15話:伝説の竜
「ていうかさー、何であの魔物達は外に出て来てたのかな?」
「んー、まぁ色々理由は考えられるが、どうでも良いな。どうせすぐ分かる」
「ええっ、そんないい加減な……」
歩いている途中クロアは先程のフレイムウォリアー達の不可解な動きに疑問を抱くが、アシリギの方は全く気にしていない様子だった。そのあまりにもさっぱりとした性格にクロアは文句を言おうとする。だがその言葉を口に出す前に突然周囲が揺れ動き、近くに見えていた火山から轟音が鳴り響いた。
「ほら、異常現象だ」
「わ、わわわっ……! こ、これ……噴火するんじゃないの……!?」
立っていられない程の振動にクロアは思わず膝を付いてしまい、怯える。だがアシリギはむしろこの状況を楽しむように笑顔を浮かべていた。すると、岩が集まっている丘の上から何者かが走る音が聞こえて来る。
「はぁ! はぁ! うわっと……!?」
「ん?」
突然何者か岩の上から転がり落ちて来る。クロアはそれを見て驚くが、アシリギはその姿がよく見る人物であった為、大して驚かず倒れている男を見下ろす。
「何してんだ? レオン」
「うぅ……ア、アシリギ!? 何でここに!?」
それはアシリギの友人である冒険者のレオンであった。彼は痛めた背中を抑えながら起き上がり、アシリギ達の前に駆け寄る。
「や、やばいんだよ! 火山ダンジョンにやばい怪物が現れたんだ! ダンジョン内はもうめちゃめちゃで……」
「分かった分かった。まずは落ち着け。語彙力がやばいことになってるぞ」
ダンジョンの調査をしていたはずのレオンがここまで出てきていることから相当大変なことがあったのだろう。彼はそれを何とか伝えようとするが、焦っているせいか具体的なことを言えないでいる。アシリギはそんなレオンを冷めた目で見ながら落ち着かせる。その直後、黒い煙を上げていた火山が今までにないくらい大噴火を起こした。
「うおわっ!?」
「ええっ……!?」
「おー」
轟音と共に火山から赤黒いマグマが吹き出す。それならまだいつもの噴火と変わりないだろう。だが今回は違った。山に亀裂が入り、崩壊を始めたのだ。マグマと共に巨大な何かが火山から現れ、咆哮を上げる。
「ゴォォォァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」
巨大な山がまるで木材のように簡単に壊れ、内側から怪物が現れる。マグマを纏いながら翼を広げ、赤黒い鱗に覆われた巨体を動かして地面へと降り立つ。それは普通の魔物とはあまりにも違う見た目をした、まさに怪物であった。
「あ、あいつだ……あいつが、ダンジョンの主が目覚めたから、異常現象が起こっていたんだ……!」
その巨大な生物を見てレオンは声を震わせながら指を差す。どうやら彼が言っていた怪物というのはあの生物のことらしい。確かにあれだけ恐ろしい見た目をしていれば誰でも落ち着いては居られないだろう。何せ彼らの前に現れた怪物というのは、普通の魔物とは全く違う超越した存在なのだから。
「伝説の竜……〈炎竜マガフレギア〉!」
赤き巨大な竜は翼を広げ、大口を開けると炎を吐く。天に向かって火柱が立ち、辺りが真っ赤に染まった。アシリギ達はただそれを呆然と眺めていることしか出来なかった。
竜。それは魔物とは違う進化を遂げた生物。
その巨大な翼は天空を支配し、口からは全てを灰にする灼熱の炎を吐き出す。時には国一つを滅ぼす程の個体も出現し、何人もの戦士が犠牲になったと言う。
その最悪の生物が、今目の前に居る。
「ォオォオオァアアアアアアアアアアア!!!」
「りゅ、りゅ、竜じゃん。本物の竜じゃん。あんなのが火山の中に居たの?」
「ああ。マグマの中で眠っていたんだ……それが目覚めちまった」
咆哮を上げている竜を呆然と見ながらクロアとレオンは絶望の表情を浮かべる。
滅多に人の前には姿を現さない伝説の竜。種族によっては人族が適応出来ないような環境に住んでいたり、物理的に届かない天空の山に住んでいたりする。そして中には長い冬眠で力を蓄えている個体も存在する。今回はその力を蓄えている方のようだ。
「不味いぞ……こんなのが暴れたらアルファルマの街なんてあっという間に滅ぼされちまう」
「そうだな。おまけに寝起きが悪いみたいだ。ご機嫌斜めだぞ」
竜がもたらす被害の影響を想像して不安を抱いているレオンに対して、アシリギは然程問題視している様子なく呑気なことを言う。彼は伝説の竜を前にしてどこか楽しんでいる様子だった。
「ど、どうする? 今からじゃギルドに連中が来ても間に合わないぞ」
「わ、私達で何とかするしかないよ! 街に近づけないよう、少しでも足止めしないと!」
相変わらず竜は咆哮を上げ、辺りの岩を尻尾で吹き飛ばしたりして暴れている。まだ目覚めたばかりで意識がはっきりしていないからか被害が周囲だけで済んでいるが、いずれアルファルマの街まで被害が及んでしまうだろう。それだけは何とか食い止めなければならなかった。
「良いのか? お前。人族の味方なんかして」
「私はそこまで外道じゃないもん……! それに、あの街をめちゃくちゃにされたくないから」
ふと気になったアシリギがそんなことを尋ねると、クロアは真っすぐな瞳で躊躇なく答えてみせる。魔族だからと言って人族の街を見捨てるつもりはないらしい。
そんなクロアのことを見ながらアシリギは何とも優しいことだ、とため息を吐き、改めて竜の方へと視線を戻した。
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