第10話 〜拓斗が消えた後の出来事 天界part〜
お久しぶりで。十織ミトです。
今回は、前回の続きで学校に残っている妹の百合華の場面です。
場所は変わり、拓斗との約束を果たす為に世界の管理者であるアルディニアとゾルドは、現在天界と呼ばれる空間から拓斗が居なくなった後の世界を見ていた。
「それでは、ゾルド。準備は良いですね?」
「ああ。何時でもいけるぞ」
二人(柱)は自分達の間に浮かぶ地球儀の様な物を挟んで、神にのみ使用が赦された力―――神力を身体から発しながら手を突きだした。
「「【世界記憶改竄】」」
二人が発動させた術によって、その日、世界から『津我無拓斗』という人間の存在が消された。
それはけして、戻る事の無い記憶と記録の改竄。一片たりとも違和感を感じる事も無く、感じさせる事も無く行われた。
親しくしていた者から、多少なりとも繋がりを持っていた者に至るまで、全ての『津我無拓斗』に関する記憶と記録を失った。
「これで、拓斗さんがこの世界に生きていた事を誰も憶えていないでしょう。けど……」
「ああ。俺達とて、完璧ではない。だから、どこかしらで見落としが有るかもしれない」
「そうね。なら、もし拓斗さんの事を思い出した者がいれば、私達に判るようにしていれば良いのでは無いかしら」
「そうだな。現時点では、それが精一杯か」
こうして二人(柱)は拓斗との約束を果たした。しかし、この二人(柱)をしても予想も予測も出来なかった事があった。
それは、家族の絆。拓斗と強い絆で結ばれているのは、現在では妹の百合華のみ。
よって、津我無百合華が術を掛けたその日の内に、自身の兄―――津我無拓斗のことを思い出す事も、この二人(柱)には予想もしていなかった。
〜・・・〜 〜・・・〜
キーン コーン カーン コーン
スピーカーから流れてくるチャイムが授業終了の合図となり、現在行われている今日最後の授業が終わり、残すは帰りのホームルームだけとなった。
「う〜ん」
ずっと椅子に座って居たため、凝り固まった身体を伸ばして解す。
「ねぇ、百合華。学校終わったらさ、どっか行かない?」
「あ〜。ごめん、今日から三日間は寄り道出来ないんだ」
身体を解す百合華に話し掛けたのは、教室でよく話し、休みの日にはたまに遊んだりする友人の綾鷹 燐だ。
彼女とは、小学校四年生から仲良くしており、今では時々こうして二人で出かける予定を話したりする仲でもある。
「そっか。…………。…………? 三日? ごめん、百合華。私の記憶違いだったら謝るけどさ、百合華の家に他に誰か居たっけ」
「…………え? あれ? そう言えば、何で私、三日間何て言ったんだろう」
百合華は、自分が発した言葉を指摘され、自分が何故〝三日間〟などと言ったのか不思議に思った。
まるで、今まで誰かと一緒に住んでいて、今日から三日間居ない事になっているかの様だった。しかし、そんな事はあり得ない。
自分が家族と言える存在は六年前に死んだ両親だけなのだから。
「あ、あははは。ごめん。多分、言い間違えただけかも」
「そう。まぁ、そう言う事なら仕方ないか」
「ごめんね。せっかく誘ってくれたのに」
「良いって。じゃあ、また今度予定が空きそうだったら、誘うからさ、その時はよろしくね」
「うん。ありがとう」
その後に行われたホームルームもこれと言った注意事項は無く、速やかに終わった。
が、今百合華の頭に有るのは、友人との話していた時の事だった。
(私、どうしてあんなこと言ったんだろう)
百合華は自分でも、何故あんなことを言ってしまったのかが気になって仕方がなかった。
荷物を纏め、学校からの帰路につく。
途中で、いつも寄っているスーパーで買い物をし、家に着くとちょっとした違和感があった。
いや、この今も感じている違和感は学校からの道中にも感じていた。何時も通っている帰り道の筈なのに、何かが足りない気がしてならない。
ふとした拍子に、周りを見回してしまう。
しかし、その原因は分からなかった。
なんだろう、と首を傾げ、鍵を開け家に入る。
家に入ると、違和感が今まで以上に強くなる。
それは胸の奥をザワつかせるような、何か鋭いものでチクチクと刺激されているかの様な、何とも言い難い感覚を覚えた。
ここでも原因が解らず、気になりつつも、夕食とお風呂の準備をする事にした。
〜・・・〜 〜・・・〜
お風呂を済ませ、さぁ寝ようと二階に上がると、ある扉の前で足が止まる。
「そう言えば、ここって何の部屋だっけ?」
今までずっと、この家に住んでいたが、この部屋が何の部屋か思い出す事が出来なかった。
両親の部屋は一階にあるので、ここが違う事は知っている。物置はこの部屋の隣なのでそれも違う。
(なら、この部屋は?)
百合華の中で、この部屋の扉を開けてはいけないというのと、開けなくてはいけないという相反する二つの思いがせめぎあう。
どれ程そうしていたかは分からないが、覚悟を決めてドアノブに手を伸ばし―――扉を開ける。
室内はこざっぱりとした普通の部屋だ。何時でも、誰かが泊まりに来ても良いように掃除もされている。
そこで百合華は、ふと疑問に思った。
自分の記憶が確かなら、この家には誰も泊めた事も、この部屋を掃除した記憶もなかった筈で、しかし、部屋には僅かながらの誰かが寝泊まりしていたであろう生活感があるように感じられた。
百合華は自分が知らず知らずのうちに、室内に入りベッドに向かう。
「この部屋は一体」
ベッドにそっと手を伸ばし、触れると、百合華は自分の頭の中でチリつく様な感覚に陥る。それはまるで、自分が何かを忘れていて、その忘れている何かに引き寄せられ、思い出そうとそこを刺激されている様だった。
「私は一体、何を忘れているの?」
頭に手を当てて思い出そうとしていると、視界の端にあるものが写った。
それは写真たてだ。
写真たてには、すでに死んでいる両親と幼い頃の自分―――そして、その自分と父親に手を繋がれた自分より少し年上の男の子が写った写真が入っていた。
その写真を見て、百合華は目を見開き、人知れず涙を流し呟く。
「……………お兄ちゃん」
その言葉を呟くと同時に、百合華は意識を失った。
次に目を覚ましたのは、今まで居た自宅の、自分の兄の拓斗が使っていた部屋ではなく、広々とした和室の中だった。
「ここは? 私、さっきまでウチに居たはずなんだけど」
百合華の頭の中は突然の事にゴチャゴチャになり、思考がまとまらずに居た。
「えっと、えっと、え? あれ、本当にどうなってるの」
驚愕と混乱、困惑にオロオロとしていると、背後の襖が開かれた。
「目が覚めたようですね」
振り返ると、そこには二十代後半くらいの桜の絵柄が描かれた着物を着た黒髪にひとふさだけ銀髪が混ざった美しい女性が立っていた。
「えっと、貴方は?」
「私はアルディニア。この世界を管理する神の一柱よ」
「神様?」
「そうよ」
百合華は信じられない思いであった。
この人が言うには、私達の世界を管理している神という事。
だが、私は神何て存在を見たこともないし、信じる事もない。
私の―――私達の大切な家族を失っても、なにもしてくれなかった。その神様が、今さら、何の用で現れたのか。
「貴女が、私達に良い感情を抱いていないのは知っているわ」
「なら、何で私の前に現れたんですか?」
そう問うと、アルディニアと名乗った女性は一拍の間を開けて、口を開く。
「貴女の、兄。津我無拓斗さんについてです」
「……………っ!」
それによって、百合華はここに来るまでにやっていた事、忘れていた事を――――全て思い出した。
「お、兄ちゃん。…………そうだ、私には津我無拓斗って名前の兄が居たんだ!?」
百合華が自分の記憶の整合性を確認している姿に、アルディニアはやはりとため息を吐く。
「思い出して、仕舞ったのね」
アルディニアの口ぶりから、何かを知っているのを感じ取った百合華は問わずには要られなかった。
何故、自分の記憶から、大切な家族である兄の事が無くなっていたのか。
「貴女は、私が、お兄ちゃんの事を忘れていた理由を、知っているんですか?」
「……………ええ」
そこから語られる、津我無百合華が何故、自分の兄、津我無拓斗に関する記憶を失っていたのかを。
「そういう事がありました。ですので、今のあの世界に、津我無拓斗さんの事を覚えている人物は居ない事になっていました。そう、ついさっきまでは」
「そうですか。お兄ちゃんは、そんな事を」
兄の拓斗が自分ではなく、仲が良かったとはいえ他人を救うために自分から命を捨てる覚悟で囮になったと聞き、複雑な想いが胸中に芽生えた。
他者は救う為の行為を行えた誇らしさと、何で自分の命を優先して、見捨てなかったのかという怒りと、自分を独りにする寂しさと悲しみ。そして、二度と会えない虚無感。
それらが複雑に絡み合い、想いが涙と共に溢れだしてくる。
「う…………う、ううぅぅぅぅぅぅっ…………」
アルディニアは嗚咽を漏らす百合華を優しく抱き寄せ、背中をポンポンとあやす様に叩く。
〜・・・〜 〜・・・〜
「お恥ずかしい所を、お見せしました」
目元と鼻を赤くさせ、アルディニアに向かって謝る。
「いいえ。もとはといえば、こちらの責任です。拓斗さんは、それに巻き込まれてしまっただけです」
「そうかもしれませんが、お兄ちゃんは、私に辛い思いをしてほしくなくてこんなことをしたんですよね」
「ええ」
「なら、私はどうしたら良いですか? もう、お兄ちゃんの事を忘れたくありません」
百合華はそう主張すると、アルディニアは困った顔をしながらも、覚悟をした表情で幾つかの選択肢を示す。
「百合華さん。貴女に提示出来る選択肢は三つです」
「……………三つの選択」
「一つは、私ともう一人の神で再び、今度は今より更に強固な記憶封印を貴女に施すこと」
「それは!」
百合華は首を横に振り、暗に拒否の意思を示す。
だがそれは最初から分かっていたことで、次の案を出す。
「二つ目は、拓斗さんの事をキッパリ諦める事」
「それも………………出来ません」
「でしょうね。なら、最後の案です」
最後の案。それは百合華が想像もしていなかった事で、だけどもしかすると、また会えるかもしれない事を示している。
「三つ目は、貴女も拓斗さんと同じ様に、異能を発現させる事で、今彼が居る異世界アーテラルへと転移する事です」




