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第十話『サイキック』

 いつも通りの放課後の図書室。まだ日は高く上り、西側に面した窓からは、そこまで日差しは降り注いでいない。もう一ヶ月しないうちに夏至であることを考えれば、三時半で、この日の高さも頷ける。

 ふと、本から顔を上げても、写るのは綺麗に並べられた椅子と机と本棚だけ。相変わらず人の姿は無く、当番の私しかいない。

 このペースで人がこないまま三年間図書委員を続けると、卒業までに全部の本を読みきってしまうのではないか、という気もするが、それはそれで自分のためになりそうなので、良しとしておこう。コミュニケーション能力はつかなさそうだけど。

「はぁ……」

 自然とため息が漏れる。少し友達が増えたけど、未だに、学校で一人でいる時間は圧倒的に長い。もっと、こう、友達同士で遊びに行ったりとか、したいなぁ。

 なんてことを考えていたとき、

 ガラ……

「おーっす」

 扉が静に開けられ、相変わらずの金髪をつんつんと尖らせ、全体的にブレザーを緩く着た男子生徒、八幡君が入ってきた。

「……あれ? どうしたの? ……また何かあったとか?」

 本に栞を挟み、貸し出しカウンターの上、厳密にはその上に無意味に広げてある貸し出し帳の上に置く。悪魔の瓶のことが思い出され、八幡君が来ると、厄介事なのではないかと疑ってしまう。

「いや、ちげーよ。……ほら、この前約束したろ? 解決してくれたら図書委員の仕事やる、って」

 やや言いづらそうに、そう言うと、照れたような恥ずかしいような、そんな困った顔をしながら、私の傍まで歩いてきた。

「ああ、それでか。なるほど」

 約束はしっかり守る。話し方はやや乱暴だけど、律儀でいい人なのは間違いないだろう。

「まあ、な。んで、俺のシフトとやらを確認しようと思って来たんだが……」

「それなら、そこに張ってあるよ。ちょうど今日もだね」

 言いながら、指した後ろの壁には、小さなホワイトボードがあり、曜日の書かれた磁石の下に、それぞれの担当が書いてある。今日の当番は、私と八幡君だ。

 この当番、基本的には二人制なのだが、何故か最近は一人でやってる人が多いように思う。まあ、大体八幡君のせいだ。

「ふぅん、なるほど。じゃ、ここ座ってればいいって訳か?」

「……まあ、そうだね。基本的にはそれだけだし、あとは本を借りる人が着たら教えるよ」

 つまり、教えることは来ない、ということでもある。人来ないんだったら、無駄な説明だし、私の労力省いたって、いいよね。

「ああ、わかった」

 言いながら八幡君は、私の隣に座る。そう言えば、この貸し出しカウンターに、二人の図書委員が並んでいる光景って、私が初めて当番をやったとき以来かもしれない。実際、大繁盛ならともかく、二人も必要ない仕事だし、当然とも言えるけど。

「「…………………」」

 さて、八幡君が来てくれたからといって、やることがあるわけでもない。心地の良くない沈黙が辺りを包む。やることも無いし、会話も無い。特に面白いことも、無い。無い無い尽くしな、この状況。思えば、ボケる人が居ないからなのかもしれない。

「……そういえばさ、あの瓶って、どうしたの?」

 とりあえず、会話を始めれば、なんとかなるかもしれないと、望みを掛けて、口を開いてみる。

「ああ、あれか。俺が持ってるけど、特に何も無い。瑞希も、あの日の午後の記憶を丸々無くしてる、ってだけで、問題無さそうだったし」

「……そっか。千寿さん、やっぱり覚えてなかったんだ。でも、問題なさそうでよかったよ」

 翌日、学校であったときは、普段通りだったし、変なこと聞いても、気まずいだろうから聞けなかったけど、何もなかったならよかった。

「ああ。……あの瓶、わりと状況や条件を限定して願えば、不幸な形で叶う、ってのは回避出来るらしい」

「……なるほど」

 中々、頭を使わせる瓶らしい。悪魔との知恵比べ、ということになるのだろうか? 私には、無理そうだな……

「ま、よっぽどのことが無い限りは、使わねーだろうけど」

「そうだね、それがいいよ。……何が起こるのかわからないだろうし」

「そうだな」

「「…………………」」

 再度沈黙。ああ、会話が途切れてしまった。何か、何か共通の話題は無いだろうか? ええと、そうだ、共通の友人だ。

「……千寿さん、元気?」

「ん? さっき言わなかったか? ってか、教室で会ってるんじゃないのか?」

 おっと、なんか失敗した。そうだよ、会ってるよ、今日も。

「……えと、その、新聞部的に?」

 新聞部的に元気かどうかって、どうゆうことだろう? ヤバイな、日本語が不自由になってきたぞ……

「あー、新聞部的にかー…… なんだっけ、占い師調べるとか言ってたな……」

 八幡君は、私の不自由な日本語にも関わらず、ちゃんと答えてくれた。それにしても、占い師か。最近、聞いたような……

「そうそう、思い出した。行くと幸せをくれる占い師だ。うさんくせー商売しやがって、タネ暴いてやる! って、意気込んでたな」

「へぇ……」

 なんというか、彼女らしい、とでも言えばいいのだろうか。確かに胡散臭いけど、そこまでは普通しないんじゃないかなぁ……

 しかし、私のほうも思い出したぞ。その占い師、クラスの女子が話してたんだった。千寿さんが追ってることを考えても、今話題の占い師なのだろう。

「……なんで女子ってみんな、占いとか、好きなんだろうなぁ」

「……わかんないよねぇ」

「キー!?」

「わっ!? えと、てけ子、さん?」

 しみじみと、八幡君の話に共感していたら、つんつんに尖った金髪の間から、脳に響くような甲高い叫び声が聞こえた。見れば、手のひらサイズのセーラー服女子が、上半身だけの姿で、金髪の隙間から顔を覗かせていた。

「あれ? 朱城、てけ子が見えるのか?」

「あれ? 見えるね。なんでだろ?」

「キー! キー!」

 不思議なことだが、今まで霊子計無しで見ることが出来なかったてけ子さんを、普通に見れるようになっていた。これは、私が成長した、ということなのだろうか?

「キー! キー!」

「てけ子、うるさい」

「……何か、伝えたいのかも。霊子計出すね」

 カバンから、四角い虫眼鏡のような機械を取り出し、電源を入れる。これの操作も、なれたものだ。携帯電話なんかと一緒で、慣れてしまえば、本当に楽々使いこなせる。

「キー!」『とりあえずは、霊子計の使用、ありがとうございます。先ほどから伝えたかったのは、あの、その、会話にツッコミたかった、ということです。最初の私の発した“キー”の意味は、あなたも女の子でしょうっ!? になります』

「長っ! 相変わらずキー意味長っ! そして、ツッコミ、時期逃し過ぎでしょ…… もうなんか、寒いだけだよ……」

「そうだな…… てけ子、ドンマイ……」

「キー……」『そうですか、残念です。それより朱城様、週末に瑞希様と八幡様と一緒に、占い屋に行きませんか?』

「え? そんな話があるの? てか、なんで私?」

「キー」『それは、その、なんといいますか、皆で行ったほうが楽しいのではないかと思いまして』

 ……もしかして、千寿さんが例によって八幡君を取材のお供に借り出しているとかで、てけ子さんは二人っきりにさせたくない、みたいな思惑があるのだろうか? うわー、凄い、三角関係だ。初めて見た。

「んー? 朱城もくるか? まあ、てけ子の言うとおりだし、俺から瑞希に連絡しとくけど?」

「えっと、その予定は無いけど……」

 これは、空気を読むべきところだろうなぁ……

「もしもし瑞希? 土曜のアレ、朱城も連れてっていい? ……あ? なんで不機嫌になるんだよ、友達じゃねーのか? ……ああ、わかった、いいのね、はいはい。……んじゃな」

 まさか、空気を読む暇すら与えられないとは…… 千寿さんには、後で謝っておこうかな……

「よっし、じゃ朱城も一緒な」

「……いいの?」

「何言ってんだ、友達だろ?」

 八幡君は、やや凶悪な顔に笑みを作って、私にそう言った。……千寿さんには悪いけど、これは断れそうにないな。まあ、たまには、こうゆう女子高生っぽいことをしても、バチは当たらないだろう。

「ふふっ」

「なんだよ、朱城?」

「……八幡君が、そんなこと言うなんて、思わなかったから」

「この前のお返しだ」

「そっか、そうだね、似合わないのはお互い様だね」

「そーいうこった」

 ははは、と、二人で笑いあう。友達、か。高校生活も、なんだか楽しくなって来たな。……あれ? なんだか、比較的平和な日が続いているな。あの破壊神を見かけないから、なのかな?

 全然見なくなったけど、何してるんだろう、ゼロさん。


 ***


「ふははは! 逃げるのを止めた、ということは、とうとう自首する気になったか?」

 廃墟となったホテルの中、俺の声が木霊する。

 ジャリッ……

 一歩踏み出した靴の裏から、コンクリ片を踏み潰したような音がする。目の前には、広いホテルのロビーが広がっている。だが、その全ては剥き出しのコンクリートで、所々ヒビが入り、建築途中の資材などが、そのままに打ち捨てられているのも見受けられる。

 もちろん明かりはなく、俺の視線の先の、ロビーの奥の奥は、闇に閉ざされていて、見ることは出来ない。

 ここは、地域の再開発のため建てられたホテルだったらしい。ホテルが開業した直後、周りのリゾート施設が不況により計画だけで破綻し、先に建ったこのホテルも、廃棄された、ということらしい。そして、ホテルや他のリゾート施設の為に買われた土地は、現在まで利用されておらず、人の住まない廃村になったそうだ。

 まあ、よくある話だ。まわりは山と森ばかりだったし、交通の便も悪い。だがまあ、そんなところを根城にしている奴らがいたのだ。

 闇の先は見えないが、俺の目に仕組まれた光以外の感知機器、電磁波・反響音波・熱を

 見ることが出来るそれは、その先に人がいることを教えていた。

「忌々しい政府のイヌ(アストラル・リターナー)…… ここまで追ってくるとはな……」

 闇の先から聞こえた声は、憎しみしか篭っていない男性の声だった。ふむ、俺が追っていた使役の異能者、いや、物理現象干渉者(イレギュラー・マスター)は、女だったはずだが…… まあ、今は目の前のこいつだな。

「俺を甘く見てもらっては、困る。ふはは、大人しくお縄に付くが良い!」

「………なあ、あんた一つだけ勘違いしてるぜ。俺は、何も自首するために、逃げるのを止めたわけじゃない」

「ふっ、だからなんだというのだ? 今の貴様に残された道は、大人しく掴まるか、抵抗して俺にボロボロにされて掴まるかの、二択だ」

 見えない影の人物に対して、そう、未来人はこの時代に居てはいけないのだから、と付け加えようと、さらに口を開きかけたとき、

 バチイイイィィィィ……

 目の前の闇の中で、紫電が走った。空中放電の仄かな明かりに照らされた先には、全身に紫電を迸らせる、男が一人。革製のパンツに、上半身はタンクトップというシンプルな格好。それに加え、一際目を引く、両の腕に装備された機械義手と見間違うほどの大型の機械製グローブ。

 男は、前かがみの状態で立ちながら、その腕をだらりと下げつつも、胸の前で何かを抱きしめるかの如く曲げていた。見ていると、地面から足へ。足から背へ。背から肩へ。肩から、その両腕のグローブへと、電流は流れているようだ。

「その二択に、三択目を加えるぜ。てめえを壊して、俺はまだまだ自由の身ってなああああああ!」

 男は、咆哮と共に、紫電を纏わせた両腕を突き出しながら、地を蹴った。その脚力は、人間のそれを遥かに超える。

 一瞬にして、目の前まで距離を詰められてしまう。これは、筋肉への強引な電気的介入だろう。なんと無謀な。

「ふははは! 出来るというのなら、やってみろ!」

 だが、速いとは言っても、単なる直線の突進だ。俺に避けられないはずは無い。身体を、左に九十度回転させ、横に逸れる。

 案の定、男の攻撃は俺の正面の空を切った。だが、

「オラアアアアアア!」

 バヂヂヂチチチチ!

 俺の正面で、そのグローブは、一気にスパークして、溜め込んでいたであろう電子を、周囲に放出した。

「がっ………、う、ぐ……」

 モロに食らってしまった俺は、後ろによろけ、何とか持ちこたえる。マズイな、突進は囮か…… 今のでいくつかの機能がショートしたぞ……

「どうしたよ!? さっきまでの威勢はよお!? やっぱり、機械の玩具は高圧電流に弱いみてーだな? ああ?」

 男は、顔をこちらに向け、口を大きくあけながら挑発するかの如く吐き捨てた。初めて見えた男の顔は、若く、まだ17、8にしか見えない。彫りが浅く、東洋人のような顔立ちに、短く切りそろえられた逆立つオレンジ色の髪と、大きな口から覗く野犬のような八重歯が印象的な青年だった。

「……貴様も異能者、誘電性干渉者(エレクトリック・チャージャー)、だったとはな」

「おお!? よく観察してるじゃねーか! 俺の能力を、最初から、誘電性への干渉だと見抜けたのは、てめえが初めてだ」

 嬉しそうとも、悔しそうとも思えないような声でそう言った男は、再度俺に向かって腕を向ける。

 干渉力によって、電気を操るのは、発火能力に次いでメジャーな異能だ。だが、その方法は、人によって様々。こいつのは発電能力ではなく、誘電性の差による電荷の移動・蓄積と、放電なのだろう。つまりは、静電気だ。

 ふむ、非常にマズイ。どうやら二度目の充電(チャージ)に入っている。こちらはやっと、擬似筋肉の硬直が解け、電子制御部分が再起動を始めたばかりだと言うのに……

「チッ! ……仕方あるまい、高速換装(クイック・アムド)! 物理現象干渉手甲(イレギュラーブースト・ガントレット)!」

 こちらも、同じ土俵で勝負するしかない。そう判断し、コートの中にやっと動くようになった腕を突っ込む。その腕に装備させたのは、機械製の大型手甲。

 コートから引き出すと、周囲の闇を反射し鈍く輝いている。

「なんだよ、その玩具で俺と張り合おうってのか?」

「ふははは、腕に玩具(コンデンサ)を巻き付けた奴が何を言う」

「……てめー、ぜってー壊すわ。行くぞオラアアアア!」

 蓄電期間(チャージ)の終わった蓄電機関(コンデンサ)から、紫電が迸りだす。今度は突進せずに、雷の槍だけで俺を突き殺そうとするらしい。

 俺も咄嗟に、右腕を前に突き出す。今度直撃を受ければ、さらに機能が損なわれる危険がある。まあ、大概は不要な通信機能が動かなくなるだけだから、差したる問題はないが。

 バチチチチチチイイイイイィィィィィィ!!!

 電子の流れが、大気を切り裂くような音を立てて、俺の突き出した右腕に吸い込まれる。

「ふむ。この程度か。なんだ、油断しなければ大したことはないではないか……」

「なっ! てめえ、どうして……!?」

 放電を終えた男が、不思議そうにこちらを睨む。ふむ、興ざめだが、教えてやるか。

「貴様の真似だ。この手甲の中に、一時的に先ほどの電荷を溜め込んだ。即席蓄電器(コンデンサ)、というわけだ」

「そんな、バカな……」

「誘電性、か。それは貴様だけの特権ではない、ということを知った方がいい。このようにな!」

 言いながら、今度は左手を相手に向けて突き出す。そして、その手で大気の流れに干渉する。右手は、中に電気を溜め込んだままに、弓矢を番えるが如く頭の後ろにやり、相手の方を向ける。

 大気への干渉で、俺の右手から相手の心臓までの最短直線上の大気を、極限まで薄くし、真空の道が、出来上がった。貴様が、単なる能力で誘電性に干渉するのなら、こちらは密度を操作して誘電性に干渉するだけの話だ。

 パシュッ!

 先ほどまで、バチバチといった音とは異なり、静に紫の直光が駆け抜けた。その姿はまるでレーザービーム。

「ぐっ、ぐふぉあ……」

「名付けて、真空雷電弓(ライトニング・アロー)。死なないように加減してやった、感謝するがいい」

 膝から崩れ落ちる静電気が自由に使えるだけの雑魚(エレクトリック・チャージャー)の男を見下ろす。さて、こいつには色々と吐いてもらわないとな。

 手甲を外しながら、男に近づく。それと同時に、コートから、一つの道具を取り出す。それは、片手分しか輪のついてない手錠のような見た目をしていた。

「対霊体七つ道具(アストラル・アーマメント)、時間牢。ふっ、この道具は、牢獄に直接転送と、なかなか良い趣味をしているのだが、貴様は気に入るかな? ……ふむ、返事が無いと思ったら、気絶していたのか……」

 結果的に一人で呟きながら、男の腕に時間牢の輪を掛ける。時間牢は、自動的に男を未来人と識別すると、未来の牢獄へと男の身柄を転送した。

 こちらから見ると、光の粒になって、手錠に吸い込まれたようにしか、見えなかったが。

「さて、これで尻尾は掴んだ。あとは、尋問官共の腕に期待するしかないな」

 それにしても、俺のことを“機械の玩具”と抜かしたり、俺に対して“殺す”ではなく“壊す”と言ったところを見ると、やはり“信者”なのは間違い無さそうだな。実に厄介だな……

 

 ***


 土曜日の午後、午前中で終わった授業の帰りに、五人で普段一人では絶対に行かない駅前に向かう。時間が時間だからか、人通りは多い。

 前を見れば、八幡君と千寿さんが並んで歩いている。私の横には瑠璃ちゃんと、その頭に乗っかるてけ子さんがいる。

 先日、土曜に三人+二人の幽霊で占い師の所へ行こう、ということに決まり、現在その通りになっている、というわけだ。

「……そういえば、こうやって学校の帰りに駅前の方に行くの、初めてだなぁ」

「そらっち、友達と遊びに行ったりしないの?」

 ぼそっと呟いた私に、千寿さんが振り返りつつ、聞いてきた。友達と遊びに、かぁ。ないなぁ…… だってそもそも、

「……友達が、いない」

「……そらっち、今度一緒に遊びに行こう? タツキチも誘って、ゲーセンとか行こう?」

 ああ、若干気まずい空気を作ってしまった…… 千寿さんは、悪いことを聞いてしまった、と言わんばかりの顔。なんか、申し訳ないな……

「……うん、いいよ。ゲーセンとか、行ったこと無いし、行ってみたい、かも」

「じゃあ行こう! タツキチ凄いんだよ、格ゲーとか。見てて良くわかんない動きしてるもん」

「へー、それは見てみたいかも」

「そらっち、頭良さそうだし、クイズゲーとか得意そうだよ」

「そんなのもあるんだ。……でも私、頭悪いよ?」

「そう? でもあれ、学校の成績とは関係無いから、多分大丈夫だよ」

 そっか、ならまあ、そこそこ出来る、かな。テレビのクイズ番組とか見てて、結構正解わかるし、やってみるのも面白そうだな。


 そうこう話しているうちに、駅前に着いた。うちの学校が、比較的駅から近くに建てられているのは知っていたけど、話しながら歩くと、さらに近いように感じられた。

 だけど今回の目的地は、駅ではない。駅前を通り、駅を通り抜け、さらに歩き続ける。すると五分も歩かないうちに、少し外れた路地に、行列を見つけた。

「……もしかして、あれ?」

「うん、そうだね」

「……大人気のラーメン屋みたいになってんじゃねーか」

「ほら、雑談してれば待ち時間なんて、あっという間だよ」

「「そうかなぁ……」」

 八幡君と二人で、半分くらいため息のような言葉を発しつつ、やたら長い列の最後尾に並んだ。これは、どれくらい待つことになるんだろう?

「そうだよ! ほら、なんか話そうよ。占いって、みんな信じる?」

 強引な話題づくりだった。でも、何も話さないで居るよりはマシだろうから、感謝しなきゃいけない。

「「信じない」」

 しかし、ここで話題終了のお知らせ。

「ちょっ!? 話膨らませる気ないの!?」

「……いや、私はそうゆうつもりじゃ、なかったんだけど、正直に言って、信じてないから……」

「俺が占いとか、神様とか信じてないのは、知ってるだろ?」

 幽霊とか未来人とか人造人間とかは、信じざるを得ないけど、占いはまた別だと思う。幽霊も、未来人的説明のせいで、私にとってはオカルトというよりSFだし。

「うーん、じゃあこの話題、どうするの?」

「……ほら、幽霊の二人にも聞いてみる、とかどうかな?」

「……私、聞こえないじゃん」

「はい、霊子計」

「そらっち、なんか慣れすぎてて怖いよ……」

「そりゃ、何回もこのやり取りやってれば、慣れもするよ……」

 さて、気を取り直して、聞いてみますか。

「……瑠璃ちゃんは、占いとか、どう?」

「あたしぃ? あたし、そーゆーオカルティックなことは信じない主義だしぃー」

 うわー…… 突っ込みたい…… でも我慢だ。私が何にでも突っ込むと思ったら大間違いだということを教えてやらねば。

「……そうだね、占いとか幽霊とか、そんなオカルトなもの、ありえないよね」

「あたしの存在、全否定!?」

「目の前で浮かぶ少女は、そう叫んだ。だが、私の目の前にいる彼女は、友達の居ない私の心が生んだ、ただの幻覚。いわば妄想の存在。楽しかった日々の幻影に過ぎないのだろう」

「やめて! そんな、小説の地の文みたいなしゃべりで、だーくなオチをつけないで! あたし、そーゆーのじゃないから!」

「だが、瑠璃と名乗る少女が、現実に存在していた証は、どこにもなかった。それは少女が幻覚であることの、証だった」

「あんまり続けると! あたしの生前の作文持って来るぞ! タイトル、将来の夢だぞ!」

「……ごめんなさい。勘弁してください。そんなもの見たら、心が折れて泣きます」

 凄い生き生きと明るく、未来のことが書かれていたら、なんかもう、死ねる。私のこの、現在のダメさを加味して、生きているのが申し訳なさすぎて、死ねる。

「そこまでいうなら、かんべんしてやろう! まあ、あたしの将来の夢、ヒモだけどね」

 ……勘弁されなくても、大丈夫そうだった。目の前で音読されても、これなら、生きていられそうだ。って、ゆうか、

「……ヒモって、男性、じゃない?」

「え? そうなの?」

「……それに、結婚したら、主婦か主夫だし」

「あ、そっか」

「つまり、お嫁さん、ってことだね。瑠璃ちゃん可愛いなぁ」

「莫迦な、このあたしが、そんな子供みたいな、将来の夢、だったと、いうなんて……」

 最近、この子のことが、段々わかってきた。要は、子供っぽいのが嫌いで、どんどん耳年増になっていっているのだろう。

 でも、お嫁さん、いいと思うんだけどなー。瑠璃ちゃん可愛いし。そんなスタイリッシュに、バカな! とか言って崩れ落ちるほどのことじゃないと思うけど。

「……そらっち、たまに凄くサクッと心を抉るよね」

「……朱城って、饒舌なんだな」

「……え? そう? って、なんで二人とも、若干引き気味なの?」

 私と瑠璃ちゃんのやり取りを、見た二人は、なんとも言えない視線を、私に向けていた。そういえば、昔は良く喋る子供だった、らしいし、気付かぬうちに饒舌になっているのかも。

「……ま、いいか。面白かったし。じゃ、てけ子にも聞いてみるか。どうなんだ?」

 八幡君は、ありがたいことに、この空気を引っ張るつもりはないらしく、サラッと流して、会話を進めた。

「キー」『私は好きですよ、占い。今も昔も、女子高生は、占いが好きな生き物のなのでしょう』

 なるほど。私が一般的な女子高生から外れているのは知っていたが、やはり普通は好きなようだ。

 そんな感じで会話をしていると、列が動いた。相変わらず私たちは最後尾のままだが、これで一歩前進、といった感じだ。

 そう考えていると、今度は、私たちの後ろに、人が並んだ。女性が多い列には珍しく男性のようだったので、気になって振り返ってみると、門戸先生だった。

「ん? 朱城に八幡に千寿か。おまえら仲いいなー。学校の帰りに、占いか?」

 先生も、私が振り返ったことで、私たちに気付き、話し掛けてきた。

「……えっと、そんな感じです。先生もですか?」

「まー、俺もだね。……学校中で話題だから、校長に実際に行ってみて来い、って言われてるのもあるけど」

 門戸先生って、そんな近辺調査に借り出されるような先生だったんだ。普段何してるのか知らなかったけど、今ので少し疑問が解けた。

「そうですか。先生も大変なんですね」

「まー、俺の場合は、先生が、ってよりも校長から除霊の仕事回されるのが、って感じだけどな」

 先生は、まばらに蓄えられたあごひげをさすりながら、二カっと笑って言った。霊能力者って、意外と忙しいんだな。ゼロさんも、そうなのかなぁ。

 さて、まだまだ列の先は長いけど、先生も交えつつ六人で話しながら待つことになったのだから、あっという間だろう。


 約一時間後、ようやく私たちは、列の先頭になった。列の先は、雑居ビルの中に続いており、ビルの入り口から、階段で地下に下った先の、占い屋の扉の前が先頭だった。

 扉には、『幸せの占い屋』と書いてあり、横には張り紙で、料金が書いてある。非常に胡散臭いが、多くの人が並んでいるのだから、きっと良く当たったりするんだろう。

 しばらく六人で扉を見ていると、扉が開き、中から大学生くらいの女性が三人出てきた。いよいよ、私たちの番、というわけだ。

 全員で無言で頷きあい、千寿さんが先頭を切って、緊張の面持ちで扉を開け、中に入る。それに、八幡君、私、先生の順で続き、扉を潜る。

 中は、かなり暗く、先が見えないほどだったが、足元には小さな電球の明かりがあり、進むべき先を教えてくれていた。

 そのまま、電球に導かれて進むこと、数歩、やや明るい部屋が見えた。廊下を抜けて、部屋に着いた、ということだろう。

 部屋の中央には、机があり、机の向こうは、一人のおばさんが座っていた。こちら側には、五つの椅子が並べられており、あの机を挟んで、占いが行なわれるのだろう、ということを私に知らせてくれた。

 おばさんは、三十台後半のような、比較的若く見える綺麗な人で、占い師、という言葉から想像されるような服装ではなく、ビシッとスーツ姿だった。

「ようこそ。さ、どうぞお掛けになってください」

 口調は優しく、幸せの、と語るだけあって、厳しい感じは全くしない人物のようだ。先に入ってた八幡君と千寿さんは、もう椅子に座りかけていた。

 私も、一言挨拶して座らせてもらおう、そう思い、椅子の方に近づいたとき、部屋の入り口で立ち止まっていたらしい先生が、口を開いた。

「……あんた、本当に人間か?」

 部屋の空気が、一瞬にして緊張に包まれる。人間、ではない、となると、一体なんだ?

「……何をおっしゃるのですか? 私は人間ですよ? 占いで人に幸せを分けて差し上げることは出来ても、人間には違いありません」

「……そ、そうですよ先生。占い師さんが、幽霊だとでも言うんですか?」

 千寿さんが、やや笑みを引きつらせながら、こちらを振り返りつつ、おばさんの弁明をフォローした。

「うーん? 幽霊だとは言わないが…… もっと、なんというか、ロボットみたいな風に見えたんだが…… まあ、気のせいか。いきなり失礼なことを言ってしまって申し訳ありませんね。そうですよね、普通に考えて人間ですよね。ははは」

 そう言って、先生も席に付いた。なんだろう、先生ほどじゃないけど、言われれば私も、この人が人ではない気がしてきた。これは、霊子計で確認したいな。

 小声で、千寿さんに頼み、霊子計を受け取る。もちろん、机の下を通して、気付かれないようにしながら。

 そして、そのまま、霊子計で机越しでサーチさせる。サーチ完了を告げる霊子計をチラッと覗くと、そこに書かれていたのは……

心理操作機械人形(サイコ・サイバー・パペット)……?」

 思わず、小さな小さな声で呟いてしまった。それは、両隣の千寿さんと先生にも聞き取れるはずはない声だったと思う。でも、

「……霊子計ですか。知らなければ、あと少し平和に暮せたものを」

 聞こえた人物が、目の前にいたらしかった。おばさんは、険しい形相で立ち上がり、私の腕を掴んだ。

「い、痛いです。な、なにを……」

「おいあんた、何を……!」

「やはり、人外か……!」

 男性二人が、即座に立ち上がり、先生は、おばさんの腕を掴んでいた。

「……まさか、未来人、なの?」

「……………」

 おばさんは、私の問いも、先生が腕を掴んでいることも、無視し、無言だった。気付いたら、おばさんの背後に、何かがあった。それは、奈落の底にでも続いていそうな、空間に開いた入り口に見えた。

「きゃっ!」

 腕がちぎれるほど強く引かれ、視界がグルグルと回る。どうやらおばさんは、先生の制止も振り切り、私を、闇への入り口に放り投げたようだった。

 投げ込まれた闇の中は、以前体験したワープの如く三半規管を狂わせる空間だった。絶えかねた私が気絶する直前に見たのは、必至に追いかけようとする五人をあしらって、こちらへ近づいてくるおばさんの姿だった。



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