第34話 〜ちょっとだけ本気を出してみた〜
お久しぶりです。十識ミトです。
今回は、朝早く(ほとんど真っ暗なよる)の投稿です。
いや〜、なかなかどの辺りで書き終えようかと書いていたら、こんな時間になってしまいました。
てなわけで、今回と次の書きで第一章は終わり。
次は第二章でお会いしましょう。
戦闘は、太陽が中天に上がるまで続いた。
いや、今も絶賛続いてはいるが、その数は最初の内に比べれば五分の一にまで減らされている。
倒れた魔物に対し、こちらの死者は0人に負傷者は半数以上に上がったが、死人が出ていないのは奇跡だった。
それ程までに、最初の状況は最悪だった。
だが、この奇跡の様な状況を作り上げたのは俺だった。
俺が半分近く殺したとはいえ、その後は方々のサポートに徹していた。
最大キル数は俺で、死者無しに負傷者は全体に比べれば微々たるもの。
それを考えれば、これは正しく歴史的快挙と言っても良いのではないだろうか。
「総員、魔物の数はあと少し、最後の一踏ん張りだ! 頑張れ!」
「「「「「「「おおおおおおおおおおおッッッッ」」」」」」」
後方で全体指揮を取っているエレーナの代わりに、前線でその手腕を振るっているのはサブマスターのサリマン・アブソンだ。
彼は獣人であり、その身体能力を遺憾無く発揮し、危険だと判断した場所には自ら率先して向かい、負傷者による戦力低下を押さえている。
その甲斐あってか、今もこうして戦線は維持され、あと少しで勝利できるところまで来ていた。
しかし、世界はそこまで甘くは無いのも当然である。
唐突に、魔物達が進行してきた先、その後方からとてつもない威圧感を発するもの達が接近している事に気付いた。
「何だ、この気配」
サリマンは魔力で視覚を強化し、その気配のする方へ視線を向ければ、そちらの方から盛大な砂埃をたてながらやって来る四体の魔物が居た。
それも、今は相手にしたくない者達が。
「何故、あの魔物達が、ここにっ!?」
こちらに向かって先頭を突き進む熊の魔物。その身体中から鋭い針が幾本も生えさせ、まるでヤマアラシかハリネズミのようだった。
その魔物の名前は『巨針熊』。正真正銘の『A』ランクの魔物だ。
その後を追うようにやって来る三体の魔物。
一体は、その翼で羽ばたき、空を掛ける巨鳥。『ベインクード・バード』。
一体は、身体をくねらせ猛然と進む大蛇。『グラース・バイパー』。
一体は、鍛えぬかれた肉体に身体とは合わない肥大化した腕を持つ二足歩行の蜥蜴。『タイラント・リザード』。
その全てが『A』ランクに名を連ね、総じて強敵の魔物として知られている。
『巨針熊』はその身に生やす針の強靭さに剣は弾かれ、時にその針を飛ばして貫きに来る。
『ベインクード・バード』は、子育ての時以外ではけしてその身を包む風の幕を取ること無く、飛び道具は意味を成さない。
『グラース・バイパー』は、身体がゴムの様にしなやかで伸縮に富んでいることで、刃物は使い物にならず、魔術を使おうにも詠唱の間に地面に潜られてしまい、奇襲をかけられてしまう。
そして『タイラント・リザード』は強固な鱗に身に纏い、更にはその腕から打ち出される打撃を主にしたまさに重戦士の様な戦い方をする。
そして、その魔物達は漏れ無く魔術を使う事が出来るという凶悪さ。
あと少しで終わる筈だった戦いが、その間近でやって来た悪夢に泥沼化しそうになる。
「何て、間の悪いっ」
苦虫を噛み潰した様な顔になり、瞬時に少しでも周りの魔物達を倒し、奴等が到達してからの対応をしやすくする事にした。
「全員、直ちに近くに居る魔物達を掃討せよ! 森の方から強敵の増援だ!」
それによりざわめき出す周囲。
光明が射したと思った所に、更なる敵の増援。
その声で、増援にやって来る魔物達を見た者達は愕然とした。
たった四体。されど、その全てが『A』ランクの魔物達。
現在、この戦場に居る冒険者達は『A』ランクの冒険者パーティーが一つ。『B』ランクの冒険者のソロが数人。パーティーで六組。『C』ランクが残りを占める。
『タイラント・リザード』達に対処出来るのは今この場では自分と『A』ランク冒険者パーティー『真紅の戦雷』、ギルドマスターのエレーナ、そして先程の多数の魔物を一瞬にして薙ぎ払った『C』ランクに上がったばかりだという冒険者タクト・ツガナシ。
丁度、一体ずつ当たれば対応出来るが、その間の指揮は疎かにならざるおえない。
どうすれば、と悩んでいた時、サリマンの周りに居た魔物達が一陣の風に薙ぎ払われる。
サリマンは何事かと見れば、そこにはあの全属性魔術での大立ち回りをした冒険者のタクトが居た。
「君は!」
「遠方からやって来る魔物。あれは俺が相手をするから、あんたは他の冒険者の指揮に集中しておけ」
「な、ちょっと、まっ………」
こちらが何かを言う前に、タクトはそれだけ言い残して四体の『A』ランクの元へ走りだ。
その前を遮る様にして居た魔物達も、まるでそこらにある路傍の石の如くタクトの持つ剣の一降りで排除される。
〜・・・〜 〜・・・〜
「久しぶりだな。こんな相手と殺り合うのは」
訓練時代は毎日が死闘だった。
魔物と戦うのは初めての経験であった為、最初は低ランクの魔物から始まり、俺の技量が上がりだすと少しずつランクの高い魔物を相手にしていく。
それも、全てが統一されているわけでもなく様々な場面に対応出来る様にと、その種類を代えて対処法を変えていく。
例え力があっても、油断や怠慢をすれば、直ぐに俺の命は一瞬で刈り取られている。今まで相手してきた魔物は全てがそんな気を抜けない者達ばかりだった。
敵が弱くても、隙をつかれることはある。
油断する奴は、俺からすれば単なる馬鹿。
だから今回も、俺はけして油断しない。
「さっきもだけど。少しだけ、本気を出すかな」
シロナとの約束である【神威外装】の使用と『リミッターリング』の解除はしない。
『リミッターリング』で制限されているのは俺の全力の七割強。
今回使えるのはその内の制限されていない三割の力。
俺は、その三割の内の一割強の力で本気でやる。もしもの場合はそれ以上を使うかもしれないけど。
既に周りからは俺から発せられる強大な魔力で魔物が居ない空間が形成され、後は敵としてやって来る四体の魔物を待つだけだ。
しかし、それはすぐにやって来た。
「ようやくの、ご到着か」
最初に接敵したのは一番前を走る『巨針熊』だ。
「ぐおおおおおおおおおおっっ」
目の前に立つ俺が邪魔なのか、自身の身体から生える針を逆立てそのまま俺に突進を敢行する。
普通の人間なら、その針に串刺しにされ御陀仏になるか、躱したとしてもその速度と針の鋭さにかするだけでも大怪我は必死。
だが、それは俺以外の普通の人間ならの話だ。
「そっちがそのまま来てくれて助かったよ」
俺は身体を魔力で強化し、『巨針熊』の突進を半身になって避ける。
しかしそれでは、俺が針の餌食になってしまうことだろう。だがそこは、規格外の魔力による強化を俺の衣服にまで範囲に納めているため、どんな強力な攻撃でもビクともしたい鉄壁の防壁となる。
なので、俺の横をすれすれで通り過ぎようとした『巨針熊』の横っ腹に裏拳の一撃を与える。
ズドンッ!!!!
轟音を上げて真横に吹っ飛ばされた『巨針熊』は、地面に何度も打ち付けられ、その身に纏っていた針を折りながら吹き飛ぶ。
残身をしている所に後に続いて来た『グラース・バイパー』が伸縮に富んだその身体だから出来る大口を開けての突進。
それを俺は瞬時に【風球】を無詠唱で発動し、その大口の中に叩き込む。
バンッ
衝撃を諸に受けた『グラース・バイパー』は頭部を後ろに勢い良く打ち上げられる。
その隙をつくように空から奇襲を掛けてくる『ベインクード・バード』は気付かれない様に予め張っていた水と風の二層の幕にからめとられ、身動きが取れない所を【衝撃弾】で吹き飛ばす。
最後の一体の『タイラント・リザード』は警戒心と危険察知にて一瞬早く察したのか、俺の攻撃範囲に一歩入らなかった。
「やっぱり、お前は来なかったか」
『タイラント・リザード』とは前に数回戦ったことがある。
俺が感じたこいつの厄介な所はその重戦士ぜんとした戦い方ではなく、察知能力ではないかと思っている。
生物が基より持っている勘や本能をこいつはもう予知としか言いようが無いくらいに鋭く、次の手を事前に察知してくる。
最初はこいつの、その察知能力を俺は未来予知かと勘違いしていた。だが、異能を使っての戦闘と使わずに魔術だけ、もしくは武術だけで戦った事でちょっとした違和感に気付き、後々調べたらそれは予知ではなく発達した勘や本能からの察知能力だと知り、驚いたものだ。
しかし、それでもこいつの危機察知にも限度がある。
例えば、事前に行動を読まれても、それをブラフに本命の攻撃を隠してしまえば何て事無い。
例えば、こちらが行動を起こす前に回避を行ったとしても、それを超える速さで攻撃すれば問題ない。
例えば、相手が行動を起こす前に仕止めてしまえば、何て事無い。
だから、ただそうすれば良いのだ。
「本気を出すからには、これくらいやらないとな」
次の瞬間には、『タイラント・リザード』が立ち止まった俺の攻撃範囲のギリギリだと思っていたそこが一瞬にして無くなった。
いや、呑まれたのだ。
元々、そこが俺の攻撃範囲の限界だなんて一言も言っていない。
俺の攻撃範囲は広大で、自分でもどれくらいなのかは把握していない。だから、俺はそれを狭められないか試した。
そうしたら、何とか出来た。それによって、相手は俺の射程を誤り、殺されていく。
「『エレクシア』形状変化《刀》」
「了解しました。形状変化《刀》に変更」
エレクシアは神剣であり、意思を持つ武器『意思ある武具』なのだ。
シロナにもう一つの機能があるから後で確認してね、と言われて確認した時は最初は滅茶苦茶驚いたものだ。
そんなエレクシアで放つのは俺のとっておきの技の一つ。
「津我無流剣術:水纏 参ノ太刀 『蛟』」
鞘に収まっていた『エレクシア』の形状を刀に変え、一気に引き抜く。
シャリンと涼やかな音をたてて振り抜かれれば、その軌跡に沿って水が流れる。
その後には八分割された『タイラント・リザード』の亡骸だけが残される事になる。
まるで、大きな牙や爪で切り裂かれたかのようだった。
水纏は、俺が独自に編み出した剣術と魔術の融合体。武器に魔術を纏い、それと同時に出す業による相乗効果で相手を倒すものだ。
他にも、火や土、風なんかもある。
俺はそれを、総じて―――《纏》と呼んでいる。
「さぁて、残りも片付けるか。見えざる腕よ、その手に持ちし不明の刃をもって、裁ち切れ。【幻想具現】」
パチンッと指を鳴らしただけで、残りの魔物達も何をされたのかを知る事無く散った。
これが一番、手っ取り早いと思い使ってしまったが、今は鍛練中ではないので、気にしない。
それから数時間後、残っていた全ての魔物が討伐され、長かった一日が漸く終わった。
俺達は、一人の死者を出す事無く、生き延び、勝ったのだ。
その事を、最後まで戦い抜いた全員が噛み締めた。




