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最強幻想使いの異世界魔術学園  作者: 十織ミト
第2章
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第50話 〜何か、凄いものを見た〜

 そんなこんなで、かけがえの無い妹の百合華との感動の再会を果たした俺は、二人を伴って街の中を散策しながら、これから学園に通うまでの仮の宿を探すことにした。


「えっ、て言うことは、お兄ちゃんとエルシャさんはこれからこの街にある魔術学園に通うの!?」

「そうなるな。まぁ、でも、俺はある程度はこの世界の勉強してるから別段、学園に通う必要性は無いんだが…………」


 俺は一旦、そこで言葉を切る。

 事実、この一年でシロナから必要な知識は教えられ、その全てをとは言わないが大体は覚えている。だがそれでも、地球での学生生活を忘れられる訳ではない。

 友達との他愛もない会話をして、授業を受けて眠気を覚えたり、それを必死に耐えて居たところを先生からさされたりと何処にでも有るような、誰もが経験したことがあるだろう光景を思い出し、懐かしみを覚える。

 楽しかった事があれば、悔しかった事もあり、泣きたい事もあったりしたが、懐かしい日々のそれらはもう戻る事の出来ない過去の出来事として割り切るしかないと思っていた所での、この話である。

 また一からではあるが、友達との楽しかった思い出を経験出来るのなら、通っても良いかなと考えていたりする。

 そんな俺の内心を察してくれたとか、百合華は俺に慈愛の籠った視線を向けてくる。

 百合華も感じているのだろう。百合華も突然の友人達との別れを経てこの世界にやって来たのだから。

 俺は百合華がよく遊んでいた女の子の親友の事を知っている。彼女も彼女で百合華の兄である俺に懐いてくれていたから。


「そっか、そうなると私はどうなるのかな? 二人は学園に通う許可を持ってるから良いけど、私は持ってないからなぁ〜」

「そうなんだよなぁ〜、今から陛下に頼み込むのも良いかもしれないけどさ、流石にな」

「そうですね。陛下も国の政策に忙しいでしょうから」


 俺が悩んでいると、左側に並んで歩いていたエルシャが同意する。


「こうなると、やっぱり正攻法で行くしかないのかな」

「正攻法、ですか?」


 エルシャは分からないのか、首を傾げる。


「そう。つまりは、来年の試験を受けて、入学するんだ」


 今はアルテア歴三百四十一年の六月十九日。

 魔術学園の入学式と卒業式は入学式が四月、卒業式は五月に行われる。

 そう考えると、入学試験を受けるまで一年丸々掛かる計算になる。

 しかも、魔術学園の入学規定として試験を受けられるのは十五歳以上からであれば、何時でも受けられるが、大抵は十五歳〜十八歳までに受けて、それ以上の年齢で受ける者は居ない。


「成る程。確かに、陛下との繋がりが無いユリカさんでは、私達のようなやり方は無理ですからね」

「そういうこと。まぁ、やろうとするなら俺らと同じくらいの速度で冒険者ランクを上げたり、国への貢献をするしかない」

「そっか。そうなると、やっぱり試験を受けるしかないのか」


 俺の右側を歩く百合華が試験と口にして、少し嫌な顔をする。


「そんな顔するなよ、百合華」

「でもさ、勉強しないといけないんでしょ?」

「そうだな。でもな、試験内容は座学だけじゃないらしいぞ」

「え、そうなの?」


 ああ、と頷く。


「聞いた話によると、コルーナ魔術学園の入学試験には基礎的な地理や歴史、計算と魔術体系と術式を答える三つだけで、それが各一時間ずつで十五分の休憩を挟んで後半に実力試験があるらしい」

「へぇ〜、座学ってたった三つだけなんだ」

「そういうこと。但し、実力試験には魔術の威力と精度、発動速度の三つで判断するらしいから、実際は六つらしいが」


 そこでふと、俺は百合華が魔術を使えるのか知らない事に気付く。

 なので、小声で尋ねる。


「そういえば百合華、お前って魔術使えるのか?」

「うん、使えるよ。ここに来る前にシェルヴェローナ様に全属性の適性を貰ったから」


 百合華は俺に合わせて同じように声を潜めて答えてくれる。

 流石は出来た妹だと感心していると、つまりシロナも百合華の事について知っていたってことだよなと思い至る。

 これは三(にん)に聞くことが増えたな。


「なら大丈夫だな」


 俺達は宿探しを再開する。

 すると少しして、大きなそこそこ良さげな宿屋を発見する。


「お、ここなんてどうだ?」

「確かに、良さそうな宿屋ですね」

「私は宿屋の良し悪しは分からないから二人に任せるよ」

「じゃあ、ここにするか」


 宿屋『クレリック』と看板が出ている宿屋に入ろうとすると、そこで俺達は久しぶり(?)に厄介事に巻き込まれた。


 ドガンッ ドグシャアアァァァッ


「ぐあはっ」



      〜・・・〜      〜・・・〜



「「「…………………………えっ?」」」


 突然宿屋の店内から男の人が吹き飛んできたのだ。

 俺達はいきなりの事で唖然とし、その場で呆然と立ち尽くす事になった。

 道行く人達も、何事かとその足を止めて宿屋へ視線を向ける。

 しかし、それで終わる事はなかった。


 ドガンッ ドゴンッ バガンッ ズドンッ バギンッ


 ズズズズズシャァアアァァァァァァァ!!!!


 連続でさらに追加というかのように、五人のこれ又鍛えられた身体の男達が吹き飛ばされてきた。


「「「………………………………………は?」」」


 いったい何事!? と俺達の理解を超えたできこを起こす宿の方を向くと、今まさに男達を吹き飛ばした(?)であろう女性が出てくるところだった。


「全く、喧嘩するならよそでやってくれ! こちとら客商売をしてるんだからな!」


 男達に向かって、男勝りで男らしい言葉使いで話す女性。だが、こちらの女性もなかなかの実力者なのか、鍛えられた身体をして、腹筋に至ってはシックスパックを作りあげている。

 髪は赤に少し茶色がかった赤銅色、身長は高めで百七十から百八十はありそうで、なかなかに威圧感がある。冒険者かな?

 でも、客商売をしてるって事は、この宿屋の従業員なのか?

 もしくは、雇われの用心棒とか。


「ゲホッ、げへっ………クソが! テメエには関係ねえだろうが!? これはこっちの問題だろうが!!」

「そうだそうだ!! 関係ねえアンタが口出しするんじゃねえよ!!」


 吹き飛ばされた衝撃から立ち直った男達からの罵声に、女性は毅然とした態度で相対している。


「ここは宿屋だ。疲れて帰ってくる冒険者や一休みする旅人が腰を落ち着かせる為の場所だ。そんな場所で、アンタらは同じ依頼を受けて、それが相手のせいで失敗した事を言い争っていた。経営している方としては迷惑極まりないね」


 男達はぐうの音も出せないくらいの正論を言われたからか、反論出来ずに居た。


「それにねえ、アンタらがさっきから言い寄っているアタシの娘や従業員達が、いい加減うっとうしがっているんだよ。これ以上困らせるくらいなら、この宿から出ていってもらうからね」

「……………くっ」


 悔しそうな顔をしながら、男達は渋々宿の中に入っていった。


「……………………何か、いきなり凄いのを見たな」

「そうですね」

「ハンパナイ、迫力だったね」

「ああ、でも…………」



「「「……………凄く、カッコいい」」」



 毅然と男達に真っ向から受けて立つその姿勢に、俺達は憧れめいた思いを感じていた。

 宿に入る前から、何やら凄いものを見た気もするが、それは今は置いておこう。


「それで、宿だけど、ここにする?」

「そうだな。他の所でも良いけど、さっきの見たらここの人は凄く頼りがいのある感じだし、しっかりしてそうだ」

「確かに。他の宿を見てからでも良いでしょうが、私としてはここでも良いと思います」

「それじゃ、ここにするか」


 俺達は宿屋『クレリック』の西部劇映画とかで良くある観音開きの扉を開けて中に入る。中はそこそこ広いフロントと受付、左側には食堂と厨房、右側には二階にある部屋えと繋がる階段。あとは所々に置かれた鑑賞用なのか、彩りの為なのかの植物。

 掃除を怠っていないからか、汚れは全く目立つことはなく、清潔感を発している。


「良い宿だな」

「さっきの光景からは考えられないですけど」

「確かに、インパクト強すぎたもんね」


 一通りフロントを見回した俺達は、そのまま受付に向かう。


「いらっしゃいませ。宿屋『クレリック』にようこそ。お泊まりですか? それとも食事ですか?」


 受付に居た俺とエルシャより少し年齢が下で百合華と同じくらいの女の子が受付をしてくれる。どうやら、この宿は宿泊だけでなく、食堂としても商売をしているようだ。


「宿泊で頼む。今は一週間で泊まりたいんだけど、後から延長する事って出来るか?」

「はい。出来ますよ」

「なら、それで頼む」

「分かりました。では、一泊一人部屋でしたら三十七ギル、二人部屋でしたら三十ギルです」

「両方借りられるか?」

「はい。大丈夫です」


 俺が銀貨六枚と銅貨七枚を女の子に渡し、女の子は机の下から異なる形の木札の付いた鍵を二つ渡してくる。


「こちらの長方形の木札が付いた鍵が一人部屋の鍵で、こちらの五角形の木札が付いた方が二人部屋の鍵となります。それぞれの木札の所に、部屋番号が刻印されているので、そちらの部屋へどうぞ」


 俺達は女の子からしっかりとした説明を受け、俺が一人部屋の二〇四号室と刻印された鍵を持ち、もう一つの三〇二号室が刻印された鍵をエルシャに渡す。


「一旦、荷物を置いたらそこの食堂に集まって、今後の予定を決めようか」

「分かりました」

「うん。私も良いよ」


 各自で部屋に向かい、俺が泊まる部屋は二階にあるようで行ってみると、そこは一人部屋にしては丁度良く、これといった汚れは無く、綺麗にされている。


「なかなか気配りのされている宿だな。さっきのアレを除けば」


 一通り部屋を見て回って、荷物を置いて鍵を閉めて一階のフロントに降りる。

 そこには二人の姿がなかったことから、まだ来ていないのだろうと思い端の方で待っていることにする。






 数分して三階から二人が降りてくるのを気配で感じ取った。

 この世界に来てから一番頑張ったのは、もしかすると勉強ではなくこの気配感知かもしれない。

 元より俺は、別に気配に敏感だった訳ではなく、勘が鋭いだけで極普通なものだった筈だが、これを修得するためにボロクソになるまで目隠しをし、視覚外からの攻撃を受けていたことを思い出す。

 しかし、この気配感知の技能のお蔭で命拾いしたことは何度かあった。

 だからコレには感謝してもしたりない。


「お待たせしました」

「お待たせ、お兄ちゃん」

「そんな待ってないから、気にするなよ」


 軽く話して、そのまま食堂に入ると、


「何だ、あれ」

「さ、さあ?」

「凄いね。()()()()()にってる」


 それは食堂の片隅に積み重なった三人の男の山。その前に立つ先程の女性。

 間違い無く、アレはこの女性がやったことだ。

 丁度近くに居た従業員の男性に聞く。


「何ですか、あれ?」

「ああ、あれね。アレはガルニアの前でいさかいをしていたからな、黙らされたんだ」

「ガルニアさん、ですか?」

「そ、あの男たちの前に立っている女がいるだろう? あの人さ。あの人はこの『クレリック』の店長なんだ」


 あの威圧感が凄い女性がこの宿の店長か。


「まったく。さっきの奴らもそうだけどね、アンタらもいい加減にしなよ」


 女性―――ガルニアさんは呆れとイラつきが半々な感情で男達に言うが、男達は気絶しているので聞いていないだろうが、こんな状況になっていることから、自分達がどうなったのかを理解するだろう。


 俺とエルシャ、百合華は心のそこから思った。


『『『この人には逆らわないようにしよう』』』と


 例え最強の異能使いであろうとも、本能的な所でそう判断する。



      〜・・・〜      〜・・・〜



 夜、俺の部屋には三階のエルシャと同じ部屋に泊まって居る筈の百合華が来ていた。


「それでお兄ちゃん。話って、何?」


 百合華は俺の部屋にある椅子に座りながら尋ねる。


「俺が聞きたい事なんて、分かりきった事だろう」

「まぁ、なんとなく」


 百合華は悪戯がばれた子供のように、バツが悪くなったかのように視線を反らす。


「俺が、今聞きたいのは、一つ。どうやってあの二柱がやった記憶消去を逃れたのか、だ」


 それが不思議だった。

 アディーも、自分達はそこまで万能ではないと言ってはいたが、こんな短期間で百合華が俺を思い出して、この世界にやって来る何て思いもしなかった。


「そう、だよね。うん、良いよ」


 そして、百合華は訥々と話し出す。


「最初はね、私も皆と同じでお兄ちゃんの事は忘れていたんだよ。悲しい事にね。でもね、何でか、それが違和感を覚えてしまったの」

「違和感?」

「うん。何かが、今の生活に足りないって。それが、友達の燐ちゃんと話していたときに強く感じたの。それで、学校が終わって、家に帰ったらそれが強くなったの」

「家、か」


 俺達の家は、両親が遺してくれた場所であり、俺達の思い出がたくさんある場所でもある。

 確かに、そこでなら俺の事を思い出しても可笑しくはないか。


「家で一人で居ることに、違和感しかなくて、それでも気のせいだろうと思って寝ようと自分の部屋に向かっていたらね、お兄ちゃんの部屋が気になったの。お兄ちゃんの部屋に入ったら、お兄ちゃんの事を思い出して、気絶しちゃったの」

「気絶!? 大丈夫なのか?」


 俺は慌てて百合華に駆け寄るが、百合華は笑顔でそれを遮る。


「今は大丈夫だよ。その後に気が付くと、アルディニアっ言う綺麗な人がいてね、その人が言うには自分達が施した記憶消去に抗った弊害なんだって」

「………そうか」

「で、その後にアルディニアさん? さま? から事情説明をされて、私はこの世界に来ることを決めたの」


 アディーは一体、何を説明したのかと考えるが、それは後で聞くとしよう。


「その決定に、悔いはないのか?」

「無くはないよ。だって、向こうには友達が居たんだよ? そりゃ、寂しいよ」


 目を伏せる百合華に、俺はその頭を優しく撫でてやる。


「そうだよな。でもな、俺はお前が来てくれて嬉しかったんだ」


 俺は今日の事を思い出して、話す。


「お前達とは二度と会えない事を覚悟で、俺は力を得た。でも、そんな俺の前に百合華が現れた。こんな奇跡があって良いのかって思えるくらいにな」


 その言葉に、百合華は視線を上げて見てくるので、笑ってやる。

 心からの笑顔を。


「これからも、一緒に頑張ろうな。百合華」

「うん。よろしくね、お兄ちゃん」

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