ending レイドゼロ
「さあ、目を開けてごらん。君の望みが叶う時が来たよ――」
お星さまの声はごきげん。
いつになく歯切れが良いわ。
「そりゃそうだよ、君。ようやくこれで、君とも彼女ともお別れだ! ああ、せいせいするよ!」
それは良かったわね。
でも、私ちょっと良くわからないの。
私と彼女、お星さまはどうするつもりなの?
「だからさ、今の君は折り返し地点なんだって。ずっとずっと前から……今の君になるよりずっと前から、君は彼女を追いかけてたんだ。君は知ってたはずだ、だってこれまでの悪夢に覚えがあったんだろう?」
ここまでずっと、色んな時代、色んな世界で。
追って追われて。
今の私は追いかけてきた私。
これからの私は追いかけられる私、そうじゃなかったの?
「そうだよ、その通り。それは君が……今夜、今まで追いかけてきた彼女と1つになるからだ」
1つに。
「君と彼女は1つになり、そして入れ替わる。君の魂は彼女と混じって、今度は彼女に追われることになる。輪廻のはじめに戻って……」
ループするのね?
ここまで私を追いかけた彼女と入れ替わり、混じり合い。
今度は彼女が私を追いかける。
「そういうこと。ほら、君は主観的には彼女になる訳だから、その後に自殺でも失踪でも何でもすれば良い。彼女、家族はいないらしいよ。警察沙汰にはならない。君は自由だ」
そしてあなたは2人分のお願いを叶えてくれた……ことになるの?
「……まあ、お星さまの世界もほら。営業成績とかあるんだよね」
お役所仕事なんてものじゃないのね。
何て世知辛い世の中!
「そう言うなよ。僕だってちょっと良心の痛みを感じてるのさ。彼女はここまでずっと君に追われてたんだ。本当は僕がいなければ、今生も君は彼女を追いかけたんだろうね。彼女のどこが良いのか、僕にはさっぱり分からないけれど」
……そう。
きっと私も追いかけたのね、彼女を。
「まあ、だけど……ほら。彼女は僕に願ってしまった。僕は彼女の願いを叶えなければいけない。もちろん君のも、だけど」
……そうね。ええ。
そうね。まあ、良いわ。
大人しく彼女の願いを叶えなさい。
私、本当にうんざりしてるのだから。
私を殺して欲しかったの。
ずっとずっと追いかけ続けて。
一生を賭けて追うのに、閉じ込められるのは一時だけ。
永遠なんてどこにもなくて。
いつだって彼女の魂は、最後には私の手をすり抜けていくの。
「そうそう……随分思い出したんだね。疲れただろう、ゆっくりお休みベイビィ。これで君は追う側じゃなくなるんだから、安心して」
私の額に置かれたお星さまの手は冷たいの。
ええ、お星さま。
彼女の願いを叶えて。
私と彼女を入れ替えて混ぜ合わせて。
だけど、その前に。
私の願いを叶えて。
私を――この魂を消してちょうだい。
「……ちょっと待って。そんなことしたら数が合わなくなる。魂はリサイクルだって言っただろう? 今生の後は輪廻の最初に戻ることが、もう決まってるんだ。君がここで消えたら、誰が彼女に追われる役を果たすのさ?」
追いかけっこを続ける私と彼女。
いつだって私達は2人で1つ。
だけどほら、幸いにして今この時。
ここにはもう1つ魂があるわ。
「もう1つあるって……まさか、それは――」
きっとそうよ、お星さま。
私、ずっと知っていたのよ。
このループから抜け出せるのは、今夜しかないって。
だって私もいつかのこの夜に、誰かの願いを叶えたせいで、ループに引き込まれてしまったのだから――
「ま、ま、待って! 僕はそんな――嫌だよ、あんな……!」
もう遅いわ。
ここには魂は3つしかないの。
彼女と私、そしてあなた――
さあ、目を閉じて。
おやすみなさい。