幼王の影
教皇庁という世界最大の権威すらも、僕は己の野望を叶えるための『踏み台』として完全に使い潰した。
新教皇を操り、矢継ぎ早に奇跡の改革を打ち出す裏で、糸を引く僕の存在はいつしか教皇庁の壁を越え、民衆の間へと広く伝播していった。
彼らは僕のことを『神の代弁者』、あるいは『国を救う美しき天使』と呼び、絶大な信頼と信仰を寄せるようになる。
教会の持つ絶対的な聖権と、民衆からの圧倒的な信任。
この二つの最強の武器を手に入れた僕の前に、もはや平伏さない者など、この国のどこにも存在しなかった。
そしてついに、僕はあの因縁に満ちた地へ、今度は真の支配者として足を踏み入れる。
「カース……!待っていたぞ、僕を助けておくれ!宮廷の大人たちはみんな、僕の言うことなんて聞いてくれないんだ……!」
大理石の敷かれた厳かな玉座の間。
まだ幼く、政治の荒波に怯えるだけの哀れな幼王は、僕の姿を見るなり救いを求めるようにその小さな手を必死に伸ばしてきた。
先の戦争と内乱によって壊滅しかけたこの国の宮廷は、迷える国を導く真の指導者に飢えていたのだ。
「お任せください、我が王。これからは、この僕が貴方様のすべてをお守りいたします。牙を剥く外敵からも、背後から狙う不忠の輩からも――」
僕は幼王の前で完璧な作法をもって優美に一礼し、ゆっくりと歩を進めた。
そして、幼き王が座る椅子のすぐ後ろ――実質的な統治者が座るべき、影の王座へと腰掛けた。
いまや名実ともに、僕は『幼王の絶対的な後ろ盾』として、この国の最高権力に君臨したのだ。
『ついにここまで来たわね、カース。実の家族に地下牢で身体を切り刻まれ、跡継ぎの座を追われ、すべてを失ったあの哀れな子どもが……教皇庁を裏から操り、今や国政のすべてを支配する真の『影の王』になったのよ……!』
脳内で『私』が、万雷の拍手を送るかのように、震えるほどの歓喜の声を響かせる。
((ああ、そうだね、『ミーナ』。僕からすべてを奪い、化け物へと変え果てた世界だ。今度は僕がこの手で、世界のすべてを思いのままに、美しく調律してあげるんだ))
かつてカストラートとして生を歪められ、ただ歌うことしか許されなかった少年。
彼の血塗られた復讐劇は、国そのものを意のままに動かす『絶対的な支配者』としての新たなる序曲へと、その形を変えて美しく、残酷に鳴り響くのだった。
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