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第19話

 無事に城までたどり着いた。

 城、と呼ぶにふさわしい場所で、塀は高くあまりにも大きい。

 なぜこれだけ大きいのか、とアルカナ様に聞いたところ、やはり戦端であるから、万が一のことも考慮して備蓄や兵站の確保の面が強いのだとか。

 魔境と接しているというのは、人間国家と接しているのとはまた別の悩みを抱えているのだそう。

 ほえーって感じだ。


「それじゃ、アルカナ様は一度ここで離れるわ。ダイナ、お前がカメリアを案内してあげなさい」

「何?」

「アルカナ様はこれからあなたがすっぽかした手続きが円滑に進められるようにする準備があるの。その間暇だろうから、仕事を与えてやったのよ。感謝なさい」


 城につくなり、出迎えの人たちに連れられてアルカナ様は去っていってしまった。

 おじさんとダイナ君を取り残して。

 アルカナ様を迎えに来た人たちも、置いて行っていいのかな? みたいな表情していたけれど。アルカナ様が良いのよと言って全員引き連れて行ってしまった。

 

「……あいつなりに気を使ったんだろう。本来なら、おそらく俺も行くべき、のはずだ」

「私のために、ダイナ君を残してくれたってこと?」

「ああ。流石に見知らぬ土地で、知らない人間に囲まれるのは疲れるだろう?」

「それは……あはは、そうかも」


 既に体はくたくたで。

 少しは楽にはなったけれども。

 それでも、これ以上心労をかけられたら辛いってのは分かりきっている。


「それじゃあ、行くか。それとも少し休むか?」

「うーん。もうちょっとだったら大丈夫、かも」

「……最悪、動けなくなったら適当に休めるところを探すか」


 あはは……ごめんね? おじさんが体力なくって。

 ダイナ君が体力在り過ぎな節もあります。

 現在進行形で騎士な人と、ただの村娘を比較しないでほしいという思いもあります。


「しかし、案内しろと言われてもな……」

「ひょっとして、普段ダイナ君あんまりお城の中にいないの?」


 おじさんの問いに、少しの間ダイナ君は考えて。

 答え辛そうな表情をしながら、口を開いた。


「基本、練武場しか使っていない」

「じゃあ、そこ行く?」

「見ても面白いものはないと思うが――」


 いや、おじさんは結構見てみたいよ。

 騎士たちの訓練風景ってどんな感じなんだろうって。

 前世ではそういうの一切見ることないからね。


 興味津々というおじさんの視線を受けて、ダイナ君は一つため息を吐いた。


「ついてこい。こっちだ」


 そう言って歩き出したダイナ君の後ろを、そっとおじさんはついていく。

 疲れているおじさんに合わせてか、ダイナ君の歩幅は心なしか狭くなっている気がした。

 少しだけ、昔よりも気遣いができるようになったんだなぁ。って嬉しくなる。

 まだまだ短い間だけれど、成長を感じられる。

 あの、何を話しかけても仏頂面だったダイナ君が人を気遣えるようになったんだね……。


 ダイナ君の案内に従って、少しの間歩く。

 すると、金属同士が激しくぶつかる音が聞こえてくる。


「わぁ……っ! 訓練って感じ!」

「何を当たり前のことを。練武場に他の使い道はないだろう」

「そりゃあ、そうだけど」


 そういうところは変わってないなぁ。

 女の子相手にそういう事言うとモテないぞー。

 まあ、ダイナ君はそういうの興味なさそうだけれど。


「ダイナ! 戻ってきたのか」

「ニギル」


 どなただろう。

 こちらをいち早く発見してやってきたのは、精悍な男性。

 年齢はお父さんたちぐらいに見えるのに、印象だけ若々しく見えるのはあふれ出んばかりの活力の影響だろうか。それとも、優し気な表情のせいだろうか。


「カメリア。覚えているかはわからないが、これが十年前に話していた……」

「ああ! ダイナ君が弟子入りするって言ってた騎士の方!」


 昔ダンギさんと一緒に冒険者をしていたっていう!


「初めまして、お嬢さん。ニギルと申します」

「初めまして、カメリアです。えと、ダイナ君と同じ村の出身です」

「ええ、話は聞いていますよ。不肖の弟子が珍しく話題にしていたものですから」


 え、ダイナ君がおじさんの事を?

 驚いてダイナ君の方を見ると、そっと顔を逸らされた。


「故郷に再会の約束をした女の子がいるんだと。青春だなぁと思いましたよ」

「おい、それ以上は言うな」

「さっさと会いに戻ればいいのに。立派になったらという約束をしたからと頑なで頑なで……」

「おい!」


 思わず笑ってしまう。

 そっか、ダイナ君はこの人の下で育ったんだね。

 ……紳士的な人だなぁ。ダイナ君とはだいぶ相性悪そうだけれど。


「今、相性悪そうだなって思ったでしょう」

「えっ!? いや、そんな……」

「気になさらないでください。実際、この子がやってきた当初は酷いものでしたから」


 ダイナ君は大分嫌そうな表情をしながら話を聞いている。

 これ以上遮ろうとしないのは無駄だと思っているからか、師匠には頭が上がらないのか。

 申し訳ないけれど、気になる話なので、そのまま聞かせてもらうことにした。

 ダイナ君、ごめんね? 恥ずかしいだろうけれど。


「ダイナ君はどんな感じに育ったんですか?」

「そうですね……とにかく、貪欲でしたよ。他の誰よりも、ともすれば私よりも」


 貪欲。それは、きっと力に対してってことなのかな?

 それはイメージにも合う。

 村でもひたすらに基礎訓練、我流ながら素振りや走り込みをずっとしてた。

 

「酷い時は魔境、魔境についてはご存じですか?」

「はい、アルカナ様から教えてもらいました」

「なるほど、では説明は不要ですね。それで、唐突にこのままじゃ足らないとか言い出して、魔境に潜ったと思えば、二年間も音信不通だったんですよ?」


 ひえっ。

 そういえばさっき町中でアルカナ様もさらっと言ってたような……?


「挙句の果てに、戻ってきたかと思えば地竜の死骸を引きずって帰ってきて……」

「わあ……」


 思ってた以上に規格外だぁ。

 ダイナ君の十年間、思ってた以上に波乱万丈かも。


「他にも、ひたすら近隣の町や村を駆け巡りまわって盗賊や魔獣退治していた話も聞きますか?」

「もう十分だろう!」


 恥ずかしくてたまらないのか、珍しくダイナ君が表情豊かだ。

 ニギルさんは楽し気に笑っている。

 やがて、自分から話した方がいいと判断したのか、続きをダイナ君が話し始めてくれた。


「……騎士にならなければ、お前に合わせる顔がないと思い込んでいた」

「そんなことないよぉ。私はダイナ君の顔を見られただけで嬉しいよ」

「だが、俺はそうは思わなかった」


 悔しそうに、ダイナ君が拳を握る。

 その姿を微笑ましくニギルさんが見守っている。


「後になって知ったことだが、騎士とは何かに縛られるものだった。だから、力が必要だったんだ。騎士であると認めさせつつ、縛られないだけの力が」

「……なんで? アルカナ様に誓えばよかったんじゃないの?」


 アルカナ様は悪い人ではなさそうだし、融通も効かせてくれそうな感じがする。

 きっと、騎士として誓いを立てても不自由はしないと思う。


「――俺が剣を振るうのなら。ただ一人のために振るうと決めていた。最初から、この町に来た時からだ」


 それが、騎士として誓いを立てたくなかった理由なのだと。

 凄い、覚悟だと思った。

 楽な道はもっといっぱいあったはずなのに、それを選ばずに。

 ただただひたすら、自分の望みをかなえるために邁進していた。


 ……眩しいな。

 妥協と諦めが肝心だと、大体の事は割り切ってきたけれど。

 おじさんも、割り切らずにあがき続けていれば、もっと別の道があったのかな。

 もちろん、前世での話だ。今考えても、仕方がないことだけれど。


 今世では、少しは頑張ってみようと思っているから。

 ダイナ君の生き方は、参考にしてもいいかもしれない。

 ……もうちょっとぐらい、コミュニケーション能力を伸ばしたいなとは思うよ?

 そこはまあ、おじさんがこれから教えてあげればいいかなって。


「その誰かさんは幸せものだねぇ。ダイナ君にそんな思われていて」


 一体誰なんだろう。

 素敵な話だと思うなぁ。


「……ダイナ君。もしかして君は――」

「頼む。言うな。何も、言うな」


 ? 何がよくわからないけれど。また変な雰囲気にしてしまったみたい。

 ひょっとして、おじさんって結構天然系だったりします?

 言ってくれれば直すから、変なことを言ってたら教えてほしいな?


「いや、お前は何も悪くない。悪いのは俺なんだ」

「???」

「わからないならわからないでいい。まだ、今は、だな」


 ダイナ君もしどろもどろだ。

 こういう時は何も言わない方がいい。

 下手に突っつくと、余計に相手を傷つけたりおかしなことになってしまうから。


 でも、何だろう。

 そろそろ流石におじさんも怖くなってきたかな???


 んー、可能性としては、その誰かがおじさんだったりする場合?

 いやまさか。そんなはずはないでしょう。

 だって、十年前別れる前には、おじさんはさっさと結婚して村を継ぐって話を……話を……?

 あれ? してたよね? だから、ダイナ君がそういうつもりになることってないよね?

 ない、よね?

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