脳内会議:ジェネレーションギャップ、あるいは文化の衝突
((ねえ『ミーナ』。さっきからずっと思ってたんだけど……。なんでこんなにアウトドアやロープワークの知識が豊富なの?前世では『音大生』だったんだよね?毎日ピアノを弾いたり歌ったりする、優雅な深窓の令嬢じゃなかったの!?))
『失礼ね、深窓の令嬢ではないわよ。でも確かに声楽専攻の音楽女子だったわ。で、……あー、これね?このアウトドア知識のソースはね、元カレの趣味に連れ回されてたからよ』
((……え? も、元……カレ……?))
聞き慣れない響きの単語に、僕の思考が一瞬にしてフリーズする。
前世の記憶の引き出しを必死に漁ると、それは『彼氏・男性の恋人』という意味の、結婚を前提としない極めて親密な関係の異性を指す言葉だと理解した。
((え、それって……つまり、結婚前の『婚約者』がいたってこと!?))
『え?いや、婚約者ってほど重いものじゃないけど……。ただのお付き合いしていた一般男性よ。そいつが重度のキャンプオタクでね。毎週末、山だの川だのサバイバル紛いの場所に連れて行かれて、嫌ってほど仕込まれたのよ。まさか異世界の海賊船でこのスキルが役立つとは思わなかったわ』
あっけらかんと答える『私』の様子に、僕はさらに衝撃を受ける。
((え……えええ"え"え"え"ッ!?!?))
あまりの文化的衝撃に、思わずまかない用に剥いていたジャガイモを甲板に落としそうになる。
僕が生まれ育ったこの貴族社会において、未婚の男女が、婚約もしていない段階で二人きりで山や川へ出かけ、あろうことか夜を明かすなど、正気の沙汰ではない。
それは事実上の『不純異性交遊による駆け落ち』か、さもなくば『一族の恥』として今すぐ髪を剃られて修道院に永久幽閉されるレベルの大不祥事だ。
((こ、婚約者でもない異性と二人きりで、山だの野原だので夜通し遊び回ってたの!?そ、そんな……そんなの、いくらなんでもはしたなさ過ぎるよ!淑女の風上にも置けない!神への冒涜だよ!!))
『は!?ちょっと!21世紀の令和日本の恋愛観をこっちの基準で裁かないでよ!あっちじゃごく普通の定番デートスタイルなの!むしろ健全に大自然とBBQを楽しんでただけよ!変な邪推しないでよね!?』
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