軋む不協和音
「おい、見ろよ。またカストラートの温室育ちどもが、特別メニューの肉を食ってるぜ」
「ふん、実力じゃなく『下半身の奇形』を売りにしてるだけのくせに。パトロンに媚びを売るのがそんなに上手いのか?」
食堂の向こう側。
豪奢な彫刻が施されたヴァイオリンケースを抱えた楽器科の貴族生徒たちが、僕たちに向かって隠そうともしない蔑みの言葉を投げつけてくる。
いかにも上流階級らしい、気品を感じさせる美声。
しかし、そこから紡がれるのは、吐き気がするほど下品で醜悪な罵倒だった。
「……あいつら、また言ってる」
ミハイルが悔しさに唇を噛み締め、テーブルの下で拳を白くなるほど握りしめる。
平民出身の他の同期たちは、まるで嵐が過ぎ去るのを待つ小動物のように、怯えた様子で俯いたまま、静かにスープを啜っていた。
成長期を迎え、日に日に身体が大きく、逞しくなっていく楽器科の生徒たち。
対して、入学時から変わらず、線の細い華奢な体躯のままの僕たちカストラートクラス。
同期のほとんどは平民出身の少年たちだ。
貴族の面子やお作法なんて知ったことではない。
本音を言えば、今すぐにでも掴みかかって、その歪んだニヤケ顔を拳でぶちのめし、悪口を永久に辞めさせたいところだろう。
だが、この圧倒的な体格差では、物理的に殴り合っても勝ち目など1ミヌートたりとも無い。
((あーあ、完全にこじれちゃってるなぁ。声楽科と楽器科の対立……))
生まれの貴賤と、学内での待遇の逆転。
それが生み出す深い溝は、日に日に広く、暗く深まり、音楽院のあちこちでパチパチと不穏な火花を散らし始めていた。
せっかく勝ち取った、僕の輝かしい(?)キラキラ音楽院生活。
どうやら、ただ楽しく歌の練習をしていればいい、というわけにはいかないみたいだ。
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