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第21話

 建物的にはどのぐらいの位置なんだろうと思いながら、練武場から少し歩いて、随分と豪華な廊下にたどり着いた。

 その途中の一室の前で、ルピガナさんが立ち止まりノックをする。


「アルカナ様。ダイナ様、カメリア様の両名をお連れしました」


 扉の横についているランプ? が緑色に光る。 

 それを確認して、彼女は部屋の扉を開けた。


「失礼します。おふた方、中にお入りください」

「し、失礼します……」


 ダイナ君が無言で部屋の中に入っていくのに付いていくようにして、部屋に入る。

 おじさんたち二人が中に入ると、後ろから扉が閉まる音がした。

 ルピガナさんが最後に入り、扉を閉めたようだ。


 部屋の中は廊下とは違い絢爛さこそないものの、質実剛健という言葉が似あいそうなほど整理されつくされた部屋だった。

 一目で執務室だとわかる。

 部屋の奥にある机の向こうには、アルカナ様が座ってこちらを見ていた。


「来たわね」

「来たぞ」

「なら、一旦座りなさい。二人ともね」


 アルカナ様が座っている机の前には低めの机と、それを取り囲むように椅子が置いてある。

 どこにどう座るのが正解かわからないので、とりあえずダイナ君の隣に座っておいた。

 そのおじさんの横にはルピガナさんがそっと座ってきた。

 一瞬だけぞわっと嫌な感じがしたのは気のせいだと思いたい。


「……随分と好かれたみたいね」

「ええ。先ほど愛を誓いあいました」

「誓ってないよっ!?」


 怖いよ、この人怖いよ!

 なんでこんな凛とした見た目でそんなことを口走るの。

 人って見た目によらないんだなぁ。って考える余地すらないよ。


「いつもの色ボケは置いておいて、話を進めるわよ」

「アルカナ様公認の愛ということですね」

「違うよっ!?」


 ほら、変な事言い続けるから露骨にダイナ君が不機嫌ムードだよ。

 話の腰を折るなって感じだよ。


「ダイナ。あなたの騎士叙勲式の詳しい調整が終わったから、目を通しておきなさい」


 へ? ダイナ君の叙勲式?

 ということは、ダイナ君はまだ正式な騎士ではないってこと?


「面倒だな。前にやった簡易のものでいいだろう」

「あなたが誓わずなんてするからそれじゃ良くないのよ。対外的にも、この人にこの国に対する害意はありませんって示す必要があるの」

「面倒だな」

「我儘を通すんだから、そのぐらいは受け入れなさい。アルカナ様の慈悲にも品切れはあるのだから」


 つまり、簡易的な式はやったんだけれど、それじゃ足りないからもっと盛大な式をするってこと?

 ほえー。ダイナ君、本当に大物だぁ。


「一応招待客のリストも後で渡しておくわね」

「必要ない。覚えないからな」

「覚える努力ぐらいはしろって言ってんのよ」

「あはは……」


 凄い態度だけれど、アルカナ様も強く咎めるつもりはないみたい。

 逆に言えば、この態度が許されるぐらい強いってことなのかな。

 ……聞いてみよっか。


「アルカナ様、質問よろしいですか?」

「ん? なあにカメリア」

「ダイナ君って、そんな凄いんですか?」


 具体的に、どのぐらい凄いのか。

 正直、おじさんはまだよくわかってない面が強い。

 いや、物凄く強いってのは分かるんだけれど。その強さが全体的にどのぐらいなのかが、ね。

 世間知らずでごめんなさい。


「なるほど。確かに、騎士の誓いがどの程度重い物なのか知らない人からすればそうなるわね」


 アルカナ様は苦笑している。

 うぅ。恥ずかしいなぁ。


「そうね……ダイナはこの国が保有している三名の特出戦力のうちの一人とされているわ」

「特出戦力? たった三人の?」

「たった一人で戦場を左右できる駒。と言えば分かりやすいかしら」


 ……ぞわりとした。

 まさしく正しく一騎当千の兵。

 物語でしか聞いたことがない、理外の存在。


 ダイナ君が、それほどまでに強くなっていたなんて。

 一体、この十年間に、どれほどの。


「特出戦力の一人は、中央で王都騎士団長をしているユークリッド。そして、ダイナと私ことアルカナ様で三人よ」


 ひえっ。アルカナ様もそんな凄い人だったの!?

 この部屋の戦力密度凄いことになってません?


「元々はアルカナ様とユークリッドでつり合いが取れていたから良かったのだけれど、ねぇ」

「……厭味ったらしい視線を向けるな。焚きつけたのはお前の方だろう」

「別に文句を言うつもりはないわよ。手続きさえきちんとしてくれれば、ね」


 ん? 少しばかり不穏なワードが聞こえてきた。

 つり合いが取れていたって?


 おじさんが抱えている疑問には、先んじてアルカナ様が答えてくれた。


「要するに、中央が怖がってるのよ。うちの領が戦力を抱えすぎて、反乱を起こしたときに対処しきれないんじゃないかって」


 非常に分かりやすい説明だった。

 アルカナ様が中央と呼んでいるのは、きっと王室とかそういうところなのだろう。

 彼女自身が伯爵家なのだし、間違いない。


「このアルカナ様はこれまで散々王国へ貢献したけれど、新しく出てきたポッと出の異物は? 野心を持っていてもおかしくはない」

「それが、中央の考えだと?」

「そう。それを払拭するための、叙勲式なのよ」


 要するに、誰かに何かに誓わせずとも、ダイナ君に国家への反逆の意思はありませんと示すのが目的の式らしい。

 それは……ほっぽりだしちゃダメでしょ。ダイナ君。

 おじさんちょっと引いてるよ。


「そもそも準備に俺は必要なかっただろう」

「準備に必要なくとも、不必要に動けば疑念を生むと存じ上げなくて? ああ、わかるわけなかったわね、野蛮人の頭脳では」


 アルカナ様、かなり怒ってらっしゃる。

 ダイナ君が村に来てからアルカナ様が来るまでに少しのタイムラグがあったけれど、きっといろいろな問題解決に奔走させられてたんだろうなぁってのが伝わってくる。


「ダイナ君、あんまりアルカナ様に甘えちゃ駄目だよ」

「甘えてるわけじゃ……」

「ダメ、だよ」

「……わかった。以後、気を付ける」


 これでよし。

 幾らダイナ君でも、自分で言ったことは守ろうとするでしょう。

 悪い子ではないんだし。ちょっと不器用なだけで。


「ほら、気を付けるだけじゃなくて謝るの」

「…………」

「そんな不満そうにしない! 迷惑をかけてるのは事実でしょ!」

「………………………………すまなかった」


 すっごい嫌々渋々出た感満載だけれど。

 うん、まあ、謝れただけ良しとしよう。これは甘やかしなのかな?


「うん。まあ、二人の上下関係がよくわかるわね」


 アルカナ様は苦笑してこちらを眺めてくれている。

 ほら、もう。

 完全に幼い子を見る目だよ。

 しょうがないいたずらっ子を見る目だよ。


「謝罪は受け取るわ。これから一番大変になるであろう子の顔を立てなければね」

「……ほえ?」


 一番、大変になる子? おじさんが?

 文脈的におじさんだよね、これ。

 どうして一番大変になるの?


 さっぱりわからない顔をしていたら、隣から頬を引っ張られた。

 ルピガナさんだ。何するんですか。


「現在、問題の渦の中心にいるのはダイナ様です」

「それは、そうですよね」

「そして、ダイナ様が誰の言うことを一番よく聞くか。お分かりですか」

「……あっ」


 叙勲式はそもそもダイナ君が謀反とか犯さないよね? っていう確認作業のための式であって。

 じゃあそもそも、ダイナ君に言うことを聞かせられる人間がいたとしたら?

 さらにさらに、中央の人たちはアルカナ様の領に戦力が集中することを問題視しているわけで。


 つまり中央はダイナ君を欲しがってるって考えに辿りつくのは当然だよね。

 で、ダイナ君を手に入れる方法として一番早いのは?


「……ひょっとしなくても、相当やばいですか?」

「まあ、やばいわね。下手するとダイナ以上にやること多いわよ」

「ひえぇ……」


 間違いなく中央の貴族からの粉かけがあるだろうと。アルカナ様は言う。

 最悪の場合平民って立場だから強引に押し倒されてお手付きにされる恐れすらあるとか。

 怖すぎる。

 都会怖い。


「そんなことは俺がさせん」

「ま、そういうこともあって過度な心配はしてないけどね。アルカナ様でもそこの狂犬の目をかいくぐるのはほぼ不可能なわけだから」


 それはそれで逆効果な一面もあるのではないだろうか?

 何をするのが最適解なのかわからないまま。

 おじさんのほっぺをひたすらつついてくるルピガナさんだけが、ひたすらに平和な顔をしていた。

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