支配の手綱
「……お呼びでしょうか、猊下。遅くなって大変申し訳ありません。約束通り、あなたの天使が戻りましたよ」
僕はわざと、世界中の誰もが蕩かされてしまうような、極上のソプラノで優しく声をかけた。
「――っ!?カ、カース……!ああ、カース、カース、カース、私の、私だけの天使!私だけの神よぉ!!」
僕の声を聴いた瞬間、教皇は床を必死に這うようにして僕の足元にしがみつき、僕の靴に狂ったように接吻を繰り返した。
その目は完全に混濁しており、焦点も合っていない。
もはや目の前にいるのが本物のカースなのか、それとも薬物が見せる都合のいい幻覚なのかの区別すら、とうについていないようだった。
激しく乱れた天蓋付きベッドの足元で、身を寄せ合い怯えていた少年たちが、恐怖と驚きの入り混じった眼差しで僕を見上げている。
「……もう大丈夫だよ。みんな、外へお行き」
僕はその哀れな子供たちへ向けて静かに首を振り、視線で部屋から下がるよう促した。
少年たちが蜘蛛の子を散らすように部屋から逃げ出していくのを見送りながら、僕は足元で涙とよだれを流す教皇の白髪交じりの頭へ、そっと手を伸ばす。
まるで従順な猟犬の頭を撫でるように、冷酷に、そしてどこまでも優しくその髪を撫でさすった。
((ああ、本当に終わりだ。もう、この男に僕を縛る力なんて、一滴も残っていない。教皇庁の絶対的な権力は、今やこの狂人の頭越しに、すべて僕が掌握できる……))
『私』も脳内で、すべてをやり遂げた僕たちを祝福するように、静かに、そして深く冷徹に微笑んでいた。
復讐を終えた少年。
彼は、狂気に沈んだ教皇庁の最深部で、かつて自らを蹂躙した狂王の手綱を完全に握りしめた。
神の代理人をただの傀儡とし、自らが影の支配者として世界の頂点に君臨するための、新たなる『狂乱の統治』の幕が、いま静かに上がろうとしていた。
少しでも面白い、続きが気になると思ってくださったら、ブックマークや評価(☆☆☆☆☆)で応援していただけると大変励みになります!
基本毎日更新です。
今後もよろしくお願いします!




