懐かしみながら語るが、俺の場合はイレギュラーな事が重なりトントン拍子で一年も掛からずここまで来てしまったので、しっかりと依頼を受けてランクを上げたなんてきわしないのだ。
「それじゃ、これで無事にギルドでの用事は済ませたから、街に繰り出すとしますか」
「そうですね」
「わーい! 今日はどこに行こうかな」
冒険者ギルドに行った翌々日。
今日は待ちに待った『コルーナ魔術学園』の編入初日だ。いったい、どんな場所なのか今から楽しみだ。
俺は制服に着替え、宿屋の二階から降り、一階の食堂に向かう。
すると、そこには既に朝食を食べていた百合華達が居た。
「あっ、おはよう。お兄ちゃん」
「おはようございます。タクトさん」
「ああ、おはよう。二人共、今日は早いな」
俺は自分より早く起きていた二人に理由を尋ねると、
「あはは、いやね、今日から冒険者として動くことになるからさ、少しの緊張と興奮でなかなか寝付けなくてね。ちゃんと寝れはしたんだけど、早く目が覚めちゃって」
「お恥ずかしながら、私も同じです。それで、中庭を借りて鍛練をしていた時にユリカさんから声をかけられまして、そのまま三本ほど勝負してました」
二人はまるで子供のような自分達を恥ずかしがるように顔を赤らめる。
「なるほどね~。確かに昔の俺なら同じ事になるかもしれないが、休める時に休んでおかないと身体が持たないからきをつけろよ」
「はい」
「は〜い」
しっかりとしたエルシャの返事と少し間延びした百合華の返事を聞きながら、編入の話を聞いてから考えていた事を二人に言う。
「なあ、今の俺達ってこの宿屋に間借りしているだろ。これから俺達が学園に行くとなるとここに居る時間が限られてくるようになるからさ、時間がある時にでも不動産屋で家でも探さないか?」
「家、ですか?」
「ああ」
今の俺は『A』ランク冒険者で、アルベンの街を守ったことでかなりの報酬を貰っているので、その気になれば家を一軒借りるかもしくは買うことも可能だ。
「このままここを借り続けるのも良いけどさ、あんまり居られないんだったら家を借りるかしたほうが良いんじゃないかなと思って」
エルシャと百合華は顔を見合わせ、ほとんど同時に笑う。
「「賛成です!」」
声を揃えて言う二人。
「二人が学園に行くなら、ここに居るのってほとんど私だけじゃない? それだと結構暇になるし、何かするにしてもここは間借りの宿屋だから壊したりしたら大変だよね。それなら、確かに家を買った方がこっちの自己責任ってことでなんとかなるしね」
「私としては、自己鍛練をするには宿屋の中庭では少し手狭なので広い場所で延び延びとやりたいです。最近は体術ばかりでしたから剣の方もやりたいですね」
そう言えば、エルシャはこの間の戦闘で剣を壊してしまったのだった。一応、新しい剣を買うまでは俺が魔術で作った剣を使ってもらっていたので、そろそろ変えどきかな。
俺は二人の意見を聞き、家を買う事にした。
「それじゃ、休みになったら不動産屋に行って手頃な家でも見繕うか。その後に、エルシャの剣を見つけるか」
「は〜い!」
「楽しみですね。学園も、家も、あと剣も」
俺達はワイワイと話し合いながら朝食を食べ進め、俺とエルシャの学園への登校時間が差し迫って来た。




