傀儡の聖座
『天使』と名付けられたその違法薬物の効果は、まさに悪魔的と呼ぶにふさわしい凄まじいものだった。
もとより僕の『おねだり』には甘く、僕の美貌と歌声に狂信的な執着を見せていた教皇ユリウス6世だったが、今やその脳は薬物の毒素によって完全に融解していた。
「ああ……カース、私の愛しい天使よ。君の望むものは何でも叶えよう。世界の半分だって、君に捧げるとも……」
彼はすでに正常な政治的判断力を一切失っていた。
僕が耳元で囁く言葉のすべてを、ろくに吟味もせず、恍惚とした表情でただ全肯定するだけの生ける人形と化していたのだ。
教皇庁の絶対権力という名の手綱を、僕は完璧にこの手に握った。
――しかし、問題はその先だった。
「……う、ぐぅ……あ、頭が、割れる……痛い……ぃッ」
教皇の肉体は、度重なる違法薬物の乱用と、薬切れがもたらす激しい禁断症状による狂乱のせいで、目に見えて衰弱していた。
医術の専門的な知識がなくとも、彼の余命がそう長くはないことは一目瞭然だった。
『手綱を握れたのはいいけれど、このおじいさん、長くてあと数ヶ月ってところね。カース、彼が死んだら、せっかく手に入れた教皇庁の支配権も、次の教皇選挙でまたリセットされちゃうわ……』
脳内で『私』が、冷徹に現状のタイムリミットを告げる。
((ああ。そして何より致命的なのは、僕はあくまでSMPC音楽院の一生徒に過ぎないということだ。どれほど教皇に寵愛されていようと、聖職者の階級すら持たない今の身分では、僕自身が直接教皇庁の次期教皇に就任することなんて絶対に不可能なんだよ))
ならば、やるべきことは一つしかない。
教皇ユリウス6世の息があるうちに、彼の口から『次期教皇の後継者』を強引に指名させ、その決定を周囲に認めさせるのだ。
もちろん、それは僕の息がかかった、扱いやすい神輿でなければならない。
「ふふ、よくお休みください、猊下。……アスクレピオ、次期教皇候補を選定する間、なんとか命を繋ぎ止めておいてくれ」
「クク、御意のままに。我が主の描く筋書き通りに、この老体の心臓を動かし続けましょう」
僕は昏睡するように眠りについた教皇を見下ろしたあと、早速、教皇庁の最高幹部である枢機卿たちとの隠密な交流を開始した。
神聖なる聖座の裏側で、次なる巨悪の種を蒔くために。
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