3話 強制参加させられる
俺は小さくため息を吐きながら魔王を見上げる。
テナシテさんのことをわざわざ俺に言いに来たのはヘルプしに来たのだろう。
念のため確認することにした。
「それで、魔王さん。まさか俺に助けに行けとか言いませんよね?」
「ほう、よくわかっておるではないか」
「俺の状況知ってますよね!?」
つい反射で反論する。
デュークさんはともかく、魔王は俺が大司教から「残機がない」と告げられた時隣に居たのだ。
「無論だ。だが他に頼める奴がおらん。
テナシテを知っている者は片手で足りるからな。
かといってデューク1人では苦戦する」
「魔王さんが行けばいいじゃないですか!
その方がテナシテさんも安心するでしょうし!」
「それができるならわざわざお前のところまで来るはずがなかろう!
我は「武闘大会」の主催だから離れられんのだ!」
「ああ……」
(そういえばそんなこと言ってたな。本気でやるんだ……)
そう、魔王は教会絡みの騒動の時に「教会送り」にならない程度の武闘大会を開催すると宣言したらしい等
魔王が居ないと好き勝手暴れる奴らが出るだろうから、その監視で魔王は残らないといけないのだろう。
するとデュークさんが、自分の存在を主張するように体重をかけきた。
背中に圧がかかって軋む音がする。
(重っ!?)
思わず首を向けるとデュークさんが笑みを浮かべた。
「俺のこと忘れてない〜?」
「忘れてませんって!?忘れるはずないでしょう!」
(忘れたら喰われるし!)
慌てて言うとデュークさんは納得したのか、あっさり俺から身を引いた。
急いで起き上がって、また引き倒されないように両足を踏ん張る。
「ところでマーさんー、俺じゃ力不足?」
「そうではない。
テナシテの居る場所が厄介なのだ」
「え?テナシテさんの居場所、わかるんですか?」
思わず尋ねると魔王が首を縦に振る。
「ああ。大体の目安はついている。
少なくともこの大陸ではない」
「この……大陸……」
(そうか………。今まで考えもしなかったけど、世界は俺の知っている場所だけじゃないんだ……)
俺は恥ずかしながら地図を見たことがなかった。
店等にはあったかもしれないが、見ようとしなかった。
だから、自分が今いる場所が世界に点々と存在しているであろう大陸の1つであることをやっと認識した。
そんな思いに浸っていると魔王が淡々と話す。
「まずはお前の親に許可を取るぞ」
「え、母さんに!?」
「そうだ。あの様子ではお前は手伝ってたな?
ならば連れて行っても良いか聞くのが筋だろう?」
(変な所で律儀だな!?魔王!?)
「ね〜ね〜、マーさん。俺は?
俺はどうしたらいい?ついてっちゃダメ?」
「やめておけ。
お前には魔族の証しでもある黒い文様があるからな。どうあがいても隠せんものだ。
だから先に城に戻っていろ」
「リョーカーイ。はー、俺も行きたかったー」
あまり納得していない様子でデュークさんはブツブツ言いながら去っていった。
「相当ガッカリしてましたね、デュークさん……」
「我も呆れかえるぐらいお前に惚れているからな。
常に共に居たいとは思うだろう」
「……何でか理由聞きました?」
「聞いておらぬわ。気になるなら自分で聞け。
ほら、村に戻るぞ」
(聞く勇気ねぇけど!?聞いた瞬間喰われるんじゃね!?)
子ども姿の魔王は俺の気持ちなんて全く気にした素振りもなく、腕を引っ張って歩いてゆく。
思ったよりも強くて、歩幅を合わせるのが大変だった。
やっぱりある程度大人の時の力は残っているみたいだ。
村に戻ると休憩時間はすでに終わったようで、皆がそれぞれの畑で種まきをしていた。
俺は魔王に進む方向を教えながら母の所に向かう。
「あのー、母さん?」
「どうしたんだい、カルム――ってあら、さっきの子じゃないの」
子ども姿の魔王を見た途端、母が笑顔になった。
村にも子どもはいるのに、まるで初めて子どもを見たかのように頬が緩んでしまっている。
魔王は子ども特権でもある大きな赤い目をキラキラさせながら、高い声で話し始めた。
「こんにちは!
突然で申し訳ないんですけど、1つお願いがあるんです!
僕、以前カルムさんに助けてもらったんですけど、今度は僕の友達が危ないんです!だからまた力を貸してほしくて……」
「なんだ、そんなことかい。
カルム、助けておやり」
「即答!?」
「だってこんなに小さい子が困ってるんだよ?
断れるわけないじゃないか」
「ありがとうございますっ!!」
魔王は若干目に涙を溜めて勢いよく頭を下げた。
母が微笑ましそうにうんうんと頷く。
「ほら、そうと決まったら準備しておいで!」
「種まきは!?」
「それは私がやっておくよ。半分はカルムがやってくれたんだからね。
この調子ならお茶の時間には終わるさ」
(マジかよ……。隙入る余地がねぇ……)
結局、俺は母に急かされるがまま冒険の準備をするハメになった。
準備を終えて村の入り口まで来ると、魔王は小さく息を吐いた。
先程の子どもムードはどこへ行ったのやら、完全に魔王の気だ。
「騙した……子ども姿使って騙した……」
「フン、案外便利なものよな」
偉そうにふんぞり返る魔王。
しかしふと真剣な顔つきになると、口を開く。
「それはそうとお前には仲間が居たな?アイツラを集めて来い。
戦力になる」
「ザルド達のことですか?テナシテさんのこと知られますよ?」
ザルド達を集める大変さよりも先に、テナシテさんのことを心配してしまった。
彼は魔族にすらほとんど知られてないのに、人間である俺達に知られて良いのだろうか。
魔王は俺の目をまっすぐ見ると短く言い放つ。
「構わん。同族に知られるよりはマシだ」
(よほどなんだな……)
即答した魔王を見てそう思った。
確かに同族より他種族に知られる方がまだいいだろう。
それにザルド達なら一時的に魔王と行動していたので、人柄も知っているのもあると思う。
「集めてはきますけど、もし他のパーティに加入してたら連れてこられないかも――」
「脅してても連れてこい」
(無茶苦茶だな!?)
「そして集め終わったら我が城まで来い。
改めて説明してやる」
(詳細知ってるのかよ!?)
喉まで出かかったが、慌ててのみこんだ。
言ったら間違いなくボコられる。
「じゃあ、行ってきます……。
またあとで……」
「くれぐれも死ぬなよ」
、
「縁起でもないこと言わないでくださいよ!?」
(魔王が言うと余計に心臓に悪い!)
魔王の視線を痛いほど浴びながら俺は村を後にする。
こうして、思いがけない形で俺は再び冒険に出ることになってしまった。




