ガラス細工
しかし、歪な構造の真の皮肉はここからだ。
出自だけで言えば、音楽院の中で最も貧しく卑しいはずの『カストラートクラス』。
しかし、学内における待遇は、他の一切の楽科を置き去りにして圧倒的なトップに君臨していた。
なぜならカストラートは、たった一人でも時代を象徴するトップスターを輩出することができれば、王侯貴族のパトロンたちから国家予算レベルの莫大な富と名声を呼び込む。
音楽院の経営陣にとって僕たちは、謂わば『最高級の投資対象』だからだ。
「はい、カース様、ミハイル様。本日は特製プロポリスをブレンドしたカモミールティーでございます。喉を潤すのに最適な温度に調整してありますので、冷めないうちに召し上がってください。ですが絶対に誤嚥などなさらぬよう、細心の注意を払って少しずつですよ」
きっかり35度で提供されるハーブティー。
至れり尽くせりの給仕係が、仰々しくカップを捧げてくる。
「今夜から一気に気温が下がる予報です。毛布の厚さは足りていますか? あなた方は指先ひとつ、爪一枚すら傷つけてはなりません。風邪をひいて喉を腫らすなど、言語道断、以ての外ですからね!」
咳一つすら許されない、狂気的なまでに厳重な管理。
日々のレッスンこそ地獄のスパルタだが、衣食住や健康管理、あらゆる環境の面において、僕たちには湯水のように資金が投じられていた。
それはもう、国宝のガラス細工を取り扱うかのように、極限まで過保護に、丁重に育てられているのだ。
栄養バランスが計算し尽くされた極上の食事、徹底した湿度管理、そしてお抱えの高名な医師による毎日の義務検診——。
学費全額免除の特権も含め、すべてのリソースが『カストラートクラス』へ最優先で注ぎ込まれているのが、この音楽院の日常だった。
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