天使再臨
「———ッ!!!!」
その瞬間、ポルネー子爵邸の一室に、この世のものとは思えない壮絶な高音が炸裂した。
それはもはや人間の『歌声』という領域を遥かに超越していた。
聴く者の鼓膜を貫き、頭蓋骨を割り、脳髄を直接突き刺すほどの、超音波のごとき極限の超高音域。
かつてSMPC音楽院の薄暗い練習室で、僕と『私』が血の滲むような修練の果てに掴み取った、人間には決して許されざる神の領域のソプラノだった。
窓ガラスがビリビリと悲鳴を上げる。
ミハイルが顔を真っ赤に染め、首筋に血管を浮き上がらせながら命を削るようにして限界の壁に挑み――。
そして、その限界をさらに一段上回る、圧倒的な天上の音を響かせたのは――。
他でもない、僕だった。
『――キたわあああッ!!!さすがは私のカース!うちの子の完全勝利よ!!この絶対王者の華麗なる復活劇を見なさい!たとえ相手が神だろうと、トップスターの座は絶対に、誰にも譲らないわ!!』
脳内で『私』がガッツポーズを決め、狂喜乱舞の大歓声をあげる。
「……はは、やっぱり君には、逆立ちしたって敵わないな……。悔しいけど、完全に君の勝ちだ」
ミハイルは肩を激しく上下させ、息を切らしながら、熱を持った喉を押さえて苦笑した。
けれど、その悔しげな表情の奥にある瞳には――涙交じりの、そして何よりも僕の復活を心から祝福する、親友としての最高に温かい笑顔が浮かんでいる。
ふと振り返ると、背後では車椅子に座って僕たちの命とプライドを賭けた真剣勝負を見守っていたアイシャが、その綺麗な瞳からポロポロと嬉し涙を流しながら、何度も、何度も、僕へと惜しみない拍手を送ってくれていた。
——父上の呪いは、もう僕を縛らない。
僕の手には、僕の喉には、世界で一番温かい仲間たちが紡いでくれた、僕だけの『歌声』が確かに戻ってきたのだから——。
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