『神の御子』へ
僕が最後のビブラートを響かせ、ゆっくりと目を開けると――。
そこには、言葉を失うほどの光景が広がっていた。
さっきまで松明を振り回し、殺気を放っていた数万の民衆が、誰からともなく一斉に冷たい石畳の地面へと平伏し、 涙を流しながら熱烈な祈りを捧げ始めたのだ。
「イジェプタ様……!神託は、神託は本物だったのだ……!」
「神は、私たちを見捨ててはいなかった!この同盟は、神の御心だ!」
暴動は、文字通り完全に鎮圧された。
それどころか、民衆はステージの上の僕に向かって、地を這うような深い敬意を込め、先ほどとは180度違う狂信的な歓声を上げ始めた。
「『イジェプタの御子』万歳――ッ!!」
「神の御子に従え! 御子の敵を討て――ッ!!」
地鳴りのような熱狂的なコールが、聖都の夜空へと木霊する。
これ以上ない、完璧な大逆転劇。
けれど、あまりの度を越した熱狂ぶりに、脳内の『私』は冷や汗をダラダラと流しながら、呆然とした声で呟いた。
『……ねえ、カース?暴動が治まって、同盟の危機を脱したのは最っ高にハッピーなんだけどさ……。ちょっとツッコんでいい?なんかまた、やたらと仰々しい肩書きが増えてない!?』
((う、うん……。ロムルス教会公認の『権天使』の次は、『女王の切り札』。今度はカイロネイア神王国の『イジェプタの御子』になっちゃった……。僕、ただの亡命音楽生なんだけどなぁ……))
『私』の盛大な呆れ声に、僕は衣装の袖で顔を覆い、苦笑するしかなかった。
どうして平穏を望むたびに、僕の政治的戦闘力が跳ね上がっていくのだろう。
けれど、これでいい。
これで『ABC同盟』の最後のピースである『カイロネイア(C)』の足並みは、上層部から一般市民に至るまで完璧に揃った。
帝国軍を国内へと引き入れた裏切り者の弟・ジュリアス。
そして、僕たちの純粋な信頼を裏切って罠に嵌めた帝国の皇子・レオン。
彼らの誇る軍事力がどれほど強大だろうと、いまや僕の背後には、世界の海のすべてと、国家を狂わせるほどの熱狂的な『信仰』そのものが味方についている。
神の御子という新たなるカリスマの翼を広げ、僕はついに、奪われた故郷と音楽院を取り戻すための『大反撃』へと舵を切る――!
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